決して開いては為らないパンドラの箱。
パンドラの箱の由来ともなった人物、パンドラは、ギリシャ神話において、プロメテウスが火を盗み人間に与えた為ゼウスが技術の神ヘパイストに命じ造らせた最初の女。
実際、パンドラが開けたとされるのは壷であるが、現世には「パンドラの箱」として伝わっていることが多い。
開いた壷から溢れ出た「病、老い、悪夢、飢饉」の類い。
事の重大さに気付いたパンドラが、慌てて壷の蓋を閉めた後、壷の中には「希望」だけが残ったという。













では、彼、セブルス・スネイプがパンドラの箱を開けてしまったのならば…
其処に残るのは希望か否か。








Paradox








「 …で、ミス
 反省文を書いて提出しろ、と我輩は言った筈だか…これは何かね。 」






「 見て、判りませんか?
 愛しいスネイプ先生へのプレゼントです。 」













笑顔で我輩を見つめる少女、
グリフィンドール寮3年、頭脳明晰、成績優秀、品行方正、容姿端麗と此処まで綺麗に四字熟語が似合うのはホグワーツを探しても彼女くらいであろう。
学年主席を誇る彼女は、ホグワーツ機っての期待の星とされ、クィディッチでも余すところなくその才能を発揮している。
寮を問わずに友人が多く、目にかける男も少なくは無い。
誰が見ても羨むその少女が最近妙に熱を入れている遊び。
それが、魔法薬学教授であるこの我輩を陥れる事に他ならない。
一目逢った三年前。
水を得た魚の様にキラキラとした瞳で我輩に愛を告げてきた一風変わった少女は、事有る毎に我輩の邪魔をする。
最近仕出かす様になった悪戯の数々も、強ち、間違っていないと言える。
しかし最近は、態と我輩に見つかるように悪戯を仕掛けているような気がして為らない。













「 …反省文はどうした… 」







「 勿論、この中にありますv 」













我輩は羊皮紙の束3ロールを渡した筈だ…と記憶を辿りながら、が差し出した物を一瞥する。
それは、細い銀のワイヤーで作られたハート型の籠であり、中には淡い包装紙で包まれた本の様な物が入っていた。
どうみても羊皮紙に見えないその包装紙を開こうと手を伸ばすと、がそれを制止する。
怪訝そうな瞳で見返してやれば、は誇らしげにその籠から一冊の本を取り出して見せた。
それは、カバーの掛かっていないまっ白なハードブック。













「 普通に羊皮紙に書くのではつまらないと思いまして。
 スネイプ先生に今から疑似体験をして頂こうかと思います 」








「 …疑似体験?
 そんなものに付き合っている暇は無い、さっさと反省文を寄越せ 」







「 慌てないで下さいよ、先生。
 私がどれだけ反省してるか、身を持って経験してくださいね 」






「 だからそんな暇は無いと…っ 」













ニコリと微笑んだは、意味有り気な表情を浮かべたまま我輩の瞳を見据えた。
妖艶さを醸し出したかのようなその瞳に見据えられ、我輩は言葉に詰まる。
微笑んだままのは、静かに本を開くと、中から数cm程度の小さな物体を取り出す。
何事かと凝視した瞬間、人差し指に置いたその物体を親指で弾いて此方へ飛ばした。
それが綺麗に我輩の咥内に納まり、喉奥へと滑り込む。













、何をした… 」






「 ICチップですよ。医療用なんで害は無いです。
 さぁ、先生…ゆっくり楽しんでくださいね 」





「 何を訳の判らないことを…っ… 」













次第に薄れて行く意識の中で、何時までもが微笑んでいた。
面白い玩具を見つけた子供の様に無邪気なその表情を見て、我輩は確信する。
これはまたしても、に嵌められたのだ、と。


















気が付けば、見知らぬ家の玄関に居た。
何処からともなく漂ってくる匂いは、カレーであろうか。
目前に広がるのは、青を基調に統一された部屋と家具一式。
つい瞬前までは自室でレポートの添削作業をしていた筈の我輩が、何故この様な場所に居るのか、と思案する。
どう考えても可笑しい、と思った瞬間、頭の中にの笑顔が蘇り。
嵌められたのだ、と思った瞬間、勝手に言葉が口から出た。













「 …今、帰った。 」






「 おかえりなさーいv 」













吐いて出た言葉も言葉だが、返ってきた言葉の聴きなれた音程にも首を傾げる。
それどころか、己の意思でも無いというのに、勝手に玄関に上がり込み扉を開いていた。
己の意思が喪失し、誰かに操られているかのように繰り広げられる行動が不可解過ぎて。
ぱたぱたと聞こえてきたスリッパの足音に顔を上げてみれば、其処に居たのは。
真っ白いエプロンを付け、笑顔で此方に駆けて来る新妻そのもののだった。













「 お帰り、セブルス。 」





「 あぁ。何か変わったことは無かったかね? 」













、何をしている!!これは一体どういうことだ!!?


そう、我輩は言いたかった。
けれど、先ほどと同じ様に、口を吐いて出たのは意志とは全く関係の無い言葉。
それどころか、己でも嫌悪したくなるくらいの行動の数々が我輩の意志とは関係なく繰り広げられる。
自然に和らぐ表情、自分で客観的に聞いていても吐き気を催す声色、自然に上がった掌が、ことも有ろうにの髪を撫でた。
慌てて腕を引こうとするけれど、腕は真逆にの髪を優しく撫で続け。
嬉しそうに微笑むを見て、我輩も表情を緩めている。













「 勿論、何も無いよ。
 セブルスは何時までたっても心配性なんだから 」






の心配をすることが、そんなにいけないかね? 」













呼んだ事も、呼ぶ事も無いであろうと思われていたのファーストネーム。
それをサラリと甘く言う己自身が信じられなくて。
そう思ったかと思えば、の髪を撫でていた手を自然に腰元に伸ばし、此方側へと招きよせる。
止めろ!と自分で自分を制するけれども、その声は届くことは無い。
それどころか、薄く瞳を閉じたを抱き寄せるように引き込むと、その顎を掴み上げる。
背伸びをするに、腰を屈める我輩。
引き寄せあう磁石の様に二人の距離が縮まり、の桜色の唇と我輩の唇が重なりかける。
残り、数ミリ。
もう、駄目だ。
そう思った瞬間、パチン、と何かの弾ける音が木霊した。













「 此処から先は、下巻でどうぞ 」













眩しい光と共に瞳を開ければ、先ほどと同じ笑顔で微笑むの姿。
の手が、ひらひらと揺らめかせるそのハードブックには、いつの間にか表紙が付けられていた。
ご丁寧にも、何処ぞのレンタルビデオショップの棚に並んでそうなパッケージで包装され。
先ほど我輩が見ていた情景の写真の様な物が、貼り付けられている。
その中心。
タイトルのようなモノを見つけた我輩は、背筋に冷たいものを感じた。









「 久々の郷里に新妻の唇 」








安物のアダルトビデオよりもネーミングセンスが悪い。













!!!!これは一体どう言う事… 」





「 疑似体験、ってちゃんと教えてあげましたよ、私。
 それに、"受け取る"と言ったのはスネイプ教授ですし… 」




「 我輩は、反省文を受け取ると言ったのだ!! 」




「 だから初めに教えてあげたじゃないですか、プレゼントだって 」













ニコニコと微笑んだままのに、悪びれた様子など皆無。
それどころか、ガサゴソと音を立てて先程の銀の籠から数冊の本を取り出す。
それには先程の物とは代わって、初めからハードブックに表紙がついている。
ゾクリ、と背中に冷たい物が走る。
の笑顔の裏に有るのはきっと、とんでもない代物であろう。
それ位するのが
どうして我輩はその事に気付かずに居たのだろうか。
何たる失態を晒したことか。
思い返しただけでも腹立たしい。













「 …他には…何があるのかね… 」





「 えーっとですね… 」








「 愛しい妻との結婚式、涙モノバージョン 」
「 新妻、エプロン姿で旦那をお迎え 」
「 新婚旅行はマグルの世界込み、世界一周旅行 」
「 新妻、裸エプロンに初挑戦!! 」
「 仲良くジェットバスで…vvv 」
「 ドキドキの初夜はふかふかダブルベットで…
 あ、勿論、妻は私で旦那はスネイプ先生ですよv 」






「 …さっさと持って帰り給え!!!
 そして、反省文羊皮紙6ロール提出! 」













痛くなる頭を抑えつつ、次々に口から出る稚拙なタイトルの数々に、我輩はそう制した。
つまらなそうな顔をしたは、それでも大人しく本を籠に入れ終えると部屋を出て行った。
先程までの騒がしさは何だったのか、と思わず考え込みたくなるほどに静かになった室内で、我輩は一つ溜息を付く。
崩れ落ちそうなほどの疲労感を感じた我輩は、そのまま後ろにある机に手を置く。
カタン、と何かが落ちる音がしたかと思い、床に転がる物体を拾い上げる。













「 …………… 」













拾い上げたのは、が忘れて行ったであろう本の一冊。
先程と同じ様にハードカバーに表紙のようなものが付いており、其処には薔薇が散りばめられた様なイラストが描かれていた。
思わず放り投げたくなるようなその如何わしいタイトル。
アダルトビデオ顔負けのそのネーミングをが考えているのかと想像したら、学年主席が何を考えているのかと嘆かわしくなる。
手にしたその本を表にして置きたい筈は無く、裏返しにしようとした瞬間、中身のICチップが零れ落ちた。
地の底まで落ちそうな程に深い溜息を吐きながら、それを拾い上げる。
瞬間。













「 スネイプ先生、私の夜のお供を忘れて… 」




ッ…ッ、違う、誤解だ、…これは… 」



「 いえ、弁解はいいですよ、先生。
 先生も男なんですから当然ですよね!
 では、それは置いていきますので、ごゆっくり 」



「 待て、誤解をしたまま出て行くな!
 待ちたまえ、!!! 」













の満面の笑みと共に、バタンと扉が閉められる。
残されたのは、ICチップを手にして呆然とした表情を浮かべたまま扉を見つめる我輩。
そして、我輩の部屋に勝ち誇ったかのように置き去りにされるハードブック。
溜息しか出ないそのタイトルは



「 24時間愛のレクチャー 真夏の夜の熱い生活 」




…このネーミングセンスの無さも泣けるが、それ以上に嵌めに嵌められた我輩が惨めで泣ける。













セブルス・スネイプが開いたパンドラの箱。
慌てて閉めたその蓋の底に残ったのは、希望か否か。















■ あとがき ■


お誕生日を記念して、瑶玖 さんへ捧げますv

リクエストも何も頂かずに、稀城が勝手に瑶玖さんに送りつける夢です(笑)←迷惑な。
日頃お世話になっている敬愛する瑶玖さんに、せめてものお祝いに…と書かせて頂きました。
この夢がお祝いになるのか否かは判りませんが…(笑)

当サイトの趣旨である、甘々を書こうとも思ったのですが、誕生日である瑶玖さんに心から笑って頂こう(笑)と、
勝手にギャグチックな夢に…(汗)
スネイプ教授が哀れです…そして、ネタが絶対に被ってそうな夢で申し訳有りません。
こんな素敵なICチップがあったら絶対に私は毎日妄想に明け暮れるでしょう…(爆)


ギャグチックな夢はあまり書かないので、もしかしたら笑いすら起きないかもしれませんが、勝手に送りつけさせて頂きますv
Happy Birthday、瑶玖さんvv
何時までも貴女のFANでいさせて下さいませvv





++++ この作品は貰ってくださるのならば、瑶玖 様のみお持ち帰り可能です ++++











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