初めから、人間と言うカテゴリに属するモノに期待等持っては居なかった。
手に入れたかった筈の温もりも優しさも安らぎも情愛でさえも、結局無いもの強請りの延長線上にしか過ぎず。
手を伸ばしても到底届く筈等無かった其れへの慕情だけが、唯悠遠の彼方にぽっかりと浮かんでいる様で。
無理に掴もうとすれば手折ってしまうか細い枝の様に脆い感情は、時に自我で統制支配出来ぬまでに膨れ上がる。
誰より憎んでいた筈の其れ等は、何時の間にか誰よりも欲するモノとなって自身に牙を剥いた。
荒んでいたあの頃の僕を救ってくれたのは、今もこれからも唯独りだけ。
僕の虚空が生んだココロの歪に柔らかな陽射しをくれ、暗い世界に燈を灯して、求めていた其の解答を教えてくれた。
例え其処がこの世の果てでも、僕は君となら其処で生きて行けるとあの時そう、確かに思った。






Everyone






「 リドル、おはよう。今日も良い天気だね。 」



…如何して毎回僕の居場所が… 」










晴天の霹靂とは良く言ったもので、今日は冬晴れの空に怒涛の怒りを奮った雷が光り耀いていた。
折角の休日だと言うのに、ホグズミードに行く事も出来なければ中庭で遊ぶ事すら侭為らない。
思い思いの休日プランが台無しになったと溜息を吐く生徒の多い中、胸に数冊の本を抱えた は普段は余り使われていない鉄塔の上へ続く階段の最上部に居た。
しっかりと鍵を掛けられている為に屋根へ上がる事は出来ないが、其れでもホグワーツの中でも一二を争う見晴らしの良いこの場所は知る者しか知らない秘密の 場所。
毎日の如く居場所を変えるリドルを探し出す事が並大抵では無い事は、リドル本人が一番良く知っていた。
だからこそ、この場所に着いてほんの数十分後に探した様子すらなく柔らかく笑んだ侭の が現れた時には驚愕した。
勿論、リドルの台詞からも判る様に、 がリドルの居場所を探し出すのは今日に限った事では無かった。










「 勘よ、勘。リドルの薫りがしたから来て見たら居ただけ。 」



「 失礼だね、僕は匂いを振り撒ける程キツイ香水は付けていないよ。 」










読み耽っていた本から視線を外して鬱陶しそうに眺めてやれば、気にする事も無くリドルの隣に腰を落し は胸に抱いた本を脇に置いた。
リドルと一緒に本を読み耽るつもりなのだろうか… は胸のポケットに刺した侭のピンを取り出すと髪を纏め上げる。
さらりと流れ落ちる後れ毛が真っ白い項から滑り落ちる様に肩に流れて、緑色に漆黒色を添えた。
始めて見たその横顔が哀しい程綺麗で、何一つの言葉も紡げない侭に息を呑んだ。
元々スリザリン随一綺麗だと言われて来た東洋の魔女が、絹糸の様に美しい髪を結っている様を見た人間は未だ嘗て居ないとされていた。
絵に描いた魔女の様に肩より少し下の黒髪を下ろし、同じ様に水墨白淡の様な瞳を兼ね備えた才色の優美。
恐ろしく頭の切れるその明晰な頭脳は、将来魔法省への職も有力視される程。
行き着く先は決して交わる事が無いと言う絶対的位置に居る が、リドルに興味を抱く様になったのは別段最近の事ではなかった。




自分が恐ろしい程に を眼中に入れていた事に気付いたリドルは、不朽の如き空気を跳ね返す様に から視線を逸らした。
読み進めて居た本の続きを読もうと外した視線を其の侭に下方に下げれば、後れ毛に隠れるようにして小さな何かが一瞬光った気がした。
リドルよりも幾分も背の低い が、屈む様にして本を読んでいるのだから後れ毛も必然的に屈んだ方へ流れる。
其の先に、髪を下ろしている時は微塵も気付かなかった小さなイヤリングが耳朶に刺さっているのが確認できた。
気付こうと努力しなければ、 が髪を結い上げていなければ到底気付かない様な小さなピアスが揺ら揺らと微かに前後に揺れている。
細い銀細工で装飾されたピアスは、先端部分に透明水滴の形を模る水晶の様な飾りまで付いている。
何気無いそのピアスが、何故か其の時は酷く癪に障った。










、ピアスなんて付けるんだね。 」



「 最近、貰ったの。 要らないって言ったのに…態々梟便で両親が届けてくれたのよ。 」



「 両親が君の為に贈ってくれたなら要らないなんて言う必要無いのに。 」







------- …昔の彼がくれたの。










思わず持っていた本を落しそうに為る。
苦笑交じりに呟いた言葉が、酷く不快で今直ぐに の小柄な耳朶で揺れている其れを無理やり掴んで引き千切ってやろうかとすら思う。
たかがピアス…其れが因りを戻す為の伏線の様な気がして思わず表情に怪訝な様を浮かべてしまう。
君は僕を愛している筈じゃないのかい?
言葉を吐き出せばそう問うてしまう様な愚かな自分が殻を被って隣に座っている様で酷く恐ろしかった。
節穴の様な瞳で不承不承 を見て来た訳でも無ければ、想像していた姿とも異なる。
昔の男からの贈り物を態々身に着け…天津さえ其れを晒す等と不愉快極まりない。
揺ら揺らと揺れるピアスが、揺れる己の心の様だとリドルは項垂れた。



君を愛していると自覚したのは、多分この時が初めての事だった様に思う。
眼に見えぬ存在を認めざるを得ない状況に置かれて初めて気付いた恋慕は、隣で静かに本を読むその仕草の侭首を絞めてやりたい衝動に駆られる位に迄膨れ上 がって居た。
同時に…、愛する事は同じ位に愛されなければ報われる事は無いとそう思い知らされている様。
引裂かれそうなこの胸の痛みを刃として向けたら、嘆きが伝わるだろうかと不断の憤慨に押し潰される。
求めれば求める程に、還って来る筈の愛情が手に入らないのならば、一切必要無いとそう思い。










「 初めから、こうすれば良かったね。 」










パキンと微かな音を立てて小さなピアスが傍らで弾け飛んだ。
無意識に魔法を使ったのだろうかと思えば、リドルの杖はローブの中にキチリと仕舞いこまれている。
手元を見れば、何時の間にか が自分の杖を手にして魔法を唱え終えたところだった。
無残にもバラバラに砕け散ったピアスは原型を留めない程にまで壊れ、空中に浮沈していた。
呆気に取られる様に を見れば、先程と変わらない笑顔を浮かべた侭何事も無かった様に手元の本を開いて。
思えば昔、愛した女は誰しもが己が一番大事で胸の痛みと愛情を押し付けるだけの存在でしかなく。
揺ぎ無い愛情を求めては、【愛が足り無い】と満たされない心の痛みに傷ついた。
誰よりも否定していた筈の想いは、何時の間にか誰よりも欲する様になるに連れて、求めても返って来ない愛情等要らないと。










、如何して君は僕に何も言わないの? 」


「 だって何も言わなくてもリドルは私が欲しいものをくれるんだもの。 」


「 僕は何も君にあげては居ない。 」


「 こうして隣に居ても怒らないじゃない?私には其れだけで充分。
 私は其の侭のリドルが…好きなんだから。 」










君と出逢ってから、君に愛されてから、初めて気付いた。
愛されていると云う実感よりも愛する事が何よりも尊い事であり、物情に左右される事を嫌悪した自分が一番其れを欲して居たのだと。
僕は君に愛される為に君を愛したのだろうか。
少なくとも、君は僕に愛される為に僕を愛した訳ではないだろう。
君が恋に落ちたのは、僕を愛して報われる為ではないだろう。
愛が足りないと云うよりも満足する事の方が大事な事だと間接的に教えられた。
僕が君にあげたものなんて何一つ無いと言うのに、其れでも君は僕を愛していると云う。
飯事の延長線上の様な拙い愛情表現すら出来ていない僕は、君以上に愛情を欲する資格なんて初めから無かったのだろう。










「 君は本当に変わってる。 」


「 大丈夫、私よりもリドルのほうが奇特だから。 」


「 何を根拠に? 」


「 胸に手を当てて考えて見て下さい。 」










子供の様に が笑んだ。
その心からの微笑みに感化される様に、引き寄せられた侭桜色の柔らかい唇をそっと塞いだ。
カタンと音を立てて落ちた本が、静寂仕切った場所を引き立てる様で恐ろしいまでに響き渡った。
数秒の其の行為が、更に自分の気持ちを確実的なモノに変えていった。



君と出逢ってから、愛されている事よりも愛する事が大事だと気付いた。
僕は君を愛した事なんて無いと言い切れた筈と言うに、君は僕に愛されているとそう云う。
本当に人を愛するその瞬間、対象が君である事が如何云う訳か嬉しいと感じるのは、確かに僕が君を愛しているからだろう。



あの頃の君がくれたものは、温かい優しさと不釣合いな程の愛情と、確かな想い。
僕が何時の日か言葉にしてこの口唇から紡げるようになったその時に、迷わず君に告げると今此処で誓う。






---------- Cause, still I love you.





















後書き

桜井 煉さんに捧げるリドル夢です。
 ・ トム・マールヴォロ・リドル(学生)
 ・ ヒロイン年齢16歳

歌詞は一部しか当て嵌まらないというツッコミは無しの方向で(笑)
相変わらずの贋物リドルなんですが、温かい眼で読んで下さると有り難いです。
リドルの方が奇特だという理由ですが、何よりもヒロインを愛してしまったから…というお約束のオチだったりしますが、リドルが気付かないだけでずっとヒロ インを愛していたんですよねぇ…(笑)。




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