Place






そろそろだな…、と我輩は部屋の片隅にある時計を見ながら思った。
もうじき、小さな音がして時計の二本の秒針が交わり、時を告げるだろう。
何時も慌しく、駆け込むように入ってくる彼女の訪れを知らせるように。

いつもならば、彼女がやって来る10分前には、熱中していた書籍読みにも見切りを付け、部屋を何時もよりも少し温かくして、彼女の為に彼女の大好きな紅茶 を煎れてやる。
我輩が彼女にしてやれる事といったら、部屋を暖め、寒い廊下を走ってくる彼女の身体を温めるような紅茶を煎れてやることぐらいしかないし、それ以上は必要 ないようにも思う。
それは、決して彼女から強要された訳でもなければ、彼女が望んでいる訳でも無かった。
ようするに、固定化された我輩の日課なのである。

我輩は、彼女と同じ時間を共有して、”つまらない”などという低俗な考えは生まれない。
彼女はいつも楽しそうに笑い、自分の日常の話(大抵はミス グレンジャーとの会話だが)をし、彼女の話を聞いた我輩が頷くだけだったとしても、その日々は 変わることは無い。
彼女は、判っているのだと、我輩は自負している。
言い返したり咎めたりしない限り、自分は我輩の中で”特別な存在”なのだ、と。
実際、彼女は我輩の中で『特別』である。
彼女、…現在、スリザリン3年生の は、我輩の最愛の人なのだから。






しかし、今日はそんな の為に満足な紅茶一つ煎れてやることすら出来ない状況に居た。
取り合えず、魔法で紅茶を煎れようと、ローブの中に手を突っ込んで杖を出そうとした瞬間、聞きなれた心地良い石壇を駆ける音がして、部屋の扉がノックもな しに開けられる。
…それも、蹴り破るくらいの勢いで。






「…ミス  …、君は実家で人様の部屋の扉の開け方を、”ノックも無しに蹴り破れ”と教えられたのかね?それとも、故意で我輩の部屋の扉をぶち壊し たい、とでも?」






毎度毎度の恒例行事に溜め息しかでないスネイプは、半場呆れたように問う。
一方、扉を蹴破りかけた当の本人、 はスネイプの小言等、左耳に入って右耳に抜けました、と言わんばかりのシカトぶりで、静かに扉を閉めると、ソファーに腰を落ち着けた。






「…あれ?先生今日、誰かに恨まれるようなこと、しました?」






ソファーに座ってすぐさま がスネイプに問う。
先ほどの自分への質問はまるで最初から存在しなかった、かのように。






「ミス  、君は人の話を………。まぁ、よかろう。君が我輩の部屋の扉を蹴破る勢いで猪が如く突っ込んでくるのは何時ものことであるし。しか し、”恨まれる”とはどういう意味かね?」






失礼な…、と は思ってみたが、自分が毎回スネイプの部屋の扉を蹴破ってるのは事実。
いつか、本当に蹴破りそうなのもまた、事実。
だから、黙ってスネイプの質問に答える。






「…いえ、几帳面な先生が紅茶の用意をしていないなんて…。
きっと、何処かの寮から強引に減点したんでしょう?それで、誰かに椅子から立ち上がれないような呪いを…」


「…ミス  。君は我輩を相当ナメてるらしい。
仮にも、我輩はこのホグワーツの教師だぞ?一介の生徒如きの呪いなんぞ、受けるに価しないのだよ。
それに、我輩は椅子から立ち上がれない訳ではない」


「え?でも、先生私が此処に着てから一度も椅子から立ち上がってないじゃないですか」


「立ち上がっていないのではない、立ち上がりたくないのだ」


「…………はい?」






にはスネイプの言っている意味を理解できなかった。
呪いを掛けられている訳でも、立ち上がれない訳でもなく、立ち上がりたくない、のは一体何故だろうか、と。
頭に疑問符を並べていたら、スネイプがおいで、と誘うように手で を促す。
スネイプは、『立ち上がらない』と決めたのだから、きっと立ち上がることはしないだろう。
それならば、自分が行くしかない。
何故、スネイプが立ち上がらないのか、の理由を探るべく。






「…あ。」






我輩の前まできて、我輩を見た は小さく納得したようだ。
そして、その場に屈みこむと小さく微笑む。
それはそれは、可愛らしい顔で。






「先生、どうしたんですか、この子」


「…ダンブルドア校長に頼まれた。留守の間、預かって欲しいそうだ」


「可愛いですね〜♪あ、首輪に名前が書いてある…S…hr…ine…?シュライン?」


「…ああ。」






我輩の膝の上には生後2ヶ月前後の子猫が居る。
ダンブルドア校長がホグワーツで見つけた迷い猫だそうだ。
初めは飼い主を探していたが、一緒に暮らすうち、どうしても愛着が湧き、この子猫に”Shrine”という名前をつけ、自室で飼っているのである。
しかし、校長は魔法省に呼ばれ、二三日留守にしなければならなく、その間、この子猫の面倒を見るように頼まれたのだ…この、我輩が。





「でも、なんで、先生なんでしょうかね?」


「それは我輩の方が聞きたい」


「…きっと、先生は、動物には優しいんですよ」






それは一体どういう意味だ、と問うつもりだったが、視線を下ろした先で、 が楽しそうに子猫を見つめているのを見てそんな気持ちなど飛んでいってしまった。
がそう云うのだから、そうなのではないだろうか。
だが、一つ訂正させて頂く。
動物と には優しいのだ、我輩は。






「シュライン、駄目ですよ〜此処は私の特等席なんですから。私の場所、とらないでくださーい」



膝の上で熟睡している灰色の…確か、アビシニアン、と校長は言っていた。灰色の美しい毛並みとブルーの瞳を持つ、気高き猫の貴婦人、と呼ばれる種類の猫だ そうだ。
そのシュラインの小さい身体を…これまた小さく細い の指先が優しく撫ぜる。
その口調は、怒っている…というより、優しく諭すような感じがして、いつもよりなんだか が可愛らしく思えた。






「我輩の膝は我輩のものだが。」


「違いますよ〜。此処は私の特等席なんです。
誰がなんと言おうと、スネイプ先生の膝の上は私の居場所なんです!!」


「そうかね。では、君の特等席が子猫に取られて…非常に気に入らない、と」


「そうですね…。しかも、この子の為に私にお茶も入れてくれなかった訳ですから。
でも、そんな先生の優しいところ、大好きですよ…って、何言わせるんですか!!」


「……」






が少しばかり大きな口調になったと同時に、その声に驚いたのか、熟睡していたはずの子猫がぱちりと大きな瞳を現した。
小さな顔に大きな瞳。
それは子猫特有のもので、見ていると余りの愛くるしさに自然と顔が綻ぶのが判る。
みゃーお、と小さく子猫は鳴くと、ゆらゆらと立ち上がり、小さく伸びをすると我輩の膝から降りる。
…まるで、『次は貴女の番よ』と に語りかけるが如く。

我輩は、小さいとはいえ、朝から子猫を膝の上に乗せていた為、足は痺れてはいたが、 を乗せる位の負担は何でも無かった。
寧ろ、我輩も、彼女と同様、この膝の上は しか座らせないし座らせたくない。
今となっては子猫は別としても、我輩だって一日の日課であろうか を膝に抱いて後ろから抱きしめたいのだ。
抱きしめた時に感じる、子供特有の温もり、 の薫り。
それを感じるといささか安心する自分に、もう我輩自身慣れてしまっていたのだ、止められない麻薬のように。






一刻も早く抱きしめたい、と願っていたが、その瞬間はいつまでたってもやってはこなかった。



「じゃあ、これであそぼっかv」






は自身の結えていた綺麗な臙脂のリボンをするりと解くと、カーペットの毛でじゃれていた子猫の傍で、子猫と一緒に遊び始める。
最初は、両方が直飽きるだろう…と鷹を括っていたのだが、二人の遊びは一向に終わらない。
リボンに子猫がじゃれ、飽きたと思えば の指に絡みつくように身体を擦り、 はそれに応えるように子猫の身体を撫でてやる。
それが延々続いたような気がした。
二人が遊んでいるのだから、別に文句は無い。
我輩は読みかけの本に再び目を通しはじめることにした。






どれ位時間が過ぎただろうか…ふと気付くと、辺りは静寂に包まれていた。
積み重なっている本の隙間から除くと、暖炉の傍で丸くなって居る の傍で同じ様に丸くなっている子猫が居た。






「…どっちも子供ではないか。」






徐にスネイプは立ち上がると小さく呪文を詠唱して暖炉の火を消す。
の服のポケットにそっと子猫を入れると、起さぬように を抱き上げ、奥の寝室へと運んだ。
暫くして、スネイプの部屋から完全に明りが消えた。






「…我輩の場所は、子猫に奪われた、という訳か。まぁ、たまにはそれもいいだろう。」



「ただし…、お前がオスだったら、許しはしなかっただろうがな」






不敵な笑みとともに、スネイプは呟いて瞳を閉じた。
其処には、スネイプの腕の中に眠る 、その腕の中に眠るシュライン、という川の字が微笑ましく描かれている。
夜明けは未だ、遠い。
しかし、子猫の鳴き声で二人仲良く目覚めるのはそう遠い未来では無い。







■ あとがき ■
えー、これはうちの新しく来た猫Chanと遊んでいたときに思いついたお話です(笑)
唯単に、猫が書きたかっただけなんです(オイ)
でも、うちの猫の名前はシュラインじゃありません(笑) 漢字です、漢字。
『雪風』ってつけた、っていったら一体何人の人が判ってくれるのかしら(笑)
気になったSFを嫌悪しない貴女は「戦闘妖精・雪風」を読んで見て下さいvv


…なんていうあとがきなんだろうか…





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