張り詰めた様な深い黒に澄み切った空はにび色に光る弓張月を携えて、静まり返ったホグ ワーツを包み込むように無限に広がっている。
深く遠くまで広がる深遠の森の奥から時折木霊するユニコーンの啼き声に耳を傾けながら、出来る限り音を立てないように文字通り足を忍ばせて水気を含んだ芝 生の上を歩く。
短い夏は終わりを見せ、季節は最早秋を迎える頃合。これから一気に気温は低くなり、冬を迎える、そんなとある夜。
連日に続くテスト現況にいい加減嫌気も差して来て、漫ろな気を紛らわそうと談話室まで出た時に、ぐいと無理矢理腕を引かれて外に連れ出された。
「 ね?私に着いて来て、良かったでしょう? 」
手にした杖の先に柔らかな橙の灯りを燈し、視界に映し入れなくとも脳裏に容易く想像が出来るほどに微笑み、嬉し気に弾む声。
見たく無いと幾ら言い聞かせても勝手に脳に描き出される雛鳥の様な愛くるしい笑顔を向けられて、如何抗おうと、怒る事何て出来はしないのだ。
星空のしたのディスタンス
「 最近は如何も教授の見張りが多くて…ユニコーンの身に何かあったのかなぁ? 」
「 …知ったことか。 それより、一体何処に行く? 」
「 もう少し、もう少し。 大人しく着いて来て。 」
大きな音を立てると、敏感なユニコーンの気に触れて鳴声を大きくしてしまう、とか細い指先を桜色の唇に押し当てたが注意を促した。
橙の灯りの先に映し出されたのは、仄かに施した化粧を落としても尚、美を保ち続ける麗容な横顔。
狼が咆哮しても可笑しくない様な漆黒の森の中を手手繰り状態で進んで漸く辿り着いた先は、案外平凡な場所だった。
「 …クィディッチ競技場の裏…? 」
其処は先日、グリフィンドールとスリザリンのどちらも一点すら取ることが出来なかった激闘が行われた会場の直ぐ裏手。
表からクィディッチ競技場に向えば間違いなく誰かに見付かるだろう其の場所へ、はセブルスと共に敢えて迂回する形で辿り着いた。
表側は見慣れたホグワーツ魔法魔術学校が見えるが、其の丁度裏手は湖が広がり、深い森と小高い丘で作られている。
ユニコーンの鳴声さえ届いてこない其の場所は、の杖先の乏しい光量が唯一の灯りであり、唯一の邪魔者でも在った。
目的の場所に辿り着いたは小さく魔法を詠唱して灯りを消去ると、其処は完全な漆黒に彩られた世界に変わり、灯りの消えた小高い丘で、はローブを羽 織った侭無造作に寝転がって、唯空を仰いでいた。
「 ………………………… 」
魔法薬学や魔法史の講義中でさえもお構い無しに、口から生まれ出でたのだろうと誰もが納得する位に良く喋る天真爛漫のが、丘に辿り着いてから一言も喋 らず大人しくしている事に、セブルスは怪訝そうに眉を顰める。
もう10分以上も変わらずに上だけを見詰め続けているに終に根負けしたセブルスは、一体何が在るのだろうかとローブが夜露に濡れるのも構わずにの 隣に寝転んだ。
途端に視界いっぱいに映り込んで来たのは、今にも零れ落ちそうな幾数多の星、星、星。
ホグワーツ内でこんなにも綺麗に星が見える場所等、在っただろうか。天文学の教授でさえも知り得そうに無い…正しく言えば、人など普段立ち入る事は無いだ ろうこの場所からは、水面に透けて移りこむ星まで見える始末。
柔らかく吹き込んでくる風に擦れる草の声、さらさらと流れる絹の様なの髪の毛をローブ越しに感じながら、いつしかセブルスも無心に空を眺めていた。
隣に居る筈の気配は、スリザリン生だろうがグリフィンドール生だろうがお構い無しに自然に周囲に溶け込み、其れでいて必ず其処にいると感じさせる独特の存 在感を、セブルスはと出逢った初めて感じた。
今まで出逢った誰よりも、此れから出逢う誰よりも、きっとずっと当たり前の様に隣にあるのだろう。
今まで人を寄せ付けず寄せ付けないようにしてきたセブルスにとって、其れがどんなに珍しいことか…には自覚が無いことだろう。
品行方正、容姿端麗、才色兼備、怜悧透徹。
ホグワーツに入学して以来、此れでもかと言わんばかりの賛美の言葉を浴びた家の令嬢は噂ばかりが一人歩きしている様な状態だった。
勿論噂は正真正銘本物であったのだけれど、天真爛漫な正確を持ち合わせていながらも竹を割った様な性格でもあるは、寮同士の論争闘争になど微塵の興味 も無く誰とも訳隔てなく接していた。
出来れば関わりは持ちたくは無いポッターやブラックとさえも笑顔を浮かべながら話す緑のタイを絞めた少女は、スリザリン生から見れば其れは其れは滑稽に映 し出された。
だがしかし、怜悧透徹などと言われ輝かしい功績とそれに見合う実力を持ったに太刀打ちできるスリザリン生は独りも居ないだろう。
少なくとも、セブルスはそう感じ、だからこそがスリザリン寮生と付き合おうがグリフィンドール生と付き合おうが口を出す権利は無いと思っていた。
「 綺麗だね、セブルス。 こんな景色を私と見れて…幸せでしょう? 」
「 己惚れるな、誰がっ… 」
視界に入っても可笑しくない距離だと言うのに、明らかに意図的に自分を視界に入れていないにそんな一言を投げ返す。
因みに、溜息と冷遇混じりになってしまったのは自分の意図する所では無い、無意識の産物なのだから仕方ない。
出会いは、単純で、そして必然で。 誰かと付き合うと云う行為自体無駄だと思っていたセブルスにとって、がブラックやポッター等と四六時中一緒にいる事に、微笑ましいと思ってしまう程に 自分は強固な精神を持ってはいないが、それでも「もう慣れたし」と思える程度には強くなっているらしい。
嫌な習慣だ、改めてそう、思う。
気付けば何時も幼い子どもの様に笑っている小さな身体を追い掛けて、でも決して追いつけなくて。
セブルスは何も聞かずにの傍に居て、も何も聞かずに、何でも知っているかの様に、それでも何もいわずに、セブルスの隣にいる。
「 …? 」
だから、そう…もしも、星に願いをなんて、マグル学の教授に教えられたマグル界の童話に詰って思ってみるならば。
隣で何時の間にか小さな寝息を立てて睡眠を貪っていると、此の侭でいられたら良いと、少しだけ考えてみてもいいくらいには、浸食されている。
其れが他人に触れられる不快ではなく、居心地の良さを増すだけなのだから、全く持って思考回路は破滅寸前なのだとは自覚しているのだが。
「 お前が連れてきたんだろうが。 全く…明日は魔法史のテストなんだということ判って…、 」
の吐く寝息がセブルスの肩にあたる。ともすれば聞き落としそうな声に、は瞬きをするどころか重たい瞼を開くこともしない。
「 …何時も…振り回してくれる。 」
溜息と共に吐いたセブルスの言葉に、僅かに見上げるようにして、がセブルスを見る。視線が触れあい、浮かべられる屈託無い微笑に、永遠に変わらないも のをセブルスは見る。
口にすればそれはきっとひどく陳腐だ。本当に伝えたいことは、何時だってまるで言葉には為らない。其れを知っているから、だから言葉にしない。
「 私ね…やっぱり、如何し様も無い位にね、 」
相変わらず地面に背を付けた侭。寝たふりではなく、本当に少しだけ睡眠を貪っていたのだろう。眠たげな瞳を湛えて、は再び満点の星空を見上げて言っ た。
頻りに瞬きを繰り返す彼の眸も、微かに掠れたような声音も、未だ夢から覚めきらないようだった。
問うような響きを含んでいる癖に、それとは裏腹。間違いないだろうとは自身の気持ちを確信したような、笑顔を浮かべてきた。
「 セブルスの事が好きなんだろうな、って。 」
如何してこう、空を見上げながら、幾重にも連なる銀の星に抱かれながらブラックが喜びそうな台詞を自分に言うのだろうかと。
、
堪らずに紡ぎそうになった名前を胸内に押し殺して、其れでも掠れた吐息は如何にもならない。
如何しようもないほどに胸は苦しく、けれども目の眩むような幸福を思う。
「 思い上がりを…っ、私だって、お前を…っ 」
言い言葉買い言葉。好きだ、と言えない言葉は耳元に囁く前に夜闇に消え、其れでも意図は伝わった様には唯柔らかく微笑んだ。
幾筋もの星の帯が漆黒の夜空に漂い、降り注ぐ様に流星群が舞う、其の中で。
がいて、自分が今、此処にいる。
昨日よりも今日よりも実感できる其れに、何よりの歓喜が押し寄せてくる。 こんな感情は初めでだった。
きっと自分は君が居るだけで。
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そう思える自分が、何故か嬉しかった。
後書き
都会でも満点の星が見れるところを見つけました。
星は何処から見ても同じに見えるのですよね。見つけられるか、られないかの違いだけ。
この星空を、貴方も見ているのでしょうか?と問いかける相手は勿論スネイプ(笑)。
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