ニューロン
neuron…
其れは神経系を構成する基本的及び機能的な単位。主として、神経細胞をさす。
ニューロンはシナプスを介し微弱な電流を神経伝達物質を介した化学信号へと換えて次のニューロンへと伝える。
そのニューロンがまた別のシナプスを介して次のニューロンへと巡って行く。
その数は正確な数をハッキリと明示している訳では無いけれど、世界各国の科学者が云うには、おおよそ千億に昇るという。
10の11乗の数、想像しただけでも気が遠くなりそうな膨大な量の神経細胞が感情を、痛みを、刺激を、感覚を、アラユルもの全てを脳へと伝え、やがて末端
の神経へと情報を送り出す。
一秒に満たない僅かな時間で幾億もの処理をこなすスーパーコンピュータでも、決して就し得ない処理速度で全ての情報を脳へと伝える。
そうして其れ等を判断、分析をするのに必要な数は其れ程に少ない数で問題無いという。
ニューロンと呼ばれる…
「 ミス 。 聞いているのかね。 」
堅苦しいニューロンだかウーロンだか良く判らない物質の説明に殊更飽きて来た其の矢先、眼に留まった蒼い空が酷く印象的で思わず見入ってしまっていた。
気が付けば、難解単語理解不能の文献を読み下す様に喋る声が途切れたかと思えば、眼の前に眉間に皺を寄せたスネイプが立っていた。
無駄に重たい教科書を手で持ちながら、明らかに開いている場所の異なるの教科書をペラペラと捲ると、其の侭片方の指先で押さえ込んで視線を寄越した。
何が書いてあるのだろうかと目を遣れば、其処には相も変らず良く判らない文章が連ねられていて。
如何して魔法薬学だというに、脳内伝達物質の話が出てくるのだろうかと小首を傾げる。
「 退屈だと思う其の感情変化にもニューロンは関係しているのだよ、ミス 。 」
「 でしたら、私が疎ましいと感じる事もニューロンが作用しているという事ですね。 」
「 だったら如何だというのかね。 我輩に退屈しない講義をしろとでも助言するかね。 」
「 そんな無理難題を押し付けるつもりは在りませんよ。 」
にっこりと微笑んで、はスネイプの指が置かれた教科書を無理やり自分の方へと手手繰った。
其の行動に一瞬怪訝そうな瞳で一瞥するも、スネイプは其の侭踵を返し、先程の説明に戻る。
周囲の生徒といえば、恐れ多いという言葉自体がすっぽりと抜け落ちている様なの言動行動に、本人の代わりに背に汗を掻いている。
スリザリンとは云え、あのスネイプの講義最中に堂々と上の空で外を眺めていたのだから、一体どの位の減点を喰らうのだろうかとスネイプを伺い見た。
学年末を控えた今日この頃、些細な事での1点2点の減点とはいえ、非常に辛い。
如何挽回したら良いのだろうかと、スリザリンメンバーが頭を抱えている矢先、スネイプは減点する事事態を忘れているのか教科書を読み下している。
「 スネイプ教授、何故減点なさらないのですか? ミス は講義中に余所見をしていたのですよ? 」
またしても余計な事を。
同じ寮での足の引っ張り合いか、憐れみの色を瞳に湛えた生徒が一斉に声のした方に向き直った。
彼女はと同じスリザリンに在籍する生粋の純血血統を誇る有名な財閥の一人娘だった。
正義感が人一倍強い訳でもない上、あのマルフォイと同じ様に1点2点の些細な点の失態をも根に持つタイプの人間。
其の彼女が何故、自分の寮の足を引っ張るような発言を敢えてスネイプにしたというのだろうか。
彼女の中で、スネイプがを特別視しているという事が如何しても赦せないらしい。
「 其れ程までに減点して欲しくば、スリザリン寮から2点減点。
我輩の講義解説の邪魔をした減点点だ。 肝に銘じておき給え。 」
余計な事を…、其れは誰しもが思うことであって、も例外ではない。
が減点を免れたのは大方気紛れだろう。其れ以上でも其れ以下でもない。
スネイプは公私混同を極端に嫌う人間だということは、が一番良く知っていた。知っていたからこそ、上の空で外を眺めて居た時に己の減点を覚悟した。
拍子抜けしたのはも同じであるが、それ以上に横から飛んできた言葉に吃驚する。グリフィンドール寮から非難の声が上がるのは可笑しくないことでは有る
が、まさか己の所属する寮からその様な声が上がろうとは…。
如何やら面倒な人間を敵に回してしまったと気付いた瞬間、冷やで波濤の様な嫉視を浴びる。
「 、お前は講義終了後、我輩の手伝いをするように。 今日の講義は此れにて終る。 」
タイミング良く鳴った講義終了の旨を告げる鐘の音に救われた。
不服そうな表情を浮かべるも、彼女は魔法薬学の教科書を胸に抱えると、友人と共に教室を後にする。
独り、また独りと生徒が消えて行く教室。
最終的に残ったのはとスネイプの二人だけ。当たり前の様に映る其の光景。
自ら呼び止めておきながら、何の手伝いをさせる訳でもなく、スネイプは傍らで静かに羊皮紙を纏め始めた。
紙同士の掠れる音が定期的に聞こえる。
「 如何して外を眺めていたのかね。 珍しい鳥でも飛んでいたか。 」
「 いえ…唯、凄く綺麗な空だったんで、こんな晴れた日に教授と散歩出来たらいいなって思っていただけです。 」
「 …我輩の講義に夢現で見上げてしまう程の空は余程綺麗と見える。 事のついでだ、今から行くかね。 」
はい?
素っ頓狂な声でそう返答したを他所に、スネイプは今まで纏めていた羊皮紙を小脇に投げ置くと、陽だまり拒絶する重い夜色のローブを引き摺って歩き出
す。
如何やら自分の空耳では無かったらしい事を確認したは、慌ててスネイプの後を追い駆ける。
今日は何故か何処かスネイプの調子が可笑しいと思いながらも、折角のチャンスを逃しては為らないと、長さの違うコンパスが描く軌跡に負けない様に小走りに
為って。
「 今まで疎ましいとすら思ってきた存在を視界に入れ目に付ける度、言い様の無い感覚に囚れるのだよ。 」
「 …えー…っと、言ってる意味が良く判りませんが… 」
「 ニューロンの話だ。
感情と云うのは酷く不思議なものだ。 我輩は…確かにお前を疎ましいと感じていた筈なのだがな。 」
何時の間にか、惹かれていたと云えばこの言葉を信じるだろうか。
想いを打ち明けられた時既に、この心はお前のものだったのだと、言えば印象が少しは良好的な物に変わるだろうか。
透き通る様な純度の高い薄紫の瞳に流れる落ちる滝を髣髴とさせる漆黒の髪。
スリザリン寮に在籍しながら、グリフィンドールの気質を持ち何かと己に食って掛って来る目聡い少女に一度目を向けたら離せなくなった。
光りを其の侭写し取った様な眼差し、良く透る透明な声に、華奢で権を込めて手繰り寄せようものなら簡単に手折れてしまいそうな小さな身体。
誰よりも詰まらなそうに講義を聴いているかと思えば、テストでは誰よりも優秀な成績を誇るその存在に興味が向いてしまえば、視線の全てを其方に向けてしま
う事に全く躊躇も無い。
「 今は疎ましく無いって事ですか? 」
「 少なくとも、以前よりは好意的だ。 」
興味無さ気にしれっとした表情で言葉を聞き流すは、常に魔法薬学の講義に於いては素直に講義を聞かぬ生徒であった。
退屈凌ぎとばかりに周囲をぐるりと見回す癖が有る事も知らず知らずのうちに覚え、其のタイミングと距離も自然と憶えた。
故に、よもや今日に限って逆方向で見渡す等思っても見ずに、綺麗に視線が交錯した。
途端に色を変える薄紫の瞳、お前に等何の興味も感情も示しては居ないと、寧ろ何余所見をしているのだとギリと睨み付ければ返って来たのは綻んだ様な笑み。
不逞不躾だと思いつつも、意図無い微笑み伴う視線を向けられて体中を駆け抜けて行ったのは紛れない昂揚感。
其れから視線が合う度に柔らかい笑みを向けられて、鬱陶しいと思い続けていた筈が、何時の頃からか目に心に焼き付いて離れなくなっていた。
そして敢えて名を付ける事を拒むこの欲求は、静かに、確実に、何かを囁き続け、気が付けば手に入れたいと思うようになっていた。
「 今日、ニューロンの話をしたのは其の為ですか? 」
「 思い上がりも良い所だな。
明日の講義で、其のニューロンを一時的に書き換える魔法薬の作成法を説明をする。 」
「 私のニューロン、間違った方向に書き換えないで下さいね。 」
「 お前が失敗しなければ問題は無いだろう。
最も、書き換えると言っても複雑な処理が出来ぬ様に事前に薬を飲むのだがな。 」
そんな事を話しながら辿り着いた小高い丘は、午後の陽射しが温かく降り注いで居た。
何時の間にか、恋に落ちていた。
其れがニューロンが長年培ってきた情報処理能力をフルに活用して起してくれた軌跡か何かは判らぬけれど、良い方向に走ってくれた事だけは確かである。
蒼いアオイ空の下、偶にはこうして空を眺めて見るのも悪くない。
に付き合って次回も来てやろうかと、そう一瞬でも思ったスネイプのニューロンは、確実に以前より的確な処理判断を行っている。
コンピュータの様に誤作動を起さぬ様に、と心の片隅で願いながら、スネイプは静かに蒼い空から視線をに移した。
柔らかい皐月の香りが、草原を抜けて静かに戦いでいた。
□ あとがき □
ニューロン…どうしろっちゅーの(笑)
私は理系が非常に苦手なので、ニューロンでもウーロンでも何でも…(苦笑)
感情をつかさどる…位の事しか判りません。因みに、冒頭のニューロンの説明は情報処理の教科書から少々…(死)
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