-------- ねぇ、…今更ながら恐いもの見たさで聞くけど…あのスネイプは何て言って貴女を口説いたの?


粉雪が舞い踊り、辺り一面が白銀の世界に包まれた冬のある日。
暖炉に燈った火の傍でホットココアを飲みながら恋愛話に花を咲かせていたハーマイオニーと。初めの内こそ互いの彼の不平やら不満を言っては解決策を見 出すようなアドバイスをしていたのだが、話の論点が軌道を逸らし始めたのは、ハーマイオニーのその一言が切っ掛けだった。
グリフィンドール寮所属のと魔法薬学教授であるスネイプが恋仲に為って実に二年余り。
ハーマイオニーは常々から恋愛相談は受けていたものの、其の相手があの陰険根暗厭味贔屓不遜教授だとは知る由もなく、事実を知らされたのはとスネ イプが晴れて恋人同士と相成った日。
驚愕の事実に空いた口が塞がらず、此れは夢だ、悪夢だと何度自分に言い聞かせたことか知れない。
此れならば未だあのマルフォイが恋人で有る方が何倍も心が楽だと思った瞬間、ハーマイオニーはスネイプの言動を受け入れない様な拒絶反応を示した。
勿論からの相談を受けないとか、別れる様に勧めるだとか、聞かなかった事にするだとか、そう言った事をしようと言うのではない。
スネイプの言動…つまり、講義で姿を視界に入れれば思い出しては如何し様も無い笑いと引き攣りを抑えきれる自信が無いだけの話。
だから、ハーマイオニーは知らないのだ。敢えて、聞かなかったのだ。

女であるハーマイオニーでさえも一瞬息を詰らせる程の幸せそうな微笑で恋人に為った男の名を告げられた際、麗しのローレライだと揶揄されたを落とした 其の台詞を聞くだけの勇気と根性が無かった。
腐っても教授。積み重なってきた有りっ丈の悪印象が極悪以上のものに為ることだけは判っている。
だからせめて心が悲鳴をあげながら地雷を笑顔で踏むような真似だけはしないと誓った。
其の一つが、此れ。スネイプが告げたというへの愛の告白。ハーマイオニーにしたら地獄への片道切符。


「 そっか、もう二年か…早いもんだね。 」
「 流石に二年も経てば忘れるかしら? 」
「 まさか! 私は今でも忘れない、聞いた瞬間世界が凍ったもの。 」


其れは余りに台詞が寒すぎて凍ったんじゃないのだろうか。
そんなツッコミが出来る筈も無く、ホットココアを潔く飲み干したハーマイオニーは思い出話を始めるの話を聞きながら、出来れば開きたくなかった未知へ の扉を開けた。

其れは今から二年前。一面が銀世界に為った冬の出来事。








銀色クリアデ イズ










重たげな擬音を伴って落下する様に大粒の雪が空から舞い降りた。
ホグワーツで初雪が降れば、生徒は鉄砲玉の様に一斉に外へと駆け出して、空から毀れてくる雪に塗れて嬉しそうに笑う。
初雪が降った其の日は偶々日曜日だったため、郊外へと出掛ける生徒も多かったが翌日に控えた学期末考査の為に渋々ホグワーツに残る生徒が大半を占める。
折角の休日だと言うのに膨大な量を暗記しなければならない魔法薬学の試験が一限目に腰を据えていると言う状況下では、皆苦悶の表情を貼り付けて必死に文献 を読んで居るのだが、如何にもこうにも身に為らない。
そんな彼等に吉報を齎したのが、空から舞い降りてきた初雪。
スネイプに見付かったら即座に明日の試験についてネチネチと厭味を言われるのだろうと心に悪夢を走らせながらも、少しばかりの息抜きと走り出た生徒の姿が スネイプの視界に止まる事は無かった。

何故なら彼は其の日、珍しくもロンドンの街に居たのだから。


「 …大通りの街路樹を右手に置いて其処から南に抜けた道を抜けて信号を左… 」


此処はロンドン郊外のとある駅の真正面。
降り続ける真っ白な雪と同化しているかの様な純白のコートに身を包んだ小柄な少女が手にしているのは、吹き荒ぶ風に舞い上げられ今にも飛んでしまいそうな 草臥れた羊皮紙。
其処に綴られているのは達筆な筆跡で記された走り書きの文字。如何やら少女をとある場所まで案内したいらしいが、其の羊皮紙には如何云う訳か地図は書かれ ていない。
普通、人をある場所まで導きたい場合、文章のみで道順を記すよりかは絵を交えた方が判り易いと言うのが一般的である。
しかし、少女が手にしている羊皮紙に地図は愚か、方位を示す記号すらない。客観的に見れば非常に見辛い地図では有るが、少女にしてみれば此れほど有り難い ものは無かった。
少女は絵で記される地図を逆様に読んでしまうような今時の、【地図の読めない女】なのだから。


「 …此処…? 確かに何も無いから待ち合わせには最適だけど…何も無さ過ぎない? 私もしかして間違えた? 」


地図に記された記述通りの道順を辿って漸く辿り着いたのは、大きく敷地が取られた何の変哲も無い空き地に似た場所。
人通りは非常に少なく、目ぼしい建物も見当たらない為に誰かと待ち合わせるとすれば人が多すぎて探せないという自体は免れるだろう。
だがしかし、周りに何も無い場所に一体何故呼び付けるのだろうと首を傾げた少女の視界に漸く目当てのものが飛び込んで来る。
人通りが少ないとは言え、流石に【教授】等と大声で叫ぶ訳にもいかない少女が小走りで寄れば、其の足音に気付いたのか長身の男が振り返った。


「 スネイプ教授…! 良かった、私、間違えたのかと思いました。 」
「 我輩が丁寧に書いてやったあの地図で迷う訳は無い。 迷ったらとすればお前は相当知能が低い。 」
「 低くて結構です! どうせ私は地図が読めませんよ…今でもホグワーツで迷子になりますよ!! 」
「 其れを探す我輩の身にも為ってみたまえ、。 」


拗ねた口調で桜色の唇を尖らせたにスネイプは溜息を吐いた。
降り立ての白銀の絨毯の上をどちらからとも無く歩き出し、穢される事の無かった大地に二人分の足跡が付く。
互いの間に若干の空白を取りながら、スネイプとは連れ立って歩き出す。二人ともがホグワーツに居る時の様な服装ではなく、マグルの世界に相応しい服 装。
とは言っても、スネイプが全身黒尽くめで有るのは変わら無い為ににしてみれば何の違和感も無いが、いざ自分の身と為れば話しは変わる。
スネイプから用事に付き合って欲しいと言われた其の先がまさかマグルの世界だとは思っても見なかったは、一体どんな服装をすれば良いのか一日掛けて悩 んだ。
勿論マグルの服装を持って居ない訳でも無いが、ホグワーツでの正装以外の服をスネイプに見せた事が無い為服の傾向を如何して良いのか判らなかった。

結果的にはハーマイオニーに相談し選別して貰い、実年齢よりも聊か大人びて見える服装で決着が付いた。
最も、スネイプに取っては如何でも良い話なのかもしれないのだが。


「 …癪に障る。 」
「 わ、私何か言いましたか!? 今のところ、話そうと思っていた話題は何一つ話してませんが… 」


一言も発すること無い侭に告げられた強い言葉にはスネイプを見上げた。
其処に在ったのはホグワーツでは見慣れた不機嫌な顔つきのスネイプとはまた別な面持ちで、抑え様としない不機嫌さを全面に押し出しているスネイプの表情が 有る。
一体如何したのかと見上げ続ければ、飛び込んでくるのは変わらない昏い彼の両眼。ホグワーツで思う様、距離が遠くて、その直視する事が出来ない。唯、口を 噤むことしか出来ない。


「 …目立たぬ様にマグルの世界に来たつもりが…とんだ誤算だな。 」
「 目立つ? やっぱり…教師と生徒に見えますかね、私たち。 若しくは親子とか。 」
「 そう言った事ではない。 …通り過ぎる男がお前を見て振り返るのが不快で仕方が無い。 」


やっぱり、子どもだからだろうか…。

そう小さく呟き俯いたにスネイプは敢えて言葉を掛けずに居た。
事実を述べてやりたいところでもあるが、此処で今其れをしたら態々此処まで来た意味が無い。
急き立てる様に明日の試験勉強を昨日で終わらせこうしてマグルの世界まで足を運んだ甲斐も無くなる。
否定したくなる衝動を堪えながら、スネイプはを一軒のログハウスの様な店に連れて行った。
足を踏み入れた途端に鼻に付くのは柔らかくて仄かに甘い茶葉の香。


「 うわっ…凄い…。 此れ、全部紅茶の茶葉なんですか? 」
「 あぁ、世界各国の茶葉が有る。 どれでも良い、選びなさい。 」
「 え? 私が選んで良いんですか? 趣味が合わないとかで却下しないで下さいね。 」
「 …気に入らなかったら飲まん。 其れだけだ。 」


建前上は切れた紅茶の仕入れ。実際にはもっと深いものを隠しながらそう言えば、は事を深読みしないのかスネイプの好みを外さない様に茶葉の選別を始め た。
香水の香を愉しむ様に数枚の茶葉を手にとっては鼻腔を擽り、あぁでもないこうでもないと一人前の事を言いながら楽しそうに店内を回る。
スネイプはスネイプでそんなを見詰めながら、愛用する茶葉を手っ取り早く店員に量らせて居る。

偶には花の香のする紅茶も良いもんですよ、と蘭の香がするという【クィーンズキーマン】を手渡した。スネイプ教授がお嫌いでしたら私が飲みますから、と一 言付足して。


「 やっぱり未だ降ってますね…雪だるまに為る前に帰れるといいんですが。 」
「 其れならばフルーパウダーを使って帰るかね。 」
「 結構です。 マグルの街のイルミネーションも綺麗ですし…もう少しスネイプ教授と歩きたいですから。 」


そう言って、微笑んだが夜空を飾るイルミネーションの銀色の光りに照らされる。
紫水晶を思わせる美しい紫色の瞳に其れを縁取る長い睫。
桜花を引いたような桃花の唇に、まるで白磁を思わせるように透き通った白い肌。
東洋の魔女を髣髴とさせる漆黒の艶やかな長い髪は空から舞う真綿の様な雪が絡み付いて美しさを際立たせて居た。

隣に並んで歩く少女を見て、スネイプは改めて思う。少女はまさに異空間から浮き出たかのような圧倒的な存在感だった。
来た時と同じ様、擦れ違う男の瞳がを見ている事に少なからず同意見では有るものの、やはり胸奥を競り上がる憤りは隠しきれなかった。
其れも其のはず、未だスネイプのものではないのだ。この少女は。
少女の中で自分は如何なる存在なのか、そう思ってしまった己は既に恋に堕ちていると悟り、悟れば其の心毎欲しくなる。
其れは日毎に増して行き、試験管から溢れ出た水の様に想いが膨れ上がった其の時、スネイプはこうしてをマグルの世界に誘っていた。
伸ばしても届かなかった存在を己のモノにする為に、届かなかった想いを届ける為に、心に仕舞いこんだ願いを叶える為に。

幾つもの偶然が重なり、出逢いが叶い、幾許かの時が過ぎた今、待ち焦がれて自制が利かなくなった心を解放してやる為に。


「 今日は付き合せて仕舞って悪かったな。 」
「 いいえ、とんでもないです。 こんなに綺麗な銀世界が見れた上に素敵なお店も教えて貰えましたから。 」


銀の光りが降り注ぐ。
陳腐な人工物で作り上げられたイルミネーションは既に此処まで届く事無く、道を照らし出すだけの街灯が氷徹した雪の礫に光りを当てて全てを銀色に染め上げ る。
銀色の光差し、煌めき覆い纏わり付く星月夜。砕けた砂時計から零れ落ちた様な銀灰色の粒が空気中に舞い上がっては、其処に存在するものを統一に彩り描く。

空から星が零れ落ちた様な冬にしか垣間見ることの出来ない銀嶺に息を呑み、が突然歩みを止めた。
見上げる様に上を見て、雪の洗礼を受ける様に静かに両の瞳を閉じて。
もうじきキングズクロス駅が見えてくる頃だろう。疎らでしかなかった人が徐々に増えつつあり、夜も大分良い時間に為ったというに人波は途絶えるどころか加 速の一途を辿っているようにも見える
これ以上人が周囲を埋め尽くす前に、伝えなければ為らぬと腹を括る。


「 一つ、問うても構わないかね。 」
「 魔法薬学の突発的な問題以外でしたら何なりと。 」

「 …我輩と居て、楽しかったか? 」


魔法薬学での講義中、講義終了後に質問に訪れると言葉を交わす様に為って実に半年以上。
地下室と言う環境下。これ以上二人きりでいれば、己の心が如何にかなってしまうような気がして、逃げ出したのは己の方だった。
自分から、先に手を離した。これ以上の距離を縮める事は無いのだと。其れを大方気付いているのだろう。其れでもめげる事無く遣ってくる少女に何時しか呑ま れていった。
人の心ははかれない。情けない事に、たかが14歳の小娘の本当の心を知るのは、正直怖かった。このまま知らないでいる方が、ずっと楽なんだろう。
そう思い続けてきても見たが、今度こそ何処にも逃げ場が無くなる位に溺れていると気付かされた。

沈黙は落ちてくるものだと思っていた。人一倍他人に気を遣う子どもだ。愛想笑いで楽しい、とそう告げてくるかもしれない。
そうなれば言わずに心に留めておこうとそう誓って言った言葉の返信は意外な程早く、そして、


「 過去形なんですね。 私は楽しいですよ、今までも、今も。 」


「 為らば、此れからも共に居ようか。 」


の顔が驚きに変わる。
想いを告げようと一度だけ浅はかにも思ったあの夜、地下室の階段を上る後背に囁いた言葉は唯雲泥した空気の中、紛れて散っていった。けれど今は違う。
願いは叶う筈。そう確証して告げたのだと知れば笑うか。胸郭の奥、心臓の脈は高鳴るばかりなのだと。答えを待って、恐れにも似た緊張を抱いていると。

好きだとか愛しているだとかそこ等中に溢れている言葉など伝える気は無かった。況して、出た言葉は其れより遥かに稚拙なものだと知っていたのだが。
だが、声にすれば、想いはより確かなものとなった。何が起因となって、これ程に想うのか。己の漠然とした恋情を不可解にも思うが、心は裏切れない。
此れだけが今、確実な事なのだろう。例え、その理由が判らずとも。


「 スネイプ教授が宜しいのでしたら、是非。 」
「 当たり前だ。 何の為に態々お前を馴染みの店に連れてきたと思うか。 」
「 え? 」
「 お前が選んだ紅茶はお前のものだ。 お前が来たら…我輩が特別に淹れてやる。 」


自分の振る舞いに、其の言い草に苦笑が沸きあがって来て、スネイプは乱雑に髪をかきあげた。
はらりと髪にしがみ付いていた雪が空に舞い、は唯幸せそうな微笑みを返した。
時が経ち夜が更けるに従って、周囲に広がる光景は銀色で埋め尽くされて。
少しばかり欠けた満月が空には姿を現していた。冬と言う季節柄、空気が冴えている所為で、星がよく見える。
金と銀のコントラストに息を呑み、再び空を見上げたをスネイプが後から柔らかく抱締めた。
の深い夜色の髪には雪が降りかかってきて、淡いコントラストを作っている。熱を奪っていく氷点下の外気温、その冷たさで耳までもが赤く染まっていた。

スネイプは髪に降り積もった雪をそっと払い除けるやる。自分の手先も寒さで麻痺しているのだろう、体温も何も伝わってはこなかった。
寒いだろうに。スネイプは立ち尽くした侭の小さな肩を押し、歩みを促す。
先程よりも人が増した様に思う。けれど雑踏が耳に届く事は無かった。雪が降り積もる音さえも響きそうな凍った空気の中、地面に触れれば雪は吸い込まれるよ うに、あっという間に解けていく。
これは明日まで止むことは無いだろう。


「 明日、甘くないクッキーとテスト用紙を持って伺いますね。 」


キングズクロス駅に着いて、名残惜しそうにスネイプはの身体を離した。此処からは教師と生徒。互い行く先は同じであろうとも、共に帰る事は無い。
だが其れでも、キングズクロス駅に降り立った時の二人に比べれば状況は大いに変わっていた。


誰も知らない。二人の間だけに交わされた言葉。告げられた想い。
其れは二年前、大地が銀色に輝いた日の出来事。




























後書き

い、一応…二周年記念夢(笑)。
何処が記念なのかと言われれば頭を抱えてしまいますが、こんな告白のされ方いいなぁ…なんて本能に突っ走った夢で申し訳ない。
スネイプ教授、口説き方がちょっと子どもです(笑)。


[ Back ]

(C) copyright 2004 Saika Kijyo All Rights Reserved. update 2004/12/12