Remember our promise
「 折角のハロウィンだって言うのに…お前のご主人様は何処に行ったんだろうね。 」
音も立てずに忍び込んだ深夜の地下室は、肌寒い様な独特の陰湿な空気に包まれたまま静まり返っていた。
一歩足を踏み込んだだけでも、凍り付く様に冷たい空気が凛と音を為して耳から届く様。
重い扉の奥外では、様々な仮装に扮した生徒達のはしゃぎ声で溢れ返り、地下室である筈のこの部屋まで微かに木霊する。
昨年までは其の中に自分も混じっては、寮督であるスネイプに怒られたものだと懐かしさに苦笑する。
宝物を扱う様に大事に胸に抱えた淡い橙色を放つjack-o’-lanternが、灯かりの落ちた地下室に柔らかい光りの陰を落す。
普通のランタン並の投影映を持つjack-o’-lanternは、が去年スネイプに怒られながら作成したもの。
昨年のハロウィンは双子との悪戯をフィルチに見付かった挙句、多数のjack-o’-lanternを壊してしまった為にスネイプに罰を与えられ、代りのjack-o’-lanternを作成した。
魔法薬学ではハーマイオニーと背比べをする位に得意のも、郷里では眼にする事も無かったjack-o’-lanternの作成は思いの他困難を極めて。
「 約束…したのにね。今年のハロウィンは二人でお祝いしようね、って。 」
お世辞にも上手く出来ているとは言えない其れは、小さな子供が始めて作った様な何とも不細工な井出達で。
三角形に切り抜くべき筈の瞳の部分は左右の大きさが微妙にズレ、恐怖の象徴とも言えるその口は如何言った訳か酷く愛嬌のある可愛らしいもの。
大元の南瓜自体も翌々見れば到底売り物にもならないであろう不作と言え、jack-o’-lantern造りには先ず適さないと判断すべき所。
それでも、出来上がった其れはどれも皆同じ様に作られているモノとは明らかに異なった個性を主張している。
”まるでスリザリンの中のお前のようだ”
そう言って苦笑したスネイプの瞳が柔らかかった事を、は忘れていなかった。
滔々とその命を削るランタンの中の蝋燭の光りをじっと見詰めたは、一年前の情景を思い浮かべながら其れを静かにテーブルの上に置く。
「 きっとまた…悪戯摘発に燃えているんだろうね。
何時かはこの部屋に帰って来るだろうから…大人しく待ってよ。 」
ランタンの光りだけが灯る暗く肌寒い地下室で、は誰に語り掛けるまでも無く唯目の前で柔らか味を放つ其れを見詰めていた。
コチコチコチと一定のリズムを刻む柱時計の旋律が心地良く脳裏に響き、攣られるように瞳を閉じれば催眠術に掛かる間際の様な穏かな気持ちにさせられる。
ソファーの脇に常に置いてある、スネイプがの為に用意したブランケットを無意識に手手繰るとそのまま羽織る様に身体に投げ掛けた。
柔らかく薫って来るのは心落ち着く仄かな薬草の香り。
まるで愛しい人に抱すくめられているかの様な感覚に惑わされる其の端を指先で握りながら、蝋燭の熱に溶かされる様に芳しく香る南瓜の甘い香りに身を委ねる。
そう言えばこの日の為に課題を徹夜で終らせたのだと思い起こした矢先、猛烈な眠気が幼い身体を襲う。
少しだけ…セブルスが来る迄のホンの数分だけ…
悪魔の誘惑が脳裏を過った刹那、小さな寝息が誰も居ぬ地下室に篭る。
柔らかい光りが照らし出すのは、ブランケットの端を握りながら愛しい人の帰りを待ち侘びる幼い少女のみ。
----------------------------------------------------------------------------------
「 済まない、アルバスに頼まれていた悪戯摘発… 」
が扉を閉めてから約一時間ばかり過ぎた後、閉められた時と同じ様に静かに扉が開き同時に懺悔の言葉が伴われる。
スルリと床を這うローブの布擦れの音が酷く大きな雑音に聞こえ、カツカツと鳴り響く靴音さえも敏感に反応してしまう程其処は静寂に支配されていた。
扉を開いた瞬間は、飛んで来ても良いであろう己への罵声怒声を覚悟して居ただけに、こうも静まり返っていると誰も居ないかの様に思える。
されど己が部屋を後にした際、ランタンに火等燈して出た覚え等無く、寧ろこの部屋にランタンを保存しておいた記憶も無い。
朧気な暗闇で瞳を凝らしてみれば、それは紛れも無く、去年が必死の思いで作成したjack-o’-lanternであった事を思い出す。
欠片を思い出せば全景を浮かべるのは容易で、酷く愛嬌の有るjack-o’-lanternの姿が脳裏に浮かぶや否やその可笑しさに苦笑する。
作った本人は此れを置いて何処等へ出かけたのやら、とランタンに近付けば傍らのソファーの上で猫が丸くなった様にブランケットに包まったが居る。
スネイプが帰ってきた事等知りもせずに、酷くあどけない表情で睡眠を貪りながら眠る様は差し詰め昼寝中の天使を髣髴とさせた。
「 未だ秋とは言え、風邪でも引いたら如何するつもりだね。 」
酷く柔らかく優しい声色がを包み込んだ。
崩れ落ち掛けていたブランケットで包み直すようにを抱き上げたスネイプは、そのままソファーに腰を落してその膝上にを抱く。
母親が乳児を抱く様にその腕で支えるようにしてやれば、無意識の内にはスネイプに抱かれていると悟ったのか、握り締めていたブランケットの端を離してローブの襟元を掴む。
拙い其の仕草を行いながらも未だ眼を覚ます気配の無いに呆れながらも、スネイプはの安眠を邪魔せぬ様静かに懐の中からナイフと南瓜と英字新聞を取り出す。
それらはの今年用のjack-o’-lantern作成の為に持ってきた代物であるが、当の本人が寝ているのならば使用用途も無いと橙燈るランタンの脇に静かに置いた。
の其れより幾分か小さめのjack-o’-lanternは二つ並べると親子の様で、オレンジの太陽に照らされてやっと輝ける月の様にも見て取れて。
己の力だけでは決して輝く事が出来ぬ月は太陽に恋焦がれ、近づきたいと手を伸ばしても其れでも太陽には届かない。
まるで一年前の己の様だとスネイプは自嘲した。
「 …jack-o’-lantern等、何年振りに作るのであろうな。 」
腕に抱いたを起こさぬ様にゆっくりと抱き上げて、己の膝上に丁度頭が乗る様に位置を調節する。
邪魔になるだけだと予想が付くローブを脱ぎ去って、冷え始めた室内の低温から庇う様にに掛けてやる。
光りを乱反射するだけのjack-o’-lanternを掴み取ると、下絵も描かずにナイフで切り込みを入れ。
思った以上に柔らかい表面からは、サクリと細く繊細な音が聞こえ子供でも容易に中身が刳り貫ける程容易にナイフが刺さる。
に切れ端が飛ばぬ様に注意しながら、昔懐かしい情景を思い起こし作成の手順を一から起こしながら其れを制作してゆく。
昨年は此れをが目の前で四苦八苦しながらやっていたのだと思い出せば、額に汗を溜めながらも一生懸命にナイフで刻みを入れていた事を思い出す。
危なっかしい手付きで今にも指を削ぎ落としそうな冷ややかな瞬間を気にしながらも、ちらりと横目で見た少女は驚く程可愛らしくて。
如何見ても小学生が作ったとしか思えないjack-o’-lanternを両手に持って、嬉しそうに”出来ました”と微笑まれた瞬間に世界は凍った。
伸ばしても届かぬ太陽に焦がれたのは、jack-o’-lanternが仕掛けた有らぬ魔法の所為だと言えば少しは楽に為れただろうか。
「 Lumos 」
敢えて蝋燭を居れずに其処に光りを燈した。
ブツリと途絶えたのランタンにも同じ様に魔法の光りをあしらえて、二つのjack-o’-lanternが寄添うように橙の光りを放つ。
太陽に焦がれた月は、太陽と共に同じ光りを放つ。
本当は、どちらが太陽でも月でも無いと言うに何かの象徴の様にそれらは唯光りを放ち、柔らかい其れにスネイプとを映し出す。
陽炎の様にjack-o’-lanternの光りに溶け込む二つの陰は、やんわりと空気に混じって揺らめいていた。
並んだ二つのjack-o’-lanternは、如何見てもスネイプとの作った物の相違が激しすぎるが、よくよく見ればどちらも互いの光りによって更に光りを反射して。
に感化された己が同じ様にを愛してしまった事と酷く似ていると、痛切にそう思う。
「 来年も共に祝おうか。
最も…来年は双子なぞに手を焼かずともこの部屋から一歩も出ぬが。 」
の身にかけたローブをソファーの背に投げ置いて、ブランケットを抱いたを腕に抱く。
jack-o’-lanternの灯かりはそのままに、起きる気配の無いを抱き抱えたまま静かに寝室へと足を運び。
暗すぎる室内に仄かな明かりを燈した一瞬の隙で、はその重い瞼を緩やかに開く。
それでも未だ夢見心地であるのか其れとも此れも夢だと思っているのか、は朧気な瞳のまま真っ直ぐに此方を見詰める。
ベットに落してやれば、普段そうする様に無言のまま腕の中に潜り込んで来ては必死に夢から覚醒しようと努力を図って居るのが見て取れた。
「 …セブル…ス…お帰り…なさい 」
「 あぁ。
、今日はもう寝なさい。 」
「 …セブルス ま…た仕事…? 」
「 我輩も此の侭寝る。 Sweet dreams dear my… 」
最後の言葉を聴かぬ内に、は温かなその腕の中で再び眠りに落ちていた。
回された腕の中、胸中に抱すくめられる様に抱かれたも、其れを抱き締めるスネイプも双方表現の仕方は多少異なるけれども傍から見れば幸せ其のものの情景。
月が沈み太陽が昇り始めても未だ消える事の無いjack-o’-lanternも、主同様二つ寄り添ったまま柔らかい光りを放ち続けて。
が嬉しそうに其れを両手で抱き上げるまで、暫し静かで至福な時間が地下室には流れていた。
後書き
此処まで来て「
jack-o’-lanternついでなんじゃ…」という突っ込みは無しの方向でお願い致します(笑)
ハリポタへののめり込みの先陣切って下さったのがスネイプ教授(と言うか、アラン)なので、三日連続スネイプ教授というのをやらかそうと思います。
ヒロインとスネイプの会話が最後だけって言うのもまた微妙なんですが、個人的にこう言う雰囲気大好き人間なもので…お許しを(苦笑)
因みに、最後の言葉を教授がなんと言ったかはそれぞれの妄想にお任せ致します(笑)
(C) copyright 2003 Saika Kijyo All Rights Reserved.