Sweet Valentine
結局…こうなる。
「…はぁっ…」
は本日、通算何十回目かのため息をついた。
握り締めた麻紐の紙袋の中には、綺麗にラッピングされた小さな箱。
淡いブルーの箱に、同じ色のリボンを三つ重ねて縛ってある。
見るからに、誰かに渡すためのもの。
「これだから寮が違うと困るのよ。」
平日なのに、早起きして、同室のリリーと一緒にチョコを作った。
今日はバレンタインデー。
恋する乙女たちが、各々の想い人に想いを乗せたチョコを届ける日。
遠きイギリス・ホグワーツにもこの習慣はきちんとあるのか、昨夜リリーに
『チョコレート作るなら、一緒に作りましょうよ』
と言われ、素直に頷いた。
リリーは愛するジェームスに出来立てのチョコを届けるために、先ほど部屋を出て行った。
リリーとジェームスは同じグリフィンドール寮で、おまけにホグワーツ内の人間全てが知るほどの公認の恋人同士。
けれど…
がチョコを渡したい相手は…
敵対する寮、スリザリンの…
「マルフォイ先輩…!」
とっさに口から出た言葉は酷く小さなもので、自分以外の誰かに聞き取れるようなものでもない。
慌てて片手で自分の口を押さえた
は、遠くの木陰に見える、想い人と女生徒との姿を目撃してしまっていた。
遠目でも見える、鮮やかなグリーンの制服に身を包んだスリザリンの女生徒。
彼女のことは、学年の異なる
ですら、噂を耳にするほどだった。
容姿端麗、頭脳明晰、品行方正、玲瓏麗容な名家の令嬢。
が口に出したくないほどに嫌いな彼女は、ルシウス・マルフォイの恋人だと噂される位の存在だった。
事実、彼女はルシウスの事を想っているらしく、コバンザメの様に纏わりついているのを
もよく見ていた。
その、彼女が…、
聖なるバレンタインの夕暮れに、ルシウスと二人で会っている。
誰かに見つかりはしないかと辺りを伺いながら、息を殺してみていると、案の定、彼女はルシウスに何かを手渡す。
それは自分とは比べ物に成らないほどの高価そうなラッピングの施されたもので、淡いピンクのラッピングがされていた。
自然とため息が出て、受け取るルシウスを見るくらいなら、部屋に戻ろうと踵を返そうとした、矢先。
視線の先に
は、受け取らずに小さな箱を突っ返すルシウスを見た。
「なん…で…?」
そう思ったのはきっと
だけではないはず。
けれど、立ち尽くす彼女をそのままに、ルシウスは自分とは逆方向に歩き出す。
これでよかったのか、悪かったのか。
受け取って欲しくはなかったものの、彼女の物を受け取らないとなると、敵寮の
のチョコなど受け取る筈がない。
…受け取って…くれないよね。
そう心の中で決め込んで、
は傍にあったゴミ箱へラッピングの施したチョコを投げ入れる。
彼女と同じように突っ返されるならば、自分から捨ててしまおう、と。
今までずっと片思いでいたのだ。
これからも片思いでいればいいだけのこと。
それは意外な程に簡単なことで。
頬を伝った僅かな涙は、弱い自分への戒めのようで。
それでも、手の甲でぐいっと拭うと、リリーの待つ部屋へと歩き出す。
* * *
「
、チョコは渡せたの?」
「……捨てちゃった。」
笑顔で聞いてきたリリーに、笑いながらそう答えると、さっさとベットにもぐる。
リリーのことだ。
癇癪を起こすまでも、何事か、と問い詰めまくるだろう。
今の自分に話すことなど、話せることなど出来るわけがない。
早く忘れてしまいたい。
チョコを作って渡して考えた未来なんか。
「…おやすみ、
」
小さくそう聞こえたリリーの声は、酷く悲しさを帯びていた。
それでも、振り返ることも返事をすることもないまま、
は布団を頭まで被ると、意識を手放した。
* * *
どれくらい時間が過ぎただろうか?
夕食も食べていない
は空腹感と微かな物音を感じて目を覚ました。
辺りは真っ暗になっていて、手手繰りでベットの脇にあるスタンドに灯りを点すと、サイドテーブルに羊皮紙が置いてあるのが見えた。
急激な灯りで視界がぼやけるのを必死に堪えて、手繰り寄せたその紙には、たった一言、
『 Dear.
みんなでバレンタインのパーティをしましょう!
ジェームス達と先に行ってるから目覚めたらこれを使って来てね。
場所は ”夕凪の杜”
From リリー・エヴァンス 』
そして、その脇には丁寧に畳んだ透明マント。
リリーの事だから、ジェームス達に頼んで自分を励まそうとしてくれたんだろう。
そう勝手に決め込んだ
は、羊皮紙を畳んでポケットにしまいこむと、透明マントを被って外に出た。
辺りは既に夕闇を超えていて、月と星の輝きだけが辺りを一面に照らし出していた。
澄んだ冬の空気は肌に突き刺さるほどで、少しの寒さを感じはしたが、それでも、この先に待っているだろうジェームス達との楽しい一時のために、
の足取りは意外な程に軽かった。
「…誰もいないじゃん…!!」
急いで夕凪の杜に来たというのに、透明マントを取り去ってみれば、誰の姿も見えはしない。
自分の情けないような声だけが、延々澄んだ空気の中に木霊する。
きっと、余りに来るのが遅かったから、リリー達は別な場所に行ったのだろう。
もしかしたら、ジェームス達の部屋かもしれない。
それならば邪魔は出来ない、と再びマントを被って寮に戻ろうとしたとき…
遠くで微かに声がした。
「…済まない、呼んだのは私だ」
聞き覚えのある声に、マントを被りかけた間抜けな格好のままで
は後ろを振り返る。
うっすらとした月明かりに照らし出されたその姿は…、
「……マルフォイ…先輩…?!」
余りの驚きに、手にしていた被りかけの透明マントをばさりと地面に落としてしまう。
暗がりで、よく見えなかったとしても、見間違うはずがない。
この澄んだ透明な声、気品漂う高貴な姿。
名家マルフォイ家の純粋なる血を受け継ぐ、ルシウス・マルフォイ。
…が、どうして此処に?
そう問い尋ねようとしたら、気まぐれな冬の風が吹きすさんで来る。
透明マントだけを羽織ってきた
は、自分のコートなど持ってきている筈等なくて、寒さに身体が震えた。
悪寒が一気に身体を駆け抜けて、ぶるっと身震いした瞬間に、暖かいものが身体を包み込む。
「 だ、駄目ですよ!
先輩風邪引いちゃいますよ!!」
自分にかけられたローブは、紛れもないルシウスのもので。
着た事どころか、触れた事すらないグリーンのスリザリンの制服は、思いのほか、暖かかった。
薫ってくる優しくて甘い香りは間違いなくルシウスの香りで。
包み込まれるようなそのぬくもりに、また夢を見そうになる。
- 私には借りてきた透明マントがありますから… -
そう言った、
がルシウスのローブに手を掛けたとき…
その手はルシウスによって制止された。
「他の男のローブなど…!」
「…はい?」
一瞬、ルシウスが何を言おうとしているのかが判らなかった
はそう聞き返す。
それでも、寒そうにしているルシウスにローブを返そうと端を持ち上げたとき、コトン…と小さく音がして、何かが、ルシウスのコートから落ちた。
「あ、すみません……、って…コレ…」
落ちた物を拾った
は、暗がりの中、落ちたものが一体何かは判らなかった。
けれど、拾い上げて、月夜に映し出されたものは、
がとてもよく知っているもので。
淡いブルーのリボンで結わえられた小さな青い箱は、確かに
がルシウスに渡そうとしていたもので。
……ゴミ箱に、捨て去った筈の物で。
「人から貰ったものだ」
その台詞に、はじめは全く同じ別物だと思っていた
。
けれど、箱に貼り付けられた小さなカードは確かに自分の書いた文字で『Dearest.Lusius』と書いてある。
確かに、自分が夕暮れ時、ゴミ箱に捨てたもの。
「 でも、これ…ゴミ箱に…
もしかして、リリーが拾ったとか?!」
それで、届けたのかもしれない、ルシウスに。
きっと、律儀に返しに来てくれたのだろう、あの人にしたのと同じように。
本当に、余計なことをしてくれる。
けれど、これですっぱり忘れられるかも…
そう思ったら、なんだか心が晴れたような気がした。
いつか知る現実なら、早いに越したことはない。
けれど、返ってきた言葉は意外過ぎるもので…。
「エヴァンスは教えてくれただけだ」
「 そうなんですか…へぇ……って!
じゃあ、これ一体何処で…
まさか先輩があのゴミ箱から…?!」
いや、そんなことがあるはずがない。
ジェームスや、シリウスならばともかく…あのルシウス・マルフォイが、ゴミ箱に手を突っ込んで何かを探す姿など想像できるものではない。
きっと、誰かが拾ったものか、捨てるときに零れたものを拾っただけだろう。
一介の…しかも、グリフィンドール生であるはずの私なんかの物を拾う何処か探す筈すらない!
「結構、苦労したが」
聞こえた言葉はわが耳をはなっから疑うもので。
けれども、紡がれた言葉は、確かにルシウスの唇が紡いでるもので。
「だ、駄目ですよぉ…、マルフォイ先輩がそんなことしたら…!」
今日、涙が頬を伝ったのは二回目。
嗚咽さえ出なかったものの、あふれ出た涙はとどまることを知らずに次から次へと溢れ出る。
「 泣くな。
泣かせるために呼んだわけじゃない」
涙を拭ってくれる繊細な細い指。
困ったように微笑んだルシウスを、
は初めて目の当たりにした。
目を丸くしてただ見上げることしか出来ない
。
瞬間に、強くその腕に抱き締められる。
「せんぱ……い…」
「 …
、
好きだ、と言ったら笑うか?」
耳元でそう呟かれて、再び涙が頬を伝った。
キツク握り締めていた手のひらは、自然とルシウスの背中に回っていて。
それに気づいたルシウスが更に強く
を抱き締める。
ローブから薫ってきた香りよりも遥かに甘くて柔らかい優しい香りが
を包み込む。
「駄目ですよ、今日はバレンタインなんだから、女の子が告白するんです」
強がるようにそう言ったら、耳元で、ルシウスが低く笑う。
「 チョコを渡そうとした時点で告白だろう?
私は一足早く返事をしたまでだ…」
「…じゃあ、私達、恋人同士ですね」
「そうだな」
再び強く抱き締められて、
は胸が熱くなるのと同時に、三度目の涙を流した。
抱き締められたぬくもりは、夢なんかじゃなく、本物で。
目の前にいるのは、確かに自分の想い人で。
抱き締めてくれるその腕は、確かに自分だけのもので。
耳元で囁いてくれる甘い声は、自分の為だけのもので。
その夜、ルシウスと
は先生に見つからないように、透明マントに身を包んで寮へと戻っていった。
けれど、
は透明マントの下に、ルシウスのローブを見に纏っていたことは説明するまでもないだろう。
寄り添って歩きながら、
『明日リリーに会ったら報告とお礼をしなきゃv』
そう思っていた
だったが…、まだまだ彼女は甘かった。
夕凪の杜の木の上に、リリーを初め、ジェームス・ピーター・シリウスが息を潜めて一部始終を見ていたことは…ルシウスだけが気づいていたことだった。
■ あとがき ■
バレンタイン特別企画、愛する牡丹との交換コラボレーション小説です!
ホワイトデーに、このドリームの続きを牡丹が書いてくれますから、皆様楽しみに!!
ヘタレな稀城よりかもかんなり素晴らしくわんだほーなドリが読めること間違いなしです!
牡丹、こんな夢でごめん。
そして、稀城の我侭を聞いてくれて有難うvvやっぱりだいすきだぁぁぁぁvvvvv
バレンタインなのに、甘くない…
そして、ありきたりすぎ!!
でも、それでも書きたかったんです、学生ルシウス!!
結構…いえ、学生セブルスよりも難しくて泣きそうでした。
台詞とか言い回しとか違うのは許してやってください!
これからまた、精進に励みますゆえ!!
ルシウスって…酷く柔らかくて甘い香りがする気がするのは私だけでしょうか(汗
甘いといっても砂糖とかの甘さではなくて…例えるならば、
「シャネルのエゴイスト」か「ブルガリのプルオーム」でしょう。
どっちも稀城の大好きなの香水だなんて…言えません(こら。
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