Kindness






「 何故この様な、陰険根暗贔屓教師を好きになったのか、と聞かれたら…
 一体何と答えるつもりかね? 」






溜息混じりに言葉を吐いたスネイプに対して、、 は唯、微笑むだけだった。
人ごみの駅のホームに佇む二人は、現代日本の風潮に良く合う服装で、到着する列車を待っていた。
仕事の帰りか、学校の帰りか、とにかく人が多い。
不慣れで嫌悪するマグルの世界に、スネイプが居ると言う非現実的とも思えるこの光景には理由がある。
の実家に赴き、結婚の承諾を得ること。
これが、スネイプと の日本訪問の目的。
決して田舎とは言えないけれど、都会とも言い切れない場所にある の実家に行くには、電車で行くのが一番いい。
都会と同じくらいに公共機関が発達している為、何十分も電車を待つことは無い。
そしてそれには、理由が有る。






「 …なにかね、この人ごみは。
 暑苦しい。 」



「 仕方有りませんよ、電車が一番便利ですし…ラッシュ時ですから。 」



「 解答を求めていたわけではないのだが。 」






疲れたように溜息を絶やさないスネイプは、苦笑交じりに答えを返した に対して苦笑で返す。
乗ったばかりの頃はそれこそ良かったものの、停車駅が増えるたびに人の数は増大の一途を辿り、気づいた時には満員電車。
端へ端へ追い遣られるうち、 とスネイプは出口の扉付近に押し込められる形に成ってしまった。
しかも、運の悪いことに、満員の乗客を乗せた列車は、酷く揺れる。
少しでも揺れれば、その反動も加わって、真ん中に居る手すりを掴めない人間が倒れこむように押しかかってくるのだ。
人が増えれば増えるほど、倒れこんでくる人間の数も増える。






そんな中、カーブに差し掛かった瞬間、電車の車体が大きく左右に揺れる。
電車の扉を背にしてスネイプと向き合っている は、耳元に掌のぶつかる音を聞いた。
途端に、背にしていた扉から振動が伝わってくる。
急な揺れに耐え切れなくなった乗客たちが、 のすぐ横に居る人は、雪崩の様に崩れてきた人に巻き込まれる形で強く扉に打ち付けられていた。
けれども は、スネイプが防いでくれたことにより、扉に身体を必要以上に打ち付けることは無い。
電車はカーブを抜け、直進し続けているにも、関わらずに、スネイプはそのままで。
とっさに扉についた手を離すこともないまま。
寧ろ、背の低い を、その胸の中に包み込むような形で背を屈めて。
不思議そうな表情でスネイプを見つめる






「 起き上がれなくなったんですか? 」






「 …こうしていれば、少なくとも が扉に打ち付けられることは無いであろう?
 それとも何かね?
 久しぶりの電車で、扉に体当たりしたいとでも? 」






意地悪そうに笑ったスネイプは、疑問符を並べている の頭をそっと撫でながらそう言った。
確かに、スネイプが を抱き込む形になっているので、スネイプが倒れこんでこない限り、 が壁に激突することは無い。
どんなに強みを持った揺れでも、スネイプがその身体で吸収し、 の元へと必要以上は届けない。
不器用なりにも自分の事を考えてくれるスネイプに、 は思う。






「 そんな優しさを、好きになったんですよ…
 皮肉交じりですけどね。 」






冒頭の解答なのか、否か。
は微笑みながらそう告げた。
その台詞に、スネイプは柔らかい笑みをそっと浮かべて。






「 たまには電車に乗るのも悪くない。 」



「 でも、もう少しお金を出せば、指定席の特急があるんですよv 」



「 …何故それを早く言わんのかね… 」



「 だって、久しぶりに満員電車に乗ってみたかったし…
 スネイプ先生が守ってくれるし。 」






にこりと笑った に、スネイプは痛くなりそうな頭を抑えるのに必死だった。
その間も、電車は揺れ続ける。






「 次からは独りで満員電車に乗りたまえ。
 我輩は二度とお前を助けたりしない。 」






そう冷たく吐きつつも、揺れが強くなりそうだと感じると、 を守るように体勢を崩す。
が少し強めに扉に身体を打つと、直ぐ様「大丈夫かね?」と言葉を投げ掛けて。
条件反射の様に身体が動くスネイプに、 は嬉しくなる。






「 満員電車もいいものですよ。 」






ふわりと微笑んだ は、電車の逆揺れを利用してスネイプの側に倒れこむ。
抱き留めたスネイプの頬にそっとキスを落として。
満員電車は、二人の目的地まで走り続ける。
息苦しく暑苦しい満員電車内。
それでも、二人には、幸せな時間なのかもしれない。







■ あとがき ■


教育実習中の、行き帰りの満員電車内。
揺られに揺られながら思いついた夢だったりします(笑)
もう多分、満員電車にのる機会などは無いでしょうから…こんな夢もいいのではないかと書いてみました。
稀城は人に酔うので満員電車は苦手です(汗)





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