春の夜は眠れない


written by Kaya (2006.4.30)






「また貴様か、 !!!!!!!」



スリザリン寮監督教師、セブルス・スネイプの怒鳴り声が地下室の廊下じゅうに響き渡った。通り過ぎる生徒達は好奇の視線を投げかけながらも、巻き添えを食 うのは御免とばかりに皆足早に通り過ぎる。そんな視線の集中砲火の中心に居るのは、スネイプと、スリザリン5年生の 。 怒りに肩を震わせるスネイプの顔は、普段以上に蒼白で、小動物なら軽く殺せてしまいそうな物凄い形相で を 睨み付けている。しかしそんなスネイプをけろりとした表情で見つめ返して は 答えた。


「あら、人聞きが悪いですわ、スネイプ先生。私が一体何をしたって言うんです?」

「…どの口がそれを言うか…。これは貴様の仕業であろう!!」


そう言ってスネイプが の 目の前に突き出したのは一体の人形。幼稚園児の工作かのようにいびつな形をしたそれには、これまたいびつな顔が手書きで 描かれており、その全身にただならぬ無気味さを漂わせていた。


「何ですか?……それの何が私の仕業だっていうんですか?知りませんよそんな汚い人形」

「シラを切るつもりか?!これの所為で我輩は散々な目に遭ったのだ!!」

「……そんな事を言われても何の事やら皆目見当もつきませんが……参考までにどんな目に遭われたのか聞いて差し上げてもよろしいですわ。」


無駄に偉そうにしれっとそう言ってのける に、 スネイプは溢れる怒りを抑えようと必死だ。こめかみに指を当て、目を閉じて大きく一つ深呼吸をすると、スネイプは怒り を込めて、静かに言った。


「今朝、何者かが――どうやって侵入したのか知らぬが――我輩の研究室の机の上にこれを置いた。下らぬ嫌がらせだと思い、すぐさま焼却処分しようと火をつ けた途端、我輩のローブが燃え上がった。人形に呪いがかかっていたのだと気付き、手元にあった金魚鉢の水を人形にかけた所、頭上から大量の水と金魚が降っ てきた―――」

「あははっ!!!」

「何が可笑しい!!!」

「だって、人形に火をつけたらローブが燃えたんですから、水かけたらどうなるかくらい判るじゃないですか!頭悪いですねー!」

「やかましい!!咄嗟に魔法が使えぬよう、ご丁寧に杖まで隠しておいて…」

「隠してなどいませんよ!!盗まれるといけないので机の引き出しにしまって差し上げただけです!!」

「やはり貴様か!!!」

「それにしても……すぐに私の仕業だって分かって下さるなんて、愛を感じますわ。」

「気色の悪い事を言うな!!こんな真似をするのは貴様ぐらいだろうが!!」


そう――― は これまでも散々悪戯を仕掛けては、怒り狂うスネイプに追い回され、減点されるというのが最早日課のようになっていた。寮 の得点などさして興味のない は、 飽きる事なく悪戯を繰り返した。たかが悪戯と言っても は 割と本気でかかってくるので、スネイプの寿命は縮んでばかりだ。例を挙げると、深さ10メートルの落とし穴、朝食に痺れ 薬、ベッドにキングコブラ、スネイプが栽培している薬草の根だけマンドレイクにすり変わっている……等、危うく生死に関わるものばかりである。スネイプも いい加減 を 退寮処分にでもしてやりたいのだが―――


「ミス・ …… 今度という今度は、減点だけでは済まさぬ。即刻家に送り返して……」

「“スネイプ先生の恥ずかしい写真集”……今すぐばら撒いてもいいんですけど、」

「ちょっと待て……何だその我輩の恥ずかしい写真とは……」

「そんな恥ずかしいこと、言えませんよー」

「はっ!ふざけるな!どうせはったりだろう、」

「お風呂で●●●●とか……」

「!!!何故それを……っ貴様、また風呂場に潜んでいたのか!!!!」

「やはり退寮ですかね?」

「くっ…」


この調子である。何故か に 気に入られ(?)、悪戯とストーキングのターゲットになってしまったスネイプは、毎日が戦いである。しかもタチの悪い事 に は かなり魔力が強く、動きも素早いというか忍者並みにトリッキーで、できれば敵には回したくないタイプだった。


「ご安心下さい、スネイプ先生。先生の今日の下着が虹色トランクスだなんて誰にも言いませんから。」

「っっっ!!!何故貴様が我輩のパン…っ下着の色を知っているのだ!!」

「あらあら、嫌ですわ先生。あんまり細かい事を気にしていると禿げますよ?」

「く…っ!……次の我輩の授業を楽しみにしていろ!!」

「そんな……っ!それは、もしかしなくとも二人だけの特別授業という名目でこっちのお勉強そっちのけであっちのお勉強というアレですね?!…スネイプ先 生って意外と積極的な…」

「違うに決まっているだろう!!!!」

「ちょっとした冗談ですのに。律儀ですわね、スネイプ先生って。」

「………っ」







その、夜のこと。スネイプは部屋に侵入者が居ない事を念入りに確認した後、猫の子一匹入り込めぬように部屋の鍵を何重にも掛け、その上から更に強力な魔法 を施した。この部屋のドアを開ける事は何者であっても不可能という状態にしておいてから、ようやく寝室へと向かう。着ていた服を脱ぎ、ナイトウェアに着替 えてからも、杖だけは肌身離さず持って寝る事を今朝の一件で心に誓った。そして、張り詰めていた緊張感が一気に解けたような、長い大きな溜め息を一つ吐く と、ベッドに入った。







「ぎゃーーーーーー!!!!!!!!」


スネイプの悲鳴が地下室に響き渡った。そう、ブランケットを被って眠りに就こうとしたその時、何かの気配を感じて、閉じていた目をふと開けると、なんとス ネイプの腕の中に、さっきまで居なかった筈の が 居たのである。スネイプは瞬時にベッドから飛び退いた。


「初めまして、スネイプ先生。…優しくして下さいね。」

「は…っ『初めまして』ではない!!何故貴様がここにいる!!!」

「何故って……」

「そもそも、何処から入って来た!!!」

「え、ドアから…」

「呪文がかかっていた筈だ!!!」

「ああ、その辺はちょっとした裏技でクリアしました。」

「な……っ!い、今すぐ出て行け!!!!!!」

「はぁ…本当に冗談の通じない人ですわね、スネイプ先生って。」

「これが、冗談で済むか!!!!!!」

「言われなくとも帰りますよ。…今夜は良い夢が見られそうですわ。」

「……っ!!」


は 怒りにわなないているスネイプの横をするりと通り抜けると、にっこり「おやすみなさい」と言って、何事も無かったかのよ うにドアを開けて部屋を出て行った。スネイプは暫くドアの方を見つめて呆然としていたが、ハッと我に返るとまたどっと疲れを感じ、倒れ込むようにベッドに 戻った。

一体、何故自分がこんな目に遭わなくてはならないのか、こんな日々がいつまで続くのか……というより、この状況下で自分は一体いつまで生命を持続する事が できるのかと、思案に暮れる、春の夜であった。


























back