Love letter






それはある一枚の手紙から始まった。




何時ものように、授業終了後、真っ直ぐにスネイプ先生の部屋に向かい、先生が淹れてくれた温かい紅茶を飲みながら、楽しく話をしていた時だった。
コツコツ、と窓を何かが叩く音がして、外を見ると、 が口に白い手紙を咥えて手すりに止まっているのが見える。






「ご苦労様v」






手紙を受け取り、そう言って頭を撫でてやると、 は嬉しそうに一声鳴いてから旋回するように回って空へと消えてゆく。
パタン、と窓を閉め、差出人の名前の書いていない手紙に”誰からだろう?”と首を傾げつつも、封を開く。






「…………」






其処に見たのは、余りにも懐かしい筆圧の懐かしい文字。
手紙は今からほんの半年前の、未だ が日本にいた頃付き合っていた人からのものだった。






「…誰からかね?」






無言のまま手紙を読み進める に対し、スネイプは日本語が全く読めない。
冒頭から全て日本語で書かれているその手紙をスネイプが横から見ても、誰からのものかも判らず、 はスネイプの質問に『んー…』とか『あ…』とか曖昧な答えしか返しては来ない。
然程気にはしていなかったスネイプが、冷えた紅茶を淹れなおそうかと、膝に抱いていた を横に下ろして、ソファーから立ち上がった瞬間、文末の紅い文字だけがやたらと目に付いた。






「……I Love you,I Miss you…??」






全て日本語で書かれているものだとばかり思っていたその手紙の最後には、何故か英語でそのようにかかれており、それを見つけたスネイプは詠唱する。
バッと がその手紙を懐に隠した処で、事態は何も変わる事はなかった。




…寧ろ、その行動が悪かったのかも知れない。






「いえ、あの…これは…」






「 …
 我輩は君を少々誤解していたようだ。
 我輩がいながら日本に恋人を作っていたとは…」






瞳は鋭利さを増し、声はいつになく不機嫌そうで、後ろからは黒い陰のようなものさえ見え始める。
見えはしないが、米神には無数の怒りマークを沿え、ちょっとつついたら血でも勢いよく噴出しそうな位の怒り様。
これは、何かを誤解している…。






「ち、違いますよ!!
 これは元彼からの手紙で、私は別に彼とヨリを戻す気なんてないんですから!!」







そう言って、しまった…と思った時は既に遅い時分だった。
今にもブチ切れそうだったスネイプ先生からは、 にだけは見せてくれる優しい雰囲気の欠片も感じられない。






「言訳は結構。
 すまぬが、顔を見ていると胸がムカムカしてくるのでな。
 さっさと出て行ってくれ」






くるりと背をむけ、スネイプは机の方へと歩いていく。
小さな嗚咽を漏らし始め、”スネイプ先生…”と言ってみるも、当のスネイプからは何の返答も無い。
小さな音をたて、スネイプが椅子に腰をかける。






「…さっさと出て行け…」






最後の忠告とばかりに低い声でスネイプは言う。
その声に、身体をビクリと震わせて、それでも はその場を離れようとしない。
それに業を煮やすスネイプ。
目に付く白い手紙は、更にスネイプの機嫌を悪くさせた。







「出て行けといってるだろう!!
 二度とこの部屋には立ち入るな!!」






再度怒鳴った声は静かな部屋中に響き渡った。
泣き始めた は、スネイプの顔を見る事もできずに、パタパタと部屋を掛けて出てゆく。
その足音が聞こえなくなった時、初めてスネイプは溜息をついた。






「……何をやっとるのだ、我輩は」






言ってみて、 が部屋を去ってみて初めて知った。
自分が大人気なかったことが。
何故に の話を聞いてやらなかったのか、と。
を泣かせてしまった。
決して泣かすまい、と決めた事だったのに、自分でそれを破ってしまった。
そしてもう…
取り返しは付かない。






* * *






あれから数日。
スネイプは授業でも相変わらずグリフィンドールから点を引き、ハリー虐めに熱が入っていた。
しかし、 を見ることは一度も無かった。
で、スネイプのほうを見ない、見ようとしない。
魔法薬学授業はなんだかんだで理由をつけては欠席し、廊下で見かけると、走って逃げていくという始末。
”二度と来るな”
その言葉どおりに はあれから一度もスネイプの部屋を訪ねては来なかった。
皆が顔をあわせる夕食時も彼女は席には居なかった。
スネイプの心の中にはだんだんと不安が過ぎる。
このまま、 を失うという不安。
が、あの日本の男の元へと行ってしまうのではないかという不安。
それらがぐるぐると回っては、スネイプの頭痛の種に成り果てている。






コンコン…と、久しぶりにスネイプの部屋がノックされる。
「空いている」
と告げれば、聞きなれない声で、「失礼します」と声が返ってきた。
誰だろうか、と疑問に思っていると、扉の向こうから現れたのは、 と同室のミス グレンジャーである。






「…何の用かね?」






怪訝そうに眉を歪めて見せても、ミス グレンジャーはたじろきもしない。
けれど何時もの、自信に満ち溢れた顔つきではなく、自分を蔑むような嘲るようなそんな眼差し。
一体何事かと問うて見れば、ミス グレンジャーは手に抱えた一冊の辞書らしき本と、我輩が見たくも無いあの白い手紙を机の上に放るように投げる。






「…何かね?
 我輩に現実を知れ、と?
 バカバカしい」






フンッと鼻で笑うと、我輩は自分の仕事に取り掛かろうと机の脇にある羊皮紙を手にとった。






「…私はスネイプ先生が嫌いです」



「…それは結構。
 次回のテストが楽しみだな、ミス グレンジャー」



「…でも、
  がスネイプ先生に誤解されたままだって毎日泣いてるから…
 ご飯も食べずに、部屋で泣いてるから…
 私の大好きな を泣かせるなんて、許さないから!!」






そう言い放って、ミス グレンジャーは我輩を見ようともせずに部屋を出て行った。
ご飯も食べずに…という言葉が引っ掛かったが、今さら にあわせる顔など無い。
しかし…
ミス グレンジャーは、”誤解されたまま”だとも言っていた。
一体何が誤解だというのだろうか?






「……」






手にとった羊皮紙を置いて、代わりに辞書と手紙を開く。
何故、拙い日本語で書かれた昔の男からの手紙を翻訳せねばならんのか、と思いながらも手紙を読み進めていくうちに、ようやくミス グレンジャーの言ってい た意味を理解する。






「…チッ」






一通り手紙に目を通し、乱雑に辞書を閉じてローブを乱暴に羽織ると箒を呼び寄せ窓から部屋を出た。
時刻は時期に、12時を回ろうとしている。
何故、あの時きちんと の話を聞かなかったのか、と愚問する。
愚かな自分の失態だけが延々頭に浮かんでは消え、また浮かぶ。






「… …」






久しぶりに見た愛しい恋人は、ミス グレンジャーの言うとおり、何も食べていないのか、最後に見たときよりも痩せている様に感じる。
魘されているのか、時折、苦しそうに寝言を言い、手を空へと伸ばす。
それが居たたまれなくて、スネイプは寝ている の傍に腰を掛けると、その手を握り、自分のローブを上から掛けてやる。
優しく髪を撫でてやれば、安心したようにすやすやと眠りに落ちていった。






「……」






最初は暗くてよく判らなかったが、寝ている の足元には幾つもの丸まった羊皮紙が散乱している。
一枚を手にとって見てみれば、それは がスネイプに宛てた懺悔ともいえる手紙の一枚であった。
何度も書き直しては、気に入らなくて捨てたのか、それはあちこちに転がっており、ベットの脇の机には、書きかけの羊皮紙と羽ペンが、そのままの形で転がっ ていた。






『 愛しいセブルスへ
 
 本当にごめんなさい。
 何と言って謝ったら、貴方に許してもらえるかも、
 私の気持ちが上手に伝わるかどうかも判らないけれど…
 あの手紙のこと、きちんと説明させてもらう為にも、
 もう一回、逢ってくれないでしょうか?

 私はセブルスだけを愛しています。
 その気持ちは、セブルスと出逢ったときから…
 今も、この先も決して変わる事はありません。
 でも、セブルスはもう、私のことなんて…






手紙は其処で止まっていた。
スネイプは、転がっていた羽ペンに新しくインクをつけて、その羊皮紙にさらさらと何かをしたためる。
そして、そのまま、寝ている の額に優しくキスを落す。
”オヤスミ、 …”
と優しく呟いて。






翌日。
スネイプの自室には、 の嬉しそうな笑い声が響いていた。
何時も通りの放課後。
スネイプの紅茶を飲んで、 が嬉しそうに話を始める。
そんな、ごくごくありふれた情景が、今日からまた繰り返される。






「…でね、ハーマイオニーったら、何て言ったと思います?」



「何かね?」



「…あのね…」






そして、 は幸せそうに笑う。
我輩も、幸せそうな をみて、嬉しくなる。
膝の上に を抱き、髪を撫でながら話を聞いてやる。






我輩の中で当たり前になったこの情景。
これが何時までも続けばいいな、と思う。






『我輩も…
  を愛している。
 出逢った時から、これから先も永遠に…』






スネイプがそう、羊皮紙にしたためた事は、 しか知らない。







□ あとがき □


いやはや、なんとも微妙なドリームですね(苦笑)
じつは、とある場所へ買い物へ行った際にたまたま思いついたドリームだったりします。
スネイプ先生と主人公を喧嘩させたい!!
という勢いで書いたものなので、本当に勢いだけになってしまいました(汗)
しかも、喧嘩も微妙ですし…
次は本格的に喧嘩させたいなぁ…と思ってますが、何分…甘々大好き人間ですので(笑)
先は遠いような気がします(オイ)





(C) copyright 2003 Saika Kijyo All Rights Reserved.


[ back ]