マリア
と同じ時間を生きる様に為ってもうじき一年を迎えようと云う矢先、出逢って以来初めてと為る喧嘩をした。
喧嘩と言っても別れ話に発展する様な其れとは違い、言葉の表現を変えるなら【堪忍袋の尾が切れた】と云う方が正しい。
説明するまでも無く、太い荒縄の様な其の尾を切らせてしまったのは私で、切れてしまった尾を抱えているのは。
二週間前から始まった考査テストの為に一週間は私の自室への立ち入りを禁じられ、漸く解禁が解かれた一週間前からは私が抱えたレポートの山の為に録に構っても遣れずに。
其れでも毎日の様に部屋に遣って来ては、おやつの時間だけの僅かな一時を愉しそうに過ごしていた。
例えるなら、何時ぞやに聞いた菩薩の様に寛大な心を持ち合わせていたは、愚痴も怒りも哀しい表情さえも見せようとせずに一日、また一日と過ぎて行った。
季節の変わり目、突然に崩し始めた天気の様に次第に表情に浮かび上がってくる不満の色を悟っていた筈が、に甘えてしまっていたのだろう。
彼女なら判ってくれると自己満足にも似た独り善がりの感情で、己の仕事を最優先した。
漸く一段落付いたと机に向けた侭だった視線を上げれば、ソファーに居る筈の恋人の姿が無い。
慌てて椅子から立ち上がればガタリと机に椅子の足がぶつかる音が木霊して、ソファーの下でクッションを抱える様にして待ち疲れた様に眠るの姿が眼に止まる。
胸を撫で下ろす様な安堵感に包まれたのも一瞬、放る様に投げ置かれたテーブルの上の羊皮紙が眼に入る。
【 毎日毎日仕事ばかりで本当に大変ね、リーマス。
そんなに仕事が大事なら、仕事が終るまで私はこの部屋に来ないようにするからそのつもり… 】
子供から大人への階段を上り始めた盛りの愛しい恋人は、稚拙な感情を其の侭に書き殴った様な表現で始まる手紙を私に宛てて書いていた。
如何やら手紙を書いている途中に睡魔に襲われたのか、終わり文ではない途中最中で羊皮紙が黒インクを滴らせ文章が途切れていた。
其の先に延々連なるであろう長文を予想しながら、其れでも己のローブを大切そうに其の胸に抱いて眠るに苦笑が込み上げて。
場違い己惚れ過ぎだと叱咤されようと、馬耳東風の様に聞き流す事が出来る位に私は君を愛し、また愛されているのだろうと幸せと呼ぶべき痛みを心に刻んだ。
書き掛けの絶縁状を其の侭に、背を温かく照らし出すのは外からの光量を多く取り入れる為に、仕切られた高い窓から射し込む穏かな太陽光線。
やんわりと全てを包み込む様に滑り込む其れは、安眠を貪るをも柔らかく包んで抱すくめる様に暖を提供する。
何気なく眠りに堕ちるの顔を見れば、今は相貌の奥に隠れてしまった深遠の暗さを見せる漆黒の眼を思い出し。
今直ぐにでも瞼を開いてくれるのならばどんな侘びでもするのだろうにと、落ちた雫が付けた跡をそっと指先で拭った。
「 う…ん……リーマス… 」
「 如何したんだい? 」
問い掛けにすぐさま返事をすれど、返って来ない応答に其の言葉が単なる寝言である事を客観視させる。
粉雪の様に白く、付き立ての粋糯の様な柔らかい感触を髣髴とさせる頬を指先で撫でれば擽ったそうに身を捩り。
肩先に伸ばしたもう片方の手はさらりと流れる藍に近い髪を梳き、今ばかりは、引き寄せられる事を避ける様に身を引くの自我無い顎のラインを指でなぞり。
真っ直ぐな黒髪は流れる様に肩から胸に落ちて来て、瞳を閉じた侭でも充分過ぎる程に綺麗な其の顔を強調して。
瞳を開ければ更に美しい事を誰よりも知っているからか、其れともこんなに無防備な表情を見るのは己だけの特権だからか、直ぐにでもを起こそうと思っていた行動を自分で制した。
「 …リー…マスの莫迦、…アホ… 」
「 一体どんな夢を見てるのか、是非とも教えて頂きたいものだね。 」
寝言とは言え、愛しい恋人に面と向かって息の掛かる距離、悪口とも取れる言葉を吐かれれば思わず問いたくも為る。
其れでも変らずに幸せそうな笑みを浮かべながら、小さく寝息を立てて眠りに落ちているを起こすのも気が惹けてしまう。
自然と眠りから目覚めたその時に、夢の話を聞けばいいと自分に無理な納得をさせて抱き込んでいるローブごとを抱き上げて。
幾ら窓から温かな光りが射し込んで居るとは言え、外は氷点下、もうじき小さな粉雪が降る季節が直ぐ其処まで来ている。
ローブを身に着けているとは言え、寝ている時は意外と体力も熱も消費する為に冷えた身体は風邪を引き易い。
夕食まで未だ大分時間がある為に、偶には昼寝も良いだろうと、其の侭寝室に続く扉を押し開いた。
意識の無い身体から投げ出された腕は、滑り落ちる様に脇に流れ、普段はすぐさまに回されるであろう首周りが少しだけ寂しさを訴えた。
「 …でも、大好き… 」
ベットに身体を落して、抱き抱えたローブを横から抜き去った刹那、腕を捕まれた様な気がして振り返れば袖口を細い指先が掴んでいる。
眠りに落ちた幼い子供が自然とそうする様な仕草、意志がある訳ではないと言うのは硬く閉じられた双眸と寝息が物語っていた。
瞬間確かに桜色の唇で紡がれた告白染みた寝言に年甲斐も無く嬉しさが込み上げて。
自分以外の他の人間が此処に居たと仮定して、今の己を視て居たのだとしたらきっと幸せそうに微笑んでいるだろうと自覚した。
一回り以上下の子供を愛するなんて事事態、馬鹿げていると嘗ての同胞は笑うだろうか。
其れでも彼女が居てくれるからこそ、私は幸せで居られるから心配しないで欲しいと空の星に願いを込めて。
子供染みた純粋さの洪水の中、君の全てを護りたいと初めて触れた時そう感じた。
瞬間で運命の様に恋に堕ちたと言えば、未だ掲げた理想郷の中に居る様な雰囲気さえ漂うけれども大方間違いでもなかった。
どれだけ罵声を浴びせられようとも、を手離すこと等出来はしないと誰より自分が一番知っていた。
踏み込んだ情熱は未だ痛い程に溢れ、何もかもが愛しいと懐かしさに日々振り返れば今この瞬間さえいつかは思い出に変ると。
現在進行形で進むとの日々は、同時に過去進行形となって思い出に変わり。
其れでも尚飽きることも無く募る想いを抱えながら日々を君と過ごせる幸せを、この時程強く願った事は無い。
「 私も…大好きだよ、… 」
本当ならば一緒に過ごす筈だった分の哀しく流れてしまった時間を想って、すれ違う想いと時間を埋める様に口付けを落した。
伝えたい思いは目覚めたら告げようと思っていた矢先、零れ落ちる様に台詞となって旋律を伴った。
頬を唇と同じ桜色に染めて至福の時を貪る様に眠る恋人を見詰めて、二度と離さないと態度で示す様に其の腕の中でキツク抱き締めて。
まどろむ意識の中、撫でる髪の柔らかい感触を愉しみながら、静かに双眸を閉じた。
私が次に眼を覚ますのは、腕の中に抱いたからの優しい口付けの後。
後書き
支岐さんに捧げるリーマス夢です。
・ リーマス・J・ルーピン(教師)
・ 15歳位・グリフィンドール
だぁぁぁぁぁ(汗)!!歌詞も設定も一切関係ない唯の甘い夢になってしまいました(汗)
支岐さんが掲示板で仰っていた「白いリーマス」は何とかクリア出来ていると思うのですが…それだけだと云われれば激しく頷くしかありません(涙)
やはり、ルーピン先生は甘い夢しか書けないのだと実感致しました。
(C) copyright 2003 Saika Kijyo All Rights Reserved.