願い事、一つだけ。






-------- 困ったな、如何しよう。






もうじき夜半を迎え更なる静寂にホグワーツが包まれようとしている矢先、グリフィンドール寮の談話室に小さな苦笑交じりの声が透った。
緩やかな鯉の昇りの様な情景を描きながら暖炉に火が燈っているのは、通年以上の氷点下に見舞われた其の所為であって、この様な時間に寮の談話室に火が灯っ て居るのは当たり前の日常と化していた。
暑くも無く寒くも無い丁度良い温度に温められた談話室にはソファーとテーブルが一つずつ、テーブルの上には飲み掛けのホットチョコレートのカップ二脚と蜂 蜜のたっぷり掛かったハニートースト、そしてソファーには二人の生徒の影があった。
最も、起きているのは顔に苦笑を浮かべたリーマスであって、隣の少女は彼に凭れかかる様にして其の長い睫に陰を落していた。






「 …でね、其の時ジェームズとシリウスが… 」






ジェームズはリリーと、シリウスは用事があるからと言って新年のカウントダウンに参加出来ず、元々帰省組みの多かったグリフィンドール寮の談話室は、大晦 日から新年に掛けてとリーマスの貸しきり状態になってしまった。
勿論、もリリーの同室で彼等と行動を共にしている間柄である故に、リーマスと二人きりになったところでさして問題は無い。
が、しかし…時間と共に夜が更けて行くにつれて連日のジェームズ達との馬鹿騒ぎに録に夜寝ていなかったに限界が来ていた様子で、会話の途中相槌が聞え なくなったリーマスが不思議に思った其の瞬間。
隣りに居たは小さく船を漕いでいる状態で、【部屋に戻ろうか】と声を掛けようとした刹那に左肩に小さな重みが加えられた。
視れば、普段の端正な顔に似合わない程可愛らしい表情の侭睫を落して、自然に傾いた小さな頭をリーマスの肩に乗せて浅い眠りについてしまったの姿。






「 昨日も今日も騒いだから…きっと疲れていたんだね。 」






声を掛けて揺り起こそうとするけれど、睡眠を貪る其の寝顔が余りに可愛らしく起こす事を躊躇ってしまう。
こんなにも無防備且つ無邪気に隣りで寝られると、逆に緊張してしまうのはきっと相手がだからであろうとそう思う。
例えば此れがリリーだったとしたら、迷わず揺り起こすか大急ぎでジェームズを呼ぶか…否、そんな場面をジェームズが見様モノなら速攻其の場であの微笑と共 に秒殺される事は先ず間違い無い確定の情景。
そして更に加えるなら、此れがリリーでもでも無い普通の女の子だったら先ず寮の談話室で二人きりの時間を作るとは考えられない。
独りだと知った時点で談話室等で時間を潰さずに独り部屋で過ごした方がよっぽど良い。興味の欠片も無い人間と向かえる新年なんて、リーマスにとっては其れ こそ一欠の価値も無いモノにしか為らず。
だから彼等が居なくなってと二人になると知った時、迷わずに共に新年を談話室で迎え様とリーマスの方から誘いを掛けた。途端に返って来た柔らかい 微笑みと嬉しそうな返事を聞いて、リーマスはツクヅク自分が幸せだと再認識させられる。
例え、好意を寄せた相手に気持ちを伝える事が一生叶わなくとも、こうして共に居れる時間があれば唯其れだけで十二分に幸せなのだと。






、君に伝えたい事がいっぱいあるんだ。 」






寝ているから、言えるのだと自覚していた。
もし此処に二人きりになったとして、が其の大きな薄水墨白淡の瞳を開けてしまって居たら、其れこそ別な話題でこの気持ちを誤魔化していたであろうか ら。
ジェームズとリリーの様な関係になりたいと思った事は其れこそ出逢った組み分け帽子の儀式から今日までずっと、其れでもこの想いを口にしなかったのは、唯 一緒に居られるだけでも幸せだと思えたから。
これ以上を臨んだらきっと罰が当たると何時かジェームズとシリウスに話して、酷く呆れられた記憶さえ有る。言いたくて言えない、そんなもどかしい感情を卒 業式の其の瞬間まで抱えて過ごしたところで何の苦にも感じる事は無い。
唯この生活この場から、が消えさえしなければそれで良いと。
口を吐いて出すことが出来ないこの感情、寝ている今なら言えるだろうかとそう思ったのが全ての始まり。






「 でも僕は…、何一つ君に伝える事が出来なかった。今年こそは言えるかな、 」






君に、好きだ、って。
そう言おうとしたら、小さく物音がした。
小さく微かに聞えた其れはテーブルの上に有るガラス瓶に生けられた観葉植物の葉が落ちた音。普段なら見過ごすような音さえ聞えてしまう程静まり返った室 内、互いの心の臓の鼓動さえ聞こえそうな気がする程静寂に包まれていた。
先の言葉と音でを起こしてしまっただろうかと隣りを視れば、未だ安らかな夢の中に居るのか相も変らず長い睫は伏せられた侭。
安堵に包まれ少し身体を動かせば、弾みで漆黒の髪がさらりと流れ落ちてきた。端正な顔を隠してしまった其の行為、失敗したと悔やんだ瞬間に大きな瞳がぱっ ちりと開いてしまう。
動かなければ良かった等と思うのは既に後の祭り、夢現の空間も、此処で終る。






「 やだ、ごめん、私寝ちゃってたみたい…ごめんねリーマス、重かったでしょう? 」


「 ううん、大丈夫だよ。 」






覚醒して直ぐ、リーマスの肩に頭を乗せている事実を知ったは慌てて其の小さな身体をリーマスから引き剥がした。此れでまた、人一人分とまでは行かない けれども僅かな空間がとリーマスの間に形成された。
この距離を残念に思うも、が眠りにつくまでの距離はこの位空いていた為に仕方の無い事だと自分に言い聞かせる。





「 直ぐに起こしてくれて良かったのに…あ、もう12時過ぎちゃったんだね…
 折角リーマスと迎える新年だったのに。 」






直ぐ向かいの柱時計は1時調度を告げようとしていた。が浅い眠りに着いてからもう一時間も経ったのだという事がリーマス自身も信じられず、其れ程長い 時間に感じられなかったと素直な感想を持った。
酷く残念そうな表情を浮かべるは、時計を二度見ては小さく溜息を零し。小さな子供の其れの様な行為はリーマスに何度目かの微笑みを齎してくれた。
確かに、同じ時刻にキチンと覚醒した状態で新年を迎えることは叶わなかった事であるけれど、リーマスにすれば誰にも邪魔されずにと二人で新年を迎える 結果と為った。







「 ねぇ、。一つお願いがあるんだけど…聞いてくれる? 」


「 新年早々お願い?願い事は神様にする… 」






屈託無く微笑うの瞳を見詰めて、言葉の続きを吐かせないとばかりに桜色の唇に柔らかく口付けを落した。
眼を閉じる事すら赦さない程の一瞬の口付け、リーマス本人でさえこんな行為をすると思わなかったのか、唇が離れた其の瞬間頬を張られる覚悟をした。
けれど次ぎに口を吐いて出た言葉は、詫びの言葉でもなければ懺悔の言葉でも無い、前から伝えたくても伝えられずに苦虫を踏み潰していた【好きなんだ】、其 の言葉だけ。
如何云う表情をして良いのか困るリーマスがもう一度の瞳を視れば、其処に在ったのは普段通りの表情のだった。







「 …普通は順番が逆じゃない?まぁいっか。 その代わり、私も一つリーマスにお願いしてもいい? 」






何?とリーマスが聞き返す前に、柔らかく微笑んだは唯一言だけ小さく言葉を吐いた。


------- 来年も、二人で新年を迎えよう?


新年の願い、其れが二人同じ事を願って居たのだと知ったのはこの瞬間が初めて。
勿論此れが、ジェームズを筆頭とした彼等には筒抜け状態だった事を二人は未だ知らない。






後書き

年明け一発目リーマスドリームは、リクエスト【学生リーマスの元旦ドリーム】というものでした。
リーマスに来たリクエストが一つだけしかなかった為に、書く気満々だったんですがこんな在り来たりなネタでごめんなさい(汗)
学生リーマスって如何も書き難いんですが、リクを頂くのは教授リーマスより学生リーマスのほうが多いと言う…(笑)


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