| last scene ![]() last scene another day-03 : 君が残したこの痛み、恋と云う名の残酷で甘やかな痛み 僕が知った痛み、君に好きだと告げる前にきっと、この恋は散ってしまうだろう。何故かそんな予感がした。 普段以上にけたたましく泣き叫んでくれた自分の梟の鳴声に起こされた僕は、厳格な性格を書体で表した様な父・ルシウスの手で書かれた手紙を受け取ると、梟 フードを与えて窓から放してやった。 上質な羊皮紙に書かれた内容には察しが付く。一昨日父上に飛ばした手紙の返事が認められているのだ。 だとすれば急ぎでは無いだろう、朝食後にでも読もうか。 起きたばかりで脳が完全に覚醒していない今は、難解な単語が羅列された手紙を読む気には如何しても為れな かった。 小さく一つ欠伸をして、朝食の為にローブを羽織って部屋を出る。途端、ぶつかる様に投げられた薄紫の視線と柔らかい微笑みに、収縮したままの背筋が伸びた 心地がした。 「おはよう、ドラコ。」 談話室のソファーの脇。魔法で出されただろう一脚の空色の椅子。 腰掛け、机の上に一巻きの羊皮紙と数冊の教科書を山積みにし、忙しなく羽ペンを動かしていたが顔を上げた。 刹那、用事は済んだとばかり机の上に散ばるそれらを片付け始 める。 まるで僕を待つ時間潰しの為だけに勉強していた様な素振り、其れも膨大に書連ねられていた羊皮紙を見て、早朝から待っていてくれたのかと錯覚に陥った。 「おはよう、。如何したんだ、こんな朝早くに。」 なるべく平静を装って言葉を返す。 最近はの顔を見る度に心が高揚する自分が居る事に気が付いた。 何か特別な用事が無ければ人との関わりを持つ事を面倒に思っていた僕が嘘の様、僕に付き纏うグラッブやゴイルと同じ様に、自然との傍へ行く自分が居る 事に気 付かされる。 もで、そんな僕に付き合う事に億劫そうな表情一つ見せないから調子付いて、僕は全ての講義への行き来をと共にする。 勿論、意図にはあの忌まわ しいポッター一味とを引き剥がす目的もあるが、其れは自分自身に納得させる為の材料の一つにしかならない事も判っていた。 「あ、ドラコも朝ご飯未だでしょ?一緒に行こうと思って。」 息を止めたのは無意識だった。 は普段、僕よりも前にスリザリン談話室を出て、あのグリフィンドールのマグル女と共に食堂へ行く。 の行動を制する資格を僕は持っていない。だから朝食位ならば、と毎日苦渋を飲んできた。 が転校して来てからの二週間、其れは変わる事無く続けられる日 課の様に為っていたから僕は、と朝食に行かない事が当たり前だと思っていた。 だが、其れが急遽覆ると湧き上るは喜びよりも、不安。多分、グリフィンドールのマグル女が、のホグワーツで唯一だろう女友達。 失くすような事でも在ったのだろうか。薄紫の瞳が、涙で濡れるような 事が、在ったのだろうか。想像しただけで、急激に胸が締め上げられる。 「…………喧嘩、でもしたのか?」 「え?喧嘩?……誰、と?」 「…グリフィンドールのマグル女。何時も一緒に行って居ただろう、朝食。」 なんと告げれば良いのか正直判らなかった。 グリフィンドールのマグル女、有り触れた俗称で呼ぶことをが許す訳は無い。 何時も中傷的な代名詞で呼ぶ度、は僕に注意喚起するが、あの女を名で呼ぶことは躊躇われる。何より僕 はそう育てられてきた、今更変えられる訳も無い。 だからが不機嫌に為る事を承知で言えば、は一瞬時を留めた様に大きな瞳を二・三回瞬かせたが、次の瞬間にはふっと酷く穏やかに微笑んだ。 「心配してくれて有難う、ドラコ。 でも、ハーマイオニーには昨夜梟便で今日一緒には行けない事を伝えてあるから大丈夫。」 「そ、そうか…。じゃあ何故急に僕と?」 「昨日お礼、言ってなかったから。ブレスレット、有難う。 人から何かを貰ったことなんて無かったから、嬉しくて早速付けてみたの。どう、--------------似合う?」 僅か照れた様に淡い紅を頬に乗せたがローブから細い腕を覗かせた。 握り締めて力籠めれば簡単に折れてしまいそうな軟な印象を受ける手首に、昨日僕が無理矢理押し付けたプラチナのブレスレットが在る。射し込む金色の朝陽が 乱反射して、小さく揺れる硝子珠が銀の光りを放っていた。透明な硝子細工は風が吹く度に花弁の様に柔らかく揺れ、光の加減で銀が白亜に切り替わる。 まさに、 僕の中のの印象の侭、涼しさ持つ蒼い風が吹く丘に咲く一輪の白百合。 其れにみあうものを自分で選びきれずに、贈り主に選んで貰った品だ。 店中で「どうかな」と聞かれた時には、腕にブレスレットをしたを想像する事が出来なかったから、が実際に付けてくれるまで脳内で出来る限り想像し ていなかった絵図。 実際目の当りにしてみると如何したものか、恥ずかしさが身体中に直走った。似合っているか、と聞かれてなんと言えば良いものか。ブレスレット一つに似合う 似合わないもあったものだろうか、 「あ、あぁ、似合ってる。」 自然と口から滑り出した言葉に、が嬉しそうに微笑った。 と対峙している僕は、一瞬で言葉を失くした。朝日を浴びながらゆっくりと微笑んだがまるで、童話の中に出てくる皇女のようで。 眩しい位の眼差し、朝陽でけぶる視界の中、薄紫の瞳が僕を見詰めている。零れるような笑顔を僕だけに向けて。 其の眼を見るだけで、如何しようも無く胸が震えるのは何故だろうか。 他の何とも違う、激しい感情の高まりや高揚感、無性の喜びと無数の嫉妬を覚えるんだろう。 あぁ、そうか。 其れは予告も予兆も無い突然の出来事だった。 事有る度にポッターと話すを見て胸が締め上げられる様な感情、あのポッター如きが僕からを奪って良い筈が無いと嫉視を送って仕舞い、果てには激し い言い争いを繰広げてはを悲しませる。 あぁ、僕は唐突もなく、この人に如何しようもなく惹かれてしまっているのだと気付かされた。 何処が、一体何が、如何して好きに為ったのか。そんな野暮なこと、、 「じゃあ、行こうか、ドラコ。」 風にさらりと流れる絹糸の合間で、ふっとが笑った。優しくて穏やかな薄紫の瞳。 連れ立って大広間へ向かう最中も、絶えず太陽はの夜色の髪と薄紫の瞳に惜しみなく光りを与える。 荘厳な柱を脇に、が歩く度に髪がふわりと散って、菫のような色持つ二対の宝玉が隙間から零れ落ちる。 笑いながら、僕を見詰める。横から垣間見るは何て綺麗なんだろう。改めて思えば、世界中のどんな美しい宝石も、の笑顔の前には消し飛んでしまう様 な錯覚さえ覚えて。 眩暈感じるほど、君に、溺れる。 君の瞳に僕以外の男が映りこむ其の度、柔な胸は痛み傷付きさえするけれど、其れ以上に君の微笑みが僕の枯れた心に愛しさを与えてくれる。 君の笑顔が僕に向けられた時、君の心が僕に開かれた時、既に僕は君に恋をしていたんだ。 この時未だ僕は知らない。 愚かにも僕は、とこの先も変わる事無く共に在れるものだと思っていた。 が抱えている心の闇に気付くことも無く、がホグワーツに転校してきた本当の理由さえも判らぬ侭、全てが此の侭在れば良いと、安直に思っていたん だ。 ------------- 関わるな、そして忘れろ。 あの日僕は父からの警告に気付く事無く、内容にただ唯憤慨して、手紙を燃やし全てを無かった事にした。 後に、全てが残酷な終焉へと続く始まりに為るとも、知らずに。 [ home ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/5/26 |