そ の 約 束 は 、 果 た せ ま す か 。 as Lord Voldmort

 耳鳴りがする。鼓膜間際に直接雷鳴を轟かせているようで、ヴォルデモートは頭を抱えた。
 固く握り緊めた筈の指先から零れ落ちそうになる杖に意識だけを集中する。されど、戦慄いた指先に力など入る筈も無く、ついにはがくりと膝を付いた。
…何故お前が―――――、 」
 薄い唇から放たれた言葉は、急に降注いできた雨の音に紛れる事無くすとんと落ちた。
 止め処無く空から降りて来る雨雫に癖の無い前髪を濡らし、翳む紅蓮の双眸で見上げれば其処に、愛しい女が居た。
「 ………私は不死鳥の騎士団の団員。 」
 ピシャリ、とつんざめく雷鳴に反響し、ヴォルデモートと同じ色味の髪から秀麗な白磁の相貌が覗いた。にっこりと微笑んだままヴォルデモートに杖を向ける女は、漆黒の外套ごと暴風に嬲られるも、視線を剥すことは無い。
「 恨んでいた訳でも憎かった訳でもない、でも―――――私は、不死鳥の騎士団団員。私は護らなければ為らない 」
 『言葉だけだとしても、この世の"善"と呼ばれるものを』
 告げて、は一度だけ、悲しそうに笑んで。ゆっくりとヴォルデモートの側まで歩き眼前で跪く。
 外套が雨を含んで泥濘と化した土に侵食されるのも構わず、ヴォルデモートの指先から離れた杖を握らせる。そうして自分の杖を脇へ投げ捨てた。
「 ねぇ、憶えてる? 約束………したよね 」
「 約束だと? 」
「 そう。 必ず世界を制す、邪魔者は誰であろうと抹消する、そして―――――私の為に、生きる 」

 自分の発言に確信を持って覗き込んでくる黒に、思い出した。いつかの寝所での他愛無い話の一辺だ。そんな事を今言い出して如何するのだ、と見上げれば。
 満足げに笑んだ瞳は其の侭、こちらとの距離を詰めてきて、気がつけば唇に待ちわびた熱。
 そのまま舌を絡めれば、肌を撫でれば、身体を重ねれば、落ちてしまえば思い知る。
 此れが、最期の口付けに為るのだろうか、と。

「 私を殺らないと、約束は果たせない。 」
 雨に濡れ冷えた両の掌が包み込むように添えられる。杖を握らされた手を持ち上げられ、彼女が何をするのかを悟った。慌てて押し引こうとすれど、時既に遅し。カタカタと微小に戦慄く杖先が濡れた外套の上、丁度心の臓に突き刺すような位置で止まる。
「 ねぇ、ヴォルデモート。 次は、私もデス・イーターに生まれるから。 だから今は……… 」

本当に願うことはすれ違うばかり。愛しい女と相反する位置に立ちながら、其れでも、此の侭世界が終われば良いと。
果たせない約束など、しなければ良かった。急に息が出来なくなって、視界が翳む。何故だろう、涙が溢れて、止まらなくて、喉が痛い。君が、もう、居ない。
Written by Saika Kijyo title by ラストレターの燃えた日