御 燈






「 スネイプ先生、お願いです…
 一回だけ…微笑んでください!! 」






授業が終わって直ぐ、教科書を抱えたままの は周りをきょろきょろと気にしながら、実験の後片付けに精を出す魔法薬学教授に声を掛けた。
スリザリン一の美少女と噂されるほどの容姿を持つ は、東洋から来た珍しい魔女。
勉強もスリザリンの名に相応しい位に良く出来、品行方正な態度に寮問わずに人気が有る。
スリザリンの寮監でもあるスネイプも彼女の存在は勿論頭の中で認知していた。
…それは、皆とは少しばかり違う方法で。






「 ミス
 勉強のし過ぎで脳の神経が破壊されたのかね? 」






掛けられた意外な言葉に、作業の手を一瞬だけ止めたスネイプは の顔を一瞥するとそう告げた。
意外な行動を取る をこの目で見てきているだけあってか、スネイプは然程驚きを見せる事も無かったけれど、自分に対する質問の意図がイマイチ理解に苦しむ ものであってか、少々困惑する。
それだと言うのに、にっこりと微笑んだままの は、重そうな教科書を抱え直すとじりじりとスネイプに詰め寄る。






「 破壊されるだけの神経が残っていたら…ですけどね。
 …って、余計なお世話ですよ。
 スネイプ先生、私、気になって夜もまともに眠れないんです… 」






ノリツッコミの様な一人芝居をする様に話を返した に、スネイプは心の中で苦笑した。
容姿や頭脳に似合わない一面が、 には有る。
それを初めて見た日、スネイプは一介の女生徒にある種の興味を持った。
いつの間にか目で追うようになり、話し声が聞こえれば自然と耳を傾けるようになり、質問に来る度にその小さな顔が醸し出す美麗なまでの端正さに驚愕させら れていた。
いつも綺麗に手入れがされた長い漆黒の髪が、揺れる度に放つ柔らかい香りに心を奪われていることすら、最近ようやく認めた事実で。
いつの間にかそんな存在に成り果てていた を、”愛しい”と感じるには時間は然程費やさなかった。
自分の仕事を手伝わせるという、職権濫用なぞ、それでこそ日常茶飯事で。






「 …我輩の笑顔など、見てからの方が夜眠れなくなるのではないのかね? 」



「 そ…そうかもしれませんけど…
 やっぱり気になるんです、スネイプ先生でも笑うことがあるのかな〜って。
 ほら、普段余りに、仏頂面血色喪失万年土気色の陰険根暗贔屓教授でも笑う事くらいあるかな…と。 」



「 …お前もまた、随分と無礼な言葉を口にするものだな。 」






眉間の皺を数本増やして、青筋が浮きだって見えるような雰囲気が言葉を発せずとも伝わってくるようで。
それでも、スネイプが怒鳴ったり、減点したり、叩き出したりしないのは、相手が だからであろう。
恋人同士ではないにせよ、スネイプは を気に入っている。
それが愛か恋か恋愛感情が形成するものかは良く判らないけれど、スネイプの中での の存在は、確かにある一定の基準値よりも上に位置づけられていた。
それを、 は心なしかうっすらと感じているのだろうか…最近、ふつふつとそんなことを考える。
容姿・行動・性格に意外にも似合わない位、スネイプはたまに優しくて暖かい言葉を掛ける。
スネイプの中に隠された”優しさ”の一面に気づいたとき…
は既にスネイプに心惹かれていた。






それ故に、最近切に感じることがある。
スネイプでも誰かに笑うことがあるのだろうか、と。
愛しいものを見つめて柔らかく微笑んだり、優しい表情をすることがあるのだろうか。
仮にもあったとしたら…
一度でいい、自分がその対象として見られてみたい、と。
叶わぬ願いであることが、十分に自覚できているからこそ、頼んでみたのだ。
作ったものでもいいから、
”自分に向かって微笑んで貰いたい”
と。







「 先生、お願いします。私を助けると思って…! 」






諦めの悪さはフレッドとジョージ並の
教科書をスネイプの机の上に置くと、顔の前で両手を合わせてそう言い放つ。
ご丁寧にも、台詞の最後に少し首を傾げて、スネイプを見つめて。
ホグワーツ内の生徒でなくとも、 のその仕草と笑顔が自分に向けられたら恋に落ちてしまう男性は少なくないであろう。
実際、作ったものだったとしても、 のその仕草には可愛らしさとあどけなさが巧い具合に混ざり合っていて不快な感情など湧き上がる兆候も無い。
そんな に、スネイプは大きくて深い溜息を付くこととなる。






「 助ける、と言われても困るのだよ、ミス
 我輩は役者でもなければ、人前で演技が出来るような器でもない。
 それ以前にだな、
 我輩が微笑む相手は”愛しい者の前”だと決まっているのでね。 」






諦めたまえ、
そう言おうとしてスネイプが山積みにされた実験器具の間から、顔を上げると、反射的に が顔を下にして俯いてしまった。
その瞳には涙すら溜まっていないものの、美しい顔は一面に哀の色が飾られていて、痛々しく切ない表情が見て取れる。
それを知られないようにか、知られたくないのか、スネイプが顔を上げると同時に俯いた
心無い台詞で を傷つけてしまったことへの罪悪感が、スネイプの心の中に湧き上がる。
と、同時に、何かが心の中で壊れる音がした。






「 … … 」



「 …え? 」






言われなれない、聞きなれないスネイプの台詞に、 は驚いて顔を上げた。
スネイプは誰のファーストネームも呼ぶことは無い。
それは も例外ではなくて、それを疑問にすら思ったことは無かったけれど、今、確かにスネイプは自分のことを

と呼んだ。
スネイプの唇から紡がれた言葉の発音が想像以上に綺麗で、 は心に暖かいものが走るのを感じた。
高鳴る心臓を押さえつける余裕も無く、顔を上げた は、其処に見た。
自分に向かって柔らかく微笑むセブルス・スネイプの姿を。
”愛しい者の前”でしか微笑まないと言っていたスネイプが、確かに今、 に向かって微笑んだ。
それは信じられない位の僅かな時間であったけれど、確かな事実で。






「 …満足かね…? 」






ふっと苦笑するように表情を緩めたスネイプは、瞳にうっすら涙を溜めた の元へ行くために、実験器具の中から抜け出す。
ゆっくりと歩み寄るスネイプは、何処と無く何時もの険しい表情を浮かべてはいたけれど、瞳は明らかに柔らか味を帯びていた。
スネイプの問いかけに必死に首を縦に振るだけの を見つめてスネイプはこう問うたという。






「 宜しい。
 では、 はどうなのかね…? 」






勿論、 の返事は、言うまでも無いことで。







□ あとがき □


「花籠」さんへ提出するために書いた教授夢の…ボツ作品です(笑)
これも同じく「あなたの微笑み」で書かせて頂いたんですが…
なんだか、文章が雑で汚いですね…要反省。
なんで教授は素直に愛を伝えられないかな〜!!!
っていうような葛藤の中に生まれた
「愛しい者はお前だ」
の伝え方。
…これで気づく人って…結構奇特な気がするのは稀城だけでしょうか(笑)
私はたとえ勘違いであっても、その奇特な人間に含まれます!!(←爆笑)





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