The Festival of the Weaver
7月7日は、一年に一度だけ織姫と彦星が再会出来る日。
そう昔から言い伝えられてきたその寓話は、大人になった今でも心の片隅に引っ掛かりのように在って。
漆黒の闇夜に広がる無数の星。
輝きを放ちながら広がりを見せるその広大な景色に心を奪われる人も少なくない。
天の川と呼ばれる星の連鎖が一番綺麗に見えるのもこの日。
一年に一日しか会えない恋人は、辛く悲しいのだろうか。
「 ルシウス、私と貴方も織姫と彦星みたいだね 」
星空を見上げながら悲しそうに呟いた
は、隣に腰を落とした私にそう問うた。
7月とはいえ、肌寒い空気が散漫するこの時分。
好き好んで星等見ている訳がない。
が日本に居た頃に、必ず7月7日は星を見るのだと言って利かぬから仕方なく私も同席したまでで。
の頼みで無ければ態々マグルの世界に等誰が来るものか。
それを知って故か、私の”Yes”の返事を酷く
は喜んだ。
「 それは私に妻が居る故か? 」
そう、それは変えられようも無い事実。
私には
と同じ年齢の息子と妻が居る。
それを知っての上で、
との交際も続けていた。
実際、妻は気づいているのやも知れぬが、私にはそんな小さな問題はどうでも良かった。
に逢え、この腕で抱き、その温もりを永遠に置き換えられるなら私に失うもの等何も無いというのに。
けれど紫苑は私の”家庭”や”地位”や”名声”を酷く恐れていた。
若干14歳の子供が、考えぬべき事までも
は範疇に入れ、何時も私の邪魔にならぬように生きてきた。
毎回決まった日しか逢えぬ関係。
の話した寓話の如き関係に他ならなかった。
「 そう…なのかな。 」
悲しそうにそう呟く。
それは始めて聞いた心の叫びの様で。
消え入りそうなその小さな声は微かに震え、何かから脅える様なそんな面持ち。
微笑んだ顔が好きだった
は、何時の日からか、余り笑うことが無くなった。
その事実に気づいたのはもう、どれ位前になるだろうか。
見てみぬ振りをしてきたのは、私。
壊れてしまってもいい関係だと、
は私から離れられないと自惚れていた。
実際、離れられぬのは私のほうだと言うのに。
「
、もし私と二人で天の河の向こうに行けるとしたら、お前は付いて来るか 」
燦然と輝く星の下。
加えかけの葉巻の火を強引に消し。
驚いた様に目を見開く
の細い肩にローブを掛け。
折れそうな脆い腕を確かに掴んで私は問うた。
逆光に映し出された
は、星の光を借りて更に美しく輝いていた。
「
、一つ面白い話をしてやろう 」
「 面白い話? 」
「 the Festival of the Weaver
本当の結末をお前は知ってるか 」
the Festival of the Weaver
つまり日本で言う七夕。
ルシウスが七夕の由来を知っているとも思えない、という表情の
は悪戯っぽく笑って首を横に振った。
私がどんな虚無を述べるのかさも楽しそうに待ち侘びるかのように。
親指と人差し指で人くくりに出来てしまいそうな程に細い腕を更に強く引き寄せ、腕の中に
を抱きこむ。
そうしてそのまま
をゆらりと抱かかえ、名残惜しそうに星空を見つめる瞳を叱咤してその場所を後にする。
じゃり、と砂の踏まれる音が凛とした空気に良く映えて。
微かに聞こえる海の波音が心地よく耳に残る。
「 ルシウス、何処に行くの? 」
「 あの話はマグルの世界ではどう解釈されているかは判らぬが。
二人はあの後逃げ出すのだそうだ。
誰にも邪魔されぬ世界の果てに行く為にな 」
「 え…? 」
驚いた様な表情が変わらない。
一心に此方を見続ける
の表情には明らかに疑問の念。
歩き続けるルシウスは、先ほど乗り付けた高級外車の傍を綺麗に素通する。
中から執事が出てきて声を掛けようとも反応を示すことは無い。
ただ、真っ直ぐ、来た方向とは真逆のほうに進み続ける。
「 行ってみるか。世界の果てに 」
瞬間、体が空に舞う。
マグルの世界では、魔法を使うことは禁じられているのはルシウスが一番良く知っていることで。
制止する
の声も聞かずにルシウスはそのまま遥か上空へと舞い上がる。
風に箒が煽られない様に気をつけながらも、その腕の中にはしっかりと愛しい者を抱きしめて。
「 全てを捨てた果てに、何があるのか私も見てみたくてな 」
そう呟いたルシウスの声を、
は遠い意識の中で聞いていた。
気づけば止め処なく流れる涙で星が幾重にも重なって見え。
まるで星空に吸い込まれるように高く上昇し続け。
柔らかく苦笑したルシウスのその表情は、酷く穏やかな面に彩られたもので。
張り裂けそうな心が音を立てて壊れていった。
全てを再生するかのように。
夜空を見上げ、主の帰りを待つ執事が、ルシウスと
の姿を見ることは二度と無かった。
■ あとがき ■
七夕になぞって書いてみたのですが、微妙に悲恋になっている気がしてなりません(笑)
ですが、この後二人は誰にも邪魔されないところで仲良く二人で暮らしているとおもって頂けたら幸い。
私が聴いた話ですが、どうやら西洋諸国には
「織姫と彦星は、二人で逃げ出す」
というラストになっているらしいですね。
最も、織姫と彦星ではなく、ベガとアルタイルなのですが(笑)
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