「 Candy Kisses 」
その日、は酷く上機嫌だった。
硝子瓶一杯の色取り取りの丸い玉。
少しざらついた丸い玉の表面を覆う、粉砂糖。
どれもみな、美味しそうにふんわりと甘い香りの漂わせている。
「今日はどれにしようかな〜♪」
高級そうな革張りのソファーに座ったは、うっとりと瓶の外側から品定めをするように覗き込む。
それはどれも本当に美味しそうで、きらきらと輝きさえ放っている。
15cm程の半透明の瓶いっぱいに詰め込まれているのは、甘い香りを放つCandy。
どれもみな、手作りのようで、大きさは微妙に合っては居ない。
「取り敢えず、美味しそうなオレンジ色の貴方からv」
嬉しそうにそう言ったは、硬く閉じられた上蓋を取り外すと、一番上に置かれていたオレンジ色のCandyをそっと取り出す。
触れると、粉砂糖がはらはらと瓶の中に落ちて行く。
Candyを掴んだ親指と人差し指に微かに砂糖が付き、それも取り去るかのごとく、一緒に口の中へ放り込む。
瞬間、甘くて爽やかな、バレンシアオレンジの風味が口一杯に広がる。
「美味し〜vvやっぱり選んで正解だった〜♪」
「…Candy一つでそれだけ幸せになれるお前は幸せだな」
瓶を見つめながら、幸せそうに笑うを見て、少年は微かな溜息を漏らした。
が座っているその向かい側で、沢山の古書を開きながら羊皮紙を書き連ねている少年。
怪訝そうに眉を顰めてみるが、当のは嬉しそうに微笑んだまま、「セブルスも食べる?」と促す。
「…要らん」
「美味しいのに。」
残念そうにそう言ったは、瓶をテーブルの上に置くと、頬杖を付きながらセブルスの動向を観察し始めた。
二人が居るのは、スリザリン寮の談話室。
少し暗めの照明は、セブルスとしか映し出さない。
周りは異常に静かで、二人の…基、セブルスの勉強の邪魔をするものは誰一人居なかった。
…前に座って幸せそうにCandyを食べているを除いては。
彼女、・は、セブルス・スネイプの恋人…等ではない。
ホグワーツに入学して、既に2年経つが、年明けに有った魔法薬学の授業でコンビを組んだ時に初めて言葉を交わした程度。
いつも寮隔てなく色んな人に囲まれていたに、セブルスは声をかけようと思ったことすら無かった。
授業が無ければ、このまま一生何も起こらずに過ぎていくものだろう…と。
けれど、セブルス自身、彼女を毛嫌いしていたわけでも、苦手としていた訳でもない。
寧ろその逆で、セブルスはホグワーツに入学して以来、ずっとを見ていた。
廊下ですれ違えば、弱い自分の心はドキリと早鐘を打ち、隣の席に彼女が座れば心臓の音が聞こえやしないかと脅えるくらいで。
それは、世間に言わせれば、淡い恋心なのかもしれない。
しかし、セブルスがそれに気付くのは、大分後のことだった。
通っていた図書館の往年のフランス文学作品のある一冊を読んだ時…
自分のに対する感情は「恋」なのだと知らされた。
そして、その文学作品の内容は…
『初恋は実らない』
それがメインに書かれたもので。
自分がに恋をしている、と間接的に知らせれたことへのショックよりも、
「初恋は実らない」という定説を知って、愕然とした自分自身に、嫌気が差した。
微塵でも…
「この恋は実るかもしれない」
と心の片隅で祈っていた自分に、落胆させられた。
屈託の無い笑顔で笑う、スリザリンのマドンナ的存在の。
彼女を手に入れたい…
そう思い始めたのは、この恋に気付いてからで。
この恋に気付いたのは、
とはじめて言葉を交わした日で。
には誰か他に好きな男でも居るのだろうか。
もし居るのだとしたら、それはどんな男なのか。
この笑顔を、自分だけのものに出来る幸せな男は誰なのだろうか。
そんな事ばかりが、ぐるぐると頭の中を駆け巡っては消えていく。
の顔を見るだけで、胸の奥が、苦しいような切ないような、締め付けられるような感覚すら憶える。
それでも…
それでも、
セブルス・スネイプは、だけを見ていた。
「セブルス、勉強楽しい?」
「…楽しいと思ったことは無いが、楽しくないと思ったことも無い」
「 ふーん…。
じゃあ、勉強好き?」
「…嫌いではない」
単語の投げ合いのような会話は、果てなく続くようにも思えた。
が質問を投げ掛け、それにセブルスが答える。
いつもそう。
魔法薬学の授業中のやりとりもこんな感じであれば、たまに談話室で一緒に話す時もそう。
いつもが何かを話し掛け、セブルスがその返事を出す。
セブルスが質問を投げかけることも無ければ、話を無視することも無い。
「…じゃあ、私のことは、好き?それとも、嫌い?」
「…は?」
初めは冗談だろうと思っていた、セブルス。
聞きなれない単語がの口から出た瞬間に、ぶちっと羊皮紙に押し付けた羽根ペンからインクが溢れ出る。
それは、みるみる羊皮紙を黒く濁して行った。
慌てて顔を上げてみれば、以外にもの真面目な顔つき。
じっ…と自分を見つめ、瞳を反らそうとはしない。
その眼差しから、口にしたことは、真面目に聞いているのだと受け取ることが出来る。
漆黒の淀みの無い眼差しが、自分を一心に見ている。
「…私は…」
どうせ、何時か真実を知らされる日が来るのだから。
こんな機会を与えられなければ、自分は気持ちを話すことも、打ち明けることも無かっただろう。
初恋など、実らないと言われているのなら、さっさとケリを付けてしまったほうがどんなに楽が。
ただ、
「Loves」
の一文字単語を並べれば言いだけのこと。
五文字のアルファベットを並べたら、伝わること。
けれど…
その単語を口にすることは、何だかとても勇気が要ることで。
喉の奥まで来ているのに、其処から先、音となっては響かない。
「…いたっ…」
がりっ、という何かを齧る音と、パキン…という何かが割れる音。
重なるようにして聞こえたのは、が小さく目を細めて、そう告げた事。
きっと、舐めていたCandyを歯で壊したのだろう。
は舐め始めて暫く経つと、必ずそういう行動に出る。
小さくなったCandyを歯で壊し、音を立てながら噛むことが好きらしい。
よく、有ることだった。
けれど、始めて見た出来事は、
が声を上げたことと…
もう一つ。
声を発したの口元から、紅い線がすっと下に落ちる。
鮮やかな夕日のようなその色は、真っ白なの肌に良く映えて。
間接的に、が欠けたCandyで、咥内を切ったことが判る。
それを見たセブルスは、ソファーに座ったままで、をそっと引き寄せる。
大して大きくも無い談話室の机の縦の距離は、二人を遮る物とは成りはしなかった。
「…きゃっ」
セブルスの冷たい指が、そっと顎に掛けられ、直に肌に触れてはビクリと身体を震わせた。
そして、次の瞬間…。
セブルスは、懐から丁寧にアイロンの掛けられたハンカチを取り出すと、流れ落ちた紅い筋を、優しく掬い取るように口元に当てる。
淡いグリーンのハンカチが、赤に染め上げられる。
痛みを感じさせないように、そっとハンカチを退けると、セブルスは…
引き寄せた桃色の唇に、そっと口付けた。
それは触れるだけの優しいキスで。
夢を見ている一瞬の出来事のようで。
映画のワンシーンのように、異様なほどゆっくりと時間が流れる。
触れたときと同じように、そっと唇を離すと、
セブルスは、顔を朱に染め上げながら、こう返事を返した。
「 …もしも、この感情に名前をつけるならば…
”恋”だろうな。
私はお前が好きらしい」
それは余りにぶっきらぼうな告白で。
それでも、彼には精一杯の告白で。
瞳をあわせることが酷く恥ずかしいのか、セブルスはそのままソファーに座ると、真っ黒になってしまった羊皮紙を取り替えようと手を掛ける。
「 なんだ。
じゃあ、”初恋は実らない”ジンクスなんて、無かったんじゃない」
「 …なんだと?」
手にした羊皮紙が、ぐちゃっ、と音を立てて、捩れる。
意外なの言葉に、セブルスは思わず捨てようと掴んだ羊皮紙を握ってしまったらしい。
「 だって…
私の初恋はセブルスだもん」
そう言って微笑んだ。
その笑顔を見つめながら、心の中で、セブルスは
「それは私とて同じこと」
そう呟いた。
けれど、その言葉が音となっての耳に届くことはない。
その日以来、とセブルスが一緒に居るところを目撃する者が非常に増えたという。
けれど、誰一人として、
「セブルス・スネイプが彼氏?」
とは聞かなかったという。
…正しくは、『聞けなかった』のだが。
■ あとがき ■
サイト開設お祝いを兼ねまして、優月 姫乃叶様へ捧げますv
リクエスト内容は…
・セブルス少年&初恋
やっぱり、難しいですね、セブルス少年。
書くのは二回目なんですが…どうも、しっくりきません。
そして一番悩んだのが、第一人称。
教授=「我輩」なんですが
セブルス少年=???
みたいな状態で(笑
結局は稀城の独断と偏見で「私」になっちゃいました(苦笑
このキスシーンは…稀城の憧れのキスシーンだったり…(己は。
こう、よくないですか?!飴で舌を切ってしまって…
はい、以下自主規制です。
それにしても、ネーミングセンスの無さには泣けます(汗
こんな夢ですが、貰ってやってくださいませ。
これから、ますます姫乃叶さんのサイトさんが発展しますように…v
++++ この作品は優月 姫乃叶様のみお持ち帰り可能です ++++
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