深夜番組






待つことにはもう、慣れてしまった。



薄暗い室内を照らし出すのはパチパチと薪が音を立てて生み出す、暖炉の柔らかい灯りだけ。
決して狭くは無い部屋は必要最低限の家具だけが配置され、毎日使用していないものから日々使うものまで、全ての物品が主の命令で毎日綺麗に掃除される。
広い室内だというに、埃一つ見つける事が困難な場所に、転がるように置かれたダブルベットが在った。
二人で使う其れ、寝転んで見ればやはり大きく感じる。
二人で使うには丁度良い其れも、独りで使うのは酷く勿体無くて、同時に寂寥感が込み上げてきた。
普段ならば気にも留めない様なことがイチイチ気に掛かる。
決して自分の事を気遣って色々と話をしてくれたりする訳でもなければ、此方の話を聞いているのか居ないのか相槌すら打たないけれども、其れでも唯傍に居て くれるだけで良かった。


ヴォルデモートが帰ってきてくれるまで、後どれ位だろう。
気を紛らわそうと色々と考えてみるけれども、良いアイディアは一向に浮かばない。如何して今日に限ってこんなに詰らないのか、と考え込んでみる。
其れでもやはり状況は変わらぬ一方で、偶々視界に留まった杖を振り上げて、くべる為に用意してあった薪をテレビに変えると其処に電気を流す。


バチリと電磁波を出しながら鈍い光と共にテレビに電源が入る。
時間帯的には丁度深夜番組を遣っているだろうか。一番近い処でイギリスの電波を受像できる。
流れてきたのは今時珍しいモノクロの映画。
映画のクライマックスだろうか…小奇麗な身形の男の人と、如何見ても一般階級の女の人が寄添いながら話をしている。
身分違いの恋、其れでも構わない、そんな有り触れた単語を右から左に流しながら、「寂しい」なんて柄にもない事を思ってしまった。




「 寂しいなんて思うの、どれ位振りだろう… 」




待つことにはもう慣れた。
そう思っていた自分が寂しいだなんて、意に反する事を思っていると自分を嘲って呟いた。
テレビからは一方通行な映像しか流れて居ない為に勿論返事が在る筈も無く。
はテレビの画像を唯視界に入れては、詰まらなそうな溜息ばかりを零していた。
テレビ等、見て居ないのだから在っても無くても問題ではない。唯、これ以上無音の世界で独り存在して居たくは無かった。
雑音でも砂嵐でも、異国の言葉でも愛を紡ぐ台詞でも、何でも良いから音が欲しかった。
映画の中の女優が云う【寂しい】という言葉、其れに返答する男優の言葉が耳を素通りしていった。


女を慰めるような言葉に鼓膜が震えれば、より一層募る寂しさに、半円の様に何処かが欠けた。




「 帰ってきたら、一番最初に先ず寂しいって言ってやるんだから…! 」




言えば、ヴォルデモートはどんな反応をするだろうか。
普段どれだけ相手にされなかろうと不在が続こうとも、決して心の内を曝け出す様な愚かな真似はしなかった。
寂しいだなんて、出逢って初めて吐く言葉かもしれない。
顔を見た瞬間に【寂しい】と言ってしまいそうで、言葉を殺す様にブランケットを引っ手繰ってベットに横になった。


相変わらずテレビの中では、身分違いの恋に悩む女の泣き言めいた台詞がツラツラと並べられている。
自分は決してそんな弱い女には為らないと思った筈なのに。
横になった事で少しだけ感じたヴォルデモートの香りとある筈の無い温もり。


余計に寂しくなって、堅くキツク眼を瞑る。
漆黒の暗闇の中、瞼の裏に紅蓮の瞳が焼き付いた様に脳裏から存在が消えようとしない。




「 後一時間で返って来なかったら口聞いて遣らないんだから。 」




掌で小さく拳を作って、適度な硬度を保ったマットレスに八つ当たりの一発をくれてやる。
痛みも無ければ感触も余り無い。
何回か其の行為を繰り返し、其の間も延々ブラウン管からは酷く似つかわしい台詞が流れ落ちてくる。
腹立たしくて、いっそ自分で出したというのに消してやろうかと杖を視界に入れて思い留まった。
1時間後、若しくはヴォルデモートが帰ってくるまでの時間映画は放映されているだろうか。
此の侭また音声が途絶えて静寂だけが支配する世界に陥ったら、其れこそ耐えられない。
待つことは得意だった筈なのに、何時から貴方を想って寂しいと感じるようになっただろうか。




「 ……………寂しいんだってば………。 」

「 ほぉ、…まさかお前がそんな言葉を吐くとは。 偶には早く帰ってみるものだな。 」




心で何度も殺した言葉を、消え入りそうな声で吐き出せば、彼方から返答が返って来た。
慌ててベットから跳ねる様に飛び起きれば、自分からは決して開けない扉の前に待ち望んだ帰り人の姿。
漆黒のローブを棚引かせ、冷たい大理石の廊下に足音を響かせてヴォルデモートがゆっくりと歩いてくる。




ふわりと風が降りる様に髪を撫ぜられて引寄せられた瞬間、
点けた侭のテレビに映画のエンドロールが静かに流れた。








□ あとがき □

深夜番組って言ったらやはりテレビですよねぇ。捻りが無くてごめんなさい。
魔法でテレビを出すのも如何かと思いますが、其処は何でも出来る魔法の力を借りたということで(こら)
ヒロインとヴォルデモート、一応恋人という設定だけは有ります。←設定だけな気がします…。



+++ ブラウザバックで戻って下さい ++++