陰気な彼はPOP☆STAR


written by Kaya (2006.6.1)






その日は、朝から、ホグワーツ魔法学校でセブルス・スネイプの姿を見た者は誰一人居なかった。

「ねえ、今日、魔法薬学、全学年休講だって。……、何か知ってる?」

廊下を歩きながら、友人が訊ねる。もはやホグワーツではスネイプとの関係を知らない者は居ない。もし居たとすればそれはもぐりである。“スネイプが被る災難や騒動には120%が絡んでいる”――――それは既に常識とも言える事柄であった。

したがって、朝食の時から広間にスネイプの姿はなく、また、前代未聞の突然の薬学休講(普段は休講の場合、1週間前、遅くとも3日前には知らされる)という事態に、友人がその原因をに求めるのは至極当たり前の事であった。つまり「何か知ってる?」ではなく、もはや「貴女、スネイプ教授に何かしたわよね?」が正しいと言える。

「あら、うふふ。何言ってるの?そんな事、私が知るわけないじゃない。」

涼し気でにこやかな笑みを浮かべ、答えるに、友人は確信する。――うわあ絶対コイツ何かしやがった…!――

「……まさか、また教授に大怪我でも負わせたの?」

「“また”ってどういう事かしら?私、スネイプ教授を攻撃した事なんて一度もないわよ?」

「……そりゃあ……教授、追い掛けるから逃げようとして電車のホームに転落して運悪く通りかかったホグワーツ特急に轢かれたり、追い掛けるに気を取られてうっかりファング(しかもたまたま首輪がとれていた)の尻尾を踏んで怒ったファングに足の肉を食いちぎられたリ、追い掛けるに驚いた拍子に階段(しかも100段くらいあるもののてっぺん)から足を踏み外したり……数え上げればキリがないじゃない。」

「それは私の所為というより、教授が間抜けなだけよ。」

「…………」

友人は心の底からスネイプを哀れんだが、脱狼薬まで作れる魔法薬学の権威である上に開心術の達人であり、あまつさえ新しい呪文の開発までも行うスネイプを日々散々な目に遭わせるを敵に回したくはないわけで、それ以上追求する事はしなかった。






さて、その日の午後、は一人、スネイプの自室のドアをノックした。中からは物音一つ聞こえない。は力を強めてもう一度ドアを叩く。それでも反応がない。そこでは少し考えるような表情をした後、今度は杖を取り出し、呪文とともに優雅に一振りした。すると、ドゴォォォォォォォォォッッッ!!!という爆音とともに扉は吹き飛ばされた。

ーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!!」

部屋の中からは、怒髪天を突く勢いでものすごい形相をしたスネイプの姿が。

「あら、スネイプ教授、お会いしたかったですわ。」

「………人の部屋を破壊しておいて言う事はそれだけか。」

「居留守なんて非道いですよ教授。私が何をしたって言うんですか。」

「我輩の今の格好を見ろ!!貴様以外の誰に責任があったと言うのだ!!」

もはや怒りを通り越して悲痛な叫びを上げるスネイプの出で立ちとはすなわち、昨日、が日誌に仕込んだ爆発によって、ドリフのコントよろしく見事なアフロの様相を呈したその頭髪のことである。恐ろしく血色が悪く陰鬱な表情に加え、ずるずると長い漆黒のローブが、闇夜の蝙蝠の姿を借りた死神でも思わせるようなスネイプ。しかしその髪型だけが、異様にファンキーな有り様になっているのである。自らのその姿を鏡に映した時のスネイプのショックたるや、恐らくそれはトラウマとして未来永劫その胸に深く刻み込まれる事だろう。

「素敵ですよ、スネイプ教授。なんかこう、サムとかマイケルとかそういう名前が似合いそうですね。」

「ふざけるな!!今すぐ元に戻せ!」

「ご自分の魔法で戻されたらいいじゃないですか。」

「それができればとっくにしている!貴様、魔法が使用不能になる呪いを火薬に仕込んだろう!」

「クスクス、スネイプ教授は笑っている方が素敵ですよ。」

「そこは気取った口説き文句を吐く所ではない!!一体いつになったら呪いが解けるのだ!!」

「あら、それは簡単なことですわ。教授が私に愛の接吻をして下されば、即座に解ける仕組みにしてみました。」

「…………………………」

スネイプはこめかみを指で押さえ、今にもその頭髪とともに爆発しそうな己の精神状態を必死でなだめながら改めてを睨み付けた。とはいえ、どう眼光鋭く睨みをきかせてみても、その全てを覆す程に髪型がPOP☆STARであるため、真剣な表情になればなるほどその姿は滑稽なのだが、今のスネイプにそのような事にまで気を回す余裕などあろう筈がなかった。

「失礼。どうやら耳の奥に都合よく水が入り、聞こえなかったようだ。」

「ではもう一度言いましょうか?スネイプ教授が私に愛のくちづ」

「あーーー!!!もういい!!!」

もうこれ以上何も聞きたくないという様子での言葉を遮り、スネイプは深く大きな溜め息を吐くと、何か思案しながら腕を組んで無駄に部屋の中をうろうろし始めた。しつこいようだが、髪型はアフロである。スネイプの一挙手一投足全てをファンキッシュかつコント風味に仕立て上げる最上級の魔法と言えよう。
そのような滑稽な姿を晒しながら、スネイプの心中はもはや混乱の嵐である。どうすればいいのか。強力な呪いによって作られたこのヘアスタイルは、ちょっとやそっとでは元に戻る筈がない。かけられた呪いと同等程度かそれ以上の威力の魔法を以てしなければ到底解けはしない。しかし更に魔法使用不能という呪いまでかけられているため、自らの魔法で呪いを解くことは不可能。かといって全く第三者の手を借りるということは、この姿をその者に晒した挙げ句、この情けない現状を訴え、助けを求めなければならないわけである。これ以上の醜態はそうそうあるものではない。

どうする!?

どうする我輩!!?






その日の夕食時、何事もなかったかのように全く普段通りの出で立ちで、不機嫌そうな表情もいつものままに姿を現したスネイプに、広間は大いにどよめいた。一体何があったのだろうか。今日一日のスネイプの不在が意味するものは何だったのだろうか。果てしない謎と憶測とを皆の胸に刻み、その長い一日は終わりを告げようとしていた。

ただ、食事の最中、ダンブルドア校長がスネイプに無言のまま何かを話しかけ、その瞬間、動揺したスネイプが噎せ返って危うくスープを台無しにしてしまう所だったということは、誰も――すらも――気付かなかったが。






―セブルス、本当は、呪いになどかかっていなかったのじゃろう?―
























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