Silent Night






「……」






小さな音ではあったが…確かに、誰かが部屋の扉を軽くノックする音が聞こえた気がした。
読みかけていた本に栞を挟んで机に置き、立ち上がろうとした瞬間、もう一度小さく音が耳に入る。
確実に、扉の外に”誰が”か居る。
しかし、時はもうじき深夜2時を回ろうとしている。
生徒はおろか、教師でさえ就寝しているであろう、丑三つ時。
こんな深夜に…一体誰が、何の目的でドアをノックしているというのであろうか。






「……」






無言のまま、彼は暫く様子を伺う事に決めた。
元々暗い地下室にある自室のソファーに座っているのは、この部屋の主、セブルス・スネイプ。
ホグワーツ魔法学校において魔法薬学の教師をしており、先程まで来週の授業に使う薬草についての論文を読みふけっていた処である。



幽霊は当たり前の如く存在しているこのホグワーツで、我輩の部屋をピンポンダッシュならぬ部屋ダッシュする、肝の据わった幽霊が居るものならば、見てみよ うではないか…。






彼はそう決め込むと、ソファーに座ったまま、扉を見据えた。
カチカチ…と時計が時を刻む音だけが小さく響き、静寂だった部屋を更に静寂が支配する。
しかし、その静寂はすぐさま破られる事となる。
何故ならば…、






「…せんせぇ…開けてよぉ…」






その声は酷く小さいけれど、はっきりとスネイプの耳に入る。
弱弱しくて、今にも泣き出しそうな幼い少女の声。
その声を聞くや否や、彼は急いでソファーから立ち上がって扉を開ける。






「… …、こんな夜中に一体どうしたのかね?」






彼は聊か冷たい口調と冷ややかな視線では有るが、瞳を潤ませ抱きついてきた少女を腕の中に抱きとめる。
抱きとめた方の手で優しく髪を撫で、空いてる手を使って扉を閉めて少女を部屋に招き入れると、彼は震えている少女の為か、杖を取り出し暖炉に火を燈す。
…と呼ばれた少女、 は、スネイプが寮監を務めるスリザリンきっての品行方正な才女である。
容姿端麗はさることながら、あの「スリザリン」に何故選ばれたのか、と皆が口々に漏らす程、彼女は人当たりも良く、互いの寮関係などお構い無しな程交友関 係は広い。
入学したてから、あのハリー・ポッターと肩を並べるくらいの有名人となり、今ではその名を知らぬ者は居ない位の存在となっている。
そして、もう一つ重要な事が此処にある。
現在スリザリン寮在籍1年目の彼女、 は…彼、セブルス・スネイプの恋人である。






「…それで、こんな格好で我輩の部屋に来るとは…一体どうしたというのかね?」






寝間着にローブを羽織っただけの に、咎める様にスネイプは問う。
此処はイギリス・ホグワーツ。
幾ら城内とはいえ、12月上旬の深夜の冷え込みは馬鹿に出来るものではなく、20時を回れば、普段着にローブを纏っていてでさえ、吐く息は白味を増す。
そんな寒さの中、 は薄着にローブ一枚で深夜に自分を訪ねてきている。
一体何があったというのだろうか。


程なくして、白い煙を立て始めたポットの紅茶がとても良い薫りを辺りに運んだ。
スネイプはそれを丁寧にカップへ注ぐと、暖炉の前で火に当っている に差し出し、ブランケットを掛け、小さく固まってる を自分の膝の上に抱き上げた。
一方、カップを受け取った は、くしゅん…と小さくくしゃみをすると、ブランケットに包まりながら「あのね…、」と小さく話し始めた。






「…… …、君は今年で一体幾つになったのかね?」






自分を見上げてくる に対してスネイプは半分呆れ顔で顔をしかめ、眉間に皺を寄せる。
彼女の話はこうである。

明日は日曜日で授業も無いため、夜更かしが出来ると鷹を括った は、友人であるハーマイオニ-の居るグリフィンドール寮へとお泊りがてら遊びに行ったのだという。
勿論、一晩中遊ぶ予定だったこの二人は以前から計画していた『映画鑑賞会』を開き、お互い自分が1番面白いと思う映画を持ち寄って順位を競ったのだ。
が持ち込んだのは、数年前、自国で話題になった感動物のヒューマン映画であったのだが、ハーマイオニ-が持ち込んだものは……、 が苦手とする戦慄のホラー映画だったのである。
『恐いもの見たさ』とはよく言ったもので、見ているときはさして恐怖を感じなかったのだが、見終わって深夜になるにつれ、恐怖がこみ上げてきて居ても立っ ても居られなくなり、スネイプの元へと来たのだという。






「我輩の部屋まで来る勇気が有るのなら、一人で寝れるのではないのか?お前は魔法使いだろう?自分に魔法を掛けて眠れば良かったではないか。」






は、頭脳明晰でも何処か抜けてるところがあり、それがスネイプを心配させる種となっていることを彼女は知らない。
「そう思わないかね?」と訊ねながら、瞳から溢れそうな涙を指で拭ってやる。
映画が余程恐かったのか、それともスネイプに逢って安心したのか、 の瞳からは次から次へと涙が溢れる。






「だって…だってぇ…」






こう云うところはやはり子供なのだろう。
少しキツイ口調で嗜めると、捨てられた子犬のような瞳で我輩を見つめてくる。
唯でさえ大きな瞳が、更に大きくなり涙が零れ落ち留まる事を知らない。
これではまるで我輩が泣かせたみたいではないか…。






「怒っているわけではない…だから泣くな。」






ブランケットに を包んだまま、スネイプは立ち上がり、燈したばかりの火を消した。
辺りが急に暗くなり、温度が急激に下がる。
一二歩歩き出したスネイプの行動を は”部屋に返される”と解釈したのか、いやいやと腕の中で暴れ始めた。
スネイプはそんな を落さぬように、腕に更に強く抱き抱えると の耳元で小さく囁く。






「我輩と一緒に寝ることが…そんなに嫌かね?」


「…え?」






突然の思っても見なかった台詞に、 はビックリしてスネイプを見上げた。
暗くて表情は読み取る事は出来なかったが、その声色は酷く優しさを帯びている。
そんなスネイプの首に は両腕を絡ませると、本当?と疑いの眼差しとともに疑いの言葉を投げかける。






「恐くて一人では寝られないのだろう?そんな を我輩が放っておけると思うのかね?」






少し甘美を帯びた独特のバリトンボイスが の耳元で木霊する。
それに顔を赤らめた は「ありがとう」と小さく言葉を紡ぐとスネイプの腕の中に身を委ねる。
再度 を抱えなおしたスネイプは、自室の奥にある寝室へと を運び、優しくベットへと下ろす。
ローブを脱ぎ去り、それでも初めて踏み入れた寝室のベットの上でうろたえている に小さく微笑みを浮かべるスネイプ。






「早くこっちへきたまえ。折角温まったのに冷えてしまうではないか」






恥かしげな表情を浮かべた がスネイプの言葉に従ったのはこの数秒後で…






「全く…困った生徒だ」






そう言ったスネイプの言葉を最後に、安心しきった は深い眠りに落ちた。
一人で使うには随分広いベットではあるが、その中心に二人は居た。
スネイプの腕の中に抱かれるようにして幸せそうに眠る の髪を撫でながら、スネイプは「こんな夜があってもいいではないか…」などと考える。


二人がこんな風に眠る日も、二人が同じ時刻に起きる日も…そう遠くは無い未来である。


冷え込みが一層厳しくなった12月の…ある一日の出来事であった。







+ あとがき +

…甘くないですね(笑)
しかも、教授が微妙。教授ってやっぱり難しい!!
唯単に教授と一緒に眠りたかっただけなんですねぇ(爆)
だったらもっとちゃんと寝てるシーンをかけ!!って感じなんですけど、それを書いたら私が爆走してしまいそうだったんで、今回はこの程度で終わらせておき たいと思います(笑)

こんな稚拙な作品でよかったらフリードリームなんでほしい方は貰ってやって下さいませ。





(C) copyright 2002 Saika Kijyo All Rights Reserved.


[ back ]