幼姫な君に、騎士の口付けを
「 ねぇ…如何しては怒ってるのさ…? 」
「 僕が知る訳無いじゃない。寧ろ、知っているなら教えて欲しい位さ。
折角のHalloweenパーティだってのに…これじゃあ話し掛けも出来ない。 」
「 と踊れる滅多に無いチャンス…何でこんな日に機嫌が悪いんだよ 」
ガヤガヤと賑わう大広間。
其処は至る所に大小様々のjack-o’-lanternがふんわりと浮かび上がりながら幻想的な橙の光りを柔らかく放っている。
ダンブルドア校長の企画したHalloween Partyでは、寮を問わずに自由に好きな相手とダンスを踊る。
声を掛けられた相手は余程の事情が無い限りその申し出を断る事は出来ず、大概男子生徒が女子生徒に声を掛けるという慣わしがある。
教師も生徒も思い思いに仮装して、誰がどの寮の生徒かを判別する事さえ困難になりつつある中、それでも意中の人間が居る者は勘と言うべきか執念と言うべきか己の持つ最大限の洞察力を持ってして探し出す。
スリザリンに在籍する・は未だ三年生ながらにして、ホグワーツ中の人間が知っていると言う程の人気を博していた。
名門家の血を引く彼女は、幼いながらに容姿端麗と謳われるほどの美麗さと明晰な頭脳を持ち、女性的な美しさと言うよりはどちらかといえば中性的な美を兼ね備えている。
と、同時に、凛とした表情の中で映える黒曜石の瞳は酷く魅力的でも有るが切れ長の長い睫が伏せる様に掛かっている為に、無表情の時は酷く恐ろしい。
ニコリと微笑んでいる様は酷く美麗で嘆声が出る程だと言うに、無表情の時はそれが仇となって刃を向く。
ましてや、が怒りをその表面に湛えている姿等…あのセブルス・スネイプさえも怯んでしまう程だと一部の噂が立つほどである。
「 今日は一段と綺麗なのにな…ぁ… 」
「 衣装を身に着けているって事は、着替えてから何かあったのか? 」
さぁ…、と首を傾げるのはと同じスリザリンに在籍する最上級生。
普段の姿は想像が付かないけれど、淡いグリーンのローブらしきものに身を包んだ生徒一人と、何を如何間違ったか包帯を巻きつけたフランケンシュタインのような井出たちの男。
実際問題、を凝視しているのは彼等だけではなく他の生徒も多数居り、容姿も服装も異なるけれどもそれでも心の中で考える事は皆一緒。
-----何故、この様な日に限ってスリザリンの幼姫は機嫌がすこぶる悪いのかと。
粉雪の様な白いロングドレスに淡い水色のストールを肩から羽織り、普段は結っている絹の如き髪を柔らかく背に垂らしたは酷く綺麗に映る。
普段は制服で隠されている身体の曲線も、ドレスのお陰か所為かは判らぬが余すところ無く表現されて男子生徒は彼女を見た瞬間、息を呑んだ。
シースルーの手袋に保護されたその柔らで白い指先に軽くキスを落し、細い腰に手を添えてエスコートする様に大広間の中央へ。
皆が注目する中で、己のリードによってが心を開き、スローテンポに摩り替わる曲中照らし出す淡い橙の光りに包まれながら、桜色の唇が「好き…」と言葉にならない科白を紡ぐ。
そんなありえない妄想に駆られながら今日のこの時を心待ちにしていた男子生徒にとって、其れは酷く落胆を誘うものでしかなくなる。
「 (セブルス…絶対に許さないんだから…!) 」
そんな男子生徒の心の落胆等露知らず、は大理石の様に演出された大きな柱に背を凭れさせながら大きな柱時計を睨んでいた。
否、正しくは唯不機嫌そうな表情で見詰めていただけなのであるが、傍から見れば柱時計に睨みを利かせている様にしか見えない。
睨んでいると言っても、元々が美麗なであるので美しさを兼ね備えた恐怖となるのだが、其れこそが正に男子生徒たちを恐怖に凍りつかせる戦々恐々とした様に変る。
何に腹を立てているのかは判らぬが、只ならぬ怒り様にとばっちりを食らわない様にの周囲5メートル以内には男子生徒はおろか友達ですら安易に踏み込めない。
スリザリンの氷凍の姫君がその鋭利な瞳に映し出すのは、jack-o’-lanternでも煌びやかに飾り立てた女子生徒でも自分に好奇の眼で見る男子生徒でも無い。
時期に12時を告げようと差し迫る柱時計の長針と短針。
コチコチと秒針が一秒ずつ時を進めて行くに従って、の怒りは徐々に高まっているように思える。
如何やらもう時期ハロウィンが終ってしまう(と言っても、パーティ自体は夜通し行われるのであるが)事に苛々している様であり、段々とその表情が美麗な恐麗を伴って周囲の空気を染め上げてゆく。
「 (約束したのに…何が有っても絶対に許してなんてあげない…!) 」
沸々と沸き上がる憤慨感情を声に出して伝える訳にも行かなければ、この場で小さな子供の様に喚き散らす事も出来ない。
怒りに駆られたのその解消方法は、単純明快其の相手にぶつける事にある訳であって、其れをこの場で行使する訳には行かない。
の怒りのターゲットでもあり、恋人でもあるセブルス・スネイプ教授はこの大広間には姿を見せては居なかった。
大広間に居ないのはスネイプだけではなく教師も生徒も全ての人間が居る訳では無いが、この雑踏の中で誰が居ないのかを見極めるのは其れこそ困難。
意中の相手や嫌悪する相手と言うのは誰しもが厭でも目に付くモノであるが、それ以外の…俗に言われる所の論外人物は大して気にも留められることは無い為に存在を見つけるのは不可能。
実際問題、の瞳にはスネイプの姿と柱時計しか追っておらず他の人間は皆浮かび上がるjack-o’-lanternかそれ以下でしかない。
コチコチコチと聞こえる筈の無い遠くの柱時計の秒針が無常にもハロウィン終焉の時を告げる為に、一秒ずつ移動を始めている。
-----セブルス、ハロウィンの夜一緒に過ごして下さいね?
-----あぁ、勿論だ。
嘘吐き、嘘吐き、嘘吐き!!
もうじきハロウィンの日は終わりを告げてしまう。
折角の土曜日だと言うのに、今日一日セブルスは捕まる事が一切無く、易々と入れる筈の地下室もしっかりと魔法以外の何かで掛けられた錠が施してあった。
昼食の際も姿を見せる事は無く、夕食から今に掛けて始まった晩餐会には出席するかと期待の意を込めて自分もドレスを着て会場に来た。
でも、セブルスの姿は陰すらも見えては居なくて。
-----約束、したのに。
幾ら外見が大人びていようとも、所詮は幼い子供である事に変わりは無い。
待てども待てども一向に現れる気配の無い恋人に怒りを通り越して哀しみさえ湧き始めたこの時分、部屋で泣き明かしてしまおうかとは一つ溜息を吐いた。
きっと、仕事が忙しくて晩餐会どころではないのだろう。
己にそう言い聞かせる様にして最後に柱時計を視界に留めた。
午後11時58分。
後二分で廊下から、の居る大広間の中央まで二分で来れる訳が無い。
箒でも使えば別であろうか此処に浮かぶのは魔法が掛けられたjack-o’-lanternの大群で、これらを避けて飛ぶよりは人込みを走りぬけたほうが速いかもしれない。
もう帰ろう、とが踵を返した瞬間純白のドレスの裾がふわりと空気に揺れる。
瞬間。
「 きゃぁぁぁぁっ!! 」
「 ちょっ…何、停電…!!? 」
一瞬で、大広間内のjack-o’-lanternの灯かりが消えた。
ざわつく大広間内にダンブルドアの灯燈魔法を唱える声が微かに聞こえる。
如何やら彼の悪戯ではなく、何者かが意図的にjack-o’-lanternの灯かりを一斉に消し去った事が伺え、誰が行ったか判らぬ意図的な其れが恐怖の連鎖反応を生んだ。
しかし、灯かりが消えたのは一瞬で、刹那に灯かりが付く事となる。
再び柔らかい橙の光りが大広間を照らし出したとき、安堵に包まれた生徒達の間に更なる光景が飛び込んでくる事になった。
放心状態に取られる男子生徒も居れば、恍惚な表情を浮かべる女子生徒、教師陣も愕いた様に唯一点を見詰めている。
中央にゆらりと浮かび上がる一つの巨大なjack-o’-lanternの上、スリザリンの幼姫を横抱きに抱えた漆黒のローブに身を包んだ騎士が居た。
ご丁寧にシルクハットを被り、瞳には素性がばれぬ様にか仮面を付け、僅かに見える表情からでさえ仮面の下に隠されている素顔が賛美されるほどの者だという事が伺える。
そうして何より周囲を驚かせたのは、先程までアレほどの怒りを湛えていたスリザリンの幼姫が頬を紅に染め、嬉しそうにその騎士の首に腕を回していた事であった。
「 Kidnap little princess and Happy Halloween…! 」
バサリと漆黒のローブが翻り、酷く妖艶な笑みを浮かべた騎士の何処か聞き覚えの有る様な無い様な甘く低い声が大広間に響き渡った。
生徒達があっ…と声を挙げる刹那の間もなく、を抱えた騎士は無数の甘い薫りの雪を大広間に散らせて消え去った。
ふわりふわりと舞う雪は床に落ちる前に解けてなくなる様に柔らかく消えて逝き、其の様を綺麗だと生徒が騒ぎ始めて騎士の存在等一瞬でその脳裏から消滅する。
ガタリと席を慌てて立ち上がったマクゴナガル教授は懐から杖を出そうとするが、隣でスノーマンの井出達をしたダンブルドア校長が首を横に振って制する。
ちらりと横を見れば、大広間の柱時計は12時ジャストを告げていた。
「 …やはり怒っているのかね? 」
「 怒ってます。もう、大広間に姿が見えたら頬を引っ叩こうかと思う位に怒ってます。
…でも、もう如何でも良く為っちゃいました。 」
「 如何でも良くなっただと?我輩は怒鳴られる覚悟は出来ているが? 」
「 だって…だって、 」
-----まるで、御伽噺の中の王子様が迎えに来てくれたみたいに素敵だったんですよ。
頬を紅に染めたが、jack-o’-lanternの光りに包まれながら嬉しそうに微笑んだ。
沈着冷静、年頃の少女達よりも一段と大人びて見え思考自体も歳以上のモノを考える頭脳を持ち合わせていると言うに、の口からよもや「御伽噺」等と言う言葉が聞けるとは思っても居なかった事態にスネイプは苦笑した。
恥ずかしさに更に赤味を増したを腕の中に抱えなおしながら、スネイプは自室のjack-o’-lanternの灯かりを一つ、また一つと落して行く。
ふわっと羽が舞う様に灯かりが落ちる中、スネイプは機嫌を損ねてしまいそうな愛しい恋人の桜色の唇を静かに塞いだ。
柔らかく薫る薬草の香りは抱えられた騎士からも仄かに香って、に安堵を齎した。
言いたい事も怒鳴りたい事も頬を張りたかった衝動もあったけれど、其れより何よりスネイプに逢えて嬉しかった気持ちのほうが何倍も勝っていた。
だから、だからにとって其れは如何でも良い事に摩り替わってしまって。
「 では…、二人だけのHalloweenの夜を明かすとしよう。 」
…と耳元で囁かれた甘く低い極上の嘆声は、大広間に響いた其れとは比べ物に為らない程の甘美さを伴っての脳髄に浸透する。
声だけでも充分に魅力的なスネイプは、妖艶な声色と共に不敵な笑みを浮かべながらの細い腰を抱く。
ばさりとソファーに落ちたストールは、これから暫くの間拾われる見込みは無い。
甘く長い夜は、今此処から幕を開ける。
後書き
スネイプ教授に攫ってもらいたかった、しかも大広間でみんなの前で素敵な棄て台詞付き。
これが書きたかっただけです(笑)!!
(Kidnap⇒意味は”攫う”です…笑)
いやはや此れはもうどうしようもないくらいに好きなシチュエーションでして…自分がこのテーマを書くために最終日のお題を自由にしたなんて、言えません(汗)。
スネイプ教授…騎士と言うより最早誘拐犯と化してますが…そして土台は巨大南瓜という夢もロマンも無いですが…Halloweenと言う事で許してください(笑)
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