二限目の重役出勤 as Remus J Lupin

 静まり返る闇の魔術に対する防衛術の講義は、唯静寂に包まれていただけではなかった。他の講義と異なり、この講義を担当するルーピン教授は雑学と雑談を 好んだ。グリフィンドール出身であり、あの魔法悪戯仕掛け人だった過去もあってか、恐怖に慄く様な講義をしてきた試しは一度も無い。だが、
「 …で、禁じられた魔法と云うのが、この…厭、君達には未だ早すぎるね。 」
 笑顔の後、バキリと枝が割れる音が静寂を守った教室内に響き渡る。見れば、黒板に説明文を書連ねていたリーマスが握る羽ペンが粉砕していた。今日何度目か判らない復活魔法を施し、また羽ペンを握る。そして、数分後にはまた見るも無残に粉砕する。
 要するに、如何云う訳か今日この教師は超絶不機嫌だった。否、不機嫌とは言っても、某魔法薬学教授の様に己の機嫌の悪さを減点と云うモノに変えて発散す るような人間ではない。…いや、寧ろ其の方が良いのかも知れない。
「 あぁ、今日は如何してこんなにも羽ペンが折れるんだろうね。 わたしに使われたくないって事かな。 」
 呟いた独り言、柔らかい笑顔で紡がれた筈なのに、如何してか生徒達は背に駆け落ちる冷たい汗を拭わずにはいられない。
「 駄目だね、こう云う日はバタービールでも飲みながらだらだらするのが一番だと思わないかい? ハリー。 」
「 え?あ、その… 」
 名指しされ、ハリーが固まる。一体如何したと言うのだ、講義が始まった時は此処までじゃなかった、確か出欠を取り始めた時から段々本当の笑顔が消え、焦 燥感に苛まれている様に見えた。普段見ているリーマスとは明らかに異なる雰囲気に、誰もが笑って話し掛けられるような状況じゃない、そう、思った刹那、
「 遅れてすみません、眼が覚めたら今で…あ、チャイム鳴っちゃった。 」
「 …今日の講義はここまでにしようか。 重役出勤者は残って、他の生徒は次の講義へ 」
 元凶は此れか、誰もが終了間際に悪びれた様子も無く気楽に教室に入ってきたスリザリンの生徒を見遣って、ご愁傷様とばかり駆け足で教室を後にする。再び 静寂を取り戻した教室に静かな怒りを伴ったリーマスの声だけが響く。
「 …で? わたしへの言い訳は勿論考えて来たんだろうね? 」
「 …起きたら本当にあの時間だったんだから言い訳も何も。 」
「 わたしがどれだけ心配したか、知っているかい? 」
「 …………昨日スリザリン寮で恋愛大討論会があったの、其れで寝たのが朝の三時で目覚まし掛けたんだけど気付いたらスネイプ教授の講義を無断欠席してまし た、以上。 」
「 わたしの講義も欠席に値するとおもうけど? まぁ、良いよ。 此れからバタービールでも飲みながらゆっくりと今日の講義の説明をしてあげるから。 」
「 え?次の講義は飛行学って、ちょっ、リーマス!? 」
 非難の声を綺麗に無視したリーマスは、教室に魔法で施錠すると文句のつけ様の無い笑みを浮かべた侭に妙齢の恋人を抱き上げた。ばさりと音を立てて落ちる 教科書も其の侭、小さな身体は抗うも最早黒い笑みを湛えたこの男の前では無力だった。
「 二限目の講義を講義をしようか、特別サービスで教えてあげるよ。 」
 駄目だな、君の姿が見えないだけで、如何しようも無い不安に駆られるだなんて酔狂にも程がある。自分はどれほどこの幼子に溺れているのかを思い知らされ た。次からは闇の魔法に対する防衛術講義は午後からにしようか。君に、逢えるように。
Written by Saika Kijyo Title by 水影楓花