Hangover






帰ってきて早々…ルシウスは使用人の告げた一言によって、重い頭を更に重く抱えることに なる。






「 旦那様…実は、先ほどご来客がありまして… お客様はお帰りになられたのですが…その…
 奥様がワインを一本空けられまして… 」






しどろもどろに話す使用人に呆れても何も始まらない訳で、ローブを脱ぎ渡した使用人に返事を返すことすらしないまま、ルシウスはづかづかと脇手にある大食 堂へと足を運んだ。
バタン、と勢い良く戸を開け放つと、漂う高貴なワインの香りに混じって、”お帰りなさいませ”と引きつったような笑顔を見せる使用人と真っ赤に出来上がっ た愛しい妻の姿が目に飛び込んできた。
並々と注がれたワイングラスを持ったままで、何かしきりに執事に話しかけている様子で、此方には気づきもしない。






、いい加減にしておけ。 」






気づかれない事への苛立ちも混ざってルシウスは少々冷声で に言葉を投げた。
普段なら、”ルシウス、お帰りなさいv”と言っては微笑む妻が、今日ばかりは幾らか違っている。
振り向いたその顔は怒りのようなものを全面に撒き散らかして、きっ…とルシウスを一瞥すると、手にしたワイングラスの中身をぐいっと喉に押し流し、酔いに 任せた勢いで、ルシウスにつっかかる。






「 ルシウス、”あいじん”って何人いるの?? 」

「 …誰だ、 に要らぬ事を吹き込んだ命を惜しまぬ輩は… 」






言い放たれたその台詞に、一瞬でその場が固まりつく。
が言った言葉は、ルシウスと使用人を固まりつかせ、ルシウスの言い放った言葉に、張本人であろうか、執事がびくりと身体を竦ませる。
因みにこの執事。
毎回やたらとルシウスの言動に振り回されるあの執事である…。
その執事の行動をしかと鋭利な瞳で捉えていたルシウスは、 の手からワイングラスを取り上げると、中身を揺ら揺らと回しながら冷笑を浮かべる。






「 グル…貴様はこの不景気のご時世に、自ら望んで職を失くし路頭に彷徨う覚悟があるとは…
 余程肝の据わった男だな 」

「 だ…旦那様、お言葉を返すようですが、わたくしは決してその様な事は申し上げておりません…
 ただ… 」

「 ただ、なんだ。 」


「 た………、ただ…ですね… 」






ルシウスに『グル』と呼ばれた執事は、告げられた解雇宣告よりも、鋭利な冷瞳で見られている事のほうがなにより恐ろしくて、思わず言葉に詰まってしまって いる。
周りの者たちは誰も口出しすることも出来ずに、ただただ事が良い方向へ流れることだけを切に祈るばかり。
押し黙るかのように言葉を紡げないグルに痺れを切らした様に、ルシウスが声をあげようとした瞬間に、 の小さな手がルシウスの上着をそっと掴んだ。
ちらりと振り返れば、酒の所為で頬をうっすらと上気させた妻が、瞳を潤ませて見上げている。






「 どうした、






ルシウスの表情がふわりと柔らか味を帯びる。
ルシウスが何時も だけに向ける表情で、 に問いかけたルシウスは上着を掴んでいた指をそっと解きほぐすと、その小さな手をぎゅっと握り締めてやる。
優しさを帯びたルシウスの表情に幾らか安心を覚えたのか、グルが言葉をようやく吐き出そうとするが、その言葉は の言葉によってかき消されることとなる。






「 あのね、ハーマイオニーと話してたら、そんな話になったの。
 そしたらね、グルが、
 
 【わたくしも、妻の他に愛人が居たらいいな、と思うことはあります】

 って教えてくれたの。
 それって、ルシウスに”あいじん”が居るってことなの? 」






潤んだ瞳でそう告げる の言葉を最後まで聞き終わると、ルシウスは手にしたワイングラスに幾らかの力を入れる。
パキン、と綺麗な音を小さく立てて割れたワイングラスは、中身の赤が一気に飛散して絨毯を汚す。
それに目もくれないルシウスが、青くなるグルを睨む。
この場に が居なければ、ルシウスがキレていた事は必須だと、その場に居る 以外の誰もがそう思わずには居られない。






「 グル、貴様に素晴らしい三択をくれてやる。
 1.この場で抹殺
 2.アズカバンに強制送還
 3.滅びの魔法を味わってみる
 さぁ、遠慮せずに選べ。 」

「 だ…旦那様、
 是非とも「4.意見を聞いてやる」を付け加えて頂けると非常に有難いのですが… 」

「 グル、貴様は私に口出し出来るほど偉かったか? 」



「 ……… 」






ギラリと鋭利な瞳が真っ直ぐにグルを見据える。
その瞳に哀れみの感情は最早、写っては居らず、グルが如何なる手段を選ぶかとをさも面白そうに見つめているだけである。
グルの表情にも、次第に蒼白から絶望への色が濃く現れ始め、”解雇”の二文字が頭を過ぎる。
自分は何と言うことを言ってしまったのだろうか、と悔やんでも悔やみきれないのが現状で。
どう切り抜けようか…もしくは、どう言い訳をしたら主は許してくれる…まではいかなくとも、マシな処分を貰えるかと一生懸命にその脳を回転させる。
静まり返ったような静寂の中、ヒクッ…と酒に含まれる炭酸に酔っ払っている の切なそうな声だけが響いていた。






すうっ…と息を吸い込んだルシウスが、吐き出す息と共に告げる台詞に、一同身を凍らせていた。
どのような処分が下されるものかと瞳を閉じて、身体を竦ませて、神に祈りをささげる。
が、しかし…
物事は意外な展開へと進むこととなる。






「 ねぇ、ルシウス。 ”あいじん”ってなぁに? 」






酒に酔っ払い、瞳を潤ませていた は、ルシウスが言葉を吐く前に、そう問う。
流石に張り詰めていた空気がぷちっと糸が切れるように擦り切れた。
驚いたような表情と共に を見つめるグルよりも先に、ルシウスが傍に居た に逆に問いかける。






「 … …まさか、”愛人”が何か知らぬのか? 」






そう問うルシウスに、 は笑顔を浮かべたまま、嬉しそうに頷いた。
「あいじん、って子どものこと??」と、到底掛け離れたような疑問を更にぶつけてくるけれど、ルシウスは既に聞いては居なかった。
が”その辺りの領域”に無知だった事が幸いしていることは言うまでも無い。
顔面蒼白なままのグルに、ルシウスはただ一言、こう告げる。






「 次は無いと思え 」






この台詞を聞いた日以来、グルは何が起きてもルシウスを敵に回すような台詞は吐かなかったと言う。
また、 に何かを聞かれても、”世間一般的な答え”ではなく、”自分の身の安全が保障される答え”を述べるようになったという。
顔面蒼白から少しずつ生気を取り戻しつつあるグルを他所に、酒から来る睡魔の為か、コクン、と首を上下にしながら浅い眠りにつく を抱き上げる。
しきりに礼を言うグルの話になど耳も傾けずに、ルシウスは愛しい妻と共に、自分の部屋へと姿を消した。





「 安心して眠れ。
 愛人なぞ作る暇も無い位に私はお前を愛しているのだから。 」






そう言いながら、ルシウスが腕に抱いた をキツク抱きしめたことは、ルシウスだけが知っている。






翌日。
酷い頭痛で記憶も曖昧な は、ベットから起き上がることも困難な状況で。
それを良い事に、ルシウスは有給を使って一日 と共にベットで甘い時間を過ごしたと言う…。








後書き

ルシウスにはつきものになっている、「愛人」
ヒロインは妻…しかも、ルシウスが愛妻家ということで、愛人はなしです(笑)
愛人疑惑のほかに、浮気疑惑の話も頭の中にあるので、近いうちにでもかいてみたいですね。
それにしても、今回は余り甘くないですね…
次回は甘くなるように頑張ります!!



[ back ]