last scene




last scene another day-04:空を見上げてどこか遠くの君を想った






ダンブルドアの自室でたちがルシウス・マルフォイと謁見し終えて数分後、ドラコはホグワーツの裏庭で一人珍しく蒼穹の空を眺めていた。
新調したばかりの値が張るローブが地面に擦れ、敷き詰められた芝生の緑が付着する事も構わずに、無造作に身体を横たえ流れ行く千切れ雲を視界に入れてい る。
ホグワーツの中で、裏庭は意外と人気が無い。別に陽の光りが射し込まないとか、マグルの溜まり場に為っているとか、そう云った概念から来る疎外感ではな く、単純に理由無くひとけが無いのだ。
誰からの干渉も受ける事無く自由に在れるこの場所で、ドラコは独り時間潰しをしていた。

さらさらと流れるシルバーブロンドの髪が背丈短い芝生の草に触れ、鬱陶しい。邪魔だ。
右手でかき上げるように乱雑に額の上で押え込めば、明瞭に為った視界の端に、居るべき筈の無い人物を認めてドラコは慌てて立ち上がった。身体に付着した若 草が飛び込んできた一陣の風に攫われる。


「ち、父上、如何して此方に?」


身形を整え、身体に纏わり付く芝生の緑を掌で振り落とせば、掛けられた声に反応したルシウスはゆっくりと振り返り、己の息子の愚態に諦めた様な溜息を一つ 零した。
ドラコのローブには、慌てて払い除けた若草の残滓が、未だにこびり付いている。
降りてくる冷厳な蒼い一瞥、別にお前の素行等私には関係無い面倒だけは掛けてくれるな、と暗黙のうちに伝えられた風体で、ドラコの脳裏にスネイプの科白が 過る。


「安心しろ、あの男は誰も期待しては居ない。お前が禁 忌とされた娘に関わろうが其の娘を愛そうが、あの男に面倒事が増すだけで、期待を損失することは無い。初めからそんなもの、存在しないのだから。」


無意識に掌をキツク握り締め心の痛みに耐えるよう、ドラコが唇の裏側を強く噛んだ。
だがそんなドラコの健闘知る由も無いルシウスはドラコに向けた一瞥を僅か上方へ逸らせ、懐かしむ様に空を見上げた。
其処に浮かぶは奇妙な形に流れた白い綿雲。まるで白百合の様だと脳が推測すれば、次いで思い出した人間。
忘れていないのだ、と痛切に感じる。胸に過る感情に眉を顰めながらも、嫌ではない自分が居て笑えた。



「ドラコ、あの娘には関わらぬ方が良い。」

怜悧な美貌を更に冷たく冴えわたらせ、ルシウスは双眸を伏せたまま口を開く。
再三言われた言葉、如何してそこまで自分とを遠ざけようとするのか、意図が掴めず指先をすり抜けそうな意思を握り締めたドラコの拳が、微かに戦慄く。


「其れはが形持たぬ存在だから、ですか。」


普段家では見せる事の無い厳しさを含んだ尋問の様な声色で問えば、ルシウスは咽喉奥から哄笑を聞かせて来た。
面白いものを見る様な侮蔑含んだ視線、実の息子に投げる様な眼差しでは到底無かった。知りながら、ルシウスはドラコに向ける視線の種類を変えようとはしな い。


「お前の恋愛相手がゴーストだろうが殲滅された一族の嫡子だろうが、例のあのお方の妻の娘だろうが関係は無い。」
「為らば、如何して------------------


二週間以上もあの娘の傍に居て未だ判らぬのか、とルシウスの吐息交じりの言葉が空に融ける。
だが眇める様に向けた蒼の視線はドラコに向く事無く、何処か遠くを見詰め慕情するかのように唯蒼い空を見続けた。
怜悧な双眸が瞬きするような一瞬の時間、ふっ、と歪められたのを、ドラコは確かに見た。


「あの娘はもう既に人のものだ。お前がこの先弛まぬ努力と愛情を惜しみ無く注いだ処でお前のものに為る事は無い。」


吐き棄てる様に告げられた現実に、ドラコは瞠目した。次いで脳裏に描かれたのは、グリフィンドールの英雄と称えられるハリー・ポッターの勝ち誇った様な笑 み。
実の父親に事が露見するほど、とポッターの仲が進行していたと思い知らされた様で、ドラコは怒りを掌に集中させるように堅く握り締める。カタカタと奥 歯が 鳴るのは悔しさからではない、度を超え過ぎた怒りの所為だ。


「ポッターの癖に…っ!!如何してグリフィンドールのヤツなんか…!」


罵声を向けるべき相手は眼の前に居る父親ではないと判っていても、感情のコントロールを喪失して仕舞う程の怒りに苛まれた幼い心では、対処し切れるどころ か抑制する事も困難だった。
今直ぐにでも駆け出して無理矢理に寮から引き摺り出して五発は殴り倒さないと気が済まない。これ以上にはないほどの衝撃で、気がおかしくなりそうなほどの 憤りを感じて。決意を宿した瞳の侭、父親に別れを告げようと向き直れば、彼は珍しくくつくつと愉しげな声を漏らし、嘲笑に歪んだ蒼眸が弧を描いた。


「目出度いヤツだな、お前の目は節穴か、ドラコ」
「なっ…、父上、それは如何云う意味--------------


直接的な罵倒を受け、ドラコが具に言葉を返せば、ルシウスはゆっくりと視線をドラコに戻す。
瞬間、何処か遠くで硝子が割れるような音を聞いた。



「セブルス・スネイプ。あぁ、魔法薬学教授兼スリザリン寮監督とでも云えば判り易いか?
昔から無愛想で自身の得に為らん事には一切興味を示さず、道理と生真面目だけがとりえのような詰まらぬ男だったが…よもや、あの娘を欲するとは。」


幾ら嘗ての想い人に似ているからとは言え、年端もいかぬ小娘を愛するなど、酔狂な事だ。
呆れた様に言えば、ルシウスの言葉にドラコの瞳が心底驚いたように見開かれ、硬直しているのが伺えた。心の中では快哉を叫んでいるのだろう。愚かな事だ。

思いながら、ルシウスは自分の息子に為した行動を自嘲する。別にが恋し、愛されている男の名など敢えて知らせる必要は無かった。知らせて何に為る、世 の中には知らぬ方が幸とされる事など腐る程在る。



唯、もう二度と来る事は無いだろうこの場所で。
最後に眼に焼付け胸奥の思い出として閉まって置こうと、最後に桔梗と別れたこの場所へ足を運んでみれば、嘗ての 自分と同じ様に焦がれた様に空を見上げる息子の姿を見付けて、純粋に可哀想に思えた。
奸悪な訳ではない、決して実らぬ恋なのだ、早々に真実を告げてやるのが親切と言うものだ。
そう、「私の様に叶わぬ想いを抱いた侭大人になど為らぬよう に」。

言い掛けた言葉は想いを打ち払う様に、静かに胸奥に沈む。



「一つ、覚えておくと良い。あの娘をセブルスから奪おうとしても無駄なことだ。やめておけ、あの娘に生涯に渡って嫌われたくなければ、な。お前では一生掛 かっても幸せになど出来ぬぞ、肝に銘じておけ、ドラコ」


人の脳は、焦る時ほど余所事を考えて擬似的な冷静さを創り出そうとするものらしい。全く其の通りだ、とドラコは思う。
痛烈な批判を受けながら、脳裏に過るは、あの日の予感。叶わないような気がした、そんな陳腐な憶測じゃない、一種の予知夢の様なものだ。
あの時は全てを信じたくなくて打ち払う様に手紙を焼き捨てた。あの日感じたのは矢張り、現実に敷かれた結末への轍の一種だ。今なら純粋にそう思える。

ルシウスの言葉を自然と聴覚が捕えながら、ドラコは風に口元を綻ばせて言った。


「予感、がしたんです。」
----------------あの娘がセブルスのものに為る予感か?」
「いえ…父上から文が届いた日、あの手紙を読む前に唐突に思ったのです。」


-----------------に好きだと告げる其の前に、この恋は散ってしまうんだろう、って。



脳裏に過るは、優しくて穏やかな薄紫の瞳。
改めて思えば、世界中のどんな宝石の類でさえも翳んでしまう程の笑顔を向ける相手が、ドラコ一人だけである筈など無いと心の何処かで感じていた。感じてい なが ら、の瞳に自分以外の男が映りこむ其の度、柔な胸は痛み傷付きさえするけれど、其れ以上にの微笑みがドラコの枯れた心に愛しさを与えてくれていた から。
だから現実を受け入れることを拒絶し、甘すぎる自己陶酔に酔い痴れた。そんな自分への罰なのだろうか。
ぼんやりと考えながら、未だ現実を受け入れられない稚拙な自分を虚しく嘲笑し、ドラコは眼前に居る父親の存在を綺麗に忘れ蒼穹を仰いだ。



(でもな、。好き…、なんだ。もう、如何しようも無いくらい、好きなんだよ。)




届かぬ想いを一つ空へ打ち上げ、同じ空のもとに居るだろう何処か遠くの君を、ただ想った。



次に逢う時はそう、恋情とか愛情とか友情とか忘却したように、何時も通りの自分で君の隣に立てるように。
愚かで悲痛な選択、何の未練も感慨も無く純粋に、君を忘れられたらどれだけ幸せだろうと不器用なまでに一途な想いを呪った。
そうして、いつかきっとこの想いが、忘却の彼方へ流れ着くように、祈った。







































(報われない恋をし葛藤する可哀想なドラコ、そんな彼が好き です。)
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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/8/5