I promised that I protected you as Roy
Mustang
「 マスタング大佐っ -----------------! 」
柔かな砂の城が攫われた波に飲み込まれて崩れ去る様、ゆっくりと逞しい身体を地面打ち付けるロイの姿に、私は悲痛な叫びを上げた。今目の前で起きている
出来事を理解しようだ等と思う事自体、時間の無駄遣いの様に思えて仕方が無い。雨に濡れた芝生の上、ぬかるむ泥に足元を巣食われながらも、必死に駆け寄ろ
うとすれば、普段聞きなれることの無い怒声が劈く。
「 来るんじゃない! 君は其処にいなさい、------------- 此れは上官命令だ。 」
響く低く嗜める様な声。身を護る為に人一人くらい殺せるように、そう言ってホークアイ中尉が持たせてくれた銃は掌の中に握り締められた侭だった。上官命
令と言われれば、従わざるを得ない、そんな事位重々承知している。だが、運悪く破天荒な空からは土砂に似た雨が降り注ぎ、ロイの発火布は効力を持たない
侭、薄気味悪い笑みを浮べたホムンクルスと対峙している。勝算の見込みは無い、発火布は水に濡れ雫が滴り、ロイの身体は先程ホムンクルスから喰らった一撃
が残っている。
「 だって…、雨の日は無能じゃないですかっ! 」
「 …言ってくれるな、私とて…好きで無能を遣っている訳ではない。 」
「 た、大佐、血が ---------------っ! 」
片膝を付いて立ち上がるロイの腕から、牡丹雪の様な鮮血が滴り落ちる。雨に濡れ、水溜りを忽ちの内に紅に染め上げる光景に、私は息を呑んだ。
ロイと出逢って早一年余り、焔の錬金術師の名に相違無い程の完璧な強さを誇っているあのロイ・マスタングが片膝を付いているなどと、在って良い訳が無
い。今このとき雨が降らなければ、あの日私が錬金術師になっていたなら、今日この日私が桜を見に行きたいなんて我儘を言わなければ、、、こんな事態に為ら
なかったのに。
「 …ロイ・マスタングを甘く見るなよ、ホムンクルス。 貴様ごとき、此れで余りある。 」
瞬間、ロイの足元から紅の閃光が走り、発火布を用いて練成した際と同じ練成陣が浮かび上がって来る。しとどに濡れそぼった発火布は地面に棄て落ちた侭練
成陣を描くものなど何も無い筈、
一体何処から練成したのか、と思案したと同時。
「 貴様、自分の血を練成にィッッッツ! 」
断末魔の叫びを上げ、ホムンクルスは空に掛かる薄灰色の雲が飛散する様に消えた。見れば、ロイの足元、今は流れ落ちる雨で薄れて来てはいるが確かに紅で
認められた練成陣がある。片足を付いて起き上がる際に書き記したのだろう。昔聞いた事がある。イシュヴァール殲滅作戦の際、練成するものが何も無くなり、
己の血で地面に練成陣を描いて練成し続けたのだ、と。
「 マスタング大佐っ、血が…ごめんなさい、私…、何も出来なくて ------------------- 」
ロイの傍に駆け寄り、無事を確認した後に助けを呼びに行こうと身を翻せば、腕を掴まれ紺碧の軍服の上に纏った外套に抱すくめられた。途端に薫る仄かな香
水の香り、生きている温もりを確かめるように抱き締められ、安堵の息を零された。
「 I promised that I protected you...and.fortunately 」
「 そこまで…してくれなくても、、 」
「 私も男だ。 誓った約束位守れなくて如何する。 其れより…侘びてくれると云うのならば、口付けの一つ位 -------------
」
「 お取り込み中失礼します。 もうじき中央の警備兵が駆け付けます。 面倒な事態に為る前に、お早く、、 」
背後から聞こえるホークアイ中尉の声に救われ、ロイはハボック少尉の肩を借りて立ち上がる。芝生の上に滴った血液を綺麗に消し去ると、東方指令部へ。
東方指令部に戻った私達を待っていたのは、偶々来ていたヒューズ准将。ロイを一瞥するや否や「情けない」と一括するも、ロイは、其れでも満足そうに笑ん
でいた。
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