君のためにできること
「…もう、全て終わりにしよう。これ以上…君の顔など見たくも無い。君は…何一つわかっ
てない」
この言葉を…私は酷く遠くで聞いていた。
肌を突き刺すような冷たい口調に感情の揺るぎも見られない丁重な響き。
感情の篭らないその声は、とても低く、聞き取りにくかった。
それでも、彼が決別の台詞を口にしたことだけは、私にでも判る。
それを悟った瞬間に、自然と涙が込み上げてくる。
「わかってる…分かってるわよ!!貴方なんて…だいっきらい!!」
自然と溢れる涙。
頬を伝うそれは酷く温かく、熱の立ち込める辺りよりも一層温かく感じられた。
震える手で、そっとそれを拭いながらも…涙は切なさに次々と溢れる。
「…
…」
先ほど聞こえた声と同じくらい低い声が私を呼ぶ。
冷たい口調だけれど、僅かに優しさが感じられる何時もの声。
私を”
”と呼ぶ、私だけの貴方の声。
私が大好きな、貴方の声。
「…スネイ…プ先生…」
涙で濡らした瞳で必死に彼を見る。
嗚咽を漏らし始めたこの喉は、もはや使い物にならないくらいの掠れを伴ってようやく言葉を紡いでくれた。
先生は困ったような顔をして、私の涙をそっと拭ってくれる。
「
。こんな安物の映画の何が面白いのかね?」
その瞬間、世界が凍りついた気がした。
私が長年見たいみたい、と言い続け、故郷の日本でようやくDVDが発売したと思ったら即完売で、何ヶ月も待ってようやく手に入れたこの映画を「安物」です
と?
この感動悲恋モノの映画を先生と見たくて…私がどれだけ苦労したか、判ってますか?
毎日毎日薄気味悪いホルマリン漬けと羊皮紙に埋め尽くされたこの部屋で、相変わらず暗い人生を送っている…
失礼しました、地道な人生を歩み、外の世界の変異を感じ取って欲しく、時代から完璧に乗り遅れてらっしゃる先生の為に、選んできた映画だというのに。
それを、安物で済ますとは、一体どういう神経してるんですか!!!!やっぱり、ホルマリンと一緒に漬け込まれて凍結したんでしょうかね、脳味噌が!!
だから、ハリー達に「根暗」「陰険」「性悪」って呼ばれるんですよ、先生!
あ、勿論…多少あってる部分が有るだけに、これは口が裂けても言えませんが。
「…ほぉ…。
は我輩の事を、そういう風に思っていたわけか。」
「え?」
はた、と我に返る私。
頭の中で考えていた思考がいつの間にやら言葉にして出てしまっていたようである。
テレビの画面に夢中になっていた私は、ゆっくりと私を膝に抱いていてくれる先生の方に向き直る。
背中に走る…冷たい物を一瞬で感じた気がした。
ちなみに、先生、何処まで聞いてました?
…出来ましたら最後だけは聴こえてないとありがたいのですが…。
「せ、せん…」
名前を呼ぼうとしては見たが、とてもそんな状況じゃない。
それは、どんなに鈍感な私にでも一瞬でわかる。
口の端を少し上向きに上げ…、絵に描いたら絶対に頭に無数の怒りマークが見える筈だろう、その表情。
獲物を見つけた時のような、感情を表さず、ただじっと冷たい瞳で見下ろすだけ。
瞳は鋭利さを増し、動作に表さずとも、先生がお怒りであるという感情がダイレクトに伝わる。
…こ、恐い!!
魔法薬学の時間にハリーに対して怒る時と、グリフィンドールから減点した時の表情が一気に垣間見れる。
ハリー、これに毎回絶える貴方は素晴らしいよ、本当。
今回改めてそう思う。
先生、これは絶対完璧に間違いなく100%聞いてましたね?
…最後の最後まで。
「せ、先生が悪いんですよ!!それで腹を立てるくらいなら直したらいいじゃないですか!自覚してるなら如何して直さないんですか?!」
こうなったら半分ヤケクソ状態である。
謝っても許してもらえる見込みが無いならきっちり判らせてあげればいい。
先生の恋人である、私の瞳に映る貴方の肖像画を。
そしたら少しは自覚して、部屋も明るく、ホルマリン付けも少なく、提出を義務付けられる羊皮紙の数も減ることだろう。
万事安泰じゃない。
流石は、私。
みんなに誉められること、間違い無し。
「…
。君は我輩の事を何もわかってないようだな。」
啖呵を切った私とは正反対で、案外平静な口調で問う先生。
しかも、あてつけみたいに映画の台詞そのまんまで。
それで、私が怯むと思ったんですか?
映画の台詞みたいに、『だいっきらい』って言うと思ってるんですか?
バカバカしい。
たとえ、私が先生のことを1億分の1しか知らなかったとしても…、その所為で先生と喧嘩になろうと、私は絶対に大嫌い、なんて言ったりしませんよ?
だって、「根暗」「陰険」「性悪」なスネイプ先生でも…私は大好きなんですから。
「………………………………………」
さぁ、なんて返そうかしら?
と期待に胸を膨らませ、『先生の思い通りの答えなんて返すもんですか』と意地を張りながら返答を考えていたら、意外や意外。
言葉に続きが有ったのか、そのまま先生が口を開いた。
そして、その言葉を聞いた直後、私は再び凍りつくこととなる。
「ミス、我輩は絶対に変わらん。例え、愛しい
に何を言われたとしても。」
「せ、先生のわからずや…!!」
思わず、拳を握りしめる。
こ、此処まで分からず屋の頑固親父だったとは…。
「…何故か判らないかね?今の我輩を変えることは…
が好きになってくれた我輩を捨てることになるのではないのか。「根暗」「陰険」「性悪」な我輩を…
は好きになったのだろう?」
ニヤリ、と勝ち誇ったように表情だけで笑われ、苛立ちが募ったけれども、それ以前に、先生の言った言葉、何処かで聞いたことがある…そんな感情に苛まれ
る。
いつだったっけ?
そう、遠い昔ではない気がする。
「…んっ…!」
はた、と頭を悩ませていたら突然唇を塞がれた。
いつもの優しい…先生が私に初めて教えてくれたキスではなく、大人同士がするような、少しだけ段階を登った優しいキス。
膝から落ちないように腰を支え、もう片方の手で私の髪を優しく撫ぜ、身長の差で仕方なく生まれる二人の距離を利用して先生が覆い被さる。
唇を優しく舌で撫ぜられ、躊躇しているとすかさず先生の舌が滑り込んできた。
逃げる様な私の舌を先生は追い駆け、意とも容易く追いつき、そっと絡める。
一瞬力を抜くと、もう…先生の成すが侭だった。
「…んんっ…」
息が出来なく苦しくて、でも、先生の舌が与える快楽が身体に染み渡って、思うように身体に力が入らない。
必死でローブの端を掴むと、先生はクスリ、と低く喉で笑う。
相してる間も変わらず先生の巧みな舌は私を追い駆け、決して逃がそうとはしない。
初めて経験する快楽に対する不安と、息の出来ないことへの苦しさからか涙が溢れる。
暴れて逃げ出そうと試みても、あっさりと先生に両手を封じられ、深く口付けられる。
散々咥内を蹂躙し、私の躰から完全に力が抜け落ち、意識まで飛びかけそうな状況まで至ったとき、ようやく先生は私を解放してくれた。
意識がすっとんでくるくらいの衝撃的な一言と共に。
「…どうやら、我輩の勝ちの様だな、
」
「----------------!!!!!」
ニヤリ、を笑みを浮かべながら、勝ち誇ったように言う先生。
その台詞を言われた瞬間、私は完全に思い出した。
何を忘れていて、何を思い出せないかを。
…シナリオ通りなのだ。
さっきまで見ていた、私が持ってきた映画の台詞の言い回しは違えど、その内容そのものは全く一緒だった。
特に最後の台詞が決定打。
でも…なんで先生がそれを知ってるの?
今日初めて見せた、マグルの映画なのに。
「…せんせっ…なんで…」
先生のキスに腰が立たない私は先生の胸に捕まり支えてもらうしかなく、散々遊ばれた咥内からは吐息混じりの声しか出ない為、苛立ちなんて効果どころか伝わ
ることさえない。
そんな私を満足そうに見下ろすと、先生は再び口の端だけで笑いながら、さらりと言ってのけた。
「…今朝方、ミス・グレンジャーが紙袋と手紙を我輩に届けに来たのだよ。ミス・
の頼み事が書いてある、と」
ハーマイオニ-が?と疑問符を浮かべていると、先生はちらりと横目で机をみろ、と促す。
其処には小さなシースルーの紙袋が置かれていて中身が薄らと見える。
その、シースルーの中身は…。
「あーーーーーー!私が貸したこのビデオ!!!」
「…判ったかね、
。ミス・グレンジャーは、君と二人で映画を見ながら、君が夜な夜な”私もこういう風に大人に扱われたい”と言ってるのをとても不憫に思
い、わざわざ「根暗」「陰険」「性悪」な我輩のところへ出向いてくれた、というわけだ…。よい友を持ったではないか、
」
自分で自分の事を「根暗」「陰険」「性悪」と言った先生は目が完全に笑っていた。
私ははめられたのだ、先生と…ハーマイオニーに。
確かに、夜な夜なビデオを見ながらそう愚痴のように零して居たのは事実。
でも…、
でも、何故か納得がいかない。
「
」
「…はい?」
私が難しい顔をしながらあれこれ考えていると、先生が私を呼んだ。
何かと思い、疑問形で返事をしたらば、それが間違いであることに気付かされることになる。
あれこれ考えずに、”ハーマイオニ-がスネイプにあの映画をもって頼みごとをした”と悟った時に、逃げ出すべきだったのだ。
スネイプ先生の膝の上から…もとい、この部屋から。
「折角だからラストまで映画を楽しもうではないか」
ニヤリ、と笑う先生と、ラスト、と言われて一気に映画のラストシーンを思い出してかなり笑えない私。
引きつるような笑顔を浮かべて「け、結構です!!」といった私の腰を抱き寄せ、逃げられないようにすると、耳元で一言、吐息混じりに先生は言う。
「…我輩から、逃げられるとでも思っているのかね?」
…映画のラストは、冒頭の二人の濃厚なベットシーンである。
■ あとがき ■
授業中に思いついた突発的なドリームです(汗
時間も無かった為か…かなり内容が飛んでます(笑)
相方の翠姫Chanに頼まれて書いている一人称小説の練習にと、初めてドリームで一人称使ってみました。
いやぁ〜難しい。
三人称も満足にかけない私ですが、一人称は更に無理(汗)
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