12月のLove song
がホグワーツに入学してからの6年と言う月日の間、唯の一度もモノを強請った事等記憶に無かった。
恋人として傍に置く様になったのも同じく6年前からでは有るが、その間、幾度もの行事を互いに過ごせどの口から何か欲しいと言う旨を聞いた覚えが無い。
勿論、我輩が聞かなかった訳ではないのだけれど、何時も決まっては首を横に二・三度振るだけで欲する物の名を紡ぐ事は無い。
クリスマスを間近に控えた今日、ホグワーツも様々にライトアップされ飾り付けが行われている。
スリザリン寮監督生であると、スリザリン寮監である我輩とがホグズミードに買出しに出掛けるという行為は別段不可解な事でも何でも無い。
寧ろ、陰では【あのセブルス・スネイプと一日行動を共にしないといけない大凶を引いた哀れな少女】と言う認知しかされていないだろう。
事を証明するかの様に、は友人から何時も【可哀想】だと言われると苦笑していた。
其れが今となっては二人の暗黙の関係を繋いでいる鎖となっている事等、生徒教師陣の誰一人として知る者は居ないであろう。
止む事の無い柔らかな粉雪が舞い散る中、来年はこの景色を見る事が叶わないのかと少しばかり物思いに更けて見る。
「 スネイプ先生ー!!やっと見つけましたよ、もう… 」
「 ローブを掴むな、皺になるであろうが。 」
「 大丈夫ですよ、元々皺どころか年季入ったローブなんですから。 」
「 …年季ではない、vintageだ。 」
大きな黒曜石の瞳を爛々と耀かせ嬉しそうに口答えをしてくるに、これ以上何を言っても無駄だと長年の勘が叫んでいた。
頼んでいたスリザリン生徒用の買い物が押し込められる様に入っている紙袋を胸に抱えながら、早足でホグワーツへの道を歩く我輩の後に着いて来る。
胸の前で抱えていると言うに優にの頭半分一つ上に飛び出ている紙袋は、間違いなく視界を遮っている上この降り続く雪。
足元を取られる事等眼に見える未来情景に溜息を吐きながら、横から腕を伸ばして荷物を奪い去った。
元々持っていた自分の荷物と一緒に持ち上げれば、愕いた様に表情を崩したが刹那に微笑んだ。
そう云うのを【鳩が豆鉄砲を喰らった】と言うのだと、マグルの癖にマグル学が苦手なに言ってやろうかとすら思う。
道を歩く其の度に自然と生まれる我輩ととの間の僅かな距離は、今でも越える事の出来ない教師と生徒と言う見えない立場壁を思わせる。
ふと視線を逸らした小脇のショップは見事にクリスマスカラーに染まり、透明色のショーウィンドウには雪がちらつく此方側の情景が映し出されていた。
隣を腕を組んだ恋人同士が通り過ぎ、その表情には文字通りに幸せの二文字を厭味な程に描いて見えない明日への不安等一切れも無い様な笑みを浮かべて。
虫唾が奔る光景に表情を歪ませれば、同じ場所に飛び込んで来た距離の開いた到底恋人同士とは言えない二人。
小柄な少女は如何見ても歳相応には見えず、況してやその隣で怪訝そうに歩く我輩との関係は親子か良くて歳の離れた兄妹。
この先何年経とうが変りそうに無いこの関係に溜息を吐きながら、うっすらと空気に溶ける白い吐息に想いを馳せた。
「 、今年も例年通り、問うても何も要らぬと言うかね? 」
「 …クリスマスの事ですか?そうですね…今年は一つだけ、おねだりして見ましょうか。 」
舞う粉雪の中、ローブの上に降り立った白雪が振り返った其の所為で地に落ちた。
予想もしなかった解答に一番愕いたのは紛れも無い我輩で、思わず歩いていた足を止めてその場で立ち尽くしてしまった程。
急に立ち止まられた所為か、狭い道幅の為に後ろを歩く事を余儀なくされたは、ばふっと背のローブに顔面を打ち付ける。
反動でペタリと崩れた前髪を手櫛で直しながら、眼前に何か有ったのだろうかと疑問の表情を浮かべるに向き直った。
今まで空いていた僅かな二人の隙間には粉雪が降っていた筈が、今では隙間風の通り道でしかない。
人通りも少ない為、この様な場所で立ち止まろうと誰も来もしない事は、長年歩きなれたこの我輩が誰より一番判っていた。
それ以前に、このチャンスを逃してしまえばホグワーツに帰って【あの話は冗談ですよ】と云われる可能性も充分に有り得る。
訪れたチャンスを逃す事等誰がさせるかと、寒空の中白雪の如き消えそうな想いを初めて口にしようとそう身構えた。
「 では、何が良い…?と、通年ではそう問うても来て見たが、今年は趣向を変えるとしよう。 」
「 …趣向、ですか? 」
意味が判らないと云う様に小首を傾げるを眼前に据えて、魅入られた様に黒曜石を見詰めた。
静寂仕切った空間の中に深々と降る雪の音だけが聞こえ木霊している様で、空気が凍りそうな氷点下の中に二人立ち尽くす。
この時間すらも馬鹿馬鹿しいと思っていた昔の己からは想像も出来ない言葉を吐こうとしている自分が、未だ成人にも満たない一介の女子生徒に対して想いを言葉にした戯言を述べる等と。
誰が想像しただろうか。
きっとこの少女はこの6年と言う長い年月待っていたやも知れず、遠に期待することにすら疲れていたかも知れぬと言うに。
けれどこの際其の様な事は我輩の知った事ではない。
毎日飽きる事無く小さなその手を振りながら、絶やさぬ笑みを零して部屋に通い続ける少女。
今思い返せば6年と言う月日、恋人と云う名だけの関係とも取れない稚拙な繋がりしか存在しないと言うに、何故に少女は此処まで我輩に安らぎを齎してくれるのだろうか。
願わくば、彼女が卒業した後もこの安らぎが続けば良いと本気で思い始めてから二人の歯車は確実に噛み合わなくなって行った。
ずっと変らずに居て欲しいと思う欺瞞な独り善がりの思考、施行する事が誰より難しいと己が一番知っている筈。
其れでも求めてしまうのは…今の君を愛しいと感じるからだろうか。
其れとも堕落しきった君を視界に入れたくは無いと心が拒絶反応を示すからだろうか。
「 今年、我輩はお前に一つしか遣らぬ。
…だが、我輩には其れしか思い浮かばない故、要らなければ棄てれば良い。 」
「 取り敢えず、羊皮紙10ロール分の論文とかは笑顔で棄てさせて頂きます。 」
「 …我輩の残り少ない未来を、お前にくれて遣る。 」
一度も口にした事の無い台詞を、よもや一回り以上も歳の離れた女とも言えぬ少女に告げる等。
プロポーズ等とは到底言えぬ稚拙過ぎる言葉でも、沿う告げる事が何よりも苦を要する事だとは思いもしなかった。
否、告げることならば幾らでも出来たであろうか。
唯一つだけ、の口から紡がれる拒絶の言葉を耳に入れる勇気すらも持ち合わせて居ず、其れでも尚お前を縛りつけでも傍に置きたいと願うのは身の程知らずだと哂うだろうか。
逸らした視線は自然と上方に延びて行き、滔々と流れ落ちる雪だけが視界に映り込み。
流れるだけの空白の時間が酷く痛切で、出来る事ならば雪の様に儚く消えてはくれぬかと。
「 …スネイプ先生、私が進路希望に何を書いたか憶えていますか? 」
「 進路希望?そんなもの、お前だけ未だ未提出… 」
言った後刹那に息を呑む。
氷点下の気候の中、透ける様に白い肌を紅く上気させて白い吐息を吐きながら、その瞳にはうっすらと涙が浮んでいた。
結局、どの道を歩んだとしてもを泣かせてしまう事に代り等無いのだと自覚させられた。
好きな言葉を、好きなだけ遣ると告げた処で、其れは何の意味も持たない言葉に為り唯己を騙すな真似事で。
これ以上溺れては為らないと、必死で請うた記憶の断片に向けられる無垢な笑みが追い討ちを掛けるように理性を破壊しつくした。
思えば、逃れること等出来る筈も無いと言うに、何時も心は少女に囚われた侭動けないと知っていた筈が否定するのは己が大人だからであろうか。
唯…現実に眼を背けて逃げているだけだと知ったのは、自分が誰にも囚われた事等無かったからだけだと如何して今気付けよう。
「 先生、一つ…訂正させて下さい。
例え呪ったとしてもスネイプ先生は死なないと思うんで、私と過ごすのは少ない未来じゃないですよ。 」
まるで壊れた硝子の欠片の様に微笑ったが、照れを隠す様にその場から駆け出そうとするのが判った。
そうはさせまいと、空いた片手で腕を掴んで其の侭胸中に抱き寄せる。
粉雪が舞い散るだけの空間に、時を止めた侭唯抱き合った二つの陰だけが茜色に染め上げられていた。
何時までも変わらないで欲しいと願った相手は、何時も己の傍に居てくれたと言うに其れに気付かなかったのは己が自己しか見ていなかった所為であろう。
自然と覚えさせられた彼女の温もりを、手放すことなど最早出来ないと誰よりも気付いていただろうに。
噎せ返る様な白い粉雪の中、周囲の眼等もう見えては居なかった。
先に視た酷く吹曝の心の様なショーウィンドウには、今は多幸に満ちた我輩とが映っているであろうか。
どれだけの月日が流れようと、いつまでも…君だけをこの腕に抱き締めて
後書き
美季さんに捧げるスネイプ夢です。
・ セブルス・スネイプ(教師)
・ スリザリン生で16〜17歳
ショーウィンドウに映る恋人同士に嫉妬する教授…!!(違)
悲恋でもOKとの事だったんですが、何を思ったか稀城彩歌、教授にあんなプロポーズをさせてしまいました(汗)。
ヒロインが進路希望に書きたかったのは「スネイプ教授との未来」でしょうか。
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