ゆらめき
帰れなくて 忘れたくて 愛した心が 痛くて…
「私はもう、先生の事を諦めます…
先生、サヨウナラ。」
それだけ言うと、
は部屋を出て行った。
しっかりと我輩を見据えていた瞳からは、初めて見た涙がある。
それを拭うわけでもなく、声を殺してただ
は泣いていた。
『スネイプ先生にと出逢った三年前に戻りたい』
そう言い残して。
急ぐわけでもなく、廊下を歩く規則正しい足音が消えた後で、ようやく我輩は手にしていた羽ペンを置く。
自然に出た溜息は、”ようやく彼女から開放された…”そんな安心感からだと最初は思った。
けれど、秒針が進むごとに頭を掠めるのは、
から告げられた”サヨウナラ”という言葉だけで、それが延々頭から離れようとはしない。
手を付けていた書き掛けの論文は、先ほどから全く進まずに、時間だけが無情に過ぎてゆく。
から、好きだと言われたのはもう何年前になるだろうか。
彼女が二年に進級する頃には既に我輩の部屋へと毎日のようにやってくる”変わった常連”になっていた。
グリフィンドール寮に在籍する彼女は、頭がよく、性格も温和で寮外に友人も多く居た。
そんな彼女が、恋をしたのが我輩だというのが不思議なくらいに。
「…
、済まぬがお茶を淹れてくれぬか?」
言ってから、はたと気付く。
彼女はもう居ない。
いつもなら、「先生が魔法で淹れた方がおいしいのに〜」と文句を言いながらも、紅茶を淹れてくれる。
いつもそうだ。
我輩の傍には、必ずといっていいほど
が居た。
屈託の無い笑顔で、非常に楽しそうに嬉しそうに我輩に喋りかける。
雨の日も風の日も、試験の日もいつだって彼女は此処に居た。
…其処にいたのだ…今日までは。
あの日 君の瞳から 僕は消えていた もう今さら 僕になにが出来るのか?
「チ…ッ!」
苛立つ、頭の中に霧がかかる、視界が真っ暗になる。
握り締めていたペン先に自然と力が入り、羊皮紙に押し付けるようになってしまって先が割れてインクが飛び散る。
パキン…と細かな音を最後に砕けたペン先は、まるで今の自分を映し出しているかのようで。
を追い駆ける事など出来ない、出来ようも無い。
我輩は心の中で、ずっとこれを望んでいたのだから。
『早く自分を忘れて、その瞳に自分以外の誰かを映すように』
と。
逃げであり、賭けでもあった。
自分は彼女を必要としてるのか、必要とされているのか。
彼女を愛してるのか、愛していけるのか。
自分に出来る事は『幸せ』にすることなのか『幸せになるために身を退く事』なのか。
泣き崩れる君を見つめ いつもより強く抱き締めたね でも 君は変わらない
「…どうしろと、言うのだ」
呟いたのは単なる独り言。
言ってみたのは気が晴れると思ったからで、自問自答したわけではない。
しかし、人間とは不思議なもので、声に出して気持ちを言えば、それが自然に出た言葉にせよ興味のない事柄にせよ、言った事について考え始める。
”思考する”という機能は非常に不便なもので、考え始めたら納得がいくまでそれを止めようとはしない。
「…好き、だと言うのか?
この、セブルス・スネイプが一介の女子生徒を?」
君の愛は もう無いの? 今になって気付くなんて 君を… 本当に馬鹿だよ、僕は…
「バカバカしい」
声が震えているのが判った。
自分で自分に言い聞かせているのだと。
好きではない、好きになるはずがない、好きになってはいけない、と。
けれど、思えば思った分だけ、
と過ごした日々が頭の中で蘇る。
季節外れの桜が舞い散る小高い丘で初めて出逢った日のこと。
授業中に大窯を爆発させてスネイプのローブを焦がしたこと。
クィディッチの試合に初めて参加させてもらえるようになったこと。
課題が判らない、と熱心に聞いてきたこと。
誰も目もくれていなかった温室のの世話を快く引き受けてくれたこと。
スネイプの為にお茶をいれ、お菓子を作ってくれたこと。
風邪をひいたスネイプを一生懸命に看病してくれたこと。
スネイプのことが、”大好き”だと言った日のこと…。
傍に居れるだけで”幸せ”だと笑っていたこと。
願いが叶うなら、”同じ世代に生まれたかった”と哀しそうに笑ったこと。
そして…”これで終わりにしよう”と言った日のこと…。
”これで終わりにしようか?” 君のことを 想うと 何故か涙が 流れてた
「…一体、何だというのだ」
頬を伝ったのは涙。
あの日、無くしていたと思っていた温かいものが確かに其処にはあった。
それは止め処なく溢れ出し、頬を伝っては下へと落ちる。
真っ黒になった羊皮紙の上にはたはたと落ちて、滲み、色が褪せる。
それはまるで、認めたくなかった自分の心を解かしていくかのようだった。
硬く閉ざして蓋をしていた自分の心を解かすように、自分で殺していた愛という感情を呼び覚ますかのように。
「それでも、もう…遅い」
愛を裏切りすぎたね 僕は 『もう三年前には戻れないの』 今は…?
口から出たのは否定の言葉で。
それでも、心と身体は真逆で。
放り投げてあったローブを引っ手繰るように掴むと、歩きながら羽織る。
珍しく足で蹴り破るようにドアを開けると、足早に廊下を渡る。
目指すべきは唯一つ。
探しにいかなくては、ならない。
迎えに行かなくては、ならない。
もう一度…、出逢わなくてはいけない。
何故二人は出逢ったの? 君に何を残せたの?また二人は出逢えたら… それまで 待ち 続けるよ
「
」
たどり着いたその先に、スネイプは彼女を見た。
桜の舞い散る小高い丘の上。
大木に持たれる様に寄りかかった彼女に桜の花弁が舞い散る。
はらはらと散るその桜は、弧を描いて彼女の髪に舞い降りるとそっと傍に寄り添った。
それはまるで、三年前のあの日のように。
「…スネイプ先生」
は小さくそう言った。
いつもの彼女からは想像も出来ないほどに小さく弱弱しい声で。
全てに絶望しかけていたあの頃の自分のように。
「
、我輩は…」
言葉が出ない。
今さらなんと言おう?
彼女は言ったのだ、全て終わりにしよう”と。
追い駆けなかったではないか。
引き止めなかったではないか。
むしろ、それを望んでたのではないのか?
別れを告げられて、愛していると自覚した等と、戯言を。
「スネイプ先生…、
最後に一つだけ聞かせて下さい」
「何かね?」
「もう一回…
私と出会ってもいいと思いますか?」
帰れなくて 忘れたくて 今まで以上に 無い 愛を…
帰れなくて 忘れたくて ”ゆらめく”ことの無い 愛を 君に…
微笑むように笑った
にスネイプはこう言った。
何も、言う必要など無いのではないか。
判らなくなったのならば、聞けばいい。
気付いたのならば正せばいい。
やり直したいと願うなら…、もう一度、出会えばいい。
「…其処で、何をしている?
授業中だぞ。
グリフィンドール生だな?30点減点」
「道に迷ったら此処に来ちゃったんです。
すみませんが…陰険根暗贔屓教師と呼ばれている"セブルス・スネイプ教授”をご存知ないですか?」
「…ほぉ…。
名はなんと言う?
本人を目の前にそのようなことが言える肝の据わったグリフィンドール生、
この心に刻んでやろう」
「…グリフィンドール一年、
・
です」
「宜しい。
では、ついてきたまえ。
特別に課題を与えてやろう」
そう言ってスネイプは手を差し伸べた。
それの手をにっこり笑った
が掴んだのは言うまでも無い。
ただ…、
が本当にスネイプに対してそう言ったかは…謎なままである。
□ あとがき □
始めに付け足します。
この色で書かれている詩は、
『ゆらめき』 / Dir en grey の歌詞の一部抜粋引用です。
稀城はこの曲もこのバンドも物凄く好きで、一度この歌詞を参考に夢を書いてみたかったんです。
微妙になってしまって判りにくかったかもしれませんが…意外に好きなんです、歌詞を参考に夢を書くことが。
なので、またいつかやるかもしれません(爆笑)
この曲は本当にイイ曲だと思いますので、興味が湧いた方、是非とも一度聞いてみて下さねv
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