今日もこうして粗相をする。
其れは無意識でも無く、潜在的な能力が欠けているからでも無く、あくまでも自己誘発的に。
今日も貴方は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな両眼を更に鋭利なものにして、呆れた様に溜息をひとつ。

--------- 、講義終了後、残り給え。

寮内から沸き起こる落胆の声を軽く受け流しながら、私は小さく返事を返し、心の中でほくそ笑む。
可哀相、そんな同情の声すら最早耳に入らず、今日も上手くいったと手元の黒焦げの試験管に感謝の意を。

しょうがないじゃない?こうでもしなければ、一緒に居られないんですもの。








そんな、日常









「 …で、今日は何を如何間違って、ヒキガエルをお玉杓子に引き戻した挙句、試験管の中でアメーバのように分裂させ、ニガヨモギを入れた瞬間に試験管が消し炭 に変化したのかね? 」
「 全く判りません。 教授が講義した通りに調合し、魔法を掛けただけですが? 」
「 其れが如何してこう云った結果を生むのかね、まったく、我輩には理解出来ん。 」
「 貴方が理解できないものを私に理解しろって方が無理です、セブルス。 」


二人きりの時でしか呼ぶ事の無い名でそう返せば、スネイプは今日最大の溜息を吐いてみせた。
如何やら全て仕組まれた事なのだと悟ったのだろう。いや、訂正すれば昨日も一昨日も魔法薬学がある日は全てが意図的に失敗しているのだと判っていて、 敢えて其の策略に乗ってやっている。
他の教授から見たら、講義の冒涜以外の何物でも無いのだろうが、この二人に至ってはそんな事に為る筈が無い。


「 よもやスリザリン寮一の秀才と謳われた君が、魔法薬学の実験のみ失敗するという汚濁、担当教授の我輩の身にもなってみ給え。 」
「 あら、私だってセブルスの許しが出るのなら、テストも0点で構わないんだけど? 」
「 ……誰が目標を低く持てと言った、誰が敢えて0点を取れと言ったのかね。 この期に及んで0点等取られようものなら、我輩の教授人生の汚点に為る。 」
「 だから敢えてテストでは学年一位を取ってるんじゃない? 実験は点数に左右されないもの。 」

「 …確信犯という訳か、しかしだな、確信犯でこんな妙な実験結果を出せるのもまた一つの才能だな。 」


の手にした試験管を上から取り上げ、見事なまでに消し炭に成り代わったヒキガエルを見て、スネイプは感嘆に似た溜息を漏らした。
如何やら、スネイプの長年の経験を持ってしても、が今日行った実験の結果には至った経緯が判らないらしい。
己の既知していない現象に遭遇すれば解明したくなるのが研究者と言う堅物の特徴であり、また欠点でもある。
スネイプも例外ではなく、の手にした試験管を見詰めては、解析を行おうと己の実験道具を講義台に載せ始めた。


「 ちょっ…セブルス、私への教授は如何なったの? 」
「 お前ならば一人で出来るだろう。 独りで…其れも誰より先に出来たであろう実験を敢えて出来なくさせる位だ。其れ位造作無い。 」
「 …い、いやまぁそうですけど…この実験が終わったらティータイムとか、お昼寝とか… 」
「 ティータイムでも昼寝でも勉強でも、好きなだけして貰って構わない。 」
「 …………… 」


別れの言葉の様にさらりと言ってのけたスネイプは、これ以上無駄話に時間は裂けない、と魔法鍋を熱し始める。
薬品棚に移動する事も面倒臭いのか、スネイプの魔法を施された薬瓶がご丁寧にスネイプの手元と薬品棚を移動している。
其れを横目で見ながら、は心の中で溜息を吐いて、今日完成させる筈だった実験を正確にこなしていった。

(偶に失敗するのよね…。セブルスが夢中に為っちゃうような実験結果を出さない方法ってないんだろうか)

「 セブルス、面白い? 」
「 ……………あぁ。 」
「 どの位で終わりそう?今日中?明日中?明日の魔法薬学には終わってる? 」
「 …………………明日までには終わらせるつもりだがね。 」


つまりは今日中の終了は見込めない、ということ。
は再度吐きたくなる溜息を胸中に押し殺し、完成した薬品をスネイプの机の上に置くと、教科書を纏めて実験器具の後片付けを始める。
こうなってしまったスネイプは、研究の鬼となりもう手が付けられなくなる。
スネイプとが秘密裏の元、付き合い始めてから既に一年半。誰よりも魔法薬学を愛する青年は、何よりも魔法薬学を愛し、魔法薬学に愛されている。
本人は認めてこそ居ないが、魔法薬学教授と言う職業はスネイプにとって転職だろうに。


「 じゃあ私はもう帰ります。 あんまり無理しないで下さいね。 」
「 …………、すま… 」
「 思ってませんから、恋人失格だなんて。 魔法薬学教授に恋をして、貴方と一緒に居る時間を長くする為だけに敢えて実験に失敗する様な不出来な恋人ですから、私は。 」


魔法薬学に没頭するスネイプの口から頼り無い様な申し訳ないような音程で懺悔の言葉が紡がれようとした瞬間、は白百合の様な清廉な顔に微笑みを作り上 げてそう言った。
カタカタを忙しなく動いていたスネイプの指先が不意に止まり、魔法鍋に掛け置いた試験管を指先に持ち替えて、地下室を後にしようと立ち上がったに向き 直る。
如何やら少しは話をしてくれるらしい。指先に持った試験管をゆっくりと左右に燻らせながら、スネイプは小さな溜息を吐いて、


「 お前は不出来等ではない。 お前が不出来ならば、我輩がこうしてお前の実験結果を再現する苦労をする筈が無い。 それから…、本当に済まないと思っている。だが、こればかりは如何し様も… 」
「 判っていますから、大丈夫です。 だからせめて、セブルスが研究し始めないような実験結果を残せるように私も努力します。 」


言えば、スネイプが苦く笑った。
が齎す実験結果はあくまでも偶々出来た代物故に、スネイプの興味を殺ぐような代物になるのか、スネイプの興味をそそる代物になるのかは全く不可視であ る。
其れを知ってか知らずか、スネイプは何時もの齎す実験結果に左右された一日を送る事になるのだ。


「 明日は、魔法薬学が終わったら此処に来ても構わないですか? そう言えば明日は実験が無い日でしたから。 」
「 …構わん。序でだ、お前の好きなお菓子も持って来れば良い。 」
「 ……………い、今なんと? 」


疲れてきたのか、幻聴が聞えてきたらしい。
普段は無理矢理にでも居残りを作り上げなければスネイプの傍には居られない、とそう暗黙の了解事項の様に言い聞かせてたに取って其れは耳を疑っても仕 方ない位の衝撃的な言葉だった。

恐る恐る聞いて見たは良いが、如何やら気かなければ良かったような沈黙に包まれる。


「 …此れからは講義終了後、好きな時に来て貰って構わない、とそう言ったのだが? 」


の表情が驚いた様な形相に変わり、それからゆっくり時を伴って桜が綻んだ様な柔らかい微笑みを作り上げた。
此れからは望めば望んだだけ、スネイプの傍に居られる、そう思ったら胸奥から競り上がる歓喜に似た笑いを押さえ切れずに居た。


「 …だが、少しは失敗して貰わなければ我輩とて困るのだよ、 」
「 判っています。適度に…失敗しますから。 」


其れはもうじき初夏を迎え様という頃合、刻んだヒキガエルの入った試験管を持ったスネイプと、黄土色の薬瓶を持ったとの間に交わされた一つの約束。
こんな日常、其れは此れからも続くかもしれない。
けれど一つ言えるのは、が実験で失敗する事を心待ちにしていたのは本人だけではなく、スネイプもそうだと言える事。
そして、あれだけ魔法薬学の実験を不得意としていたが、次週からは魔法薬学神が降臨したかの様に誰よりも先に完璧な薬品を作り上げるという自体に、ス リザリン寮の生徒は皆合掌した。

きっと想像もつかない程のスパルタ教育を受けて、こう為ったのだ、と。
だが、真相を知らない方が幸せだということもある。特に、この二人の関係に限っては。


--------- 、講義終了後、残り給え。


偶に聞える魔法薬学教授の其の声に、はまた一つ心の中でほくそ笑む。
が魔法薬学で唯一スネイプに勝てる瞬間、そして、次からはスネイプと一緒になって実験結果を解明していくという名誉ある仕事を与えられる瞬間でも有っ た。












































[ words by 少年はにびいろをした不可避の幻を見る ]

後書き

【イエスタデイ/実験/恋人失格。】という3wordをお借りして書かせて頂いた夢です。
一応、全ての単語を入れるような夢にしたつもりですが、やっぱり甘くは出来ませんでした。あしからず…(笑)



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