last scene




last scene another day-02 : 気付いたんだ、君が誰を見ているか、だから僕は






時折思うことがある。いや、訂正した方が良いかな、最近は頻繁に思うことがある。
僕とは寮が違う上に一緒になる講義が魔法薬学と天文学位しか無いから、頻繁にって言っても機会も時間も限られるけれど。
でも、態々寮が違う僕やハーマイオニーのために、は魔法薬学と天文学はあのマルフォイから蔑視されている僕等の隣に座って束の間の時間を共有してくれ る。講義真っ最中だから堂々と話す事は出来ないけれど、スネイプが後ろを振り返った瞬間に羊皮紙の端に一言書き綴ってに渡して、其の返事をがくれ て。
筆談、って言うのかな、多分。それを思い付いたのは僕でも無ければでも無い、ましてロンでもない。あの勤勉少女が講義真っ最中にそんな事をするなんて 許す筈が無い?でもね、其れが違うんだ。「マグル風にこうすれば?」って得意げに笑いながらハーマイオニーが教えてくれた筆談術が、今の僕との秘密の 会話を繋ぐ最初の切欠だった。


勿論、には講義終了後に図書室で逢うこともあれば大聖堂で逢う事も有った事には有ったけど、絶対にあのマルフォイが隣に居てと僕らが会話をする其 の度に横槍を入れては口論になり、僕とハーマイオニーはロンに引き連れられる形でと別れなきゃ為らない。
の隣に片時も離れずにあのマルフォイが貼り付いている事は許し難い事実だし耐え難い真実でもある。けど、僕との寮が違う、と云う時点で諦めざるを 得ない。寮間を越えての時間調整は3年生になった僕等には如何足掻いても埋めきれない溝に為っているのだから。



そんな事を脳裏に侍らせ、流麗な文字を黒板に書連ねて行くスネイプを視界の端に留めながら、3分経つと魔法が作用して文字が消え去る特殊な羊皮紙 (僕らは"dissolution-parchment"って呼んでる。)に羽ペンで走り書く。
此れはホグズミードにあるゾンゴの店で見付けた悪戯用の羊皮紙だったんだけど、あのリドルの日記帳みたいに書いた文字が消えるって事実を発見してから、羊 皮紙に若干の魔法薬を染み込ませて独自に開発したんだ。
…勿論、魔法薬を作ったのも"dissolution-parchment"を完成させたのも、秀才少女ハーマイオニーなんだけどね。

最初は普通の羊皮紙に書いていたんだけど、スネイプならまだしも、マルフォイに見付かりでもしたら大変だろう?
其れこそ僕らの密かな楽しみを奪われちゃう。の事となるとマルフォイは見境無くなるからね。
だから考案したんだ、この秘密の羊皮紙。…勿論、発案者は僕だよ?



今日クィディッ チの練習があるんだ。良かったら、見に来ない?



視線は黒板に張り付く様に向け、手元すらも見ずに恰も黒板の文字を書き写している様な素振りでチラチラと羊皮紙と黒板を見比べながらへの手紙をしたた める。
書き上がれば文字が消えてしまわぬ内に、無言で隣のに教科書でも見せる様な雰囲気で机から机に滑らせる。
勿論ももう其れが何か判っているから、スネイプの眼に映らぬ隙に黒板を書き写している羊皮紙の下に滑り込ませると少しずつ羊皮紙を下へとずらし、教科 書と羊皮紙の間に手紙を出現させる形で内容を読む。



僕が書いた文字はが返事を書こうとする時間に申し合わせた様に消えてくれるから、はその上に僕への返信を書いてくれて、また羊皮紙が机から机へと 滑りながら移動する。
僕は其の間に書き残している黒板の内容を一気に羊皮紙に書き写しているんだけど、ハッキリ言って躍動する心臓を押え付け冷静になる時間稼ぎと手助けを借り ているだけに過ぎないんだ。




今もそう、夜色の長い髪を背に垂らして、宝石の様な濃い紫色に輝く瞳をひそませながら、眼前にマルフォイを据えているのに見向きもしないで僕に手紙の返事 を書いているんだ。
チラリと一瞬だけ隣に視線を向ければ、教科書と羊皮紙に仕切られた、文字の大きさが丁度入り込める位の僅かな隙間を見詰めながら羽ペンを進めている。心臓 が口から飛び出しそうな程早鐘を打っているなんて、は知る由も無いんだろう。


僕がの返事一つで一喜一憂することも、中々返事が戻ってこないともどかしい様な焦燥感に狩られることも。
逆に返事が来たら其れが例え"Yes"や"No"の短い返事だけだったとしても、其れでも如何しようも無い位の…


流れる様に渡された羊皮紙にふっと我に返り、今心の中で思った大きな独り言を掻き消す様に黒板に視線を投げ、何食わぬ顔をして羊皮紙を覗き込む。



ごめんね。今日 はスネイプ教授に温室に来るように、呼ばれているの。



書いてあった文字に、 思わず不機嫌そうに卓上で教鞭を振るいながら、「ゾウリムシの形をした薬草は爆薬を作り上げる」と熱弁していたスネイプを見上げた。
刹那、怪訝そうに眉根を寄せたスネイプの鋭利な一瞥を浴びたが、この程度の事で動揺すれば全てが台無しに為ってしまう。今恐ろしいのはスネイプの一瞥より も、との微かな秘密共有の時間だ。
言い聞かせる様に手元の羽ペンを動かしながら、の返事が消えるまで黒板の内容との書いた返事を見比べ続けた。羽ペンは意味の無い言葉の羅列を書き 綴るに終わり、僕の思考回路は目の前のスネイプによってぶっ飛ばされたばかりだ。今スネイプが質問している事に答えられる訳等無い。当てられたら素直に 謝って減点する覚悟は出来ている。



何でスネイプ? 監督生の仕事でも押し付けられたの!?僕が代わってあげるよ!



羽ペンで書くことも億劫だ、寧ろ今スネイプにそう公言してやっても良い。
其れ位の勢いで文字を書連ねるとの机に滑らせる。
スネイプめ、一体何の権力を以ってに監督生の仕事なんて押し付けるんだ!は未だホグワーツに来て二週間ちょっとしか経って無いんだ!幾らスネイプ がを気に入らないからといって、少し酷過ぎるんじゃないか!?

はちきれそうな不条理な怒りを秘めた侭、物凄く厭そうな侮蔑に近しい表情でスネイプを見詰めれば、視線に気付いたのかスネイプが此方を見た。丁度、


「では、紅と黒の色素だけを取り除いたウミネコのくちばしにカタクリの花を煎じたものを混ぜた薬草は何に利くかね。」


厭味な程に研ぎ澄ませた刃の様な視線を投げ付けながら、まるで値踏みでもするかのように眼を細めて真っ直ぐに僕を見るスネイプに、久々にぷちりと頭の中の 何かが切れる音を聞いた。
スネイプが意図する答えが何かさっぱり検討付かないけれど、抗議の意を籠めて一発怒声を吐く位の勇気はある。此れでもスネイプとは(嬉しくない事に)3年 の付き合いだ、睨まれた位で身は竦まない。

す、と肺に新鮮な空気を吸い込み、ニヤリと歪めた口角が僕の名を名指しするのを待ちながら一体何と吐き棄てようか、其ればかりを考えていた矢先、


「ミス 、答えなさい。」

怪訝な声に、清廉に響く声が答えた。

「はい、解熱に効くとされています。
ウミネコのくちばしが10分から遅くとも30分以内に水分を供給するように体内に吸収されるように染み渡り、カタクリの花を煎じた粉は体 内に溜まった不浄な熱を汗として拡散させる機能を助長し、相乗効果は通常の解熱剤の三倍になり、解熱作用の適応率は100%であると言われています。」

「其の通り、スリザリンに5点加える。…で、この薬草の正式名称は、」


まさか僕を厭味な程に見詰めておきながら隣のを指示した事にも驚いたが、すらりと答えを述べたにも正直吃驚した。ほんの三週間前に転校して来たば かりのが、ハーマイオニーも慌てて教科書を捲るような、難解な問題をさらりと言ってのけた。
更に加えて言えば、今までを指す事は一回も無かったス ネイプが、最近スネイプが"良く指名するリスト"の中に加えているような気さえ起きてくる。三回に一回はを名指ししては居ないだろうか?気になって統 計を取った事が無いから確信は無いけど、きっと値を取ったら其れ位はあるんだと思う。

此れは一体如何云う事か、一度スリザリン生と認めたからには骨の髄までしゃぶり尽くそうと言う魂胆か、其れとも単純な気紛れからか、其れとも-----------------



違うの。魔法薬 学研究室からオリエンタルリリーを拾ったって言ったじゃない?
あの花が咲いた、ってスネイプ教授に話したら、百合は光りを嫌うから薬草の温室で育てなさい、って。
だから植え替えに行こうと思ってるんだ。ごめんね、折角誘ってくれたのに。



スネイプが黒板に向き直った瞬間に回されて来た羊皮紙に眼を遣って、内容に、拍子抜けた。
最早羊皮紙を隠し読んでいる事などすっかり頭の中から抜け落ちている僕は、大きく振りかぶるように隣を見た。
はらりと空を舞う前髪がカーテンの様な役割を果たしの表情を遮っているが、そんなことは問題じゃない。
相変わらず忙しなく黒板の文字を羊皮紙に書き留めているだろうを視界に入れる為、唯其れだけの為に隣を見れば、更に僕は驚愕を表情に貼り付ける事と為 る。


答えを間違えネビルに向かって怒声を投げ続けるスネイプを一瞬見、の達筆な文字で魔法薬学の羊皮紙の上隅に書き留められた短い走り書きを見て、が 薄紫の瞳をゆっくりと和らげて 微笑んだ。



今日の講義終了 後、温室。



笑ったんじゃない、微笑んだんだ。普段僕らに見せる様な表情じゃない。勿論、今まで静かに微笑むや柔らかく微笑むは何度も見た事はあるし、今でも 脳裏に簡単に描く事が出来る。
でも、そう云う笑顔じゃないんだ。何て言うのかな、酷く嬉しそうで、けれど僅か途惑う様に伏せ眼がちでいて。
直視したいと云うに出来ない、けれど見詰めて居なければ忘れ物をした心残りの様な焦燥感が胸を貫き、けれど眼が合えば如何反応して良いか判らなくて不意に 視線を引き剥がしてしまう。
そうして羊皮紙の端の文字を見て、は微笑むんだ。酷く嬉しそうに、酷く幸せそうに、酷く優しい眼差しをスネイプに向ける。そう、まるで…


---------------------まるで僕がに向ける、眼差しのように。



「そうか、そう云う事だったんだ…!」

-----------------何が如何云う事か、我輩に説明願えるかね、ポッター。」


自身の中で燻っては火を灯す前に消えていた疑念が晴れ渡った瞬間、僕が心の中で唱えた筈の言葉を口にしていた事を、掛けられたスネイプの言葉で知った。
温かみは無く、硬質な鋭さが目立つ、研ぎ澄ませた怜悧な音程が真上から降ってきて慌てて「申し訳ありません、独り言です」と頭を垂れた。意外な事に減点さ れずに注意だけで済んだのは、僕の隣にが居るからだろうか。
そんな余計な事まで考えてしまう。


そうか、そう云う事だったんだ。
僕がに心を奪われ好きだと自覚しているのと同じように、もスネイプを想っているんだ。は自分で気付いていないのかもしれない、僕が嘗てロンに 言われて初めて気が付いた様に。独りでは気付けない事もある、だが僕はに気付かせてあげることは出来ない。残念ながら、僕は其処まで優しい男じゃな い。



気付いたんだ、 君が誰を見ているか、だから僕は祈るよ、君が幸せで居る事を。



普段の走書きではなくゆっくりと丁寧な字で書き記し最後にピリオドを打って、だが直ぐに羽ペンで二重線を引いて何も無かった様に羊皮紙に在り来りな返事を 書いて渡した。
駄目だ、想いが飽和したように、心の内からの言った色んな言葉と笑顔が零れ落ちてしまって、うまく受け止め切れない。頭では理解していても、心が理解 してなかった。


丁度申し合わせた様に、講義終了の鐘が鳴って我が物顔でマルフォイがの荷物を持とうと脇に立った。
出来るだけ視界に入れない様にしながらを見れば、マルフォイは疑うような澱んだ眼差しで僕等を睨み上げてきた。

「じゃあ、また夕食の時にね、。」
「うん、クィディッチの練習見に行けなくてごめんね。今度必ずハーマイオニーと行くから。」
「楽しみにしてるよ、じゃあね、」

今だけは、普段の様に優しくは笑える自信がないと思っていた。
孔雀緑の瞳の色を好きだと言った幼い声を思い出して、一層震えるが、其れは単なる自分の中だけの疑心暗鬼に似たものだと言う事に気が付いた。目聡いが 不可思議な表 情をしないのだ、きっと僕は何時も通りに優しく笑えているのだろう。そう思ったら、何だか気が楽になった。

僕はゆっくりと深呼吸をするように目を閉じる。瞼裏に鮮明に思い浮かぶの瞳を見詰め、柔らかく微笑み返し瞼開いた。先程までとは違う、静かに安らかな 心でに背を向け、扉に向かって歩き出す。


君が笑うだけで、僕は幸福に包まれる。いつだって、何処にいたって、呆気無い程容易く。

だから僕は祈ろう、君が幸せに包まれるように、君が幸せで居られるように。



































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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/5/21