Gratitude






「 先生、私昨日誕生日だったんですよ 」






日付変更線が変ると同時に、机に突っ伏したまましきりに仕事をこなす我輩に声が掛けられる。
椅子に凭れ掛かるように座り、マグル学の教科書を読み進めていた が顔も上げずにまるで他人事のようにそう告げた。
思い返してみれば、 が自分の誕生日の話をした記憶など、一回も無い。
それどころか、まるで最初から無かった様に我輩自身も聞いたことが無い。
単調に過ごす日々の中で必ず訪れるであろうその記念すべき日。
だがしかし、この幼少女の性格上、公言する事などある筈がないと気づくべきだったのだ。






「 何故に昨日言わない。 」






怪訝そうに見つめて、羽ペンを置けば、カタンと音が響く。
それだけ静寂し切った空間の中で、我輩と は、数時間ぶりに視線を交わす。
教科書から瞳を逸らした が、不機嫌さを一身に現した我輩の瞳に柔らかく微笑み掛けた。






「 一つ歳を取るだけじゃないですか。
 24時間経過しただけで、一体何が変るというのです? 」



「 そんな皮肉めいた事を貫かす故、"氷凍の姫君”と呼ばれる事由を知っているかね 」






口から湧いて出る暖かさの欠片も無い言葉に、流石スリザリンの姫君だけあると脳裏に再認識させる。
冷たい言葉を吐きつつも、ふわりと微笑んだ氷凍の姫君は美麗さをその冷涼に包み隠してその玲瓏さを際立たせた。
引き込まれてしまいそうなその冷たい瞳に魅入られたのは、他でもない、我輩自身。
華奢な身体をソファーに落として、サイドテーブルに教科書を置く。
逸らさない視線を嬉しく思いつつ、収拾の付かない羊皮紙に文鎮を載せて席を立つ。






「 それとも、全能の神にでも、感謝しますか? 」






誘われるように隣に腰を落とした矢先に次の皮肉が飛んで来た。
無理に言っている訳でも、業とでもない。
自然に口から零れ落ちるような台詞の数々に皺を寄せつつも、少しも憤慨しない妙な感情に ならではなのだ、と実感させられ。
我輩の解答を待ち侘びるかのようなその瞳に苦笑しつつも、小さな身体を手繰り寄せるように引き寄る。






「 お前が何歳歳を取るか等に興味は無い。
 感謝すべきは全能の神ではなく、 自身と の両親に、であろう 」



「 私と両親、ですか? 」



の両親のお陰でお前はこの世に生まれ出でた。
 お前が生まれた日が有るからこそ、我輩は と出逢うことが出来たのではないのかね? 」






意外な言葉を聞いた様に、透き通る瞳が大きく見開かれた。
冷たく澄んだ頬に手を添えれば、少しだけ上気している事が伺え。
重力でさらりと滑り落ちる結い髪が心地良く掌に掛かる。
滑らかな上質の髪を撫でてやれば、幼い子供のようにその身を委ねてきた。





「 故に がこの先何歳歳を重ねて行こうとも我輩には関係の無い事。
 唯、”生まれてきて感謝する”と祝いを重ね続けてもいいのではないのかね? 」






腕の中で、氷凍の姫君が嬉しそうに微笑った。






「 ”Happy Birthday and grateful to you for your born” 」






耳元でそう囁いてやれば、擽ったそうに身を捩る。
一日遅れてしまったが、 が生まれ出でてくれた事への感謝を忘れてしまった日は無い。
冷たく閉ざされた心に光りを燈した幼い少女への愛情も、消え失せることは無いだろう。
プレゼントは何が欲しいかと問えば、その噂に似合わず
”唯、傍に居てくれるだけでいい”
とそう零す。
我輩の腕の中に身を委ねる幼い少女を見つめながら、静寂し切った夜を堪能する。






来年は、どのように祝ってやろうかと思考を張り巡らせながら。







□ あとがき □


おされ気味のスネイプ教授に、冷たい性格の際立つヒロイン。
一回書いてみたかったこの設定なんですが…どうにも甘く出来なかったという(笑)
誕生日は、”生まれてきて有難う”という日。
この世に生まれてきてはいけなかった人が誰も居ない様に、誰にでも誕生日はあります。
それが自分を束縛し呪縛するだけのモノだとしても。
たった一人にでも、”おめでとう、そして生まれてきてくれて有難う”と言って貰えればそれだけで幸せな気がします。





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