荒野
手を伸ばして、唯蒼いだけの空に真ん丸く浮かぶ灼熱の太陽を手に入れたくて、空を掴ん
だ。
見渡す限りの荒れ果てた土地、熱風と灼熱太陽、乾いた土に丈の低い申し訳程度の草木以外には何も無い。
視界だけに頼る事を酷い恐怖だと心が感じ取って、ふら付く両の足に力を入れてゆっくりと辺りを見回した。
本当に、何も無い。そして、彼方の水平線にまで眼を凝らしても、誰も居ない。
耳の陰りを、砂埃を巻き上げた熱砂が掠り抜けて漆黒の髪を掬い上げた。
果てしない無空間の中に独りだけ取り残された様な寂寥感、同時に心を鷲掴みにされた様な孤独感が競り上がる。
気が付いたら此処に降り立っていた。思い出した様に記憶を辿れば其の瞬間、混乱と動揺も加わる。
先へと歩けば誰かが居るかもしれない、居るかもしれないけど唯只管に地平線が広がってるだけで、捜そうにも捜す場所が無い。
最終的に、絶望感が身体を突き抜けた。
点々と在る樹はもう殆ど枯れかけていて、その地には潤いが足りないのだとすぐに理解した。
土すらも瘡付き、ところどころは乾燥で地割れしている。
空の色はどんよりとした薄い橙。
琥珀色に灰色を織り交ぜた様な砂丘に沈みかける丸い太陽、如何やら時刻は直に宵を迎える頃合らしい。
此処は一体、何処なのだろうか。もう一度、ゆっくりと眼だけで世界を見渡した。
「 …って云う夢を見ましてですね。 」
「 お前の夢の話等聞いては居らん。
良いかね、我輩が聞いているのは何故講義中に居眠りをしたかという事だ! 」
両の手で頭を抱えたくなる衝動を何とか堪え、魔法薬学教室の最前列に座る少女をマジマジと視る。
大き目の椅子にちょこんと座った少女は眼の前に教科書と羊皮紙2巻を丁寧に並べ、其の表情には微かな笑みを浮かべた侭真っ直ぐにスネイプを視ていた。
少女の名は。グリフィンドールに所属して早1年。漸くホグワーツの生活にも慣れ始めた頃合、様々な学生の暮らすこのホグワーツにおいても一際存在の目
立つ東洋出身の少女だった。
人当たりが良いと言えば聞えは良いが、その性格は破天荒其のモノ、実際居眠りをしてしまった講義の担当教師魔法薬学教授を眼の前にニコニコと夢の話をする
始末。
「 いえいえ、未だ話には続きがあるんですよ。 」
本当に誰も居ない。自分以外は、誰も。
暫く呆然と立ち尽くして、けれどもやっぱり状況が変わることも無く、取り敢えず最初の一歩を踏み出す。
サラサラとした砂礫が踏み締められる音はやっぱりしなくて、代わりに足元を地中に引き込まれる様な感覚が全身を付き抜け、意識を集中していなければ足元か
ら倒れこみそうだった。
先が見えない恐怖。これ以上孤独を味わえば心が疲れる気がしたけれど、取り敢えずは歩くしかなかった。
何でも良かった。自分が此処に居るという証拠か何かを見つけなくてはいけない。何かを。
何かなんてなんでも良かった、兎に角この視界一面に広がる光景に変化を齎してくれるモノなら何でも。
ふと、視界の片隅に、砂丘に埋もれる様に落ちた何かを捕えた。
嬉々として近付いて、じっと見詰めてみれば、其れは砂漠色に馴染んだ一輪の華だった。
「 …言い訳は何時聞けるのかね。 」
「 ですから、此れから話が始まるんですってば! 」
怒っているのは此方の方であって、何故に我輩が怒られねば為らん。
溜息と共に飛び出しそうな言葉をようやっと堪えて視線だけをに流した。
如何やら話しは未だ続くらしい。何も言い返さないスネイプの態度に気を良くしたのか、は其の侭話を続ける。
伸ばした指先で、其の華に触れた瞬間、スネイプの声がして世界が一瞬で変わったというのだ。
つまり、其の瞬間こそが、心地良さそうに転寝をするの眼前で声を張り上げたスネイプの冷たい一瞥を喰らった瞬間だったのだが。
「 …つまり、スネイプ教授は私の眠りの妨げをしたんです。 」
「 其の前にお前が我輩の授業を愚弄していると受け取っても構わないかね。 」
「 いいえ、駄目です。 だってスネイプ教授の授業でしか居眠り出来ないんですから。 」
「 …は? 」
居眠りしない、では無く出来ないとは如何云う事だ。
つまりは、睡魔に惑わされたのではなく、自ら寝ようという意志の元で講義中に転寝をしていたとそう云う事か。
天津さえ、居眠り等すれば倍以上のレポートに罰と減点が課せられる、あのセブルス・スネイプの講義を狙って。
破天荒な態度も此処まで来れば十二分な挑戦状に変わる。
更に、こんな愚弄態度しか見せないが魔法薬学ではトップの成績を誇っているのだから全く納得出来るものではない。
破天荒な性格に話の意図が全く掴み切れないこの会話を、日常的に行うモノだから聞いている方としては堪らない。
「 で、ですね。肝心の内容ですが…効かないんですよ。スネイプ教授から頂いた睡眠薬が。 」
「 毎晩寝付きが悪いからと言って一週間ほど前に頼んだあれかね? 」
「 ちゃんと適量を飲んでいるんですが…如何してもやっぱり寝付けなくて。
でも、ご安心下さい。私、凄く良い睡眠薬見つけたんです。 」
「 我輩の処方した薬よりも効く妙薬だと?其れは是非とも教えて頂きたいものだな。 」
ふん、と愛想も無く言葉を棄てれば、ニッコリと微笑んだ侭のはとんでもない事を言い出した。
思わず呆れ声で二度程聞き返して仕舞った其の内容、言っている本人の眼が真剣なだけに引き攣った笑いしか出てこない。
「 スネイプ教授の声です。私、教授の声を聞くと無性に眠くなって来るんです。 」
「 ……冗談も程々にせぬと… 」
「 正真正銘大真面目に言ってます。 なので、今日から宜しくお願いします。 」
「 …………宜しく、とは一体何のことかね? 」
「 今日から私が寝付けるまで、思う存分厭味でも何でも語っちゃって下さい! 」
心の底からの溜息を吐いた。
己の言った言葉の意味と意図を理解しているのか、と呆れ声で問い掛けた時既に、魔法薬学教室は蛻の空状態。
疾風の如き走り去った少女が座っていた席の上に、羊皮紙3巻ものレポート及び京今日と明日の分の予習が施してある。
冒頭を読んだだけでも非常に興味を引かれる其の内容、其処までの知識と学力を兼ね備えていながら不眠症等と。
ふと、視線を落とした椅子の陰、見慣れた小瓶が鎮座しているのが伺えた。
手に取らずとも其れが何か、スネイプには見覚えが有る。
掌に乗る程度の小さな小瓶、淡い茶色のコルクギリギリまで詰められたのは薄い乳白色の液体。
先週に渡した際と一ミリの分量も異なっていないと見て取れた。
腫らした様な瞳、虚ろ気な視線で講義を聴く様を見れば、如何やら不眠症という点は正しいらしい。
「 先ずは…嘘の吐き方を少しは学習しろと…教授して遣らねば為るまい。 」
荒野にゆっくりと太陽が沈み、淡い漆黒を携えた月がゆっくりと彼方より昇り、砂漠色の華は徐々に闇色に染め上げられる。
□ あとがき □
荒野といえば、砂漠に咲く一輪の華。
…しか思い浮かばず、なんとも微妙も良いトコロな夢になってしまいました(笑)←笑えない。
この後、勿論スネイプ教授の甘いお小言を聞きながら、ヒロインは夢の世界に入るのです(笑)
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