言葉なんて、文字を並べただけの意味の無い存在だと思っていた。





午前0時、起点ゼロ。









正直、誕生日と呼ばれる、自身が世界に生まれ出でた日に良い思い出は一つもない。
いや、多分物心が付く前家族に祝って貰っていたあの頃は楽しかった出来事は一つや二つは有るだろうが、今挙げてみろと言われれば全くと言って良いほど浮か んでは来ないのだ。
誕生日…即ち、一年に唯の一度しかないその日。
恵まれていることに、生まれ出でた其の瞬間から魔法界でも生粋の高潔な純血を受け継ぐには、フィアンセと呼ばれる人物を含めて友人親戚男も女も関係無 く人脈は広かった。

鬱陶しい位に人が集まる日、忙しなく執事や家政婦が廊下とリビングを行き来する日、朝から様々なドレスに着替えさせられ其の度にあぁでもないこうでもない と言われながら何回も人形の様に扱われる日。
其れが、の記憶している誕生日だった。
勿論、厭だと思った事は一度も無い。慌しくて忙しない一日では有ったけれど、様々な人がを見ては顔を綻ばせて「おめでとう」と言ってくれる。
更に多くの人は抱えきれない程の花やプレゼントをに渡し、包みを開いて中を見る事を楽しみにしている。中身は年齢によっても変化したが、大抵は年齢よ りも一歳か二歳上の年齢の子どもが好みそうな品。


「 …今年もまた、独りかぁ… 」


咥内に広がるのは、甘い甘い砂糖の味。
頬杖を突いたの左手には銀色のフォークが、其の先には時期的には値段も張るだろう、真っ赤に熟れた苺。
誕生日は何時かと一度だけ聞かれた友人の言葉に、今日と言う日付を告げれば、今朝甘い薫りと共に彼女はケーキを持って来てくれた。
「迷惑…じゃなかったかしら?」
そう云う彼女に精一杯のお礼を言い、早速ケーキを頬張った。途端に咥内に広がる甘い薫り。
嫌いじゃない、寧ろ好きな位。誰かに祝って貰える、其れは本当に幸せな事だと思う。ケーキを頬張っている今でさえ、ケーキを焼いてくれた友人に抱きつきた い勢いだ。でも、誕生日と云う日の思い出…総じての印象は悪い。


原因は一つ。判っていても如何し様も出来ない事が世界には度々存在する。例え魔法が使えるホグワーツと言う環境であり、魔法使いというこの身で有ったとし ても。


「 今頃、何してるんだろ。 どうせ今日が提出期限だったレポートを鼻で笑いながら真っ赤にしてるんだろうなぁ。 」


届かぬ呟きを、ケーキの欠片を喉奥に落とし込みながら呟く。
毎年毎年、如何云う因果か呪縛でも受けているんじゃ無かろうかと疑うほど、その時一番祝って欲しい人に祝って貰えない。
多分、そう思うのはが未だ15にも満たない子どもだからだろう。祝って貰えるだけで幸せだと思わなければいけない年齢に、多分手が届いている筈。これ 以上を望むのは贅沢、確かにそう思う。
今朝だって、何処から呼び寄せたのか様々な梟がの部屋直にプレゼントを置いては旅立って行く様を見送ってきた。
覚えのある人物から無い人物まで、近しい者から遠い者まで、人の誕生日なんて良く覚えていられると感心する位に。
結局は大半を実家に送り返さなくては為らないのだが、一つ一つ手の込んだBirthdayCardsだけは手元に置いておこうとクローゼットを開く。
毎年毎年膨大に届くBirthdayCardsは次第に山と化し、徐々に場所を取り始めて来た。そろそろ魔法で何とかしなければ為らない。


「 スネイプ教授のバカ…アホ…ホルマリンだけが友達の引見根暗厭味教授… 」


は苦い溜め息を押し殺せずに其の侭吐き出した。
スリザリン寮監督生であるは既に個室を与えられ、通常の生徒よりも一回り以上広い部屋に独りぽつんとケーキにフォークを刺しているのだから、意中の人 間の名を紡ぎながら八つ当たりに近しい罵声を浴びせても誰にも聞かれる心配はなかった。

机の上には淡く光る南瓜のランタン。もうじき迎えるハロウィンの為に講義で作成したものだ。中には淡いオレンジの光りが朧気に揺らいでいる。
そして、其の脇には丸められた羊皮紙。麻紐で括られて居たのだろうが乱雑に解かれた後がある。突っ返された羊皮紙なんて、唯ゴミになるだけ。

よりにもよって、一年に唯の一度しかないこの日に、何が悲しくて魔法薬学のレポートの提出期限が有って…更には問答無用で突っ返されなければ為らないのだ ろうか。


「 期待、したのに。 」


期待した、其れは嘘じゃない。
監督生であるが、スリザリン寮生全員分の課題を持って行くのは殆どお決まりの事。
今日も二山を超える量の羊皮紙を運びに行って、スネイプが何やら言葉を濁らす様な仕草をしたものだから、てっきり自身が良い方向に勘違いをした。

Happy Birthday

その単語が聞けるかと思って、呼び止められた方向に身体を向ければ、途端に飛び込んで来たのは慣れた自分の筆跡で書かれた魔法薬学のレポート。
期待した自分が莫迦だったのだ。幾らでも気付けた筈。スネイプ教授がに祝いの言葉など述べる筈が無い。


…スネイプ教授はの誕生日を知らないのだから。


「 自分で言えば良かったかなぁ? 」


いや、幾らなんでも其れは余りに情けな過ぎる。かと言って、自身で誕生日を告げねばスネイプが知ってくれる事は一生無いだろう。に興味が無い限りは。
あのスネイプ教授が進んでそんな画策なんかする訳は無いだろう。如何して自分はこうも素直に祝って欲しいと言えなかったのだろうか。普段減らず口なら幾ら でも叩けるだろうに。
祝って欲しい、そう言っても決して間違っていない相手だ。何せ、はスネイプの恋人なのだから。


「 もう良い、寝よ… 」


独り言は其処で幕を引いた。
昨日徹夜で仕上げたレポートには事細かにスネイプの採点が書き加えられていて、達筆な文字を柔らかな橙が映し出す。
机の上に突っ伏す様にして寝息を立て始めたの前髪は、窓から吹き込んで来た柔らかな夜風に吹かれて少しばかり哀しげに揺れている。折角の誕生日、愛し い人に言葉一つも貰えずに居る主人を憐れんでいるかのように。


橙の光り放つ南瓜と食べ掛けのケーキ、瘡付いた羊皮紙に・・・・


「 …ベットで寝ろとあれ程煩く言っているのに、またこの様な場所で寝てるのか。 」


暫くして、変わる事の無かったの室内情景に黒い陰が映り込んで来た。
始めは床に落ちた黒い染みだったのだが、其れはゆっくりとあるべきものに還る様に形に為って、一秒と経たない内に漆黒のローブを纏った男の影を作り上げる た。
出来上がった陰は音を立てずに寝息を立てているの元へとゆっくりと歩み寄ると、ベットに投げ置いてあるブランケットを無造作に引っ掴んで掛けて遣っ て。

う…んっ…、と小さく唸りはするが一向に眼を覚ます事の無いに小さく溜息を零して、スネイプは流れ落ちた髪を耳に掛けてやる。
さらりとした独特の質感を持つ絹に似た感触が心地良く、何度も指先で掬っては落としての動作を繰り返してみても。は余程熟睡しているのか眼を覚ます気 配さえない。


「 …泣いていたか。 」


ふと視線を瞼に移した瞬間、若干の違和感に気付いた。
今は閉じてしまっているけれども、長い睫に隠された双眸は酷く麗容で、其の奥に隠された琅玕の瞳は視た者を魅入る様に水滴伝うが如く艶やかで。
最初に瞳に心を奪われたと言っても過言ではない。其れ程までに玲瓏だったのだ、の瞳は。

しかし今、其の瞳が隠されている筈の双眸は普段よりも幾らか腫れあがって居る様に見て取れる。勿論、鬱血している訳では無いのだから何処かにぶつけた訳で は有るまい。
と、すれば…考えられる事由はひとつ。


「 あの時に呼び止めておけば良かったか…面倒な自尊心等気に止めず。 」


羊皮紙を返したあの瞬間が脳内で蘇る。そして、同時に思うことが有った。
頬を朱に染めて震える掌を握り締め、言葉少なめに伝えてきた想いを受け入れたこと、後悔させてはいないだろうか。
に想いを告げられる前から好いて居た等と口が裂けても言えぬスネイプに、結果的に選ばれた
そう考えれば、自身はから択ばれる価値が有ったのだろうか。己の気持ちさえ満足に伝えてやる事が出来ない惨めな男だと云うに。

不安という名の沈殿物が降り積もり、まっさらな真水を濁す泥の様に心を曇らせる。
言葉一つ告げて遣れず情壊ばかりが増してゆく男が、愛しい人間に何かを与えて遣れて居るのだろうか。


--------- わたし、生まれてきて良かったんだよね? スネイプ教授に逢えたから、だから…


何時だったか、がそう零した言葉。
あの時は別にの誕生日でも無ければスネイプの誕生日でも無い平坦な日だった。
どのような会話の流れからそう為ったのかまでは覚えていない。しかし、あの時疑問系で聞いておきながら最後言葉を濁したの哀しげな表情だけはありあり と浮かべてやる事が出来る。
あの時は結局「なんでもない」の一言で終わらせられ、スネイプも問い詰めるような事はしなかった。しかし、今と為ってみれば。


「 ……あぁ、そうだろうな。 」


傍から聞けば意味筋の通らない言葉と共に、スネイプは安息の眠りに吐く恋人の小さな頭に口付けを一つ落とした。
自身では気にも留めた事が無く、唯歳を重ねて過ぎ去っていくだけの誕生日が特別だと云うのならば、せめてこの位の贈答品は受け取ってもいいだろうに。

今は深い眠りに堕ちてしまっているけれども、あと数ヶ月経って今度はスネイプがこの世に生まれ出でた日が訪れたなら、きっとはスネイプが生まれたこと を喜び何も云わずとも祝ってくれるのだろう。


言葉なんて、文字を並べただけの意味の無い存在だと思っていた。
けれど其の言葉が愛しい人間の唇から零れ落ちたものならば、其れは何事にも変え難い意味のある存在に為るのだろう。
少なくとも、の口から聞ける言葉は意味の有る存在だろう。初めて、言葉というモノが特別に思えた。
だからこそ、特別だと思う人間に、特別に為った一番最初の言葉を。


---------- With love on your birthday....


生まれて初めて、言葉が特別な日になった9月17日。時計は丁度0時を指していた。
が目覚めたらもう一度、祝って遣れなかった誕生日の続きを一日遅れでしてやろうと、スネイプは音も無くの部屋を後にする。
泣き腫らした様なの寝顔が、微かに幸せそうな表情に為っていた事をスネイプが知るのは、翌朝一番の話し。
























後書き

HappyBirthDayパトー!!
…ということで、パトーに捧げるスネイプ夢になったわけですが…何時にも増して意味不明な夢になってしまって申し訳有りません;;
本当はラブラブな夢にしようかとも思ったのですが、私の中の想像するスネイプ教授の誕生日の祝い方ってこんな感じかなぁ…と(笑)
如何せん、パトーの誕生日をしった其の日に下調べもせずにがーっと書いてしまったのでこんな出来に…;;
送りつけるというよりかは、既にはた迷惑なものになってしまっていますが…来年リベンジを目指そうかと思っております(笑)。
最後にもう一度…パトー、誕生日おめでとう御座いますvvvvvvv


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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/9/17