Identity






「 ルーピン先生、どうして私なんですか? 」






淹れ立ての紅茶の香りを楽しみながら、焼き立てのクッキーに指を伸ばした矢先、 が問い尋ねるように首を傾げた。
見れば、普段ならば直ぐにでも手を付けそうな最高の出来のクッキーには目もくれずに、リーマスだけを見詰める。
日曜の午後。
クィディッチの試合で盛り上げるホグワーツを抜け出したように静寂な雰囲気が立ち込めるリーマスの自室。
クィディッチの試合が行われていようと関係ないかのように、今日も何時もと変わらず とリーマスは其処に居た。






「 …それはどう言う意味かな? 」






ふわりと微笑んだリーマスは、質問の意図が掴みきれなかったのか、目の前の に向かってそう聞きなおす。
クッキーに伸ばした指先も終い、飲み掛けの紅茶もソーサーに戻すと、長い脚を組み直してその膝上に腕を置く。
それだけで一枚の絵画になりそうなリーマスから、 は静かに視線を逸らした。
見れば、普段よりも少しだけ頬が上気している事が伺えて。
付き合ってもう半年以上も経つというのに、この純情さには感服させられる。
実際問題、 は恋も付き合いも恋人という存在も、リーマスが初めてであった。






「 だって…、私よりも素敵な人や頭のいい人…特技がある人なんていっぱい居るし…
 私は何の取り得もないから、だから…どうしてかな、って 」


「 …成る程ね。
  、此処へおいで 」






の話を黙って聞いていたリーマスは、 の話の意図を掴むとやはり微笑んだ。
少しばかり考え込むような を促すように瞳で目配せをしたリーマスは、ようやく重い腰を上げた を膝の上に抱いた。
普段の事なのに、何時もの様に身体を強張らせる に苦笑しながらも、ーマスはその細い腰に腕を回す。
背の低い に、背の高いリーマス。
膝の上に抱いていても抱え込める程の身長差が有る故、抱え込むことは思いの他簡単な事で。
抱き抱えた矢先、リーマスは の柔らかい髪にそっと口付けた。






「 何故、 かなんて…考えた事は無いよ 」


「 …じゃあ、私の何処が他の人と違うの? 」


「 何か、特別な違いが欲しいのかい? 」






そう問えば、 は申し訳無さそうに小さく笑って頷いた。
13・4の子供が考えそうなことだ、とリーマスは心の中で苦笑した。
実際問題、自分も と同じ様な年齢の頃ならば、考えたかもしれないそんな小さな問題。
それを が抱え込んで自分に話すまでにどれだけの時間が掛かったのだろうかと、リーマスは考える。
控えめと言うわけではないけれど、決して積極的ともいえぬ は、何かしらの条件が重なってそんな小さなことを考えるようになったのだろう。
自分にそのことを話すまでには大方、友人にでも相談していたのだろうと揶揄する。






「 … はどの華が一番好きかい? 」


「 私は向日葵が一番好き 」






唐突な質問に驚いたように瞳を見開いた ではあったけれど、リーマスのその柔らかな瞳に己の瞳も和らげる。
思い返すような間は無く、話の掛け合いの様に は「向日葵」とそう答えた。
一瞬の迷いも無く、また他の華の名前を紡ぐことも無く、 はそう言うと、リーマスの答えを求める様に促した。
するとリーマスは、小さな の頭をそっと撫でると、机の上にガラス鉢に入った華を見詰めてこう言った。






「 わたしは、真っ白いガーベラが好きなんだ。 」


「 ガーベラ…私はガーベラならピンクが好き 」


「 ほらね、そういう事なんだ 」






にっこり微笑ってリーマスは の髪を撫でていた手をぽんぽんと軽く叩いた。
きょとんとする に、リーマスは言う。






「 沢山ある華の中で、どの華が一番好きかなんて、人それぞれなんだ。
 誰もが皆、同じ華を好きだと感じたり、美しいと感じるとは限らない。
 …つまり、
 何故 なのか、では無くて でなければ私は駄目だ、という事だね 」






リーマスはそのまま優しく に口付けた。
触れ合う程度のほんの一瞬の口付けだったけれど、それさえも今の にとっては頬を赤らめる重大要素に成り果てて。
桜色の柔らかい唇を惜しそうに離したリーマスは、 の瞳を見据えた。
頬を紅に染めたままの も、嬉しそうにふわりと柔らかくリーマスに微笑んだ。






カラン、と溶ける氷の小さな音を立てて、真っ白いガーベラが揺れた。
二人の唇がもう一度重なったのを知るのは、この華だけ。








■ あとがき ■



…久しぶりに書いたリーマス夢。
真っ白リーマスなんて久しぶり(笑)!個人的には真っ黒リーマス大推奨なんですが、たまには白いのもvv
皆さんはどの華が一番好きですか?
リーマスが言うように、人の好き嫌いなんて所詮は自己満足の果てでしかないものだと稀城は思います。
好きとか、嫌いとか、それは自分の感情を言葉に表した言葉に過ぎません。
自分が好きだからといって、相手も好きだとは限らない。
それが感情であれば有るほど、難しくなるのだと思います。
けれどそれが、難しいからこそ、実ったときや想いが通じたときは嬉しくなるのだとも思います。

因みに、稀城はカスミソウが一番好きです。






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