Who...







「 此処を開けてって言っても…貴方はきっと無視か否定の言葉を述べるでしょうね。 」


「 僕が君を無視する筈ないよ。 」


「 …でも、此処は開けてはくれないんだよね。 」










全てのモノを喰らい尽くしてしまうそうな程の漆黒に包まれた闇空の中、ぼんやりと浮かび上がるのは見事なまでの満月。
周囲の細粒霧を黄昏色に染め上げて、紛い物の様に唯ぼんやりと其処に浮んでいる。
射し込む黄金色の射光を忌み嫌うべき対象と認めてしまったのは、もう大分以前の事に為るのかも知れない。
固く閉じられ強靭な魔法の施された唯一枚の扉の奥、其れを両側から挟み込んで月に照らし出された側に が、反対側には膝を抱えたリーマスが居た。
お互い感じるだけで触れ合う事は許されては居ない。
元来、リーマスにとっては がこの場所に来る事等有り得ないとすら思っていた程で、独り膝を抱えて先月と同じ様に耐え忍ぼうかと思った矢先。
誰よりも聞きたくて、何よりも傍に居て欲しくて、其れでも其れが叶わない愛しい恋人の声が…固く冷たい扉の向こう側から聞えてきた。
只管に隠し続けてきた事態、知られる事よりも拒絶される事のほうが何倍も恐ろしくて、 にだけは伝えられなかった秘密が漏れた事をその時初めて知った。
如何して漏れたか等画策推測をしなくても手に取る様に判る。
気立て良く優しい、其れで居て日々日常温厚温和な人間程感情の糸がプツリと切れ落ちた瞬間は燈にガソリンを撒き散らして劫火を上げる炎の様。
其れで居て、表面面は愕く程に恐酷の笑みを湛え、普段と何等変わらない物腰で刃の如き言葉を紡ぐ。
自分が狼ならば は間違い無く黒豹だと、昔ジェームズに笑いながら言った事を思い出す。










「 ねぇ、 …如何して僕に怒らないの? 」


「 だって私はリーマスを怒る為に此処に来たんじゃないもの。 」


「 …じゃあ、僕の話し相手に来てくれたんだ? 」










冗談苦笑交じりに沿う言えば、背を傾けた冷たい扉の向こう側で が小さく頷く様が見て取れた。
僕が知っている は誰より繊細で、心が優しくて嘘等何処にも存在しない頑ななまでの一途さに加えて酷く寂しがりや。
何時も崩す事の無い澱み無い笑みを哀しいモノに変えて、きっと当人の僕よりも心を痛めているんだろう。
其の痛みを少しでも拭ってあげたいと、全てを話してこの部屋の扉を開けようと刹那に思った。
しかし、実際には行使されていない筈の其の情景がありありと脳裏に描かれて唯息を殺して耐えるしか無かった。
重厚無機質な扉を押し開け瞳が克ち合った次の瞬間、冷たい月灯かりの射込する廊下を走り去って行く激しい音が、断続的に聞こえてそうしてまた元の無音の状 態が戻る。
酷く惨めで辛い想いをしなければ為らないのだとしたら、此処で独り耐え続けた方がよっぽど心が救われる。
俯けば自然と眼の端に落ちてくる鳶色の髪を指に絡め、我知らず、自嘲の笑みが口元には浮かんでくる。
苦い想いを飲み下すように、 に気付かれない様な小さな溜め息を一つ吐きながら。










「 リーマス…如何してヒトには血が流れているんだろうね。 」


「 無いと生きていけないから?…とシリウスなら言うだろうし、
 其れが繋がりだから、とジェームズなら言うだろうね。 」


「 貴方は如何思うの?リーマス。 」


「 …逃れられない運命を背負う為、かな? 」










身の上に流れる確かな人狼の血を想って、笑った。
静まり返った室内は恐ろしい程に静寂で、途切れてしまった様に空間には自分の声ばかりが虚しく響く。
如何しようも出来ぬこの愚かさを如何しよう、人狼に為った己のこの醜さをどうすればいい、抱えても押し殺しても猛る感情に押し潰されいっそ死んだら楽にな れるのだろうかと思った事すら有った。
大切な人に自分の身の上を話す事も出来ないひ弱な自分は、誰より醜く誰よりも小さく滑稽な人間で。
流れる時間と共に確かにココロを蝕んで逝く月光を想いながら静かに長い睛を伏せた。
身を切り裂く様な鋭い寒さ、大方窓外にはちらつく白い雪がふんわりと地面を包み込んでいるのだろう。
普段見につけるローブの上にジェームズに借りた透明マントを羽織っているとは言え、真冬には優に氷点下を下すこの場所に何時までも を置いておく訳には行かない。
同時に、時間を増す毎に汚い言葉を吐き棄ててしまいそうな潜めた野心を口に出しそうで、歪んだ笑みが漏れる。










「 …私、マグルよね? 」


「 如何したの、急に? 」


「 この身体に流れているマグルの血…其の所為で私もリリーも色んな事言われて来たけど、
 私とリリーにはジェームズやシリウスやピーターやリーマスが居てくれた。
 でも…今も私を支えてくれているのは、 」


「 …… 」





【 流れている血が人を見る判断基準に為るなら、僕も君と同じマグルに生まれたかった。 】










初めて に出逢った時、漆黒の髪を携えた神秘的な東洋の魔女に僕は確かにそう言った。
もう何年も前の事だと言うのに、あの日の出来事が走馬灯の様に脳内を夢幻鏡の様に映し出される。
伏せていた顔を上げ、漆黒の髪が頬を滑り落ちた先在ったのは、研ぎ澄まされた黒曜石の息を飲む程の鋭い眼差し。
けれど、刹那に崩した表情に映り込んだ微笑みに、一瞬で心を奪われた。
薄い水の膜が張られていた純度の高い黒曜石の瞳で真っ直ぐに見返してくる瞳を見据え、この微笑を護る為ならば何でもすると誰にでも無く己に誓った。










「 ねぇ、リーマス…私、何も出来ないけど何時もリーマスの傍に居るよ?ずっとずっと。 」










忘れていた何かを思い出させる様な凛とした声が心に染みた。
満月の夜、自分がこうしてこの場所で膝を抱えながら独りで耐えていた時間、 は部屋で泣いていたのだろう。
満月を見詰めながら、何もして上げられない自分の非力さを恨んでは涙を落し、翌日は何も無かった振りをして僕に微笑む。
誰より一番辛いのは人狼である自分なのだと錯覚して過ぎたこの時間、本当に心から泣いてくれていたのは彼女ではないだろうか。
自分が護る筈の相手は、本当は自分を一番護り支えてくれて居たのだと思い知らされる。
他の言葉が何も思いつかなかい所為で、高ぶるだけの感情に身を任せすぎた所為で、弱さ曝け出すような愚かで醜い浅ましいやり方しか浮ばない自分は隠れるし か出来なくて。
本当の強さは誰が教えてくれて、優しさは誰が伝えててくれた?
誰が居たから歩こうとして、誰があきらめないでいてくれた?
声を出す暇も無い位に、痛みを憶える程に、自分には相応しくない純粋で真っ直ぐな感情に内に覆い隠した強さ。
包まれていると自覚した瞬間、人狼である一面感情を振り回して、 を傷つけるだろうそれ迄に、自分を保っていられる内に心うちを聞いて欲しかった。










、僕は明日の朝…一番にジェームズ達を怒鳴ろうと思ってたんだ。
 でも…やっぱりこう言うべきかな? 」










Thanks a lot.







後直ぐに、錠の落された扉がゆっくりと静かに開いた。
逆方向に飲み込まれる様に吸い込まれる月光を背に受けながら、 は促される様に部屋に足を踏み入れた。
一に視たのは、眼を伏せ、落ちてくる鳶色の髪をを煩い気にかきあげてる、その姿。
二に視たのは、普段と変わらぬ蜂蜜色の瞳に幸せそうに笑んだその表情。
三に視たのは…、慣れ親しんだ甘い薫りの漂う心から安心して身を投げ出せるその腕の中。
其れからはもう、流れるだけの静寂に身を任せる様に二人きり、聞えるのが鳥の囀りに変るまで冷たくなった指に指を絡めた侭。
辛い時誰が傍にいてくれて、誰の肩で涙を流した?
喜びは誰と分け合って、誰と手を取り合ってきた?
今は唯、愛しい君を抱き締めて思い出しているよ
ふたり離れて過ごした夜は、月が遠くで泣いていたよ
ふたり離れて過ごした夜は、月が遠くで泣いてた







ジェームズ達が翌日一番に見たのは、リーマスの腕の中で眠りに落ちた
を抱き上げてグリフィンドール寮に戻ってきたリーマスは、ジェームズ達が覚えている限りでは今までで一番幸せそうな笑みを落していた。






















後書き

里桜さんに捧げる学生リーマス夢です。
 ・ リーマス・J・ルーピン(学生)
 ・ 親世代と同年齢、同寮(グリフィンドール寮)

えー…砂糖ぶっ掛け状態だと思うのは私だけでしょうか(笑)???
この曲はヒロイン視点かリーマス視点か思い切り悩みましたがやはり王道リーマス視点で!!
一度は書いてみたかった満月ネタなんですが、曲に有っていたのでこの場で。
個人的には物凄く満足しちゃってるんですが、如何でしょうか、里桜さん&閲覧者さん。




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