この涙 星になれ
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もう一度だけ、The Southern Crossが見たい。
クリスマスに何が欲しいかと聞いた時も、誕生日に何を臨む、と問うた時も恋人であるは一度としてモノと云うカテゴリで括られるモノを所望した事は一度 として無かった。
其れは其れで元来乏しいセンス云々を駆使せずに済むと云う悩みが消えるが、同時にモノで有る方が何倍も楽であると実感させられる羽目にも為った。
ホグワーツで魔法薬学教授という立場に立つ現在、其れこそ金銭面で苦労した覚えは無く、自分の為に金を使う事も余り無い為にこう云う特別行事には金を掛け る楽しみというものを堪能できるかと思いきや、そうでも無いのが現状。
慌しく過ぎたクリスマスも終わり、残すは年の瀬新年は如何迎えようとに問うた時、は小さく一回だけそう言った。
南十字星等ツアーで見に行く等と馬鹿げた事をする訳が毛頭無く、大方ローブを着込んで箒で行く羽目に為るのだろう、今年初めに行ったオーロラの二の舞の様 に。
南十字星。
話にだけは聞いた事の或る其れは、2つの1等星と2等星、3等星の4つの星で形成されたこじんまりとした十字形の星の並びで、全天88星座のうちで最も小 さな南十字座の中に有ると云う。
南の国では其れこそ憧れの星として称され、南半球まで行けば南緯33度以南に行けば南十字星は1晩中沈まず、1年を通して見る事が可能と云う。
一度だけ郷里で見たことの或ると話だけは聞いた事があり、如何も其れが幼い頃らしく憶えていない為にもう一度見たいと哀しそうにそう言った。
そして、もう一つ。この逸話を聞かなければ重い腰等起こそうとすらも思わなかった其の謂れ。
「 大方、其の下で愛を誓えば永遠だとかそんな在り来たりな謂れであろう? 」
「 違います、南十字星の耀く空に星が流れたら、何処かで誰かが幸せの涙を流した証なんです!! 」
つまりは、自分以外の誰かが幸せに為っているその瞬間が見たいが為に南十字星まで連れて行けと、客観的にそう言っている事が伺えた。
勿論の事、其れだけでは馬鹿馬鹿しいと卑下するだけの我輩も、如何云う訳かの屈託無い笑顔に絆されて気付けば二つ返事をしてしまっていた。
年の瀬、寒さも極寒を極める其の場所に行く為に、普段は年明けにも回す成績表に記す為のテストの採点も猛スピードで終らせてこの日の為唯其れだけの為に準 備をした。
風邪等引かせる訳にも行かない為、防寒魔法をに施して用心の為とばかりに更に厚手のコートを着せた。ホグワーツも充分寒く身体が慣れていると言えど、 行くべき場所は南半球高度数百メートルの上空。
寒さは想像を超えるモノになる事等、誰の眼にも見て取れる程。
「 …雪だるまみたいじゃないですか、私。 」
「 文句を言うならば連れて行かぬ。 」
無理やり着せた白いコートを着た自分を自分で見て、そう溜息を零したを嗜める様に言ってやれば、大人しく其の上にマフラーを巻いて小さな手を我輩の其 れに重ねてくる。
誰にも見付からぬ様ホグワーツの高台に上り、粉雪舞い散る中時空転移魔法を施して一気に南半球に。勿論の事、地上に居るマグルに見付かる訳には行かない 為、万全を期して透明化魔法も付け足して。
南半球に辿り着いた時には、天候が味方してくれたのか懸念された吹雪嵐の類は陰も形も無く、綺麗な弓を張った月と幾数多の星が零れ落ちそうな程漆黒の空に 鏤められていた。
けれども、この距離からでは余り南十字星が確認出来ない為に仕方なく更なる上空に舞い上がれば、流石上空気圧も手伝って気温は一気に氷点下数十度を極める までに低下する。箒を握る手も心成しか悴んで来た様な錯覚を帯び始めて。
何故二年連続名も知らぬ様な空の彼方で年を越さねば為らぬのだと思えど、こうして箒にを乗せて浮いている時点で何の弁解も出来なくなる。
「 …、此方に着なさい。 」
「 え?来るって如何やって…って、うわっ 」
南半球に到着して10分、更に舞い上がって10分、肉眼でも充分に南十字星を確認出来る位置まで来た時分気流の安定した場所に箒を留める。
今までは速度を上げる為に如何してもが後ろから引っ付く形でしか飛べなかったが、此処からは充分に低速で移動出来る為に腕を伸ばしての身体を抱き 上げると箒の前方に無理やり位置付ける。
そうして後ろから抱き込む様にしてやれば、は普段自室に居る時と同じ様に胸袂の裾を掴んで顔を埋めて来る。
後ろから抱き疲れるのもまた一つであれど、こうして後ろから抱き締め前から身体を埋められると何とも言えぬ気分にさせられる。
更に付け加えるならば、外観は音一つしない本物の星屑空間、邪魔する人間は何処にも存在しない。
降って湧いて出た様な事態、ホグワーツに居れば確実に有り得ない状況に、独り口角を歪める。こんな時状況でこそ、愉しまないで何時愉しめとばかりに。
「 、南十字星だ。見えるかね、此処から真っ直ぐ、南の方角だ 」
「 うわっ…凄い…、星が蹉跌みたいにくっ付いてますよ!! 」
「 …もっと可愛気の或る言葉を言えないのかね、お前は… 」
正十二時の方向
指差して遣れば、抱えた腕の中から聞えてきた可愛らしい声 に似つかわしい台詞に思わず頭を抱えそうになる。
確かにの明示した通り、其の箇所には南十字星を囲うようにして無数の星と言う星が取り囲む様に集まり、其れこそ磁石に囚われる蹉跌の様に散ばってい る。
言う事事態は可愛気に欠けるが、満天の星空に圧巻される様に大きく薄紫の瞳をいっぱいに見開いて嬉しさを露わにし表情を綻ばせる其の様は酷く可愛らしい。
思えば、オーロラを見た際も同じ様に表情を零せど、それ以上に嬉しそうであると思うのは眼の錯覚だろうか。いずれにしても、この微笑みを見る事が叶うなら ば、目的地が宇宙で有っても変わらず行くのであろうと自嘲染みた微笑を零し。
如何して此処まで甘くなったのであろうかと思えど、幾度と無くしてきた解答の出ぬ自問自答を何度繰り返せば認めるのだろうかと、其ればかりが浮かんではま た消えて逝く。
「 流れ星…見えますかね、教授。 」
「 さぁな。そんな物は地球の軌道に運悪く乗ってしまった惑星にでも聞いて見給え。 」
「 …浪漫の欠片も無い返答有難う御座います。 」
「 先刻のお前の発言よりはマシだと思うのは我輩だけかね。 」
鼬遊戯の様な言葉の押し問答も数回数を重ねただけであっさりと終焉を迎えてしまう。そして、其れ以来無言静寂を護りきった侭、眼下に広がる巨大スクリーン の星群に言葉を奪われる。
息を忘れた様に南十字星に見入れど、其の傍で星が流れる様は視られない。何かの文献で、星は一秒間に幾数多流れていると聞いたことが有るが、其れは所詮肉 眼で捉えられていない程の小さな存在。
けれど、折角此処まで来たのであるから、の為にも一回でも流れないかと大パノラマを凝視すれど流れる気配は無く年が明けるまでのカウントダウンが数秒 で行われる。
世界の何処かではもう年が明けただろうか。時計を見れば、後数秒で元日を迎えようとしていた。
「 Best wishes for A Happy New Year...to lover. 」
正確では無いにしろ、今この場では12時調度を迎え、また新しい一年が始まった事を告げていた。
在り来たりな台詞を延べ、返答を返そうとしたを其の侭強く抱き寄せて、冷え切った桜色の唇に口付けを落した。
口唇から声が毀れるのを防ぐ為に、噛み付くような口付けは抗う術を熟知しないに対して大人の力を誇示さんとばかりに角度を変えてもう一度深く。何度で も。上がる息すら奪いたい程の想いに駆られながら。
温もりを奪う様、最愛の者と共に年を明かす事の出来る喜びを改めて噛み締めながら、僅かに人の形残る心の感情が伝わらぬかと更に強く抱き締めて。
満天の星空の下、愛を誓える言葉等何一つとしてなくて、口を吐いて出てしまえば薄汚い嘘に塗れてしまいそうで何一つとしてまともに吐き出す事が出来ない。
空から一つ、また一つと零れ落ちて来る様にゆっくりと弧を描きながら世界の何処にも降っていない一番新しい白淡雪が落ちてきた。
空から落ちてきたばかりの其れは本当に息を呑む程の純白で、此れが地面に落ちるまでの間様々な障害物や空気塵に汚染されて徐々に白味を欠いて行くのだと思 えば、自分も其れに似た仕打ちをにして居るのだと実感させられる。
穢れを知らぬ無垢な少女と堕奈落の根底を視た我輩、交わっては為らぬのだと、黒は白を穢す為でしか存在出来ないと知れば知るほど救いを求める様に手離せな くなっていた。
愛しくて仕方が無い、そんな嘲る様な感情、己に芽生える等と誰があの時思おうか。
「 スネイプ教授、星、星流れましたよ、今、ほら…! 」
「 …良くもまぁ、タイミング良… 」
魔法でも使った様に年が明けた瞬間に零れ落ちそうな空から雪と一緒に星が毀れる様を見れば、其れは自然現象ではなく魔法ではないのかとさえ疑う始末。
けれども我輩の杖は懐に仕舞った侭、が杖等持参する筈は無く、野暮な事を彼是詮索する其の間にも幾数多の星が全て堕ちてしまう様な錯覚を憶える程の量 の星が流れる軌跡を描いては消えて逝った。
の話したあの逸話、其れが真実だとすれば此れ程多くの人間が幸せの涙をこの瞬間に流したとそう云うのだろうか。
其れならばせめて、幸せと云う感情に左右されて涙を零す等と云う失態を侵さぬ内にこの我輩の涙も星屑になって流れてはくれぬかと、絶え間無く流れては消え る星にそう思って。
「 スネイプ教授、私が泣いた時も星、流れるでしょうか? 」
「 お前が幸せの涙を流せば、南十字星の耀く傍で流れ落ちるのであろう? 」
「 だったらもう、流れたかもしれません…私、凄く幸せだから。 」
微笑んだの薄紫の瞳から透明な雫がゆっくりと頬を伝った気がした。
一途な迄の頑なな愛情と云う名の感情、与えられれば与えられる程其れに見合ったモノをに返せているのであろうかと時折思うことさえ有って。
其れ故に、の口から毀れた【幸せ】の単語一つ、其れが社交辞令の類で括られるモノで有ったとしても其れでも変わらず臨んでしまうのだろうと。
ささやかな幸せ、其れを臨むのは神と呼ばれる存在に祈る為でなく、其の存在から与えられるのではなくお前が居れからばこそだとそう伝えて遣れぬもどかし さ。
形に為らない幸せが在るのだとすれば、其れはから貰える其れだとそう信じて止まない。
「 我輩も…幸せだ。 」
小さく吐息に乗せたこの声はお前に届いただろうか。其れとも凍て付く冬空の空気に溶けて雪と共に消え逝ってしまったであろうか。
心成し視界に留めた先に一つの星が流れ落ちて、胸に抱いた侭のが小さく何か呟いたのは気の所為だろうか。
其れなら其れで構う事は無い。
今年もまた、、お前と二人同じ時間を生きれる事に変わり無、くささやかな幸せを共に過ごせるのだから。
後書き
年明け一発目スネイプドリームは、リクエスト【激甘教授ドリーム】というものでした。
げ、激甘…かは判りませんが、個人的に甘め目指して突っ走ってみました(笑)
去年の正月企画でやった夢の続きにも為っていませんが設定引き摺っています。
南十字星は稀城が愛して止まないから、逸話は勝手に作ったものです、悪しからず(苦笑)
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