Time after time






最近授業をサボりがちな不良少女の更生に精を出す教師が一人。
その容姿と性格と人様からの情報からでは想像も出来ないほど、その更生に時間を費やし、努力を成す。
己の授業がない日は自室で行っていた論文に手をつける間もなく、ローブを片手にホグワーツ内をうろつき回り、少女を探す。
数日間だけで少女の行きそうな目星が大体付くようになったのは、努力の賜物だろうか、それとも少女が唯単純なのか。
何れにせよ、今日も変わることなく彼はホグワーツ内を少女を捜し求めて歩く。
男の名、魔法薬学教授…セブルス・スネイプという。






「 今日は何をしているのかね? 」






図書館の隅、無造作に重ねられた本に埋まるようにして、 は転寝をしているようだった。
読みかけの本を膝に乗せ、役目を果たしていない栞が床にはらりと落ちている。
細い柱に背を預けて凭れ掛かるようにして居る は、眠そうな瞳をゆっくりと開く。
薄紫の大きな瞳が、真っ直ぐにスネイプを見て、微笑んだ。






「 スネイプ先生も意外と暇人なんですね。 」






人の質問には一切答えようとしないこの少女は、積み重ねられた本を一冊ずつ丁寧に横に重ねなおすと、一人分くらい座れるスペースを作り上げる。
無言のまま、けれど笑みを絶やさぬ は、出来たばかりの空間の上に手を乗せてぽんぽんと軽く叩く。
少しばかり舞う埃を怪訝そうな瞳で一瞥すると、 は相変わらずその仕草を繰り返すばかりで。
…早い話。
座れ、ということだろう。






「 …で、何をしているのかね? 」






授業で静まり返ったホグワーツ内、図書館の隅で二人柱に背を向けて座る様は酷く滑稽で。
ごく普通の生徒なら、その場で減点は免れまい。
我がスリザリン生ならば減点した上に説教という得点付きで謹慎処分にしてやるところ。
グリフィンドール生ならばその上に更に素晴らしい土産も付けてやる所だが…どう言う訳かこの少女にはそんな気が更々起きない。
腸煮えくり返るように腹立たしい黄色と赤のTieを見ても、不思議と気持ちが落ち着いているのはどういう訳か。
初めて出会った数ヶ月前から、この少女には不思議な感情が立ち込めるばかりで。






「 明日の魔法薬学の授業に使う薬草の勉強です。 」






しらばっくれた様な表情を前面に浮き彫りにして、少女は膝に置いた厚い本を広げて見せた。
吹き寄せる風でひらひらと捲れるページに眼をやれば、確かに魔法薬草の説明がだらだらと述べられていて。
ふわりと微笑んだままの に目配せしてやれば、さも満足そうな表情で此方を見ている。
しかしながら…捲れるページのある一節にふと瞳を落とした時。
我輩は頭を抱えることとなる。






「 …
 我輩は”明日、持ち出し禁止の棚にある図鑑に載っている薬草を使う”等
 言った記憶が無いのだか? 」






「 あ、そうでしたか??
 折角忍び込んだのに、無駄になっちゃいましたね。 」






悪気など一切成さそうな表情のまま、 はパタンと本を閉じた。
埃がふわりと宙に浮き、それが幾分もの長い間人目に触れていなかった事が伺える。
この少女は何時も何かしらをやってのける。
それも、性質の悪いことに、”悪いこと”だと思っていないから厄介で。
厳重に管理がされている筈の『閲覧禁止』な本を意図も早梳く、真昼間に取りに入られるなど、何たる不手際か。
いや、それ以前に、 に入られる位の手薄な管理でいいのかと思うと頭が痛い。






「 今日の授業はどうした。 」



「 …今終わりましたよ、ほら。 」






にっこり微笑んだ の指差す方向は真上。
その場所には時間を知らせる為の時計が据え付けられていて、授業終了時刻を告げる鐘の音が綺麗に響いていた。
全て仕組んでいたように繰り広げられる少女と我輩とのじゃれ合いは昨日も今日も、そして明日も続けられることだろう。
我輩の授業には必ずと言って良いほどの出席率を誇り、他の授業に関しては、抜け目無く、出なければならない分の日数を計算の上、出席する。
そんな頭の切れる少女でも、時折信じ難い場面に遭遇することもある。
そう…魔法薬学の実習時間など、笑えない位に凄まじい事をやってのける。






。昨日、何故蘇りの薬を完成させなかった? 」






昨日の実習時間、真面目に授業に取り組んでいた生徒は間違いなく”蘇りの薬”を作成出来ていた。
教科書通りの手順で、教科書通りに行っていれば間違いなく完成出来たものを。
は最後の最後まで完成させることが出来ずに、結局実習終了時間を迎えたのだ。
後片付けをする は事の他、嬉しそうに思えて、完成させることは無くとも、妙に納得してしまう。






「 だって…可哀相だったんですよ… 」



「 何が、かね? 」



「 蛙の干物… 」



…干物と言う位だから元々生きては居ないのだぞ?
 それを今更可哀相など… 」






「 だって…
 蛙の干物だって、拒否権はあると思うんですよ。
 それを、一歩間違えば下水に捨てられそうな色をしたゴブレットの中に… 」






さらりとそんな事を言ってのけるこの少女。
我輩が、その”一歩間違えば下水に捨てられそうな色をした液体”を作成するのに一週間は掛かった事を知らずと言っているのか。
確かに色が酷いのは、我輩も認める。
が、しかし。
その凄まじい色と少なくとも数時間は見詰め合ってきた我輩の立場はどうなる?苦労は報われるか?蛙を投げ入れる為だけに一週間掛けて作成した我輩の時間を 無駄にするつもりだろうか。
ましてや…思い出してみれば、こんな事は日常茶飯事で。
理由を問うことすら無駄な時間やも知れぬ。






「 何故授業をサボる。 」






聞いても無駄だと知っている質問を、敢えて我輩は投げかける。
ふわりと舞い込んできた風が心地よい。
もう暫くすると、此処に普通に授業を終えてやって来る生徒で賑わう事であろう。
…喧しいこと、この上ない。






「 聞いているのかね、 。 」






声に鋭さを持たせて横目で を見れば、いつの間にやら其処には、持ち出し禁止の図書と、本に挟まれた羊皮紙が置かれただけで。
の姿など、どこにも見当たらない。
一体何時の間に姿を消したのかと、苛立ちを伴って羊皮紙を摘み上げてみれば、其処には。






− Cach Me, If you can!! −






挑戦状とも言えるべき文字と、きっと我輩への当て付けの文が認められている。
先ほどの我輩の質問に忠実に答えたのであろうその手紙は、重要な事が抜けていた。
手にした羊皮紙を丁寧に畳み、懐へと入れると、我輩は”持ち出し禁止の図書”を手にして、その場を後にした。






「 …説教してやらねばなるまい。
 ”Cach”ではなく、”Catch”だとな。 」






何だかんだの理由付けで、結局我輩は を探すこととなる。
減点する訳でも咎める訳でもなく、 を探す為にホグワーツを彷徨う。
何時からだろうか、これが日常に摩り替わったのは。
何時からだろうか、これに嫌気が指さなくなってきたのは。
何時からだろうか…
少女との馴れ合いが楽しいと思えてきたのは。






まぁ…、良しとするか。
我輩も暇だと感じなくなったのは確かなのだ。
所詮は、理由付けを探すだけのこと。
理由なぞ、後から幾らでも考えたらいい。






「 スネイプ先生…本当に、暇なんですね。 」






そう言われて苛立ちが起きないのは後にも先にもこの少女だけである。







■ あとがき ■


…何が書きたかったのか。
唯単に、思いつきで書いただけの代物なので、その辺は突っ込まんで下さいね(笑)
それにしても、スネイプ教授の知らぬ間に姿を消せるヒロインって…色んな意味で教授を上回ってますよね。
教授は明日も明後日もヒロインを探すのでしょうね…ご苦労様です。
ちなみに、この設定では二人は恋人同士ではありません(爆)





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