かみなり
季節の変わり目には、大抵恒例行事のように彼がやってくる。
空を漆黒に彩って、膨大なる量の電気を伴って、一瞬の閃光で全てを照らし出す魔性の物体。
多岐に及ぶ声を自由に操り、一時とはいえ、空を支配しては…
大量の雨粒を地上に降下させる。
人はみな、彼の名を乞う呼ぶ。
「 …、雷が怖いのかい? 」
恋人との甘い時間を有意義に過ごす予定だった土曜日の午後。
は何時もの様にルーピンの部屋でおいしい紅茶とお菓子を食べ、幸せな時間を満喫していたのだけれど、その時間は脆くも崩れ去る。
朝から余り良いとは言えなかった天気が、午後に差し掛かる時間には、物の見事に黒一色に覆われて、今にも雨雲が空から雨を降らせようとしていた。
雨だけ降るものだと思っていた矢先、鋭い閃光とともに、地面が劈く様な雷鳴が辺りに響き渡り、を恐怖の底へと陥れる。
日本に居る頃から雷が大の苦手だったにとって、ホグワーツで経験する雷は其れこそ久方ぶりで、心臓がビクンと飛び上がる。
カーテンの閉められていない窓からは、遠くに見える金色の光の線が地平線に一直線に降り注ぐ様が伺える。
遠くに聞こえる雷鳴がじわりじわりと近づいてくる度に、は傍に有るクッションを固く握り締めていた。
「 …そんなに怖いのかい? 」
恐怖のためか、顔を上げる事さえ儘成らないは、顔をクッションに埋めたままでしきりに頷く。
そのの真向かいに居たルーピンは、面白そうな含み笑いを込めた微笑と共にそう告げた。
新しく投げられた言葉にもただ頷くだけのに、苦笑したルーピンは、手にしたカップを静かにテーブルに置くと、ゆらりと立ち上がる。
剥き出しのままの窓に掛けられたカーテンを閉めるわけでもなく、外を一瞥するとそのままの隣に座り、ふわりと抱きしめた。
「 わたしはね、好きだよ…雷。
光が走る一瞬が、凄く綺麗なんだ。 」
見たこと、ある?
そう耳元で囁いてやると、は擽ったそうに身を捩りながら、Noと答える。
が苦手とするものは雷の劈く様な地面が裂けるようなあの音であって、光ではない。
けれど、光ってから音が鳴るまでは、ほんの数秒しかない為に、どうしても音に対する恐怖心が先立ってしまい、間近で轟く雷鳴をみた験しがない。
一度見てみたいとは思うけれど、苦手とする音が伴う物故に、は見たくても見ることが出来ない。
「 大丈夫だから、そっと瞳をあけてご覧? 」
ぎゅっと横から抱きしめられて、ルーピンの肩に顔を預けたままのは、その言葉にそっと頷く。
耳元では、遠くに聞こえる雷の雷鳴に混じって、ルーピンの魔法を詠唱する綺麗な旋律が掠め始めていた。
ホグワーツに入学したばかりのにとっては、その詠唱は、聞いたこともないものだけれど、心に直接響く様な音階に、少しだけ心が和らぐ。
詠唱を終えたルーピンに、ほら…、と促されるように囁かれて髪を撫でられる。
握り締めたクッションから顔を上げて窓を見てみれば、聞こえる筈の雷鳴が聞こえない。
それどころか、周りが研ぎ澄まされたような静寂に包まれて、別空間へ移動したかのような妙な空気が辺りに漂う。
「 …雷が…聞こえない…? 」
「 ほら、…見てご覧。 」
あれ程までに瞬続的に聞こえていた音が聞こえない事が不思議で仕方ない。
ルーピンの声も、自分の声も聞こえてくるのに、聞こえなくなったのは雷の音だけで。
柔らかく問いかけるルーピンの声に誘われるように、カーテンの閉じられていない窓枠を見てみれば、その奥には漆黒の闇に包まれた空があった。
そしてその更に奥。
一瞬だけキラリと煌いた閃光は、地平線に静かに突き刺さるように一直線に地面に打つかっては、其れとは真逆に水平に輪を描くように拡がる。
紫や金色や蒼に彩られた様々な色彩が一瞬の内に煌き、帯を成す。
消えては生まれ、生まれては消えるその光の帯は、次第に大きく近づいてくる。
音が聞こえない為か、雷が近づいてくるという事自体への恐怖感は無くなり、それよりも漆黒の闇に拡がる光の方に気が取られてしまっている。
「 凄い…きれー… 」
「 幾重にも織り出される雷の色は、どれ一つとってみても同じ色は無いんだ 」
「 一つも…? 」
「 そう、空に輝く星達と同じようにね。 」
「 ルーピン先生は物知りなんですね。 」
天文学の博士でも無い筈のルーピンは、空に拡がる光を見つめてはそう零した。
身近に居ても、「闇の魔術に対する防衛術」教授にしてみてもの知る以上にルーピンはあらゆる事に精通していた。
幅広い面で、幅広い知識を持つルーピンは、其れを自慢のように話すことは無く、寧ろ、さらりと流す程度でしか話そうとはしない為に、その効果は絶大で。
は一緒に居ながらも、いつも何か新しいことを教えて貰っているような気がしていた。
「 雷も、星たちもどれ一つ同じというものは無い…
愛しい君がこの世でたった一人しか存在しないようにね。 」
きょとん…としたままのに、ルーピンは柔らかく微笑んでそう言った。
二人の正面の窓には、”世界に一つしかない光”が揺ら揺らと煌いてる。
その光を見つめたまま頬を紅く染め上げる紫苑にそっと手を添えて、ルーピンは優しく桃色の唇にキスを落とした。
その日から、少しだけは雷が好きになった。
そして、雷が鳴り響けば、日毎に変わる雷の閃光を見るようになる。
相変わらず…ルーピンに音を消す魔法を掛けて貰ってからではあるけれど。
□ あとがき □
私は雷が大の苦手です(笑)
学校だろうが家だろうが、雷が鳴り響くと泣きそうになります。
雷が鳴り出すと眠れなくなることも多々…(笑)
けれど、テレビで見る雷鳴は酷く綺麗で、一度機会があればこの目で見て見たいですね。
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