Grateful Days
其の日、マルフォイ家では言葉にすれば其れこそ灰を上から引っ被った様な何とも言葉の表 現に困る様な雰囲気に包まれていた。新年早々初日の出を見ようと意気込んでみれど、天候の移り変わりの激しい此処では初日の出を拝む前に雲と霧が掛かった 空に雪が混じって、終に日の出を見る事が敵わなかった。
勿論、魔法で其れ等を消去して日の出を拝むと言う方法も考えられたのだが、は其れを断固として認めようとはしなかった。
の機嫌も低下気味な一方、マルフォイ家当主ルシウスもまた機嫌は頗る悪いと言えた。
クリスマス休暇の一件以来、マルフォイ家の家臣含めた従業員は皆で新年をマルフォイ家で迎えると決め込んだ為、二人きりでの新年の甘い雰囲気を堪能できな いルシウスの機嫌は日と時間を追う毎に悪くなる一方だった。
其れに付け加える様に、新年明けた今日一日、最高潮に機嫌が悪くなる出来事が起こる。其れも、自ら提案した事だけに、流石のルシウスも黙認するしか無 い腹立たしさが手伝って、周囲の人間にも八つ当たりの殺気が飛交う程。
「 良いか、の身体に掠り傷一つでも付けてみろ、即刻貴様を解雇だ!! 」
本日、何度目を数えるか知れないルシウスの怒りに満ちた声が広い屋敷に木霊する。
ルシウスの怒鳴り声等慣れきっている従業員であれど、其の怒りとは真逆の護るべき対象にルシウスの愛妻が絡んでいると有っては迂闊に言葉を吐き出すこ とが出来ない。
言葉を紡げば其れこそ正論であっても、ルシウスの機嫌を損ねる事は勿論の事、解雇だけなら未だしも其れ以外の難癖云々が付加され戻ってくる。
其れがの事となると、態々少ない言葉を選んで発言する位ならば気掛かりでも口に魔法を施した土人形の様にだんまり決め込んだ方が未だ救われると知って いるだけに、従業員は誰一人として言葉を発する者は居なかった。
故に、マルフォイ家では当主ルシウスの怒声だけが延々BGMとなって流れ続けているのである。
「 莫迦者、にそんな事をさせるのか、貴様! 今日と言う今日は… 」
事の始まりは初日の出を迎えられなかったと云う処にまで遡る。
がマルフォイ家に嫁いで以来、郷里である日本に帰るという事は滅多に無く、今年の正月も日本に帰る事が出来なかった。
其れは勿論、ルシウスが我侭を言った所為でも無ければ、帰れない理由が有ったからでもなく、年明け早々魔法省での仕事があるルシウスを想って、が帰ら ないともう大分前に決めていた事だった。
けれど、一介の人の妻とは言え、流石に未だ幼いにとって郷里は酷く懐かしい物で思い出せば思い出しただけ帰りたいと言う衝動に駆られる。
ルシウスも其れを傍で痛い程感じていた為に、を郷里に帰してやろうとも思うけれえど、其れでも一人で帰国させる訳には行かない。
はマグル出身な上、家に暖炉が無い時点で航空経由で帰国しなければならない。そんな事を、ルシウスが許せる筈等毛頭無く、如何したものかと困り果てて いた矢先。
がポツリとルシウスに【日本式の正月を迎えたい】とそう零した。
詰る所、先に述べた初日の出も其の数ある内の一つだったのだか、呆気無く天候を理由に断念せざるを得なくなり、悲しむに投げた言葉が引き金となって今 に至る。
基より食に大して煩くないは、出された物は素直に全て食べると言う癖が身に付いていれど、やはりマルフォイ家で出される食事は全て上流階級の其れ。
日本で言うところの普通の夕食が出された験しは一度も無く、其れが逆にに郷里を思い出させる切っ掛けともなってしまい、今日は今日で元旦とも有って昔 に良く食べていた【正月郷土料理】を思い出させてしまった。
勿論、が料理する等と言う事をルシウスが許す筈は無く、料理長含めた調理場担当の人間総出で取り組めど、マルフォイ家の人間はを除けば全て純血一 族。
マグルの郷土料理を知っている人間等、誰一人として存在しては居なかった。結果として、ルシウスが最も恐れて居る事態の一つである、厨房にが入って料 理を手伝う事態に相成ってしまった。
「 …もう我慢為らぬ、其処をどけ、私がを…っ 」
「 …ルシウスいい加減にして、煩い…!! グル、悪いけどこの人連れて二階でこの前話してたアレ、
お願い出来る? 」
「 畏まりました、直ぐに。 」
「 アレとは何だ、否、其れ以前に私の知らない処で何時その様な話が…って、待て未だ話は終って… 」
厨房に乗り込む勢いのルシウスに、ついに厨房内からの冷たい言葉と視線が投げられ、刹那に扉がピシャンと閉められる。
天津さえガチャリと錠の落ちる音まで聞こえてきて、完全に立ち入る事を拒絶され、今にも怒りと心配から扉を蹴破らんばかりの勢いのルシウスを必死にグルが 止める。
の言葉と同時にグルが目配せをし、家臣や従者達も一斉に大広間から姿を消し、皆自分の部屋へと酷く嬉しそうな表情で帰っていった。
呆気に取られるのはルシウスのほうで、自分の知らない間に一体何が行われまたこれから行われるのかとグルの首を引っ掴んで問い質そうとすれど、一方のグル は取り敢えず部屋に着いたらお話します、とだけ言って無理やりルシウスを大広間から引き剥がして二階へ連れて行く。
勿論、一段一段踏み締めながら登る階段、ルシウスは酷く不機嫌さを露わにし、グルはグルで主の怒りととの約束どちらを優先するかで酷く心を痛めてい た。
「 …此れは何だ、グル。 」
「 奥様の郷里では、此れをお召しになって奥様が今作られている料理を召し上がるのだそうです。 」
微笑んだ侭のグルに対し、当のルシウスは部屋を開いて出くわした多くの箱に深い溜息を落した。
其処は普段ルシウスが社交界や舞踏会に出席しなければ為らない場合に着るタキシード等が置いてある衣裳部屋であり、確か最後に足を踏み入れたクリスマスの 際には確実に無かった箱が幾つか床に並べてある。
其れも唯の包装紙を巻いただけの箱ではなく、学生時代に習ったマグル学に出てきた桐で出来た上等の木箱。
室内に足を踏み入れた瞬間に、嗅ぎ慣れない桐の透る薫りが辺りに蔓延して、異国に降り立った感覚が脳天を突き抜けた。
グルの言葉に、思考回路を整理すれば、きっとこの桐の箱の中身を着せられるのだろうと、壮絶な溜息を吐きたく為れど、桐の箱に掛かる絞帯を外して行くグル の表情が酷く嬉しそうでルシウスは自然に眉間に皺を刻む。
「 …グル、二三質問する。必ず答えろ、知らぬ存ぜぬは聞かぬ。
一週間前、と買い物に行った時の買い物の内容とはまさか此れではあるまいな?
そして、一昨日届いた膨大な荷物の中身とは、従業員全員分の【桐の箱】ではあるまい?
…最後に、貴様は全て知ってて一週間以上主人である私を欺いていたな、グル。 」
「 ……… 」
言葉の一つ一つが刃となって身体に突き刺さりそうな重圧を背負って、桐の箱から手を退けルシウスを仰ぎ見たグルは、其の余りの穏かな表情振りに言葉を呑ん だ。
そんな表情をされる位なら怒声を伴った拳の方が未だ救われると云わんばかりに、グルの表情から血の気が失せて行く。
それでも主に聞かれた質問には絶対的に答えなければ為らない立場に居るグル、結果論としても二階に行けば全てを話すと公言しているだけに、どれだけの精神 疲労が身に降りかかろうとも職務を全うする義務がある。
滴る冷たい汗を身体に感じながら、意を決した様に主を見据えて数日前の出来事から追う様に話し始めた。
「 …一週間前、奥様に付き添って行った場所は老舗の呉服店で御座いました。
其処で奥様は、旦那様の紋付袴と私達使用人への着物も用意して下さって…ですが、似合う似合わないがやはり
有りますので、私達には淡濃二色用意して下さって…日本の正月、昔良く着物を着て迎えた、と。
一度だけでいいから、旦那様や私達と伝統的な日本の正月を迎えたいと奥様のご希望で… 」
「 其れで従業員一同、あんなにも嬉しそうに部屋に帰っていった、とそう言いたいのか? 」
「 か、返す言葉も御座いません… 」
刺さる氷徹を帯びた言葉の一つ一つに顔を上げることさえ困難なグルは、其れでも最後の一締めである、朱色の絞帯を引き抜いた。
そうして其れから軽い桐の箱を開けば、昔マグル学で習った黒い紋付袴とは少し掛け離れた色合いの布切れがルシウスの瞳に止まる。
着物の布の事は良く知らぬが、其れでも上質そうな雰囲気が伝わるのは如何してだろうかと怪訝に思うも、元来持ち合わせたのセンス力量が現れているのだ と思えば、着てやら無くも無いと柄にも無い事を思う。
しかし、実際の処、一枚の布にしか見えない此れは一体如何やって着るのだろうかと思案すれど、笑顔で消えて行った従業員達を思えば、己が仕事で家を留守に している間にでもが皆に教授したのだろうという事は容易に想像できた。
つまり、余りに口出しをして煩いルシウスを追い払う目的兼グルがルシウスに着物を着せる目的の為に立ち退きを余儀無くされたとそう自然と理解する。
「 …の着物は如何した? 」
「 奥様の着物は、郷里に居る母君が今朝方梟便で送って下さいまして、其れをお召しになるそうです。 」
「 …のセンスは母君譲りか。 」
そうなると、着物を着たも見て見たいと欲求が生まれるのは当たり前の事で、の着物姿を見れるのであればとルシウスは無言の侭着衣のガウン帯を解 く。
バサリと音を立てて落ちる其れを慌てて拾おうとするグルを制して、視線を桐の箱に、目配せで着せろとそう伝える。
まさかルシウスが本気で着るとは思って居なかったのか、酷く嬉しそうに表情を緩めたグルが、に教えられた様に羽三重紋付、色羽三重胴裏等を丁寧に箱か ら取り出しては並べて行く。
日本で正式正装の場合に、男性は良く紋付袴を着ると言うのは良く知られており、外国に例えるならばタキシードであろうか。タキシードなら着慣れている故に 兎も角としても、東洋人に向けて作られた紋付袴が自分に似合うのだろうかと怪訝そうな眼差しで其れを見る。
真逆に、グルはルシウスのそんな疑問に一切気付く事無く慣れた手つきで上襦袢をルシウスに着せながら一週間前の出来事をルシウスに話し始めた。
「 奥様、旦那様の物を選ばれる時何時間も店の方と相談されて悩まれておりました。
折角旦那様にお召し頂くのだから、と… 」
グルに促がされる侭着付けをし、自然に耳から入ってくる其の言葉に、脳裏に四苦八苦するの其の情景が浮かぶ。きっと此れだと決めるまでに其れこそ本当 に悩んだのだろう。昔から優柔不断な部分が有るは、今でもその癖が直っていないらしい。
そんな思いをしてまでも此れを着せたかったのかと思えば、誰に頼まれずとも着てやるとそう思ってしまうのは惚れた弱みだろうか。
苦い笑いを噛み殺しながら、支度が終ったのか従業員達の声と足音が忙しなく階下から響いてくる。大方、も自分の着物に袖を通している頃合だろう。
何が正装で、どの色合いが最も高貴か等はこの際小さな問題にしか過ぎず、着終わった己の姿を鏡に映してみれば想像以上に合っていると素直にそう思う。
銀糸に黒の紋付が酷く似合い、薄い灰色の袴はルシウスの薄蒼の瞳と溶け合う様な錯覚を憶えさせられる。小さく刻まれる様に入った紺が其れを助長しているの だと気付けば、やはりはセンスが良いと改めて実感して。
そんなルシウスの支度を整え自らも紋付袴に袖を通したグルとルシウスが揃って階下に降り立った時、迎え出でたのは皆同じ着物に身を包んだ従業員と、淡紅に 華を鏤めた色彩淡くも清楚で千美な着物に身を包んだの姿。
「 Best wishes for a happy new year!! 」
可愛らしい微笑みを浮かべたが、薄く紅を引いた唇からそう零した。
話にしか聞いた事の無い【和服正装に身を包んだ東洋の女性】のイメージとは少し異なるが、其れでも普段は見れぬの変貌に息を呑んだルシウス。
普段よりも大人びて見えるのは和服の所為だろうか、其れとも本来の服装をすればそれなりに見えるのかは判らねど、着物特有の艶やかで色っぽい雰囲気に包ま れている事だけは確か。
今まで一度もこの姿を見れなかった事を悔やまれ、更に付け加えるならばこの場に居る己以外の男に態々見せる必要が何処に有るのかと妙な怒りさえ込み上げる 始末。
直ぐにでも脇から掻き抱いて二人きりの時間を満喫したいとそう願うけれど、此処で其れを行使すれば間違いなく新年早々の怒りを買う事は眼に見えてい る。
階段を心成しか早めに降り、の前まで来ると其の侭白い頬に口付けを一つ落して無理やり腕に抱き上げた。
帯が崩れると言って利かないを綺麗に無視したルシウスは、其の侭従業員を連れ立って大広間へ。其処に広がるのは見た事も無い異国東洋日本の新年郷土料 理の数々。
全てが教えながら料理長が作ったのだと思えば、味の保障は絶対的に出来ているも、よくも此れだけの数の料理を覚えている物だと感心すらする。
「 、お前の国では新年の挨拶は何と言う? 」
「 【明けましておめでとう御座います】だよ。 」
「 AKE…MASHITE…OME…? 」
如何も巧く発音出来ずに舌を噛みそうになれば、酷く可笑しそうにが笑う。其の微笑に攣られる様にルシウスも笑い、従業員も楽しそうに表情を歪めた。
クリスマスの時同様、マルフォイ家の従業員が自ら楽しそうに行事に加わる事は珍しい。
勿論の事、其れ等は全てが此処に居るからだと云う事は全ての人間が熟知している事だが、本人には其の自覚が無いのか年相応無邪気な侭。
出来たばかりの料理に摘み食いの手を出しては咎められ、早くべたいとばかりにルシウスの袖を引く。急かされる様な瞳に促がされる様に皆に杯を持てと一瞥を くれてやれば、皆席に付いて眼前の杯を手にする。
未成年な為にだけはオレンジジュースを注いでやって、他の者は皆杯に日本酒とこれまた伝統的な日本の嗜みを。
勿論の事、乾杯の一杯だけであり脇にはシャンパンやらワインやらが後を控えているのだが、折角此処までしたのだからと乾杯だけは料理長の配慮でこの様に。
升を片手に大きく上に掲げて、言い慣れぬ東洋の言葉を紡ぐかと思えば、に駄目だしされたのかルシウスが言った音頭は馴染みの其れで。
「 Happy new year and Hope this year will be bright and full of happiness. 」
クリスマスでは克ち鳴らされる音はグラス同士の其れで有ったけれど、新年は升の淵の樹が鳴らす何とも言えない静かな音。
初めの一杯が酌み交わされた其の後、自らお酒を注ぎ行こうとするに口づけを落とし、離したくない素振りを見せれど其れでもは腕の中をすり抜けて 行ってしまう。
一通り回れば飽きて帰ってくるだろうと、椅子に腰を落して酒を注ぎに来たグルに升を差し出して。
昨年の挨拶詫びも含めて新年の抱負とも言うべき旨を主に延々と告げながら、最後にグルは冗談のつもりだろうか、小さく言葉を発する。最も、其れは禁句だと 知りながら、新年早々目出度いのだから許してくれるのだろうかと鷹を括っての筈が綺麗に空振りをする羽目に成る。
「 奥様は英語も日本語もお出来に為ります故…やはり、奥様が一枚上手でいらっしゃいますね。 」
「 …グル、貴様はそんなにも解雇されたいのか。
年明け一発目記念すべき最初の解雇は貴様にしてやろうか。 」
其の後、必死に詫びるグルの姿と無視を決め込むルシウス、酒を注ぎに行って中々帰らぬと楽しげな従業員達の宴は翌朝まで続く事に為る。
マルフォイ家の一年は、こうしてまた新しく賑やかに始りを告げた。
後書き
年明け一発目ルシウスドリームは、リクエスト【ルシウスに伝統的日本の正月を!】というものでした。
いかがでしょう、稀城が思う日本の伝統的正月はこんな感じなのですが笑)
ルシウスに紋付袴は似合うのかとか、着物を着てお姫様抱っこはキツイだろう!とかの突っ込みはぜひともご勘弁を(笑)
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