眠れぬ夜は君の所為






「 この時間に寮に戻るのは危ないから…、
 今日は泊まって行くよね?」






微笑んだままのルーピンは、読書に没頭していた に、声を掛ける。
気づけば大分時間が経っていて、時計の長針と短針はぴたりと最上部に重なり合っていた。
膨大な量のレポートの添削作業に思ったよりも時間を取られ過ぎたルーピンも、静かに読書していた も、周りが暗闇のベールに包まれていた事に気づいてはいなかった。
静寂が支配しきった空間で、思い思いの作業に時間を費やし、お互いがお互いを邪魔をする理由もなくて。






「 …あ…。
 私、見つからないように帰るんで、大丈夫です」






パタンと小さく音を立てて、 は顔を上げた。
にっこり微笑んだままのルーピンと目が合い、そう小さく告げるとルーピンは一瞬酷く悲しそうな顔をする。
はいつもそう。
どんなに暗くなっても、次の日が休みであっても、 はルーピンの部屋に泊まるということは無かった。
初めは、「行き当たる恋人同士の愛情表現」に行き着くのが厭なのだとばかり思っていたルーピンも、それが正当な理由でない事に薄々気づき始めている。
この間も、話に夢中になって時計が10時を回っていた。
泊まる事を薦めるルーピンを他所に、 は”泊るなら一日中起きている”と言って聞かない。
結局、その日ルーピンは を寮まで送ることとなった。
そんな事が頻繁に起きるようになり、流石のルーピンも、 が部屋に泊らない理由が気になりだしてくる。
”君に手を出さない、一緒に寝るだけだから”
そう言ってみても、 は決して首を縦に振ることは無かった。






…、そろそろ教えてくれないかな?
  が私と一緒に寝てくれない本当の理由。」






ルーピンは椅子に座ったままで、 はソファーに腰をかけたままでお互い暫くの沈黙が流れた。
カタカタと風が通り過ぎる音が室内の静寂さを物語り、パチパチと飛び散る火の粉がそれを際立たせる。
さらりと流れる漆黒の髪が肩から滑り落ち、 が口を開く。






「 …ルーピン先生、笑いませんか…?」






ルーピンの執拗な言葉に観念した は、尋ねる様にそう告げる。
”大丈夫だよ”
そう言うように、さっきとは比べ物にならない位の笑顔を浮かべるルーピン。
その表情から、知らず知らずに滲み出る優しさに はぎゅっと掌を握る。






自分でも、気づいていた。
断り続けるたびに、ルーピンが悲しそうな表情を浮かべて、自分の所為ではないかと悩んでいることを。
”ルーピン先生の所為じゃない”
そう何度も言葉で告げてみても、実際に一緒に寝ることが無い時点でそれは気休め程度の意味しか成していない。
回数を重ねるごとに、日数が経つ度に、言われるルーピンの心も、告げる の心も限界に達していた。
ルーピンは、今回の件で怒ったことも、怒鳴ったことも、厭味を言ったことも無い。
ただ、悲しそうに微笑んで、 を寮まで送ってくれて、額にキスをしてくれる。
そして翌日にはまた何も無かったようなあの笑顔で接してくれる。
そんな優しさに、これ以上甘えてはいけないと思った。






「 私、両親を…ある人に殺されたんです… もうずっと前で、私が凄く小さい頃で…
 でも、断片的に覚えてるんです、その日のことを」






振り絞るように紡がれるその言葉に、ルーピンはただ静かに耳を傾けていた。
冷たくなって味の落ちたミルクティーに口を付けることも無く、机の上に組んだままの両腕もそのままで、静止した画面上の人物の様に其処に居る。
はずっと俯いたままで、握り締めた拳が小さく震えていた。






「 とても風の強い日で、深夜に起こったんです。
 私は物音で目を覚ましてしまって…でも、怖くてベットから出られなかった。
 両親が亡くなったあの日以来…私は暗闇が恐いんです」






”だから、真っ暗なところでは、眠れ無いんです”






そう最後の言葉を言った後、 は顔を上げた。
と、同時に、音も無く傍に近づいたルーピンによって抱き締められる。
ルーピンが何か言葉を掛けたわけでは無いけれど、ただ震える体を抱き締めるだけだけれど…
それでも、其処から伝わるルーピンの温もりが全ての優しさを物語っていた。
ふわりと柔らかく香る髪を優しく撫で、
”辛かっただろう?”
そう言葉に出す代わりに額にキスをする。
強く抱き締めたままで、 の震えが収まるまで、ルーピンはただ其処に居た。






「 明るい処でなら寝れるのかい?」






震えの止まった の体を抱き締めたままで、ルーピンは聞こうと思っていた疑問を投げかける。
けれど、 の口から出た言葉は意外すぎるほどに意外なもので。






「 いえ、ちゃんと暗闇で寝れます。
 スネイプ教授に、薬を作って頂いて…それを毎日飲んでるんです。
 だから、その薬があれば寝れます。
 入学した時からずっと、お世話になって…」






柔らかく笑ってそう言った は、言ってしまった自分の言葉に後悔する事になる。






「 …セブルスに…?
 あの陰険根暗男の処に定期的に通っているというのかい?」






声は何時も通りに優しい口調だけれど、最初の一言には物凄い冷たさが感じられてた。
そういえば…、と は思い出す。
ルーピンに聞かされた、スネイプとルーピンの学生時代の劇筝の話を。
学生時代の話をする時のルーピンは凄く楽しそうで、懐かしそうで…悪戯の話がメインだったけれど、その中でも出てくる魔法薬学教授の名前。
それを紡ぐ時だけはどこと無く黒いものが垣間見れる気がするのは、どうやら気のせいだけでは無いらしい。
ルーピンの脱狼薬を作っているのは確かにセブルス・スネイプ。
薬を作る腕はルーピンも認めているけれど、自分の恋人が頻繁に彼の元を出入りするのは至って気に入らない。






「 もう、セブルスのところになんて行かなくていい。
 私が直してあげるよ」


「 え…?きゃっ…」






何処と無く挑戦的なルーピンの言葉に首を傾げた が、ぐら付いた身体に驚いて声を上げた。
気づけば、自分はルーピンの腕の中にすっぽり埋まっていて、ソファーにはクッションしか残っていなかった。
しっかりと抱かかえられているとは言え、小さな が長身のルーピンに抱き抱えられるのはどうも慣れることが出来ない。
首に腕を回すよりも、服を掴んでいた方が安定感が出る は、ぎゅっと其処を掴む。
進められる足先が、寝室のほうに続いているとしても、もう否定の言葉は紡がない。






バタン…と短く閉められる扉の音を遠くで聞きながら、ベットに横たわらせられる。
上着をバサリと床に落とし、シャツのボタンを上から二・三外しただけのルーピンも、 と同様にベットにあがる。
柔らかく沈むベットの感触に、慣れない は固まるばかりで。
初めて入るわけではないけれど、一緒に寝るのは初めてのことで、どうしていいのか判らない。
もともとラフな格好にローブを羽織って出てきただけな は、そのままの格好でも十分安眠出来る。
それを知っているのか、ルーピンが、部屋の照明を落とす。
部屋には淡く燈るベット脇のスタンドの灯りだけ。






…、おいで」






元々二つに折られていた掛け布団を手繰り寄せながら、ルーピンが先にベットに横になる。
のほうに横向きになって、スタンドライトと同じくらいに柔らかく微笑むルーピン。
おずおずと傍に近寄ると、ぐいっと腕を引かれて引き寄せられた。
腕枕をするように の首に腕を回すと、さらに身体を引き寄せる。
手繰り寄せた掛け布団を上までかけてやると、ルーピンはスタンドライトを弱にする。
ぼんやりと室内がぼやけて、少しだけ暗闇に近づく。
それでも、 には恐怖らしく、縮こまったまま、頑なに動かず、ルーピンのシャツを掴んだままで。
どうしても恐怖が支配するのか、救いを求めるように は頭上のルーピンを仰ぎ見た。






「 大丈夫。
 私はずっと此処に居るから、安心しておやすみ」






ふわりと微笑んだルーピンは、優しくそう言って、 の額にキスを落とした。
微妙な暗闇を感じるのが、恐いのか、 は小さくルーピンに”おやすみなさい”と告げて、ルーピンの胸に顔を埋める。
まるで小さな子供が、母親に甘えるように。
そんな の行動に、ルーピンは小さく笑って、”おやすみ”と告げる。
が握り締めたシャツが緩むまで…
の身体の震えが収まるまで…
から規則正しい寝息が聞こえるまで…
が安心して眠れるまで…
ルーピンは優しく髪を撫で続けて、強く抱き締め続けた。






腕の中で安心しきって眠る、愛しい恋人に優しく口付けてから…
ルーピンも静かに瞳を閉じた。
が暗闇でも眠れるようになるのは、もう少し先のこと。
それまで毎日のように、ルーピンは を抱いて眠りについたという。








□ あとがき □

きょえー!!!なんだかルーピン先生、黒いんだか白いんだかわかんない(爆
これ、絶対裏で書けそうですよね…

「 眠れないなら、寝れるようにしてあげる…
 今夜は寝かせないよ」

とか(←死
最近ルーピン先生を書くのが楽しくて仕方ありません。
同じようなネタでも、殿下や教授とは違った感じになるものだとふつふつと実感。



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