渡り廊下で拾った運命 as Severus Snape
「また、お前か…!!!」
真上から聞えた地を這う様な重低音と凄まじい眼光。次の言葉を聞く前に脱兎の如く逃げ去ろうと腰を引けば、地面に垂れた漆黒のローブを爪先で踏み付けられ、身動きを封じられた。
「ヒドイ、何踏み潰したか判らない様な靴でローブ踏むこと無いじゃないですか!」
キッと睨み上げれば、勢いに臆する事無く両腕を組み仁王立ちのスネイプと真っ向から視線が克ち合った。普段の倍くらいは眉間に皺が寄っているのは気の所為
だろう。気の所為に、しておきたい。
「ほぉ、人の事は棚に上げ、お前は自分が木っ端微塵にした銅像に哀れみの気持ちすら持たずに逃げると言うのかね。」
「………そ、その、此れは好き好んで木っ端微塵にした訳では---------------」
「好きで木っ端微塵にしようものなら退学処分だ。此れは創設者時代から受け継がれた希少価値の高い銅像なのだぞ?」
「…こんな趣味悪い変質者みたいな格好してアホ面下げながら槍持ってエッホエッホ踊ってる様にしか見えない銅像が?」
無言で拳骨が振ってきた。何もグーで殴らなくても良いだろう。銅像の見たままを言っただけだ、感性豊かだと褒められる事はあれ、殴られる事等無いだろう。
じわりじわりと鈍痛が脳髄から全身に伝わる不快感に苛まれながらスネイプを見上げれば、スネイプは殊更大きな溜息を吐いた。
「此れは創設者時代の魔法一族の正装だ。アホ面なのは銅像作った人間が相当不出来なヤツだっただけだ。其れに此れは槍ではない、杖を魔物に向かって構え
ている姿だ。」
アホ面なのは認めるんだ…。そう思いながら懐から杖を取り出そうとすれば、無言でスネイプに制される。
「お前が復活魔法など施せば、ホグワーツ全体に火柱が走りそうだ。」
「…幾ら私でもそんな芸人みたいな特技はありません」
「この間、ホグワーツ城の真上から砂糖をぶっ掛けたのは何処の誰だ。」
「あぁ、あの日は確か無性にケーキが食べたくなってケーキを作ろうとしたら砂糖が足りなくて、倍増しようとしたら倍増しすぎたんでした。」
「……倍増?あれは如何見ても億増だろう。」
と、言い始めて何時の間にかこの娘のペースに引き込まれていることに気が付いた。馬鹿馬鹿しい、何時も、そうだ。奇妙な爆発音が鳴り響いたりだとか、誰か
の奇声叫声が聞えると、学生時代に居た"悪戯仕掛け人"を思い出して仕方ない。彼等ほど素行は悪くないものの、遣ってくれる事は殊更ビックだ。そうして、
悪戯の主を錯綜するスネイプと魔の手から命がけで逃げる少女は大抵渡り廊下で出会い頭になる。
「良いか、これ以上評判を落としたくなければこんな真似はするな。」
「評判?何の評判ですか?」
「全てだ。ホグワーツ理事、学年考査の成績、お前の評判、そしてお前を捕まえられぬ我輩の評判だ!」
「------------------大丈夫です。私の中でのスネイプ教授の評判は大変宜しいものですから。」
普段破天荒で突拍子も無い行動を遣って退ける少女とは裏腹、柔かな笑みで愛の睦言でも告げるかのように微笑んでさらりと言った少女に、スネイプの息が詰まった。
「…戯言を抜かすのも、いい加減に…」
「スネイプ教授は私を捕まえるのが凄い上手い、此れは良い評判に為ると思いますが?」
「捕まえても直ぐに逃げ出し、昨日と何等変わる事無く悪戯に明け暮れるではないかね。我輩の面目丸潰れだ。」
「それはスネイプ教授が私を捕まえきれて居ないからです。身体だけ捕まえてもダメですよ。私の心は既に貴方に落ちているんです。早く心を捕まえて下さいね。」
ふわりと微笑まれ、告げられた言葉の意図と意味を理解するのに10秒。一体如何云う意味だ、言い掛けた刹那、空から数えられない程幾数千もの花弁が降り注いだ。花嫁を祝福する様なフラワーシャワーの様な光景に生徒が感嘆し、空を見上げる。
だが次の瞬間、花弁が一斉に破裂音と共に飛散し、体長400mmを誇る世界最大のカエルと称されるゴライアスガエルに変貌し、渡り廊下は生徒の青い悲鳴と緑のカエルと倒れこむ生徒で溢れ返った。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
こうして今日もスネイプは、渡り廊下を奔走する。少女の心を捕まえられる、其の日まで。
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