嘘をつくことに飽きたから君に好きだと言えたんだ as Tom Marvoro Riddle
「 …トム・マールヴォロ・リドル。 貴方の言葉、何処まで信じればいい? 」
何気ない日常の中、普段と何等変わる事の無い談話室に鈴の声が響く。声が聞こえた方向に視線を向ければ、今朝梟便で送った手紙を手にしている。
「 勿論全部、だよ。 」
「 昨日まではお互い話もしない様な関係だった私にいきなり愛を謳った貴方の言葉を全て信じろ、と? 」
曰く有り気な表情の侭、切れ長の薄紫の瞳を嗜める様に鋭利なものに変え、はゆっくりと僕を見返す。人差し指と中指だけで掴まれたラブレターはヒラヒ
ラと空しく空を舞う様に揺らぎ、今にも投げ付けられそうな予感さえ漂う。
「 もう飽きたんだ。 」
「 飽きた?…小判鮫の様な取り巻きの女の子達に? 」
訝しげな表情を零しても失われない端麗な容姿に息を呑む。ここまで綺麗なひとを僕は知らない。可愛い子や綺麗な人はこのホグワーツには其れこそ腐るほど
居る。だが、彼女の持つ神意に近しい端麗さを兼ね備えた人間が居ただろうか。
見付けた瞬間、息をするのを忘れる位の衝撃が脳髄に走ったのを今でも覚えている。況して、其処等の女達と同じ様に僕に取り入らない根性も気に入った。何
としてでも手に入れようと思えど、自ら僕が動くなんて可笑しい。
そう思って心に嘘を吐き続けて居たんだ。君を欲してだなんて居ないのだ、と。
「 違うよ、真実に眼を背け続けること。 」
「 真実…? 」
「 僕は君が好きだ、周りに居る誰よりも…だから僕は君が欲しい。 」
読み掛けの本を閉じて立ち上がれば、驚いた様な薄紫の瞳とぶつかり、柔らかく笑んでやれば直ぐに逸らされる。
如何やら僕だけの一方通行片思いだけでは無さそうだ。欠片も無いだろうと思っていた可能性に、弾む心を止めろと言う方が間違っている。
「 …私は貴方の事を何一つとして知らないし、貴方も私の事を何一つとして知らないでしょう? 」
其れは都合の良い良い訳だ。仮にも僕を凌ぐ程の明晰な頭脳を持つ君が気付いていない訳等無いだろうに。
「 だから付き合うんじゃないか、お互いをより良く知るために。 」
そうだろう?
促せば、照れたように微笑まれ、思わず息が詰まった。友人と共に笑い合っている状況に遭遇した事はあるが、その微笑の対象に為った事は今まで一度も無
い。所詮同じものだろうと思っていた筈のそれは、楔となって打ち付けられる様に脳裏に焼き付いた。
益々以って欲しくなる。好きだ、と告げたのだ。失う以外にもう何も恐れるものは無かった。
「 取り敢えず…自己紹介からしておく? 僕はスリザリン寮6年、トム・マールヴォロ・リドル。 …君は? 」
「 …私、は… 」
重なる言葉、伝わる想い、動き始めた二人の時間。
其の日から、リドルが他の女を両脇に連れ立ってホグワーツ内を闊歩する姿は見られなくなり、代わりとばかり泣き荒ぶ女子があちらこちらに見られたとい
う。
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