smell sweet







「 professor Snape Trick or treat! 」



「 申し訳無いが今手が離せぬ故、もう暫く待って貰えるかね。 」










勢い良く開け放たれた扉の奥から聞こえてきた元気な可愛らしい声は、陰湿な地下室一杯に木霊した。
森から抜け出して来た様な井出たちの少女は、続け様に返って来た情の篭らぬ言葉に小さく溜息を吐くとそのまま後ろ手に扉を閉める。
扉の外であるホグワーツ内は至る所にjack-o’-lanternが浮かべられ、思い思いの仮装をした生徒と生徒に菓子を配る教師達で賑わっていると言うに、この部屋ばかりは何時もと変らぬ情景のまま切り離された様に其処に有った。
jack-o’-lantern等陰も形も無ければ、目に付くのは昨夜以上の量を数える羊皮紙の幅に、床に散ばる丸まった紙屑。
何時も以上に眉間に皺を寄せたこの部屋の主、セブルス・スネイプは数日後に控えた学会への提出物である論文の最終添削作業に没頭している所為か、今日が葉ハロウィンだという事に気付いていないらしい。

-----今日ぐらいは、私の相手をしてくれてもいいのに。

子供染みた独占欲を事も有ろうに学会の論文に抱きながら、はスネイプと対峙する側のソファーに腰を落して、サラサラと旋律を奏でながら文字を紡ぐスネイプの指先を見詰めた。
途端、ぐしゃりと丸められた羊皮紙はその存在を否定されたかの様にスネイプの手によって床に放られる。
行き場を失った羊皮紙は静かに床に陰を落した。










「 スネイプ教授、床に散ばった羊皮紙は使いませんか? 」




「 羊皮紙?あぁ、其れは後で纏めて棄てるものだ。 」




「 じゃあ貰ってもいいですか? 」










その問いに返事は無い。
だが同時に否定の言葉も聞かれなかった為に、其れを肯定と受け止めたは床に散ばる羊皮紙の幾つかを掴みあげる。
見慣れたスネイプの達筆な筆記が流れる水の如く書き記されているのを見れば少しばかり哀しい気持ちにもなるが、スネイプにはスネイプの事情と言うものがある。
幼い心に言い聞かせる様にそう心に刻んだは、掴みあげた羊皮紙に小さな魔法を唱える。
短い単語綴りの魔法を詠唱し終わると、丸くなった屑は小さな可愛らしいjack-o’-lanternに変化を遂げた。
中に光りこそ入れて居ない物の、は部屋中に散ばる羊皮紙を全て小さな小さなjack-o’-lanternへと一つ一つ作り変えてゆく。
一気に魔法で作り変えても良かったのだろうが、そんなに早く作業を終えてしまえば他に行う事が無くなる故、先を見越したは一つをjack-o’-lanternに作り変えては、また一つ羊皮紙を拾い上げて…を延々と繰り返していた。










、すまなかっ… 」










羊皮紙の束に埋れそうに為りながらも何とか添削を終えたスネイプが、漸くその瞳を机の上から移動させれば其処には数え切れぬ程のjack-o’-lanternが床一面に転がっていた。
それらはドレも皆、可愛らしい表情を浮かべながら中に火を燈されるのを待ち侘びるかの様に静かに唯其処に。
スネイプへの配慮からか灯かりの燈らぬjack-o’-lanternに苦笑したスネイプは、懐から杖を取り出しては其処に火を燈し。
部屋の明かりを完全に落し切った後に、無数にあるjack-o’-lanternの幾つかを天井へと移動させる。
淡い橙の光りが柔らかに室内を照らし出し、暗がりにぼんやりと映る影はスネイプのもの一つしかない。
辺りを見回せど、確かに先程まで其処に居た筈のの陰も形も感じられぬ。
呆れて寮に戻ったかと思えば、ソファーに落ちる一枚のカード。
何事かと指に取れば挑戦的な一言。










-----お菓子をくれなかったから悪戯します。この中から、私を見つけて下さいね。






「 jack-o’-lanternに変装したという訳か。 」










カードを見れば子供の悪戯書きの様な笑った南瓜の絵が書かれている。
如何にも手の込んだ悪戯だと思うが、スネイプが興味を示さずに(若しくは気付かずに)そのままjack-o’-lanternを魔法で消し去っていたらどうなっていたと言うのか。
きっと其処まで考えての行動ではなく、咄嗟に思いついたものなのだろう。
叫び出さなかったと言う事は、宙に浮くこの数個の灯かりの燈されたものではないという事だけは確か。
そうなれば床に転がるjack-o’-lanternか。
己が投げ捨てた羊皮紙の数は其れこそ頭を抱えたくなる程に多いと判り切っている故、必然的にjack-o’-lanternの数も多いと知れる。
実際、ざっと見渡しただけでも100個は有りそうである。










「 …我輩は何処まで侮られているものか。誠、哂える。 」










無数に転がる多種のjack-o’-lanternをジロリと一瞥する。
其の後に、スネイプは手にしたままの杖でどれも同じに映るであろう其れらに魔法を掛ける。
ポンッと乾いた音を立てて一つ一つ弾けて壊れるjack-o’-lanternは、弾けた後に様々な菓子へと変化を遂げる。
クッキー、チョコレート、キャンディーにパンプキンパイ、シフォンケーキにベリータルト。
数え切れぬ程の多種類の菓子に変化したjack-o’-lanternは、皆其々きちんとテーブルの上に乗り橙の光りに映し出されながら食されるのを待ち侘びる様に佇む。
次々へと菓子に変化して行くjack-o’-lanternを横目で見ながら、スネイプは己の足元から少し離れた位置に有る一際小さなjack-o’-lanternを柔らかく掌に持ち上げた。
ポンポンと弾け飛ぶそれらの中、其のjack-o’-lanternだけには魔法が掛けられていないのか微動だにしない。
目の前でマジックショーが繰り広げられる中、スネイプは其れを掌に抱いたまま先程までが座っていたであろうソファーに腰を落す。










「 此れで満足かね、。 」



「 professor Snape Trick or treat! 」










掌のjack-o’-lanternに言葉を投げれば、部屋中に再びの可愛らしくも元気な声が響き、瞬時にjack-o’-lanternが消え去って膝の上に抱かれる様にが姿を現した。
よろめくの細い腰に腕を添えて抱え直すようにしてやれば、腕の中にすっぽりと小柄な身体は嵌る。
向かい合う形ではなく、を後ろから抱く様にしてやりながら、目配せでテーブルの上の菓子を指し示す。
魔法で作ったとは言え、きちんと食せるものだと判っているのだろう、は嬉しそうな笑みを浮かべたままクッキーに手を伸ばし。
頬張りながらも瞳は疑問符を浮かべたままで柔らかい髪の感触を楽しんでいたスネイプに悪戯っぽく語り掛けた。










「 如何して私を見つけられたんですか?
 私、結構自分では上手く変装できたと思ったんですよ? 」



「 侮って貰っては困るのだよ。
 仮にこの場に億を数える程のjack-o’-lanternが有ったとしてもだ。
 我輩は間違い無くお前を見つけられる 」



「 うーん…私の魔法ってやっぱり下手なのかなぁ… 」










パキンッと音を立ててクッキーが割れた。
如何考えても理由が判らぬは未だ脳裏に疑問符を浮かべたまま。
一方のスネイプは教える気など更々無いのか、表情を濁すを面白そうに眺めているだけ。
勿論、スリザリン寮誇る成績優秀のが使う魔法が稚拙な訳が無い。
寧ろ、完璧なまでにjack-o’-lanternへの変身振りはミネルバに報告してやろうかとさえ思うほど。










「 さて、
 潰してしまったこの数時間、如何埋めて欲しいかね? 」



「 これからの時間を一緒に過ごして下されば…それで。 」










-----容易い事。



手にしたクッキーと同じ程甘い薫りが漂う柔らかい髪に口付けを落して囁く。
嬉しそうに笑んだを引き寄せる様に細い顎に指先を掛け、甘い唇に口付けを。
鼻腔を擽る独特の柑橘系の香りを楽しみながら、次第にの温もりが腕を通して伝わってくる。
どれ程多くのjack-o’-lanternに囲まれていようとも、この温もりと心に平静を齎してくれる薫りを消す事は出来ぬ。
それ以前に…
幾らjack-o’-lanternに豹変し様が、好奇心に満ちた子供の様な瞳と、僅かに寂しそうな表情が空気を伝って心に届く。
侮って貰っては困る。
の事ならば微小に些細な事象でも、逃す事等有り得ないのだから。















後書き

このお題…自分で作っておきながらネタが浮かばない、浮かばない(笑)。
前日のテーマの方があっている気がしなくもないのですが、一応悪戯という事でヒロインをjack-o’-lanternに…(汗)
自分で書いておきながら、億あるjack-o’-lanternの中から一つを探し出すって教授でも無理なんじゃ…と思いましたが、其処は教授のヒロインへの愛で何とかなるということで(笑)。
羊皮紙⇒jack-o’-lantern⇒お菓子なんで、羊皮紙の味がするという事は無いという事でお願いします(苦笑)




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