| last scene ![]() last scene another day-05:消え逝く世界の片端で、確かに一筋の灯かりが燈った 温度調整魔法が施されているホグワーツ、吹き抜けた廊下や大理石で出来た柱から放出される冷気によって酷く冷えている。夏に向おうとしているとは言え、 ロー ブの詰襟を正さねば為らないほど肌寒い事など未だ嘗て在りはしなかった。 がホグワーツに転校してからと言うもの、気温でさえも狂って仕舞ったのかと真面目に考える己が一番酔狂してるのだと気付くまでに、一週間以上もの時間 を要した。 世界にこもった熱を清めるような風に目を細める季節、急激に冷える事が在るのは可笑しいだろうと考えてもみたが、此処は魔法界、ホグワーツ。誰しもが魔法 を行使出来る環境に居る中で、唯独りの女子生徒の所為だと決め付けるなど、きらめく陽光に思考回路さえも焼切れただろうか。 「オリエンタルリリー、言われるまで気付かないとは、な」 セブルス・スネイプの自室に、ポツリと落とされた短い独白が漂った。 射し込む太陽の光り、昼と夜では温度差が著しい魔法薬学研究室に研究の為に置いていたオリエンタルリリーが枯れかけていたなど、気に掛ける事も無かった。 普段の多忙だけに飽き足らず、望まざる転校生の出現に始まり、輪を掛けた様な仕事の山が降って来る中でオリエンタルリリーの存在は忘却していた。無意識に 棄てたのだろう、其れをまさかが拾上げて「咲かせたい」と告げたことに今でも驚きを隠せていない。 スネイプは洗い立ての濡れた髪を掻き上げ、窓から間近に見える星空を見詰めた。すると、見慣れぬ一羽の梟がゆっくりと旋回しながら此方へ近付いてくる。 窓に映り込むスネイプの所存を認め、真直ぐに此方へ向ってくる事から、スネイプに用事が在るのだろう。 徐々に梟とスネイプとの距離が近付くに連れ、スネイプは黒双眸を眇め、小脇に置いた杖に指を伸ばした。 見たことの無い種類の梟。否、一度だけ見た経験が在る、あれはそう、の母親――――桔梗が学生時代に飼っていた梟だ。胡粉色の長い毛足に小ぶりの体 躯、瞳に薄っすら灰色が掛かった硝子球の様な瞳、小さな身体に似合わぬ大きな翼は蝙蝠の様に数枚の羽が重なり合った様に見える。 桔梗の梟―――基い、Revalue国に生息する種類の梟をペットとしている人間など、一人しか居るまい。余程の物好きで無い限りは、例え梟一匹であって もあの国に関わろうとはしないだろう。 「この国の梟フードは食べられるかね」 開け放った窓の格子、丁寧に嘴に咥えた手紙を我輩の前に置いた梟に、梟フードを与えてやる。 Revalue国では梟に、梟フードを与えないという話を風の噂で聞いていたため、口に合わぬかも知れぬが生憎此れしか持ち合わせが無いと差し出せば、小 さな嘴で器用に受け取り数個咽喉奥に落とすと小さく咆哮して飛び立った。 見送り再び窓を閉めて椅子に腰を落とし手紙を開けば、らしい麗流な文字が認められていた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 夜分遅くに突然の手紙、申し訳ありません。 先日頂いたオリエンタルリリーが、淡雪の様に白い花を咲かせました。 スネイプ教授に是非見て頂きたいのですが、 明日の講義終了後、魔法薬学研究室にお邪魔しても宜しいでしょうか ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 伺いなど立てずとも、直接花を持ってくれば良いものを、ゴミ箱に棄てた花を無理矢理持ち去るような強大な心を持ち合わせて居ながら今更遠慮など。 思いながら、手元に丁度置いてあった羊皮紙に羽ペンで返事を認めた。単純な暇潰し、言ってしまえば気紛れだ。 特に仕事をする予定も無くすべき事も見付らなかった余暇に沸いて出てきたからの手紙、態々朝食の際に呼び出して告げる程の内容でも在るまい。自分自身 に言い聞かせ納得させ単なる暇潰しなのだと心を縛り付けながら連綿と考え、愛梟を呼び寄せ窓から放つ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― そうか。 …百合は光りを嫌う。 花は薬草の温室で育てると良い。 明日の講義終了後温室にオリエンタルリリーを持って来るように。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― スネイプの梟が舞う漆黒の空には、仄蒼い月が中天に引っかかるようにして静かに浮いていた。見送りながら、スネイプは夜の帳に誰かを想うよう、暫くの間紺 碧にも見える空を空虚に視界に映し込んでいた。 同じ頃、は宛がわれている自室でハーマイオニーから貰ったマグル製品のアロマキャンドルに火を灯していた。 狭い室内に立ち込めた冷えた空気には馥郁たる花の馨りが溶け込んで、照明を落とした室内はアロマキャンドルの僅かな光りに仄暗く霞み、視界を幻想的な空間 へと誘っていた。 「私が大好きな香りなの。もきっと気に入るわ!」 細かな銀と金の糸が折り重なる様に紡がれた小さな小瓶。 掌程度の小瓶には、ハーマイオニーが好みそうな草花模様のラベルが貼られていて、ふわりと甘く爽やかなグラスセージと、仄かに柑橘だと分かる微かな花の香 りが混ぜられている。咽返るほど甘い訳でもなく、蜜柑を髣髴とさせるように柑橘が効いている訳でも無く、丁度良い程度に甘味が効き如何にもハーマイオニー が好みそうな匂いだ。 「私も嫌いじゃないな、この香り」 室内に溶け込んだ残り香にくん、と小さく鼻を鳴らせば、柔らかなまろい頬を緩めては微かに微笑みを浮かべた。 そんな折、キッチリ閉めた筈の自室の窓硝子をカツカツと硬い物で叩く音が鼓膜を掠め、愛梟が何か託でも貰って来たのだろうかとカーテンを開けば、見慣れな い一羽の梟が窓格子で翼を休めている。 「誰の梟?―――――――私に、手紙?」 特にする事も無いは窓枠に頬杖を付く様に両肘を置き、梟フードを数個並べて遣って居ると、梟が嘴に携えた羊皮紙をずいと前へ差し出した。手を差し伸ば して受け取れば、梟はが置いた梟フードを綺麗に平らげて宵闇の彼方へと小さく姿を消した。 誰からだろう、と手紙を裏返しながら窓を閉めれば、認められていた文字に薄紫の双眸を見開いた。 「スネイプ………教授!?」 そうか、一声すらも啼かずに早々と立ち去った先程の梟はスネイプ教授の梟か、だからあんなにも無感情で無愛想だったのかと納得しながら、貰える等とは思っ ても居なかった手紙の返事に狼狽する。 何か失礼でもしただろうか、懇切丁寧に書いた訳では無いけれど、常軌を逸脱する様な書き口ではなかった筈だ。 背に僅か流れる冷えた汗と非情な結末を想像しながら、ゆっくりと手紙を開けば、見慣れた流麗な字が綴る文章に瞳を奪われる。内容に至ってはスネイプ教授が 40℃を超える熱から来る朦朧とした意識が紡ぎ出した幻想の言葉なのかと素で疑ってしまう内容。 「………明日の講義終了後、温室……」 確かに、そう書いてある。否、多少デフォルメした内容を口走ってはいるが、確かに手紙内容筋にはそう記されている。 何度読み直し、上から下まで余す事無く一字一句なぞる様に視線をなぞらせても、たがう様には見えない。何らかの魔法が施されているのだとすれば強ち一概に 正しい、とは公言できないのかもしれないが、そもそも其処までする価値も無ければ必要も無いだろう。 だとすれば、本当にあのスネイプ教授が温室でオリエンタルリリーを育てても良い、と許しを出した事になる。 「……明日、もしかして、雪でも降るんじゃないだろうか。待って、もしかしたら槍かも… いやでも、あのスネイプ教授なら雪だろうが槍だろうがミサイルだろうが、気に入らなければ飛ばす気がする。 だったら敢えて明日雪が降ることも無いかも………………って、論点は其処じゃなくて、」 眉間に自然に寄る皺。普段の素行から想像も出来ぬ様な言葉に、既に就寝を迎えそうな酩酊とした脳を躍起になって動かそうとしても、余り効果が無い。当たり前だ、時刻を見ればもう夜半を回っている。明日も早い、もう寝なければ。 だが其の前に忘れぬように、と机の上に広げていた羊皮紙に"今日の講義終了後、温室。"と書き記す。認めた羊皮紙が、魔法薬学で使用する羊皮紙だとは気付きもせず、は僅かでも温室でスネイプと共に過ごす瞬間を想像し、あのスネイプが少しでも自分に心を開いてくれたらと思い描いた途端、確かな熱に心臓が跳ね上がる。 ぶわりと浮かんだ想像の白い靄がの脳裏に鮮明に浮かび上がり、彼是と憶測立てながら想像の産物に手と足が生えていくのを他人事の様に眺める。 靄の中には相変わらず黒装束の様な漆黒の外套に身を包んだスネイプと、魔法薬学の教科書を手にした自分。 相変わらず不機嫌そうに貌を顰めたスネイプを見詰め……………見詰め、? 「ち…っ、違う、多分絶対に違う、おかしい、絶対に」 浮かんだ疑念を打ち払うように頭を振れば、夜の帳に似た髪が音も無く飛散する。 しかし、其れでも一度脳裏に侍らせた情景は中々消えてはくれず、自室に拡がる様に籠るアロマオイルの香りが想像に拍車をかける様で如何にも性質が悪い。 あぁ、今思い返してみれば、アロマオイルの香りがオリエンタルリリーに似てるとさえも思う。とすれば最早末期に近い。スネイプからオリエンタルリリーの香りがする訳では勿論無いが、オリエンタルリリーの香りや存在で思い出すのはやはりスネイプ独り。 元来、匂いは対象を思い出すには有効だと言うのは有名な話。だがにそんな知識がある筈も無く、四角く密閉された狭い箱の中をこんな風に匂いで凝固されては仕方がない。 この侭では香りに飲まれて先程と大差無い想像を空に描いてしまうことだろう。何としてでも避けねば為らぬ事態だ。 ふと、視界の端に籐で編み込まれたゴミ箱に投げ入れられた銀紙が留まる。 そうだ、今朝食べたシュークリームの匂いを思い出し描かれたスネイプの姿を掻き消そう、と既に停止しかけている脳を回転させてみたが直ぐにシュークリームは掻き消され、部屋に充満したアロマオイルが再びスネイプを思い出させたりした。 性質の悪い事に、脳内のスネイプが意識を持ち合わせた様に濃黒の髪の間から鋭く光った漆黒の双眸が眇められる。 薄く開かれた唇がゆっくりと何かを紡ぎ掛け――――――― 「あぁもう、明日、一体どんな顔で逢えば良いのよ!!」 どんな言葉を紡ぐか、意識せずとも脳裏にぽんぽんと泡の様に浮いてくる科白を打ち払うよう、は魔法で室内の香りを消し去ると明かりを落として半ば逃げ 込むようにベットに潜り込んだ。 すっぽりと頭の上までブランケットを被り、苛立ちと焦燥、不安と安堵の狭間を行き交う様な状況に身を委ね、頭の中では、煩く警鐘が鳴り響いていた。 其れが全ての始まりで、双方気付かぬ内に恋と名の付く快美な情壊へ繋がる道だと、知る由名も無い。 [ home ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/8/16 |