滔々と降り続ける雪の中、腕に抱いた君の温もりが酷く愛しくて肌で感じる寒さなど通り越して君の温もりを欲した。
真っ白い雪は全てを白に染め上げて、全てを覆い隠してゆく。
穢れたこの我輩でさえも温かな白で包み上げて、穢れを知らぬ君も同じ様に白で包み上げ。
途絶える事の無い淡雪を見れば、君と出逢ったあの日の空を思い出す。
ふわりと舞う雪の様に、地に落ちては刹那に溶け消える雪の如き儚い存在の君を、潰れる程腕に抱き締めて。
雪は儚く消える。
だからこそ、儚く消えるその前に在り来たりな言葉でも、今君に伝えたい。






チェリー






昨夜からチラついて居た細い霙が雪に変わった。
11月も暮れとなれば早々と冬支度を終えた草木がすっぽりと新雪に埋もれ、新しい命が芽吹く春の訪れをじっと待っていた。
時を追う毎に深々と降り積もる淡雪は重積を増した牡丹雪へと変化し、あらゆる物を包み込んでは白に染め上げて行った。
短くなる太陽の日照時間は夕暮れと言えど既に白を茜に染め、反対面からは緩やかな弧を描いて月が昇りだし。
思っていたよりも時間を取られてしまった、と急ぎ足で家迄への道を歩けば、行く手を塞ぐ様に降り積もる新雪が靴底に踏まれて悲鳴を上げた。
固まり掛けている雪独特の表現し難い琴の弦の音の様な凛とした響きが耳を掠め、この音を聞けば冬が来たのだと間接的に思い知る。
何時の季節も、始まりは嬉々とし身体と眼が景色に慣れるに連れて感動を失う。
特に雪降る冬と言う季節は、初めは雪が降った事に感嘆し笑顔を零すけれど、次第に煩わしい物へと変わり雪が降れば降った分だけ不便さへの溜息を吐いて春を願う。
人間とは所詮、そんな器の小さなものでしかない。










「 暖炉にくべる薪の場所を教えておけば良かったな。
 まぁ、寒くなれば魔法でなんとかするであろう。 」










止む事の無い雪と、徐々に氷点下への階段を降りて行く気温を肌で感じながら我輩は家に独り置いてきた恋人の事を想った。
ホグワーツが休暇に入るこの時期、親を早くに失くしたは帰る家が無い為にダンブルドアの命で教師の家に居候することとなる。
本来であれば、グリフィンドール所属のの面倒はマクゴナガルが見るのが筋であるが、生憎教師にも都合と言うものがある。
の居候先が我輩の元まで回ってきたのは偶然と言うべきか必然と言うべきか。
兎に角、公然堂々と水面下では恋人同士であるとの休暇を愉しむことが出来ると有って、心の中でほくそ笑んだ事は云うまでも無い。




部屋には暖炉が二つ有るが、勿論常用で火を燈すのは一つだけであり、昨夜の冷え込みに備えて薪を火中にくべた覚えがある。
魔法を使用する事も考えたのだが、が【ホグワーツ以外では極力魔法を使わない様にしよう】と言って来た為従来の方法へと変更した。
無論、魔法で火を起こす事は余程の事が無いとしない故に、好都合だといえば好都合である。
しかし、昨夜の冷え込みよりも格段に冷えている外気温に感化される様に室内温度も冷え切っていることだろう。
薪が消費しきっていない事を祈りながら、家の外に保温魔法を施せば良かった等と今になって悔やまれる。
が、悔やんでいる暇など毛頭無く考える暇が有るのならば早く家路に着こうと足を速めた。










「 思えば…あの日も雪が降っていたな… 」










滔々と降り積もる雪を見れば、自然と思い出したのはと我輩が未だ出逢って数日の頃合。
時期的に絶対的に雪等降ることが有り得る筈の無い麗らかな午後の折、突然クィディッチ競技場が純白の雪に覆われた。
その中心には白を纏った黒髪の少女が独りで立っていて、魔法で作り上げた早すぎる初雪を降らせていた。
誰に頼まれた訳でもなく何を目的にしている訳でもなく、唯少女は其処で雪に抱かれる様にして佇んでいた。
自然に吹いている風が雪を乗せて少女に吹き付ける様に弧を描けば、その情景が人伝いに聞いた【氷りの雪姫】の様で呆気に取られる。
純白の雪に愛された少女の名を知ったのは、後日行われた組み分け帽子の際。
その日以来、何を思ったか気付けば少女を眼で追い、日を重ねる毎に一回りも歳が離れた少女に恋に堕ちて居た。




心で想っていただけの愛情が、こうして表面に現れる事に為った切っ掛けは一枚の羊皮紙。
告げる事も無いだろうと思っていたへの想いを、不意にカタチとして留めて於こうと思い立ち、魔法を施した羊皮紙に思いの丈を綴った。
思えば其れ事態が馬鹿げた事であったかも知れぬが、其れをご丁寧な事に梟がの元へと届けてしまっていた。
弁明をしようと部屋を訪れた時には、既にの姿は無く、代わりに一枚の羊皮紙が机に置かれていた。
クィディッチ競技場に居るとだけ書かれた紙を持ってその場に行けば、其処は一面の雪景色。
あの日と同じ様に雪を抱いた少女は太陽の様に穏かな笑みを零しながら一言、【Me too】と言った。
白雪が白銀を纏った粉雪に変わった瞬間、我輩との新しい未来への扉が静かに開いていた。










「 早く棄てろと言った筈が…あの莫迦娘が。 」










言った言葉に反して、傍から見た我輩は口角を歪めながら微かな笑みを浮かべていることであろう。
口を切れば零れ落ちそうなへの感情を、古びた羊皮紙に書き殴っただけの到底手紙とは言えない手紙をは今でも大事に持っていると言う。
久方ぶりに言葉として告げた【アイシテイル】の言葉を告げてやれば、今まで見た事も無い表情で愕いて、刹那微笑んだ。
言葉一つで心が癒される等と幻想だと思っていた我輩が、の言葉・表情の其の一つ一つでささやかな喜びを感じ。
大切なモノ全てを守れるのならば強く在らんと嘗ての己への叱責を思い出しては、今生の愛情を注ぐ相手がである事に喜びを感じ。
引き返すことさえ躊躇う様な長い人生と云う道、二度と戻ることが無いと思えば後悔よりも愉しさが先に立ち。
と共に歩む道は想像以上に騒がしいものであり、同時に安らぎと絶対の安堵を齎してくれるものであると。
其れを【恋は盲目】と人が呼ぶのならば其れも一興、然して気にすることではない。
踏み外す人生、と共にであれば茨であろうが蹴散らす迄だと。




独り言を音にして紡ぐ様になったのは、説明するまでも無くの癖が伝染った故。
初めの内こそ耳障りな音として聞えていたモノも、共に過ごす時間が増えれば増える度にの煩過ぎる程の独り言が聞えなくなると妙な不安に駆られ。
時を同じくして、己さえも感化された等と思いたくも無いが事実であるが故に仕方ない。
が居る時ならば兎も角、居ない状況下で良く起こるこの現象。
自然と己の気持ちを己で再確認し自惚れているだけの様に取れなくも無いと思えば、余りの情けなさに失笑する。










「 ……ゆ…き…か? 」










丘を登り切ればもうじき家、と言う処で出て行った時とは異なる景色に出会い暫し我目を疑う。
相変わらず雪が降り続いては居るが、明らかに自然に落ちては積もる雪とは異なる雪が家の周りに降っていた。
意志を持った様に、羽が空から舞い降りる様にふわりふわりと弧を描いて落ちる粉雪は地に落ちて溶ける間際にまた浮かび上がる。
奇術を眺めているかの如きその様に息を呑み、中心に居るを見つけては再度息を呑んだ。
初めて雪を見てははしゃぐ子供の様に雪と一緒に遊んでいるかの様に嬉しそうな笑みを浮かべながら、雪を舞わせては愉しんでいる。
舞う幾重にも連なった雪に抱かれるは、正しく【氷りの雪姫】であると頷いて。










「 この様な気候の中、雪遊び等したら風邪を引く 」


「 お帰りなさい、セブルス。
 もう少しで終るから…そしたら家の中に入るから、ね? 」


「 もう少しで終る…?一体何が終るというのかね? 」


「 …魔法が、終るんですよ。 」










其れは、沿うであろう…手に杖を持ち空に向けては呪文を詠唱しているのだから何時かは途切れる。
其の事を言いたいのであろうかと言葉を紡ごうとすれど、何時に無く真剣な眼差しで呪文を詠唱しているを見ればあと少しであれば待とうかとも思う。
同時に【氷りの雪姫】の魅せる幻想幻影の様な光景を、此処で掻き崩してしまう事も勿体無いと。
魔法省から持ち帰った書類をローブの中に入れ、寒さに耐える様腕組みをしながらその様を眺めれば、小柄なの後ろに更に小柄な何かを認める。
物体は四方八方に舞い踊る雪を徐々に吸い寄せ、大きさを増して行く。
大きさを増してゆくと同時に、小さな子供が掌で押し固めた様に形造られ、其処に更に柔らかな粉雪が幾重にも重なる。










「 …粉雪のクリスマスツリーとは… 」


「 私の故郷で、雪が降ると【雪祭り】が行われるんです。
 その中の催しの一つに、色んなモノを雪で作って愉しむ、と言うものがあります。 」


「 其れでお前はクリスマスツリーを造ったと言う訳か? 」


「 そんな大層なものじゃないんです。
  唯…、雪の舞う中に雪で作ったツリーを造ってみたかったんです。 」










ニッコリと笑んだの口から詠唱が終った刹那、成果物は既に完成形で聳えていた。
どれだけ長い時間、この寒空の中で造っていたのだろうか。
所詮は半人前以下の身の上、幾ら魔法魔力に長けているとは云え13の子供が全力で此れだけのモノを作り上げるとあれば相当の力を使うに違いない。
案の定、会話を終えると同時にふわりと地に伏す様に倒れかけるのを見、慌ててローブの中に抱き寄せる。
長い睫に柔らかく乗った粉雪を掬い取り、体温を取り戻す様に温めてやる。
子供は熱しやすく冷め難いと言う独特の体温調節機能を持つが故、の身体も温もりを取り戻しつつあった。



見上げれば、白銀の粉雪。
重苦しい牡丹雪からサラリ蕩ける粉雪に舞い戻って、の作り上げた白銀のツリーに色を添えた。
其れだけでも充分に美しい銀細工の様なツリーであれど、白い雪だけで造られている故に折角の味を少しだけ欠いている。
色を添えれば更に美しいツリーに為るであろうと、我輩は懐から杖を出す。
短い呪文を詠唱してやれば、は何をするのかと小首を傾げ、直ぐに其れを感嘆の笑みに変えた。










「 …すごっ…きれい…色の付いた雪が降ってるみたい…! 」


「 魔法の正しい活用法だとは思わないかね? 」










情景は正に、雪で作られたツリーに数種類の色の灯燈が点った様に光り耀くイルミネーション。
人工の力を借りて電力で光りを付けた訳ではないその光りは、雪の白さを殺さず蛍放つ光りの様に淡く光り。
降り続ける雪が其れをより一層際立たせて、色に華を添え。
無音無色の雪景色にぼんやりと浮かぶクリスマスツリーは、少なくともクリスマス迄は消えることは無く窓枠からも充分に眺める事が出来る。







滔々と降り続ける雪の中、腕に抱いた君の温もりが酷く愛しくて肌で感じる寒さなど通り越して君の温もりを欲した。
真っ白い雪は全てを白に染め上げて、全てを覆い隠してゆく。
穢れたこの我輩でさえも温かな白で包み上げて、穢れを知らぬ君も同じ様に白で包み上げ。
途絶える事の無い淡雪を見れば、君と出逢ったあの日の空を思い出す。
ふわりと舞う雪の様に、地に落ちては刹那に溶け消える雪の如き儚い存在の君を、潰れる程腕に抱き締めて。
雪は儚く消える。
だからこそ、儚く消えるその前に在り来たりな言葉でも、今君に伝えたい。




来年も、雪が降るこの季節は二人で此処で過ごそうか。
変わる事の無い馴染みの景色を、二人の思い出に変わるその日まで。
独りで休暇を過ごしていただけのこの殺風景な家に家族が増える日まで。
そうして其処から造られる新しい道を、君と二人で。
二度と戻れない、進む事に躊躇い等感じさせぬ位の柔らかな愛に包まれる様。









が造った白銀のクリスマスツリーは、二人が室内に戻った後も純然な温もりに満ちた柔らかい暖色の光りを燈し続けた。



















後書き

ミワコさんに捧げるスネイプ夢です。
 ・ セブルス・スネイプ(教師)
 ・ 13歳・グリフィンドール

甘め目指して頑張ったんですが…雪を生かし切れて居ない…(汗)!
ヒロインにツリーを造らせるか教授にツリーを造らせるかで思いっきり悩みましたが、やはり最後のシメは魔術に長けた教授にやってもらうと言うことで(笑)。
この時期は白銀の中に在る色鮮やかなイルミネーションが凄くきれいで見とれますよね…v(関係無)。




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