天体観測






ふと、空を見上げると其処は夥しい数の一面の星で形成された絨毯が敷き詰められていた。
月明かりさえ負けてしまいそうな位、個々に主張しきらりと瞬く星々は限りなく遠い彼方で、同じ位限りなく遠い誰か、に己を見てもらうが為に閃光を放つ。
そんな、遠く、遠い星に近づきたいと一生懸命に小さな手を伸ばす影が一つ。
月と星に照らされた草原に影がゆらり、ゆらりと行き来しその存在を如実に伝える。





「きーらーきーらひかる……おそらの…ほしよ…」





漆黒の夜空と緑藻の草原に透き通るような声が響く。
未だ、幼さを含んだその声は漆黒の闇の支配する暗く暗い空へと消え入るように木霊する。
幼い少女から発せられる綺麗な旋律は、冷たい大地に響き渡り情操な感情を呼び起こす。
黒いローブを身に纏った12・3歳前後の「少女」は星を見上げては尚歌い続ける。





「…マグルの歌かね?」





唐突に訪れた静寂を見計らってか否か、途絶えた少女の歌声の変わりに低い男の声がした。
小高い丘の上に立ちすくむ少女の隣で、静かに歌声に聞き入っていたその男は自分のローブを脱ぎ去ると冷たく冷えきった少女の肩に羽織らせる。
その男に少女は「ありがとう」と優しい笑みを浮かべた。





「これは七夕の歌なんです。先生知ってますか?」

「たなばた…?こんな寒い時期に の国ではそんな風習があるのかね?」





聞きなれない異国の単語を聞いた先生、ことセブルス・スネイプは頭に疑問符を浮かべながら に問う。
一方、 、こと はスネイプの思わぬ発言に思わず噴出しそうになる。
それをみて聊か不機嫌になったのか、スネイプは「英語で説明しろ」と を諭す。





「英語では、”The Star Festival”っていうんです。日本では彦星(The Altair)と織姫(The Vega)が一年に一度、7 月7日の七夕の日に天の川を渡って逢える、っていう言い伝えがあるんです。…といいましても、今は12月なんで時期的に違いますが」




再び天頂の星空を眺めながら は小さく言葉を紡いだ。
空には季節柄、オリオン座が綺麗な姿を披露し、日本では先ず見ることが出来ないであろう南十字星もその脇に光を放つ。
纏綿の如き白雪が深々を降り注ぎ、滔滔と白銀の輝きを見せ始める。





「…それならば何故、歌っていたのかね?」





今は時期では無いだろうに…と溜息混じりにスネイプは言う。





「星を見てたら、思い出したんです。七夕の言い伝えを。悲しいお話だと思いませんか?愛する人に一年に一回しか逢えないなんて…そんなの…」





星を見上げていた が俯きながらその先を紡げずに居る。
大好きな人に逢えない織姫の気持ちが身に染みるのか、スネイプが掛けてくれたローブをぎゅっと力を込めて握り締める。
大好きな人に逢いたい時に逢えないなんて、自分には耐えられない。
現状でさえ、先生と生徒という間柄、頻繁に会うことなど叶う筈も無く。
忙しいスネイプの邪魔になってはいけない、と逢いたい気持ちを押し殺し、寂しさを見せないよう堅持してきた自分。
たまに叶う逢瀬でさえ忙しそうな姿を見せるスネイプ。
自分が傍に居る事でさえ彼の邪魔になってしまっているのではないか、と思わずにはいられない自分への嫌悪感。





そんな嫌悪感を抱きながらも、スネイプの傍に居続けたいと願う自分自身。
逢いたいのに逢えない不条理が更に心痛を呼び起こし、「悲劇のヒロイン」の枠があるのならばエントリーして欲しい位の憤りを覚える。
そう、まるで…彦星に逢えない織姫のように。





「くだらん。」





スネイプの言葉に の思考は一時停止してしまった。
自分が散々悩んできた事を、たった数分話を聞いただけで彼は「くだらない」と言った。
無神経さに憤慨する気持ちよりも呆れ半分、彼の思考が読めずに困惑する。
彼は…自分の事を大切には思ってくれていないのだろうか。
心に疼痛が走る。





「逢いたい時に逢えないならば、一体何時逢うというのかね、ミス・

「…え?」





次に発せられた言葉は酷く優しい声色で。
静かに降り注ぐ粉雪のようにそっと心に届くような、そんな白色を含んでいて。
それを伴って、温かなスネイプの温もりがそっと の身体を包み込む。
そうまるで…
まるで織姫と彦星が銀河の彼方でそっと寄り添うかの如く。





「逢いたいなら、そういえば言い。傍に居たいなら居ればいい。寂しいならば、我輩のところへ来ればいい。我輩は古臭い言い伝えなんぞを魔に受けて悩むより は、すこしでも愛しい と同じ時間を共有したいのだから…」





「せんせ…っ」





が自分を後ろから抱きしめるスネイプのほうに向き直ろうと身体を返した瞬間、 の眼下は白銀の世界から暗闇の世界へと変わった。
冷たさを更に増した外気温が鋭利な刃物のように冷えた身体に突き刺さる。
それでも…、冷えた唇をスネイプによって塞がれた の心と身体は一気に熱を帯びた。
甘く…甘い口付けを交わす二人に冷たい雪が尚一層降り注ぐ。
それでも二人の周りには温かな空気があったように思う。
キラキラと瞬く星が一瞬更に輝度を増した気がした。





白雪が降り積もる寒い冬の一夜の出来事である。





翌日以降、魔法薬学の教科書を持った がスネイプの居る地下室に頻繁に出入りするのを目撃する生徒が多くなった。
それでも、皆、口を揃えて「…可哀想に…」と に同情したという。
何故ならば…、





「…ミス・ 、こんな問題もわからないのかね?これでは次の試験も補習確定だな。そうなった場合…、一ヶ月デート禁止もやむを得まい。」




「そ、そんなぁぁぁぁ〜!!!」





一ヵ月後、 が無事にスネイプとデート出来たか否かは定かではないが、一つだけ言える事は、スネイプと 二人一緒に居る時間は限りなく長くなった、ということである。









後書き

これはいつもお邪魔させて頂いている抹茶さんのサイトさんの10万HIT記念に捧げさせていただいたドリームです。
申し訳無いくらいに甘くないです(泣)しかも、1番書きたかったラブラブシーンを時間の都合上削除する運命に…。
抹茶さん、こんな稚拙極まりないもので宜しかったら受け取ってやって下さいませ。

個人的に、織姫と彦星の寓話は哀しいので好きではないのですが、星ネタにしようと考えていましたら偶然出てきたので使っちゃいました(爆
稀城は天体に興味は有りますが、詳しくは無いので『イギリスで南十字星なんてみえねぇよ』っていうツッコミはしないでやって下さいませ。





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