君の郷里ではこの季節、深紅に少しだけ白を落した様な桃花が咲くと言う。
マグルの世界の華なんて今まで一度も見た事も無ければ興味すら湧かないモノだったけれど、君が余りにも嬉しそうにその話をするから何時の間にか私の興味は其処に移っていた。
だから一度だけ、このホグワーツを卒業する前に君が大好きだと言っていた桃花を脳裏に焼き付けておきたかった。
けれどもあの頃の私は他の事に夢中に為り過ぎていて、何時も傍で笑ってくれていた君を見失ってしまっていた。
眼を伏せ、落ちてくる黒髪を煩さ気にかきあげて周りを一瞬で静まり返らせる凛とした、その姿。
其れを思い出せば、君に想いを抱いていたのは遠に過ぎ去った過去の記憶の中だと言うのに、如何してこんなにも刹那くなるのだろうか。
ちらりと儚げに降る粉雪を全身に浴びながら、数年前一度だけ訪れたこの道をもう一度、歩いた。







gradually







今ではくすんで所々破れ掛けている羊皮紙をポケットから引っ張り出して、目の前の看板と照らし合わせる。
以前来た時は異国の国の言葉ばかりが羅列され、看板を見ようと地図を見ようと絵文字記号と対して変らなかった其れは、月日の齎した変貌か下部に英語表記がされていた。
昔の様な苦労はしたくないと変換魔法を施して来た意味が無いと苦笑した。
あの頃から随分変ってしまったと思いながら、不意に立ち止まったショーウィンドウに映る自分の姿を見、変ったのは自分を含めたモノだけで実際は何も変って等居ないのだと実感させられる。
ざわつく騒がしい街並みを一瞥して、傍らの少女が鳴らした携帯から流れる音楽が妙に心に染み込んで卒業式のあの情景を髣髴とさせた。
思えば、あの時聞えたこの旋律が、私の中の全てを壊したんだ。










「 ね、リーマス。綺麗でしょ? 」


「 此れがpeach blossom… 」










舞う淡い桃色の花階段を上りながら、生まれて初めての郷里へとやって来た僕は、返事も忘れて瞳に映りこんだその光景の素晴らしさに言葉を失った。
魔法で散らした訳では無く自然の風に運ばれて芽吹いた華が舞い踊るその様は、見ている者を震撼させる様な神秘的な力を込めている様にさえ感じて。
もう少しこの風景に浸りたいと思った刹那、空間を真っ二つに引裂いたのはのポケットに入った携帯電話の着信音だった。
思えばはマグルの出身で、ホグワーツから一歩外に出れば、こう言うモノを持ち歩く普通の女の子に戻る。
流れる曲はホグワーツでも良く聞かれていた馴染みの曲で、題名所か歌詞まで憶えている程僕の好きな曲だった。
鳴り続けれど一向に出る気配の無いに、目配せで出ないのかと問えば、一瞬躊躇した様な表情を見せ通話ボタンを押した。




零れ落ちて来た言葉を紡いだのは、紛れ無いリーマスの親友の声だった。
の言葉と、途切れ途切れに聞える声から話の内容は大方想像が付いた。
別れ話の縺れ、一方的に別れを告げたのは彼女の方で、彼が其れを繋ぎとめていると言う状況。
彼とが恋仲に有った事なんて露知らず、厭寧ろ気付かない振りをしていただけかもしれない。
あの頃の僕は誰よりも自分が大事で、彼を傷つけてを困惑させ哀しませててしまう位ならば芽生えていたこの想い等口にしない方が得策だと。
彼女に愛を告げたところで、【冗談でしょう?】と笑い返される事がこの上なく恐ろしくて心の奥底に封印していた。
けれども、其れを破り去り…この僕の心に刃でグサリと引裂いたのは唯一つの言葉。










----- お前…リーマスがずっと好きだったんだろう?










トキガコオル。
一瞬息を呑んだは、会話の内容が僕に聞えて等居ないと思っているのか、其れとも素知らぬ振りをしたのか通話を終えると何時もの微笑みを湛えて桃花を仰ぎ見た。
周囲の雰囲気さえ和ませてしまうの笑みに、普段の僕なら迷う事無く微笑み返す事だろう。
けれども、当たり前に出来ていた其れが今は出来ない。
心の奥で簸た隠しにしてきたこの想いと同じ感情をが抱いていたと知って、嬉しさ反面、如何したらよいのかが判らなかった。
今まで誰からも告白を受けてこなかった訳ではない。
寧ろ、其処い等の男に比べたら自分は多い部類に属するほうだと自負さえする。
でも、判らない。
とてもとても大好きな人が微笑みながら告げてくれるかもしれない愛の言葉を、聞く勇気が僕には無かった。










「 …如何して…? 」


「 ん?何が?リーマス。 」


「 …如何して僕の事… 」


「 …ずっとリーマスの事が好きだった。だから、如何してって言われても困る。 」








【僕は…迷惑だ】

















何故あの時そう言ってしまったのだろうか。
暮れ逝く空を見詰めてみれば、あの日と同じ空がまるでデジャヴの様に脳裏に焼きついて離れない。
君を最後に見たのは、手元から滑り落ちた鳴り響く携帯電話と瞳に涙を溜めて走り去った後姿。
如何して、どれ程、僕は君を傷つけただろうか。
如何して走り去る君の腕を掴んで【冗談だよ】って笑えなかったんだろうか。
此れが最後に為ると判っていただろうに、如何してあの時に、気付く事が出来なかったんだろうか。
気付けば何時も傍で支えてくれた君は、もう傍で微笑ってくれる事すら無い。
ホグワーツを卒業してしまってから、君の行く先を色んな人に聞いたけれど誰に聞いても有力な情報は無かった。
私が失ったものは、自分で自覚していた以上に大きくて、その重さに押し潰れてしまっていた。










大切なものは失ってからでなければ気付かない。
そう言っていたのは君だったというに、その君に教えられる事になるなんて想像しても居なかった。
あの頃の私に見えていなかったものは夢や希望や将来では無い。
…君だけが見えていなかった、君だけを見ようとはしなかった。
傷つく事を恐れ、後悔しても仕切れ無い程にその代価は大きかった。
もう二度と、君の前に姿を晒す事さえ許されない事を、空気が教えてくれていた。










「 ……リー…マス…? 」










記憶だけを辿って上りついた階段の先に、桃花に抱かれたが居た。
其の両手には小さな赤子を大切そうに抱えて。
あの時凍った空気と同じ感覚が、今この場でも繰り広げられる。
何時結婚したのだろうか、相手は誰なのだろうか、そんな愚問だけが脳裏に蔓延り、久し振りに垣間見たの微笑みに気付く事が無かった。
私が君の視界に映りこんだ瞬間、確かに君は昔と同じ様に柔らかく、優しく微笑んだ。
私はその微笑を向けらる資格すら無いと言うに、唯は其処で微笑んでくれた。
其れだけで私は、少しだけ過去の囚われから救われた気がした。










「 久し振り…だね、


「 本当、もう何年になるかな?
 貴方がマグルの世界に来るなんて珍しい…此処には何かの用事で来たの? 」


「 あぁ…仕事で仕方なく、ね。
 偶々立ち寄ったんだが懐かしさに此処に着てしまった 」










伝えたい事とは裏腹に、口から吐いて出るのは本心とは真逆の言葉だけ。
の口から聞えたその声も、ニコリと笑む姿もあの頃と何も変わらない侭で、出来ればこのまま時をあの頃まで戻して欲しいとそう願う。
ヒラリヒラリと桃花が舞い散る此処で経験した後悔の失念、思い出せば逢いたいと願う心を止められなかった。
しかし望んだ所で叶うような問題でもない事が百も承知で、今頃何処にいるのかすら判らぬ侭のをこうして見つけられたと言うのに。
如何して私はあの時と同じ過ちをもう一度繰り返そうとしているのだろうか。




結婚したのか、とすら問えない侭、の腕に抱かれた可愛らしい赤子を見てやれば、がすぐさまに言葉を掛けてきた。
自分は現在此処でベビーシッターの仕事をしていて、子供が居るどころか結婚すらしていないのだと。
聞いてもいない事を喋る癖は学生時代のあの頃から変っていないな、と笑ってやれば、【やっと笑ってくれた】とがもう一度微笑んで。
この微笑を消したくなかった筈なのに、自分でその芽を紡いでしまった後悔と自責の念が競り上がって。
満足に言葉さえ吐き出せない見っとも無い自分をこれ以上見せられなくて、俯きそうになる顔を子供を離したの両手が優しく包んでくれた。










「 私、物凄く後悔してるの。
 あの日、リーマスの言いたい事をちゃんと聞く勇気も無くて唯逃げ出した。
 それから…如何してもリーマスに一言言いたかった… 」







------ リーマス、貴方に出会えて私は幸せだった。










気を緩めたら泣いてしまいそうな自分を叱咤して、そのままを腕の中に抱きこんだ。
如何して君はこんなにも優しいのだろうか。
あの日傷ついたのは紛れも無い君だと言うに、君を此処まで傷つけてしまったのは私だと言うのに。
抱き締めた温もりが酷く温かくて、心地良くて、もう二度と手離したくなくて。
今更ながらの独り善がりのエゴだと哂われても構わない。
其れでも手にしたこの温もりをもう二度と手離す様な愚かな真似だけはしたくない。
私も君と出逢えて、幸せだった。
願わくば、君にも同じ気持ちで居て欲しいと何度願いを掛けたか知れない。
最後の最後で愛しい君を傷つけてしまった贖罪が出来るチャンスが今しかないのだとしたら、今この場であの時告げられなかった想いを口にしても神は許してくれるだろうか。
否…、毛頭神等信じては居ない身分、許されるのだとしたら君にだろうか。










…あの日の言葉の続きを聞いて貰えるかな? 」










------ I'm troublesome. still...I love you.










もう何も恐れる事は無いのだと、そう心が叫んでいた。
傷つけてしまった愛しい君を、これからは誰よりも護り抜いていく。
あの時留めてしまっていた時計の針が、確かにコチリと動き出す音を聞いた。
今まで伝えられない侭棄てられてきた全ての言葉を込め、君へ捧ぐ。
もう二度と、君の温もりを手離す事は無いと。




















後書き

来栖 星香さんに捧げるリーマス夢です。
 ・ 大人リーマス。
 ・ グリフィンドール生でリーマスと同い年。

物凄く判り憎くくて申し訳ないのですが、リーマスの一人称、「僕」が学生時代の頃で「私」が大人の頃です。
混在させる夢を書きたかったのですが、逆に皆様の混乱を招いて居たらごめんなさい(汗)。
悲恋可能との事だったんですが、悲恋にはしたくなかったので最後にくっつけてみました。
久し振りのリーマス夢でなんだか緊張してしまいました(苦笑)。




(C) copyright 2003 Saika Kijyo All Rights Reserved.