ビデオショップ






絶え間無く流れ過ぎ行く事が、世界の理だと知っては居るものの、マグルの世界の其れは切 り取られた時間の一部の様に唯安穏と其処に在った。
魔法界のには存在しない多くのものがマグルの世界にはあり、其れと対を為す様にマグルの世界では常識とされている事が魔法界では異例の事と為る。
ホグワーツは何も純血ばかりが犇き合っている訳ではなく、混血の人間も居れば、生粋のマグルも存在する。
秩序を乱すと言う理由から、マグルの製品を魔法界に持ち込むこと、そして魔法界に於ける全てをマグルの世界に持ち込むことは禁じられている。
しかし、時に例外と言う言葉も存在することには存在する訳で、例外と同じ言葉の様に特例というものも存在する。


マグルの世界では、ビデオテープと呼ばれた、一つの黒い物体に限りある時間だけ足跡の奇跡の様な物語が詰め込まれている。
其れはドキュメンタリーだったり、恋愛が絡む映画だったり、何の事は無い音楽だけが絶え無く流れ落ちるだけだったり。
けれど、全てに共通して云えるのは、確かに其処に何かが存在していると云う証。
其れは魔法界のものもマグルのものも変わる事は無い。





、この映画の続きを貸して欲しいんだが… 」

「 あ、うん。 ちょっと待ってね…確か、この辺に… 」





グリフィンドール寮の談話室。
もうじき消灯時間を迎え様と云う其の最中、灯りの燈らない暖を脇に膝を崩して熱心に文字を視界に入れたに上から声が掛かった。
見上げてみれば、最近講義で隣の席になり、知り合った同い年のグリフィンドール寮の生徒だった。
彼の手には、昨夜貸したばかりの恋愛映画が録画されたビデオテープが在る。
ホグワーツに入学したての頃、ホームシックに掛かりダンブルドアに許しを得て持ち込んだ、昔懐かしいマグルの世界で欠かさず見ていた恋愛ドラマの映画版。
其れを久方振りに談話室で見ていた時に、映画の前編であるドラマが見たいと声を掛けて来た男性が居た。
其れが、彼。
純血一族の末子である彼が、如何してマグルの製品を…と疑問に思うも其れは一度も問われる事無く、其の日以来は彼にビデオテープを貸す様に為った。





「 在った在った。 第二話で良いんだよね?後五本で終るけど…まとめて貸しちゃおうか? 」

「 いや、見終わったらまた取りに来るから良いよ。 」





埃を被ったビデオテープの束、何も書かれていないラベルをそっと指先で拭うと見慣れたの文字がを見付けた。
この中には、嘗てが食入る様に見ていたドラマの続編が眠っていた。
一瞬だけ其の文字を視界に入れると、彼は直ぐに視線を映す。
開かれた本に挟まれた栞、其れを見る度に胸にチクリと針の痛み。
そうして、自分の手にした黒い小さな四角形の中に映る映像に、胸の奥が軋みを上げた。
動揺を隠す様に無理に表面上に笑顔を作れば、如何かしたのかと疑問の表情をが作り上げる。

何か、言わなくては。この時間を引き延ばすための、何か、言葉を。

思えば思うほど頭が混乱する。
気を落ち着かせる為にゆっくりと薄暗い部屋の中を見渡せば、其処にあるものを見つけた。





、此れ…借りてもいい? 如何しても知りたい事があるんだ。 」

「 辞書…? 使わないから別にいいけど、今更何に使うの? 」

「 ちょっと調べたいことが有るんだ。 じゃあ借りて行くね。 」





分厚い辞書を差し出すの指先から重たい其れを受け取ると、次の言葉に詰まる。
さて、何を言おうかと目線を上げれば、首を折り曲げる様に活字に没頭するの白い項が飛び込んできた。
何故か見てはいけないモノを見付けてしまった様な気がした。

…如何してこんなにも…。

平静を装いながらも、鼓動が自棄に跳ね上がっている。如何して日増しに心臓の音が煩いのか。
何時になったらこの状況が楽に為るのかと、溜まった想いを溜息に変えて小さく吐き出す。
其の、瞬間。
全てを根底から叩き壊す様な鈍痛の音に、唯詠嘆した。





、遅くに悪いんだけど…君のレポートに抜け落ちていた部分が合ったんだ。
 今時間が有ったら、私の研究室に来て欲しいんだけど大丈夫かな? 」

「 はい、大丈夫です。 今教科書と羊皮紙持って来ます。 」

「 私の部屋に予備が有るからいい。 では行こうか。 」





突然現れた屑に塗れたローブを着たルーピンに連れ立っては談話室を後にした。
彼が上から声を掛けた時の表情と、ノックの音と共にルーピンがに掛けた言葉の後の表情。
其れは明瞭な差が生じていた。
込み上げる嫉妬感に憤りを感じながらも、受け取ったビデオテープと辞書を無下にする訳にも行かず、握り締めかけた拳をゆっくりと解いた。
振り返ることも無く談話室を出て行ったに対して込み上げる哀愁感に似た恋慕に押し潰されそうに為る。
如何してだろうか、何なのだろう、何も感じる必要は無い筈なのに。感じたくは、無いのに。





「 ………… 」





二度と開かぬ気がする扉の脇に、が残していった本が在った。
の瞳と同じ、淡い藤色の栞はルーピンがに与えたもの。図書室で栞を忘れて羊皮紙を栞代わりにしていたに、リーマスが脇からそっと挟み込んだも の。
其れを今も大切に持って居る事に、腹が立って、決して見せない筈の心からの笑みを零すルーピンが妬ましい。
誰に言われなくとも判る。ルーピンとはそう云う関係だった。
其れに気づいた時には既に遅く、自分までもがを視界に入れては淡い想いを抱く様に為って、理解出来もしないマグルのビデオを借りた。
其れが、全ての始まりだった。





「 upper secondary…… 」





が好きだと言っていたこの恋愛ドラマ。
内容は言葉が異なる為に一つも理解出来はしないけれど、其れでも繋がりが欲しかった。
本当はビデオテープ何かではなくて、の心を借りたかった。手に入れたいと思ったことは其れこそ星の数ほどある。
けれど相手があのルーピンだと知れば知った瞬間に無理だと気付いて、其れでも諦められなくて、ビデオを借りるこの瞬間だけは彼女の心を借りたくて。
だから毎日緻密に一本ずつ借りて、少しでも彼女と過す時間を引き延ばしたくて、ビデオを延滞する。
明日からも毎日此れが、ずっとずっと続けば良いと其れだけを思ってきた。其れなのに。



------------ 高校教師。



借りた辞書に羅列された其の文字は、が書いたラベルのタイトルの意味を示していた。
掌から辞書が滑り落ちて、重い音を立てて閉められた扉に自然と視線が向く。
此処から見える扉の色彩は、まるで泣き出す一歩手前の曖昧な色。
昨日と何等変わらない同じ色をしているのに、其の向こう側でルーピンに向けられる笑顔は何事にも変え難い様に見えた。
吐き出す事の出来ないこの想いは、何処に仕舞いこんでしまえばいいのだろうか。
見込みの無い想いを、何時までこの胸に馳せて居れば良いのだろうか。ビデオテープの中の恋愛模様、言葉の意味など判りはしなくとも、其れでも全てを理解し た気がする。


でも、其れでも…明日もまた、何食わぬ顔でビデオをレンタルしに来るのだろう。
の心も借りたいと、そう願いながら。






□ あとがき □

ベタで申し訳ないです…(汗)。
ホグワーツで…というか、ハリポタでは無茶だろうというお題が多くて最近は強行突破気味です(笑)



+++ ブラウザバックで戻って下さい ++++